クリスマスと歯の意外な関係 ―― 知っておきたい3つのトリビア
街がイルミネーションで彩られる季節になりました。今年のクリスマスはどのように過ごされますか?ケーキやチキン、キャンディーなど、この時期ならではのごちそうを楽しみにされている方も多いでしょう。
実は、クリスマスと歯には意外なつながりがあることをご存知でしょうか。有名なクリスマスソングに隠された歯科的背景から、少し専門的な医学用語のルーツ、そしてホリデーシーズンならではのお口のトラブルまで、今回は「クリスマスと歯」にまつわるトリビアをご紹介します。

「クリスマス病」という病名が存在する?
まず、少し驚きの医学トリビアからご紹介しましょう。実は、医学辞典には「クリスマス病(Christmas Disease)」という疾患が実在します。
「クリスマスの時期にかかる病気?」と思われがちですが、実はこれ、血液が固まりにくくなる病気である血友病B(第IX因子欠乏症)の別名です。
なぜこのような名前がついたのでしょうか?その由来は、1952年にイギリスでこの疾患が初めて報告された際の最初の患者さん、スティーブン・クリスマス(Stephen Christmas)氏の名前にあります。当時5歳だったスティーブン少年は、通常の血友病(血友病A)とは異なる特定のタンパク質(第IX因子)が不足していることが判明し、この因子が「クリスマス因子」、そして病気が「クリスマス病」と名付けられました。
さらに不思議な偶然ですが、この発見が世界で初めて報告された医学論文は、権威ある医学誌『British Medical Journal』のクリスマス号(12月27日号)に掲載されました。名前と時期が重なった、医学史に残るエピソードです。
歯科において「血が止まりにくい」という体質は非常に重要です。抜歯などの処置を行う際には特別な配慮が必要になりますし、歯ぐきからの出血を恐れて歯磨きが不十分になり、お口の環境が悪化しやすいという課題もあります。
前歯が2本ない子どもたちが生んだ名曲
英語圏では、クリスマスソングといえばマライア・キャリーの『恋人たちのクリスマス』などが定番ですが、もうひとつ、世代を超えて愛されている曲があります。それが『All I Want for Christmas Is My Two Front Teeth(クリスマスに欲しいのは2本の前歯だけ)』という、少しユニークなタイトルの歌です。
この曲が誕生したのは1944年のこと。ニューヨーク州スミスタウンの小学校で音楽教師をしていたドナルド・イェッター・ガードナー氏が、2年生のクラスで「クリスマスに何が欲しい?」と尋ねたところ、ほとんどの子どもたちが前歯が抜けている状態だったため、フガフガとした発音で答えたそうです。その微笑ましい光景に着想を得たガードナー氏は、その晩わずか30分でこの曲を書き上げました。
ちょうど6歳から7歳くらいの子どもは、乳歯の前歯(乳中切歯)が抜けて永久歯に生え変わる混合歯列期と呼ばれる時期にあたります。この時期の子どもたちは、上の前歯がない「歯抜けスマイル」がトレードマークです。そんな子どもたちの姿が、世界中で愛されるクリスマスソングの原点になっているのです。
曲は1948年に録音され、瞬く間に大ヒット。なんと8週間で200万枚近くを売り上げ、ビルボードチャートでも1位を獲得しました。その後、ナット・キング・コールやチップマンクスなど、数多くのアーティストによってカバーされ、今もなおクリスマスの定番曲として歌い継がれています。
ガードナー氏自身は教会音楽や賛美歌など多くの曲を手がけましたが、この「歯抜けソング」が生涯で最大のヒット作となり、その印税は彼の家族を長年にわたって支えたといいます。
クリスマスシーズンに増えるお口のトラブル
トリビアの次は、少し真面目な予防歯科のお話です。実は、クリスマスから年末年始にかけては歯のトラブルが急増する時期でもあります。ある研究では、ホリデーシーズン(イースターとクリスマス)には平時と比べて歯科救急の受診者数が明らかに増加することが示されています。
この時期に特に多いのが、次の2つのトラブルです。
ダラダラ食べによるむし歯リスクの上昇
クリスマスパーティーやお正月の集まりでは、長時間にわたって食事やお菓子をつまみ続ける「ダラダラ食べ(グレージング)」が増えます。通常、食後にお口の中が酸性になっても、唾液の力で中和されて歯が修復されます。しかし、ひっきりなしに糖分が入ってくると、この中和が追いつかず、むし歯リスクが劇的に高まってしまいます。
ある調査では、ホリデーシーズン中に多くの人が甘いものを頻繁に摂取しており、その結果、歯の知覚過敏や不快感などの変化を感じている人が少なくないことが報告されています。
食事のたびにお口の中は酸性に傾きますが、中和には少なくとも20分以上かかります。つまり、頻繁に間食をすると、お口の中がほぼ一日中酸性の状態にさらされることになり、エナメル質が溶けやすくなってしまうのです。
世界保健機関(WHO)も、むし歯予防のために糖類の摂取を総エネルギー摂取量の10%未満、できれば5%未満に抑えることを強く推奨しています。食事の回数や頻度をコントロールすることが、歯の健康を守るうえで非常に重要なのです。
硬いお菓子や氷による歯の破折
クリスマスシーズンのもうひとつのリスクが歯の破折です。この時期、歯科救急外来で増えるのが、硬いキャンディケイン(杖の形をした赤白のキャンディ)や氷を噛み砕いたことによる歯のひび割れや破折です。
興味深いことに、ブラジルで行われた研究では、冷凍庫で冷やした硬いチョコレートキャンディを健康な歯で噛む実験が行われました。その結果、平均233.23ニュートン(約23kg)の力をかけてもチョコレートは割れましたが、歯は破折しなかったことが報告されています。つまり、健康な歯であれば簡単には折れないのですが、すでにむし歯があったり、大きな詰め物がある歯では、少しの衝撃でも破折のリスクが高まるのです。
また、プレゼントの硬いパッケージを歯でこじ開けたり、瓶の栓を歯で開けようとする行為も厳禁です。クリスマスプレゼントが「差し歯」にならないよう、歯を道具として使わないように気をつけましょう。
歯を守るクリスマスの過ごし方
では、どうすればこの楽しいシーズンを歯の健康を保ちながら過ごせるでしょうか。実は、ちょっとした工夫で大きく変わります。
チーズを味方につける
ワインやケーキを楽しむ際に、ぜひ一緒に食べていただきたいのがチーズです。チーズには、お口の中の酸を中和する働きがあることが科学的に証明されています。
ある研究では、チョコレートを食べた後にチーズを噛むと、唾液のpH値が有意に上昇し、その効果が30分以上持続することが示されています。チーズに含まれるカルシウムやリンが歯のエナメル質を強化し、カゼインというタンパク質が歯の表面に保護膜を作ることで、酸の攻撃から歯を守ってくれるのです。
欧米では、食事の最後にチーズを食べる習慣がありますが、これは味覚の楽しみだけでなく、歯の健康にも理にかなった習慣といえるでしょう。
間食の時間を決める
ダラダラ食べを避けるために、おやつの時間を1日2〜3回に決めて、その間は水以外は口にしないようにしましょう。食後30分ほど時間をおいてから歯を磨くのが理想的です。
硬いものに注意する
キャンディケインや氷、硬いナッツ類などは、できるだけ噛み砕かないようにしましょう。特に、すでにむし歯の治療をしている歯や、詰め物がある歯では破折のリスクが高まります。
こまめな水分補給
甘いものを食べた後は、水で口をすすぐ習慣をつけるとよいでしょう。水を飲むだけでも、お口の中の糖分や酸を洗い流す効果があります。
まとめ
クリスマスと歯には、子どもたちの「歯抜けスマイル」から生まれた名曲や、医学史に残る「クリスマス病」という病名、そしてホリデーシーズン特有のトラブルなど、意外なつながりがありました。
美味しいごちそうを心置きなく楽しむためにも、お口の健康は欠かせません。チーズを上手に取り入れたり、ダラダラ食べを避けたりといった小さな工夫で、歯のトラブルは大きく減らせます。サンタクロースが来る夜も、歯磨きだけは忘れずに。
それでは、健康で素敵なクリスマスをお過ごしください。
参考文献
- 病名から擁護者へ:スティーブン・クリスマスの物語
From eponym to advocate: The story of Stephen Christmas (Hektoen International, 2020)
https://hekint.org/2020/01/22/from-eponym-to-advocate-the-story-of-stephen-christmas/ - 血友病B
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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK560792/ - ドン・ガードナー『クリスマスに欲しいのは2本の前歯だけ』
Don Gardner, “All I Want for Christmas Is My Two Front Teeth” (American Songwriter, 2024)
https://americansongwriter.com/all-i-want-for-christmas-holiday-hymns/ - 歯列の概要
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https://ecampusontario.pressbooks.pub/oralfacialonline/chapter/overview-of-dentitions/ - 歯科救急サービスにおけるパンデミックと季節的パラメータの相互作用
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https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9644011/ - 糖類とう蝕:摂取推奨閾値設定のためのエビデンス
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https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4717883/ - 糖類とう蝕
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https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/sugars-and-dental-caries - チーズとパニールの咀嚼が唾液酸性度に及ぼす影響:比較研究
Effect of Chewing Paneer and Cheese on Salivary Acidogenicity: A Comparative Study (2012)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4093638/ - チョコレートキャンディと歯の破折:症例報告
Dental fracture and chocolate candies: case report (2013)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23622490/ - あなたの食習慣は歯と歯茎を破壊していますか?
Are your eating habits destroying your teeth and gums? (BBC Food, 2024)
https://www.bbc.co.uk/food/articles/teeth_and_diet

