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脂肪肝の人が肥満、糖尿病、高血圧以外に気をつけるべきは歯周病――「よく噛める歯」が肝臓を守る

1. はじめに

「脂肪肝」という診断を受けたことはありますか。近年、健康診断で脂肪肝と指摘される人がどんどん増えています。多くの人は「脂肪肝というのは、お酒をたくさん飲んでいる人がなるもの」と思っているかもしれません。

しかし実際には、お酒をあまり飲まない人でも、肥満、糖尿病、高血圧といった生活習慣病や代謝の乱れから脂肪肝になる人がほとんどなのです。こうした脂肪肝を MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)と呼びます。

そして最新の研究から、この脂肪肝とお口の健康、特に「歯周病」と「よく噛める歯の本数」が思った以上に深く関わっていることが分かってきました。この記事では、自治医科大学とサンスターの共同研究をもとに、脂肪肝とお口の意外な関係について、分かりやすく説明します。

2. 脂肪肝(MASLD)とは?

脂肪肝というのは、肝臓に脂肪が溜まっている状態です。肝臓は、栄養の代謝や解毒などの重要な働きをしている臓器ですが、ここに脂肪が溜まると、肝臓の機能が低下してしまいます。

昔は「脂肪肝」というと NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれていました。ところが最近になって、医学界では「脂肪肝には、いろいろな原因があり、その中でも『代謝がうまくいかない人に起こる脂肪肝』がとても多い」という認識が深まりました。このため、MASLD という新しい名前が主流になってきたのです。

MASLD は、以下のような「代謝の異常」と深く関わっています:

  • 肥満(特にお腹周りの脂肪)
  • 2型糖尿病
  • 高血圧
  • 脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い状態)

つまり、「生活習慣病の複数が重なっている人」に起こりやすい脂肪肝が、MASLD です。日本でも MASLD に相当する脂肪肝の人は2,000万人以上いるとされており、その一部が肝硬変や肝がんへ進行していくことが、大きな健康課題になっています。

3. 研究の背景と方法

自治医科大学とサンスターの共同研究は、「MASLD の患者さんと健康な人を比べたとき、お口の状態に違いがあるのか?」という疑問から始まりました。

研究では、MASLD と診断された患者19人(平均年齢54.1歳)と、健康な対照群26人(平均年齢48.4歳)を比較しました。両グループに対して、かなり詳細なお口の検査が行われました。具体的には、以下の項目が測定されました:

  • 口腔衛生状態:プラーク、歯石、舌苔
  • むし歯:むし歯の本数(DMFT)
  • 歯周病:歯周ポケットの深さ・面積、歯周炎症面積、プロービング時の出血
  • 口腔機能:歯数、機能歯数、咀嚼能力、舌圧、口腔機能の巧緻性、唾液分泌能
  • 生活の質:口腔関連 QOL 質問票(GOHAI)での評価

その後、年齢・性別・BMI などの影響を統計的に調整し、「MASLD であるかどうか」とこれらのお口の指標との関連が解析されました。

4. 研究で分かったこと

自治医科大学とサンスターが行った研究では、脂肪肝の患者さんのお口の状態を詳しく調べました。

調べた人たち:

  • 脂肪肝と診断された患者さん19人
  • 脂肪肝でない健康な人26人

調べた内容:

  • 歯垢や歯石の量
  • むし歯の本数
  • 歯周ポケット(歯と歯ぐきの間の溝)の深さ
  • 歯周病による炎症の広がり
  • 「よく噛める歯」の本数
  • 噛む力の強さ
  • 会話のしやすさなど、日常生活への影響

研究から見えてきた3つの事実

1. 脂肪肝の患者さんは、お口の悩みが多かった

脂肪肝の患者さんは、健康な人に比べて「噛みにくい」「思うように食べられない」「はっきり話しづらい」といった悩みをより多く抱えていました。つまり、お口の状態が日常生活に大きな支障をもたらしていたのです。

2. 脂肪肝の患者さんは、歯周病が進んでいた

お口を調べると、脂肪肝の患者さんでは、健康な人に比べて、歯周ポケットが深く、歯周病がより進行していました。つまり、「脂肪肝がある人ほど、歯周病も悪い傾向にある」ということが分かったのです。

3. 最も重要な発見:「よく噛める歯」が少ないほど脂肪肝である可能性が高い

ここが今回の研究の最大のポイントです。統計的に分析した結果、以下のことが分かりました:

  • 歯周病が重い人ほど、脂肪肝である可能性が高い
  • 「よく噛める歯」が1本多いごとに、脂肪肝である可能性が約4割に低下する

つまり、簡単に言い換えると:

「歯周病が進んでいて、よく噛める歯が少ない人ほど、脂肪肝である可能性が高い」逆に言えば、「よく噛める歯をたくさん残している人ほど、脂肪肝になりにくい」

という関係が見えたのです。

5. なぜ脂肪肝と歯周病が関係しているのか

なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。3つの可能性が考えられます。

理由1:歯周病の炎症が肝臓を傷つける

歯周病は、お口のローカルな病気だと思われていますが、実は違います。

歯周病で歯ぐきが炎症を起こすと、その炎症が長く続きます。すると、炎症に対抗するために、体がいろいろな炎症物質を作り出します。これらの物質が血液に混じって、全身をめぐるのです。

その結果、肝臓までこうした炎症物質が到達し、肝臓にダメージを与えてしまう可能性があります。特に、すでに代謝が悪くなっている脂肪肝の患者さんの肝臓は、こうした炎症ダメージに対して、より敏感に反応してしまうのです。

理由2:よく噛めないと、食事の選択肢が狭くなる

「よく噛める歯」が少なくなると、どうしても「柔らかくて食べやすい食事」に偏ってしまいます。

しかし、柔らかい食事というのは、一般的に:

  • 高カロリー(揚げ物や肉が多い)
  • 栄養バランスが悪い(野菜や食物繊維が少ない)
  • 脂肪が多い(柔らかくするために油を多く使っている)

という特徴があります。

結果として、肥満やインスリン抵抗性(糖尿病につながる体の状態)が進み、MASLD のリスクが高まってしまうわけです。

理由3:噛めないことが生活全体に悪影響を与える

歯が噛めないというストレスは、生活全体に影響を与えます。

  • ストレス増加:噛めない悩みが常にある
  • 食事の満足度が低下:好きなものが食べられない
  • 選択肢の制限:「何を食べるか」という楽しみが減る

こうした状態では、以下のようなことが起きやすくなります:

  • 間食が増える:満足感がないので、つい間食してしまう
  • 運動の動機が低下:ストレスが大きいと、運動する気力がなくなる
  • 睡眠が悪くなる:ストレスで眠りが浅くなる

そして、これらすべてが代謝を悪化させ、脂肪肝をさらに悪くしてしまうのです。このような「悪い循環」が生まれてしまうわけです。

6. 脂肪肝がある人が今からできること

この研究から見えてくるメッセージは、非常にシンプルで実践的です。

脂肪肝と診断されたら、まず歯科を訪ねましょう

健康診断で「脂肪肝」と言われたら、内科だけでなく、ぜひ歯科医院で検査を受けることをお勧めします

歯科医院では、以下のことをしてもらいましょう:

1. 歯周病の有無と重症度を診断してもらう

自分がどのくらいの歯周病を持っているのか、はっきりさせることが大切です。軽度なのか、中程度なのか、重度なのか。医学的な診断を受けることで、これからの治療方針が変わります。

2. 歯周病がある場合は、治療を開始する

歯周病があれば、歯石取り(スケーリング)や歯周基本治療を積極的に受けることをお勧めします。こうした治療を通じて、お口の中の炎症をコントロールすることができます。

3. 歯を失っている場合は、「噛める歯」を補う

すでに歯を失っている方は、以下のような方法で「噛める歯」を取り戻すことを前向きに検討してください:

  • 入れ歯:手軽で、取り外して掃除できる
  • ブリッジ:隣の歯を支えにして、歯を補う方法
  • インプラント:人工の歯根を埋め込む方法

どの方法にするかは、お口の状態や経済的な理由など、いろいろな要素を踏まえて選択することができます。

4. 内科の先生にも伝える

内科を受診するときに、「歯周病がある」「歯科で治療を受けている」ということを一度は内科の医者に伝えましょう。そうすることで、医科と歯科が連携して、より包括的なケアができるようになります。

日常生活でのケア

同時に、毎日の生活でも気をつけましょう:

毎日のブラッシング

毎日、丁寧に歯をみがくことが基本です。特に、歯と歯ぐきの境目を、やさしく磨くことが大切です。強く磨きすぎると、歯ぐきを傷めてしまいます。

定期的なクリーニング

自分でのブラッシングだけでは、完全には落とせない汚れがあります。最低でも年に2回、できれば年に4回(3か月ごと)、歯科医院で専門的なクリーニング(スケーリング)を受けることをお勧めします。

脂肪肝改善の重要な要素として「お口のケア」を位置づける

脂肪肝を改善するために、多くの人は「食事制限」と「運動」の2つに注力します。もちろん、これらは非常に重要です。

しかし、「お口のケア」も、同じくらい重要な改善要素として、これからは意識する必要があります。

  • 食事制限 ← 何を食べるか
  • 運動 ← 身体を動かすか
  • お口のケア ← よく噛ける環境を作れているか

この3つが、脂肪肝改善の三本柱になるべきだということです。

7. まとめ

MASLD(脂肪肝)の患者さんは、健康な人と比べて、歯周病が進行していて、よく噛める歯の本数も少ないことが分かりました。そして、よく噛める歯が1本多いごとに、脂肪肝である可能性が約4割に低下するという関連が見えてきました。

これは、以下のことを意味しています:

  • 「今ある歯をできるだけ残すこと」
  • 「失った歯を補ってよく噛める状態を取り戻すこと」
  • 「これらが肝臓の健康にもつながる」

ということです。

脂肪肝の改善を目指すなら、食事と運動に加えて、「お口のケア」と「よく噛める環境づくり」を、ぜひ日々の習慣に組み込んでみてください

「脂肪肝」と診断されたことは、実は、あなたのお口の状態を見直す、とても良い機会かもしれません。医者のアドバイスに耳を傾けながら、同時に歯科医院にも足を運んでみませんか。小さなことから始める改善が、やがて大きな変化につながるはずです。

ご自身やご家族の歯ぐきの状態、歯周病虫歯など、なにか気になることがありましたらお気軽にご予約ください。

参考文献

  1. Miura K, Arai N, Ishikawa M, Yasuda T, Wakabayashi N, Yamamoto A, Mori Y, Nakao K, Yamamoto H, Kotani K.
    “Oral health-related quality of life and oral function in patients with metabolic dysfunction associated steatotic liver disease”
    (代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)患者における口腔関連生活の質と口腔機能)
    Clinical and Experimental Hepatology, Vol. 13, No. 2, Article 154497, September 30, 2025.
    https://www.termedia.pl/Journal,-80/article,-56760/Oral-health-related-quality-of-life-and-oral-function-in-patients-with-metabolic-dysfunction-associated-steatotic-liver-disease
  2. Liu B, Jia Y, Gu Z, et al.
    “Periodontal diseases, potential mediators and development of liver fat content: a community-based large cohort”
    (歯周病、その媒介因子と肝脂肪量の変化:地域住民を対象とした大規模コホート研究)
    Frontiers in Medicine, Vol. 12, Article 1563459, April 8, 2025.
     https://www.frontiersin.org/journals/medicine/articles/10.3389/fmed.2025.1563459/full
  3. “Periodontitis exacerbates metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease via the gut microbiota-derived tryptophan metabolism-AHR axis in obesity”
    (歯周炎は腸内細菌由来トリプトファン代謝-AHR軸を介して肥満時の代謝機能障害関連脂肪性肝疾患を悪化させる)
    The Lancet eBioMedicine, Vol. 101, Article 103142, November 20, 2025.
    https://www.thelancet.com/journals/ebiom/article/PIIS2352-3964(25)00481-5/fulltext

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この記事の監修者
中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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