『口臭がある』と思っている人の3割が実は勘違い?自分が感じる口臭と実際の口臭の大きなズレ
はじめに
「自分は口臭がある」と感じて、歯科医院の口臭外来に訪れる患者さんは少なくありません。しかし、その患者さんが本当に口臭があるのかどうか、実際に検査してみると…驚くべき結果が判明しました。
本記事では、東京歯科大学千葉病院の口臭外来で3年間かけて行った363名の患者さんを対象とした臨床統計から、患者さんの自覚と医学的検査のズレについて解説します。
研究
この研究の質問: 患者さんが「口臭がある」と感じるのと、歯科医師が検査で確認する口臭は、本当に一致しているのか?
調査方法
- 対象: 東京歯科大学千葉病院の口臭外来に来た363名の患者さん
- 期間: 2009年~2011年の3年間
- 調査内容:
- 患者さんに「口臭はありますか?」と質問票で調査
- 歯科医師が直接かいで判定(オルガノレプティック検査)
- 機械で揮発性硫黄化合物(悪臭成分)を測定
調査結果
患者さんが感じている「口臭」
| 患者さんの感覚 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 「口臭があると思う」 | 294人 | 81.9% |
| 「口臭がないと思う」 | 9人 | 2.5% |
| 「わからない」 | 56人 | 15.6% |
ここまでは珍しくありません。口臭外来に来た患者さんですから、多くが「口臭がある」と感じているのは当然です。
ところが…実際の検査結果は大きく異なります!
| 検査結果 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 実際に口臭あり(歯科医師が確認) | 195人 | 54.3% |
| 実際には口臭なし | 168人 | 45.7% |
驚くべき乖離(かいり):自覚と実測の違い
この結果をよく見ると、とても興味深いことが分かります:
患者さんが「口臭がある」と思っている人:294人
- そのうち、実際に口臭あり:195人(66.3%)
- そのうち、実際には口臭なし:99人(33.7%)
つまり、患者さんが「口臭がある」と思っている人の中で、約3割(33.7%)が実際には口臭がない、ということです!
これを別の言い方をすると、患者さんが自覚している「口臭がある」という感覚と、歯科医師が検査で確認できる実際の口臭には、大きなズレがあるということです。
この現象は「疑似口臭(pseudohalitosis)」と呼ばれ、医学的に認識されている重要な問題なのです。
患者さんが口臭を感じるきっかけは何か
本当に興味深いことに、研究者たちが調査した結果、患者さんが口臭を気にするようになるのは、むしろ実際の口腔内の不快感から来ていることが分かりました:
患者さんが口臭を気にする主な原因:
1. 舌の白い汚れ(舌苔) ← 最も強い関連
- 舌苔がある患者さんは、口臭を自覚しやすい傾向が明らかに見られた
- この関連性は統計的に最も強い
2. 口の中の変な味(口中異味感)
- 口の中に変な味を感じると、口臭があると思い込むことが多い
- 「変な味=口臭があるはず」という心理的な結びつき
3. 口の乾き(口腔乾燥感)
- 口が乾いていると、口臭を感じやすくなる傾向
- ドライマウスの患者さんは口臭を意識しやすい
一方、以下のような症状は、患者さんが「口臭がある」と思うことと関連がほぼありませんでした。
- 歯肉からの出血
- 歯肉からの膿
- 歯の動揺
- 睡眠時の歯ぎしり
この発見の意味
患者さんが口臭を気にするのは、実は目に見える不快感(舌苔)や感じる不快感(変な味、乾き) が原因であり、歯肉からの出血や膿といった「重篤な歯周病の兆候」ではないということです。
重要な発見:客観的検査の信頼性
この研究では、複数の方法で口臭を測定しました。その結果、非常に興味深いことが判明しました:
客観的な測定値は互いに一貫性がある:歯科医師の嗅覚判定と機械測定値(特にメチルメルカプタン)は非常に高い相関性を示しました。
つまり、客観的な測定方法は信頼性が高く、一貫性があるということです。
しかし…患者さんの自覚とはほぼ相関がない
患者さんの自覚と客観的測定値の間にはほとんど相関がありませんでした。
この発見が示すこと
本人の「口臭がある」という感覚と客観的な検査で測定される実際の口臭は相関がほとんどないない本人の「口臭がある」という感覚と舌苔、変な味、口の乾きなどの実際の不快感は相関があり、強く関連している
研究から得られる教訓
教訓1:患者さんが「口臭がある」と思うのは、実は舌苔や口の味わい異常などの不快感が原因である
実際には口臭がなくても、舌苔などの不快感が「口臭がある」という確信につながっています。
患者さんの感覚は決して無視できません。確かに口臭がないかもしれませんが、患者さんが感じている不快感は本物です。
教訓2:純粋な心理的な心配(ストレス)だけではなく、実際の口腔内の不快感が重要である
「気にしすぎですよ」と言うだけでは解決しません。舌苔や口中異味感といった実際の症状が存在するからこそ、患者さんは口臭を意識しているのです。
教訓3:治療では、患者さんの心理的支援と同時に、舌苔の清掃や口腔内不快感の改善が必要である
効果的な治療戦略:
- 単に「口臭はないですよ」と言うのではなく
- 実際に舌苔の清掃法を指導する
- 患者さんの「不快感」を取り除く実践的なアプローチ
教訓4:定期的な客観的検査(歯科医師による判定や機械測定)が診断に不可欠である
患者さんの訴えだけでは判断できない複雑さがあります。
正確な診断のために必要なもの:
- 患者さんへのていねいな問診
- 歯科医師による嗅覚判定
- 機械を用いた客観的測定
- これら複数の方法を組み合わせた評価
参考文献
- 富田紗千代, 佐藤聡, 亀山敦志, 他. 日本歯周病学会会誌. 2013;55(1):15-23.
東京歯科大学千葉病院口臭外来受診患者の最近3年間の臨床統計―口臭質問票と口臭測定結果の関連性―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/55/1/55_15/_article/-char/ja/
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