歯にとって「安全な砂糖の量」は存在しない —— 2026年アメリカ新食事ガイドラインで「砂糖ゼロ推奨」へ
はじめに
2026年1月、アメリカ政府(HHS:米国保健福祉省とUSDA:米国農務省)が「2025–2030年アメリカ人のための食事ガイドライン」を発表しました。今回の改定では、とくに「砂糖(加糖)」についての姿勢が大きく変わり、歯科の観点からも非常に重要な内容が含まれています。

1. 何が変わった?新ガイドラインの砂糖ルール
これまでのガイドライン(2020–2025版)では、「1日の総摂取カロリーのうち10%未満を”加糖(added sugars)”にすること」が目標とされていました。
新しい2025–2030版では、この考え方がさらに一歩進み、次のような方針が打ち出されています。
- 「どれくらいの量であっても、加糖や人工甘味料は健康的・栄養的に”必要なもの”ではない」と明記
- そのうえで、1回の食事(1食)に含まれる加糖は10 g以下に抑えることを具体的に推奨
- 砂糖入り飲料(炭酸飲料、エナジードリンク、砂糖入りジュース飲料)は避けるように推奨
- 100%果汁も「飲み過ぎない」「水で薄める」など、量と飲み方に注意するように明記
つまり、「1日の合計量」だけでなく、「1食あたりの砂糖量まで具体的な上限を示した」のが今回の大きな特徴です。
2. なぜここまで砂糖に厳しくなったのか?
2-1. 歯にとって「安全な砂糖の量」は存在しない
アメリカ歯科医師会(ADA)は、厚生労働省に相当するHHSへのコメントの中で、次のように明言しています。
「歯科の観点から言えば、どんな量の砂糖を摂取しても、虫歯リスクは”ゼロ”にはならない」
ポイントは「量に関係なく、砂糖が口に入るたびにリスクは増える」という考え方です。砂糖が口の中に入ると、プラーク中の細菌がそれをエサに酸を作り、歯の表面(エナメル質)を溶かしていきます。この「脱灰」の時間が長く・頻繁になるほど、虫歯のリスクは高くなります。

2-2. 「砂糖の総量」より「頻度」と「口の中に残っている時間」が問題
虫歯のリスクを決めるのは、
- 砂糖をどれくらいの頻度で
- どれくらい長い時間、口の中にとどめているか
という点であり、「1日の合計量」よりも、「ダラダラ食べ・チビチビ飲み」の方が問題なのです。

そのため、アメリカの新ガイドラインは、単に「砂糖は1日○gまで」ではなく、「1食あたり10 gまで/砂糖入り飲料は基本避ける」という、頻度と具体量を同時に管理する形になっています。
3. ガイドラインが示す”具体的な目安量”とは?
新ガイドラインでは、一般の人がイメージしやすいように具体的な数値が示されています。
3-1. 1食あたりの「加糖」上限
- 1食あたり:加糖10 g以下で、角砂糖1個やシュガースティック1本(約4 g)に換算すると「2~3個分」ほどです。
たとえば、朝食で
- 甘いカフェラテ(シュガースティック1本: 4 g)
- 甘いヨーグルト(加糖: 8 g)
を一緒にとると、簡単に10 gを超えてしまうイメージです。
3-2. 間食(おやつ)の上限例
アメリカのガイドラインでは、間食についてもかなり具体的に示されています。
- 穀類系スナック(ビスケット・クラッカーなど):
→ 約21 gあたり加糖5 g以下 - ヨーグルト(乳製品スナック)
→ 約160 mlあたり加糖2.5 g以下
日本にそのまま当てはめるとまだ商品は少ないですが、「甘くないヨーグルト+果物」のような組み合わせに近いイメージです。
4. 歯と全身の健康から見た”砂糖制限”の医学的根拠
4-1. 砂糖と虫歯:エビデンスは「かなりはっきり」
複数の大規模研究では、砂糖の摂取量が多いほど、虫歯が増えるという関係が一貫して示されています。
特に、
- 砂糖入り飲料
- 砂糖を加えた菓子・デザート類
- 砂糖入りシリアルや朝食製品
など、「液体+間食+朝食」に砂糖が集中していることがわかっています。
実際、アメリカの成人食事調査(36,378人)では、加糖の主な摂取源は次の通りです。
| 食品・飲料の種類 | 加糖摂取量への貢献度 |
|---|---|
| 炭酸飲料(清涼飲料) | 26.0% |
| 茶(砂糖入り) | 6.9% |
| フルーツドリンク | 6.8% |
| ケーキ・パイ | 6.3% |
| 砂糖・蜂蜜 | 5.0% |
飲み物だけで、全体の約47%を占めています。
4-2. 全身疾患との関係:心血管・糖尿病・肥満
2023年の大規模レビューでは、高い砂糖摂取は心血管疾患や糖尿病、肥満などにおいて有害だと結論づけています。
具体的には、
- 砂糖入り飲料を多く飲む人は、肥満や2型糖尿病のリスクが上昇
- 一部のがん(膵がんなど)と砂糖との関連も報告
などがあり、WHO や各国の専門機関も「砂糖はできるだけ減らすべき」という方向で一致しています。
4-3. 「10%ルール」から「具体的な g 数」へのシフト
2020–2025年版ガイドラインでは、「1日の総カロリーの10%未満」という、やや抽象的な目安でした。
しかし実際の食生活では、
- カロリー計算をしている人は少ない
- 「10%」と言われてもピンとこない
という問題がありました。
そこで2025–2030版では、
- 「1食あたり10 g」
- 「おやつの砂糖○gまで」
といった“そのまま食品表示に当てはめられる”実用的な数字へと変化したのです。
5. 日本人はどう活かす?実生活でのアレンジ例
アメリカのガイドラインはあくまでアメリカ人向けですが、「砂糖を減らす」「飲み物から変える」という考え方は、日本でもそのまま参考にできます。
5-1. 「飲み物」から変えるのが一番効果的
研究では、砂糖由来のカロリーのかなりの部分が、飲み物から来ていることがわかっています。
日本でも次のような工夫が有効です。
- 清涼飲料水は「特別な日だけ」にする
- 普段の飲み物は、水・お茶・無糖コーヒーに
- 100%ジュースは「コップ半分+水で割る」くらいの感覚に
5-2. 「1食あたり10 g」のイメージを日本版に置き換える
朝食例:
- 甘いヨーグルト(加糖10 g)+フルーツ
- → ヨーグルトは無糖にして、甘さはフルーツで
間食例:
- 砂糖が多いお菓子を毎日ではなく、「量を決めて・回数を減らす」
「“ゼロにする”が無理でも、”今日はここまで”と線を引く」ことが大切です。
6. 「砂糖ゼロ」はゴールではなく”方向性”
最後に大切なのは、「砂糖は一切ダメ」という”禁止”ではなく、
- 「砂糖を減らすほど、歯と体にとってプラスが大きい」
- 「ゼロが無理でも、減らす方向に少しずつ動いていく」
という”方向性”です。
アメリカの新ガイドラインは、「加糖は”必要栄養素ではない”」「食事全体を通してできるだけ減らすべき」という考え方を、初めて具体的な数字付きで示しました。
日本でも、飲み物・おやつ・朝食の3つを中心に、「砂糖とどう付き合うか」をあらためて見直すタイミングに来ていると言えます。
参考文献
- U.S. Department of Health and Human Services; U.S.
Dietary Guidelines for Americans, 2025–2030
アメリカ人のための食事ガイドライン 2025–2030
https://cdn.realfood.gov/DGA.pdf - American Dental Association.
Comments on the Scientific Report of the 2025 Dietary Guidelines Advisory Committee.
2025年食事ガイドライン諮問委員会報告書に対するADAコメント
https://www.ada.org/-/media/project/ada-organization/ada/ada-org/files/advocacy/250210_hhs_dietaryguidelines_2025-2030 - Taylor CA, Madril P, Weiss R, et al. Nutrients. 2024;16(15):2474.
Identifying the Leading Sources of Saturated Fat and Added Sugar in U.S. Adults
米国成人における飽和脂肪酸と加糖の主な摂取源の特定
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11314151/
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