認知症・フレイルを遠ざける栄養と口腔ケア:厚労省の最新動向からみる食事摂取基準改訂の流れとオーラルフレイルの重要性
目次
- はじめに:この記事のねらい
- 食事バランスガイドとは何か
- 日本人の食事摂取基準とは何か
- 「食事バランスガイド」と「食事摂取基準」の違い
- 食事摂取基準改訂の流れと目的の拡がり
- 日本人の食事摂取基準2025年版の主な変更点
- フレイル・オーラルフレイルと厚労省の最近の動き
- OF-5(口腔フレイル5項目チェック)とは
- まとめ:食事・歯科・フレイルをどうつなげて実践するか
- 参考文献
1. はじめに:この記事のねらい
日本の栄養・食生活の指標としてよく耳にする「食事バランスガイド」と「日本人の食事摂取基準」は、名前が似ているものの役割が異なります。
同時に、最近の改訂では「生活機能」「フレイル」「骨粗鬆症」「認知機能」といったキーワードが前面に出ており、そこにオーラルフレイルや歯科の役割も組み込まれつつあります。
この記事では、
- 食事バランスガイドと食事摂取基準の違い
- 食事摂取基準の改訂史と目的の拡がり
- 2025年版のポイント
- 厚労省のフレイル・オーラルフレイル・歯科の位置づけ
- OF-5(口腔フレイル5項目チェック)の概要
を、できるだけわかりやすく整理します。
2. 食事バランスガイドとは何か
食事バランスガイドは、「1日に何をどのくらい食べればよいか」をコマのイラストで示した、日本のフードガイド(食事指針の図解版)です。
厚生労働省と農林水産省が、2005年に食生活指針を具体的な行動につなげるために作成しました。

- 主食・副菜・主菜・牛乳・乳製品・果物の5つの料理区分に分けて、「つ(SV)」という単位で1日の目安量を示します。
- どの区分をどのくらい摂ればよいかが一目で分かるため、「バランスのよい食事」をイメージしやすくするためのツールです。
ポイントは「栄養素」ではなく、「料理や食品の組み合わせ」を図で示している点です。
3. 日本人の食事摂取基準とは何か
日本人の食事摂取基準は、「日本人が健康を維持・増進するために、各栄養素をどのくらい摂るとよいか」を数値で示した指標です。
エネルギーやたんぱく質、ビタミン、ミネラルなど、栄養素ごとに
- 推定平均必要量
- 推奨量
- 目安量
- 耐容上限量
- 目標量
などが年齢・性別ごとに示されています。
栄養士・医師・歯科医師などが、給食の設計や栄養相談、保健指導などに使う「プロ向け」の性格が強い資料です。
こちらは、イラストではなく数表と解説が中心の、科学的な基準書という位置づけになります。
4. 「食事バランスガイド」と「食事摂取基準」の違い
両者は、ねらいも使い方も異なる「別物」です。
4-1. 役割の違い
食事バランスガイド
- 目的:バランスのよい食事を、一般の人が日常の食事で実践しやすくする。
- 形:コマのイラスト、料理区分(主食・副菜など)、「つ(SV)」単位。
- 主な対象:一般住民、子どもから高齢者までの市民。
日本人の食事摂取基準
- 目的:栄養素ごとの摂取量の基準を示し、健康維持・生活習慣病予防・生活機能の維持などを支える。
- 形:数値表と解説(エネルギー・栄養素ごとの推奨量など)。
- 主な対象:医療・保健・福祉・給食現場の専門職。
4-2. 関係性
食事バランスガイドは、背景にある栄養学的な考え方として食事摂取基準の内容を参考にしつつ、一般の人向けに「どんな食事にすればいいか」を示しているイメージです。
つまり、食事摂取基準が「設計図」、食事バランスガイドが「分かりやすい完成イメージ」という関係と考えると理解しやすくなります。
5. 食事摂取基準改訂の流れと目的の拡がり
食事摂取基準はおおむね5年ごとに改訂されており、時代とともに目的が広がってきました。
5-1. 年代ごとの主な位置づけ
2005年版:
- 「栄養所要量」から「食事摂取基準」へと名称・考え方を大きく変更。
- 欠乏症を防ぐことに加え、「過剰摂取の予防」や生活習慣病との関連も意識し始めた時期。
2010年版:
- エビデンスレビュー(系統的文献レビュー)を取り入れ、科学的根拠に基づく基準設定を本格化。
2015年版:
- 「生活習慣病の発症予防」に加えて、「重症化予防」も目的に明記。
2020年版:
- 「社会生活を営むために必要な機能の維持・向上」という観点が加わり、高齢者の区分や生活機能への配慮が強まりました。
2025年版:
- 「生活機能(フレイル・サルコペニア・認知機能など)の維持・向上」や骨粗鬆症との関連をより前面に出した構成になりました。
5-2. 目的の拡がり(流れ)
この流れを一言でまとめると、次のような段階的な拡がりです。
欠乏予防
→ 過剰摂取の予防
→ 生活習慣病の発症予防
→ 生活習慣病の重症化予防
→ 生活機能・フレイル・骨粗鬆症などを含めた包括的な健康の維持・向上
「病気にならない」だけでなく、「要介護にならず、社会生活を続けられるか」「フレイルや認知機能低下をどう防ぐか」まで視野が広がっているのが現在の特徴です。
6. 日本人の食事摂取基準2025年版の主な変更点
2025年版は、従来の枠組みを保ちながらも、生活機能と骨粗鬆症を重視した構成や、特定栄養素の見直しが行われました。
6-1. 大きな方針・構成上の変更
- 生活機能(フレイル・サルコペニア・認知機能)と骨粗鬆症を含む疾患との関連に焦点を当てた章立てになりました。
- 「生活習慣病及び生活機能の維持・向上に係る疾患等とエネルギー・栄養素との関連」という項目を設け、骨粗鬆症が新たに明示されました。
6-2. 代表的な栄養素の見直し
詳細な数値は専門書に譲りますが、一般の方向けにポイントだけ挙げると次のようになります。
- ビタミンD:
- 成人の目安量が引き上げられ、骨や筋肉の健康への配慮が強まりました。
- 食物繊維:
- 成人の推奨量が2020年版より引き上げられ、より多く摂る方向に見直されました。
- 一部ビタミン・ミネラル:
- 血中濃度などの指標を使ったエビデンスに基づき、基準値の調整が行われました。
6-3. 「どう使うか」に関する記載の充実
2025年版では、数値だけでなく、「現場でどう活用するか」「どのように評価・見直しをしていくか」といった運用面の説明も充実しています。
これは、栄養指導・健診・健康教育など、さまざまな場で使える“共通言語”にする意図があると考えられます。
フレイル・サルコペニアとは
フレイルとは
加齢によって心と体の元気が少しずつ弱くなり、「健康」と「要介護」の中間にいるような状態を指します。
体の力が落ちるだけでなく、
- 体重が減ってきた
- 歩くのが遅くなった・疲れやすい
- 外出や人付き合いが減ってきた
- 元気や意欲が出ない
など、身体・こころ・社会参加の3つが一緒に弱ってくるのが特徴です。
きちんと気づいて対策をすれば、元の元気な状態に戻る可能性が高い「ゆり戻し可能な段階」と考えられています。
サルコペニアとは
主に「筋肉」に焦点を当てた概念で、
- 筋肉量が減る
- 筋力が落ちる
- 歩く速さなどの身体機能が低下する
状態をいいます。
特に足腰の筋肉が弱くなり、
- つまずきやすい・転びやすい
- 立ち上がりや階段がつらい
など、日常生活の動作に支障が出てくるのが特徴です。
両者の関係
- サルコペニアは「筋肉の衰え」に特化した状態、
- フレイルは「筋肉の衰え+こころや社会性の衰えも含めた、より広い虚弱状態」
と考えると分かりやすいです。 - 筋肉が衰えるサルコペニアが進むと、動けなくなり外出や交流が減り、結果としてフレイルへ進んでいく、という流れでつながっています。
「最近、体重が減った」「前より歩くのが遅くなった」「外に出るのがおっくう」といったサインは、フレイルやサルコペニアの早期サインになり得るので、意識してチェックすることが大切です。
7. フレイル・オーラルフレイルと厚労省の最近の動き

日本では「フレイル予防」「地域包括ケア」「歯科口腔保健施策」が一体となる流れの中で、口の健康と全身の健康を結びつけて考える政策が進んでいます。
7-1. フレイル対策と歯科の位置づけ
- フレイル(年齢とともに心身が虚弱になる状態)は、身体機能だけでなく、栄養・口腔・社会参加・認知機能などが相互に関連する「多面的な問題」として扱われています。
- 厚労省の歯科口腔保健施策(第2次)では、地域での健診や口腔機能管理を通じて、フレイルやオーラルフレイル(口の虚弱)を早期に見つけ、予防することが重要な役割として位置づけられています。
7-2. オーラルフレイル・咀嚼・かみ合わせと生活機能
- オーラルフレイルは、歯の本数、噛みにくさ、むせ、口の乾き、滑舌の低下など、軽微な口腔機能低下の段階を指し、放置するとフレイルや要介護につながる状態とされています。
- 歯を失ったままにして咀嚼能力が落ちると、食べられる食品が減り、栄養が偏ることで筋力低下や体重減少につながり、フレイルや認知機能低下のリスクが高まることが報告されています。
- そのため、補綴治療(義歯やブリッジ、インプラントなど)によるかみ合わせの回復や、口腔機能訓練・口腔ケアが、「生活機能・認知機能を守るための歯科医療」として政策面でも重視され始めています。
8. OF-5(口腔フレイル5項目チェック)とは
OF-5(Oral frailty 5-item Checklist)は、オーラルフレイルを簡単にチェックするために作られた5項目の質問票です。
3学会合同ステートメント(日本老年医学会・日本老年歯科医学会・日本サルコペニア・フレイル学会)で提示され、歯科だけでなく多職種・本人でも使える点が特徴です。
8-1. OF-5で見ている5つの領域

OF-5は、次の5つの領域を「はい/いいえ」でたずねる構造になっています。
- 歯の本数(残存歯数)
- 自分の歯が少ない(おおよそ20本未満)状態は、噛む力の低下や栄養の偏りと関連します。
- 噛みにくさ(咀嚼困難感)
- かたいものが噛みにくい、噛めない食品が増えたなどの自覚です。
- むせやすさ(嚥下機能の低下)
- お茶や汁物でむせることが増えた、飲み込みにくいと感じるなどの症状です。
- 口の乾き(口腔乾燥)
- 口が渇いて話しづらい、食べにくいと感じる主観的な乾燥感です。
- 滑舌の低下(構音や舌・口唇の動き)
- 言葉がはっきりしない、しゃべりにくいなどの変化です。
8-2. 判定と意味
- 5項目のうち2項目以上あてはまると、オーラルフレイルと判定されます。
- 大規模な高齢者研究で、OF-5でオーラルフレイルと判定された人は、将来のフレイル、要介護認定、死亡のリスクが高いことが報告されています。
8-3. 実際の現場での使い方
- 問診だけで評価できるため、歯科外来に限らず、地域包括支援センター、介護予防教室、内科外来など、さまざまな場面で使われています。
- 歯科側では、OF-5でリスクが高い人に対して、より詳しい検査(かみ合わせ、義歯の状態、舌圧、口腔機能検査など)につなぎ、早めに介入することが推奨されています。
9. まとめ:食事・歯科・フレイルをどうつなげて実践するか
ここまで見てきたように、食事バランスガイドと日本人の食事摂取基準は、「何をどれだけ食べるか」を一般の人と専門家それぞれの立場から支える仕組みです。
最新の食事摂取基準2025年版では、栄養素の数値だけでなく、フレイル・サルコペニア・骨粗鬆症・認知機能といった生活機能の維持を重視する流れが明確になっています。
そのなかで、口の健康、とくに
- 歯の本数
- かみ合わせ・咀嚼機能
- 嚥下や滑舌
- 口の乾き
といったオーラルフレイルの要素が、栄養状態と生活機能をつなぐ“ハブ”として重要視されています。
日常生活でできるアクションとしては、
- 食事バランスガイドを参考に「いろいろな食品をバランスよく」食べること
- 定期的な歯科受診で、歯・かみ合わせ・義歯のチェックを受けること
- 口の渇きやむせ、噛みにくさ、滑舌の変化に気づいたら早めに相談すること
などが、フレイルや認知機能低下を遠ざける一歩になります。
参考文献
- 食事バランスガイドについて(農林水産省・厚生労働省)(2009)
https://www.maff.go.jp/j/balance_guide/ - 食事バランスガイド(基本編)(厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト)(2004)
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-03-007.html - 日本人の食事摂取基準(総合案内ページ)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html - 日本人の食事摂取基準(2025年版)の概要(南江堂配布資料)(2024)
https://www.nankodo.co.jp/download/S9784524241828.pdf - オーラルフレイルを知っていますか?(日本老年歯科医学会)(2025)
https://www.gerodontology.jp/committee/002370.shtml - 3学会合同ステートメントを受けてのオーラルフレイルに関する情報提供(日本歯科医師会)(2024)
https://www.jda.or.jp/jda/release/detail_253.html
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