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口腔がん検診に特別な機械:蛍光観察装置は必要? 一般歯科でできる診査と、分かっていること・まだ分からないこと

口腔がん検診に特別な機械:蛍光観察装置は必要なのでしょうか。一般歯科で行える視診・触診の役割、感度・特異度・偽陽性の意味、学会の見解、研究で分かっていることを分かりやすく解説します。

口腔がんというと、「特別な機械がないと見つけられないのでは」と感じる方も少なくありません。ですが実際には、一般歯科医院でも、明るい光の下でよく見て、必要な場所を触って確認する基本的な診査によって、口腔がんやその前段階を疑う手がかりを得ることができます。[1][2]

一方で、BIOSCREEN、OralID、ORALOOK、VELscope などの口腔内蛍光観察装置も広く知られるようになってきました。これらは口腔粘膜の光り方の違いを利用して、注意して観察すべき場所を見つけやすくする補助的な機器ですが、現時点では「装置を使うと、口腔がんの発見率が具体的にどれだけ上がるか」を直接示した研究は十分に確認されていません。[1][2]

口腔がんとはどんな病気か

口腔がんは、舌、頬の内側、歯ぐき、口の底など、口の中にできるがんの総称です。初期には強い痛みが出ないことも多く、治りにくい口内炎のように見えたり、白い部分や赤い部分、しこり、表面のただれとして見つかることがあります[2]

早い段階で見つかれば、治療範囲を小さくできる可能性があり、食べる、話すといった日常生活への影響も抑えやすくなります。そのため、歯科医院での定期的な口腔内チェックはとても重要です。[2]

一般歯科でできる口腔がん検診

特別な機械がなくても、一般歯科医院では口腔がんの診査が可能です。基本になるのは、視診と触診を組み合わせた従来型の口腔内診査で、日本口腔外科学会の文書でも、蛍光観察装置はあくまで補助的に用いる機器であり、必ず白色光下での直接目視による視診を行うこと、本器のみで診断を行わないことが明記されています。[1]

視診では、白い、赤い、盛り上がっている、ただれているなど、粘膜の色や形、表面の変化を確認します。触診では、硬さ、厚み、しこり、圧痛の有無などを確かめ、見た目だけでは分かりにくい異常を探ります。[1][2]

つまり、蛍光観察装置がない一般歯科医院でも、口腔がん検診の土台となる診査は十分に行えます。大切なのは、機械の有無よりも、口の中全体を丁寧に観察し、必要なときに精密検査や専門医紹介へつなげられることです。[1][2]

蛍光観察装置とは何か

蛍光観察装置は、青色帯域の光を口腔粘膜に当て、そこで生じる蛍光を観察する装置です。日本口腔外科学会の文書では、健常な口腔粘膜は主としてFADとCCLに由来する緑色帯域の比較的弱い蛍光を示し、がんや前がん病変では代謝変化や間質変化、炎症では血液による青色光の吸収などによって蛍光が減少し、暗い陰として観察されると説明されています。[1]

この暗く見える変化は「蛍光損失」または「蛍光ロス」と呼ばれます。蛍光観察装置は、この蛍光ロスを相対的に評価して、肉眼では目立ちにくい変化を拾い上げるための補助機器と考えると理解しやすいでしょう。[1]

ただし、蛍光ロスはがんだけで起こるわけではありません。炎症、血流の増加、観察角度や距離、陰になった部分、メラニン色素、角化の強い部位などでも見え方は変化するため、装置の画像だけで病気かどうかを決めることはできません。[1]

用語をやさしく解説

蛍光観察装置に関する研究を読むと、「病変検出数」「感度」「特異度」「偽陽性」といった用語がよく出てきます。少し難しく見えますが、意味を知ると装置の長所と限界が分かりやすくなります。[2]

病変検出数とは、「要注意」として拾い上げられた場所の数です。蛍光観察装置を使うと、目で見ただけでは気づきにくい部分も暗く見えることがあるため、要注意の場所の数は増えやすくなります。[1][2]

感度とは、「本当に病変がある場所を見逃さずに拾える力」です。感度が高いほど、がんや前がん病変を取りこぼしにくい検査だといえます。

特異度とは、「本当は問題のない場所を、きちんと問題ないと判断できる力」です。特異度が高いほど、正常な部分まで病気かもしれないと疑いすぎにくい検査だといえます。

偽陽性とは、「検査で引っかかったけれど、あとで詳しく調べたら大丈夫だった状態」です。検査では「怪しい」と出たのに、実際にはがんでも前がん病変でもなかった結果のことです。

蛍光観察装置を使うと何が変わるのか

研究をまとめたレビューでは、VELscope などの自家蛍光観察装置は、病変を拾い上げる補助として役立つ可能性がある一方、結果にばらつきが大きいことが示されています。2016年のシステマティックレビューでは、VELscope の感度は22%から100%、特異度は16%から100%と報告され、経験のある臨床家が口腔潜在的悪性疾患を見つける助けにはなり得るものの、異形成と良性の炎症性変化を見分けることは難しいとまとめられています。[2]

このため、蛍光観察装置を使うと、病変検出数は増えやすく、感度も上がる方向に働く可能性があります。つまり、「見逃しにくくなる」ことが期待される一方で、炎症や刺激による変化まで拾ってしまい、特異度が下がり、偽陽性が増えやすくなるという問題も起こります。[1][2]

たとえば、日本口腔外科学会の文書でも、炎症部位では滞留する血液が青色帯域光を吸収するため、蛍光が減少して暗く見えると説明されています。これは、がんではない炎症でも装置上は「怪しく」見えることがある、という意味です。[1]

分かりやすく言うと、蛍光観察装置は「見逃しを減らすために網を広くかける道具」に近い面があります。そのぶん、本当は心配のいらない場所まで引っかかりやすくなるため、最終判断には通常の視診・触診や、必要に応じた生検などが欠かせません。[1][2]

発見率は本当に上がるのか

ここで重要なのは、「病変検出数が増えること」と「実際の口腔がん発見率が上がること」は同じではない、という点です。病変検出数は要注意として拾われた場所の数であり、その中には炎症や刺激による変化も含まれます。[1][2]

現時点で確認できる文献では、蛍光観察装置を使った群と使わなかった群で、口腔がんの発見率そのものを直接比較し、「装置があると何倍見つかる」と明確に示した研究は十分に見当たりません。既存研究の多くは、同じ患者に対して通常診査と蛍光観察を行い、感度や特異度などの診断性能を評価したものです。[2]

したがって、現時点のエビデンスから言えるのは、蛍光観察装置は「注意して見るべき場所を補助的に示す機器」であって、「導入すれば口腔がんの発見率が確実に上がることが証明された機器」とまでは言えない、ということです。[1][2]

学会の考え方と実際の位置づけ

日本口腔外科学会による2020年のポジションペーパー(ある特定のテーマや論争に対し、組織や個人が公式な立場、見解、根拠をまとめた文書)では、口腔粘膜の蛍光観察検査を非侵襲で簡便な手法としつつ、切除範囲設定など臨床での活用可能性を認めています。

  • 本検査の対象:舌がんで原発巣の切除手術が必要とされる患者
  • 切除範囲設定の流れ:病変の切除に際して、 局所麻酔前に 上記手法に則って本機器を照射し蛍光ロスを描出する。

また、本器は口腔粘膜検査において補助的に用いる機器であり、白色光下での視診を必ず実施し、本器のみでの診断は絶対に行わないことを明記しています。[1]

この「補助的に用いる機器である」という立場は、一般歯科の現場にもそのまま当てはまります。しかし、用いた結果行う「切除範囲の設定」を一般歯科医院で行うことはまずありません。これは切除した検体を病理組織診断に出す必要があり、結果次第によってはその場で追加切除を行うこともあり得るからです。つまり日本口腔外科学会としては一般歯科医院が診断の為に使用することは想定していない、と読み解くことができます。

蛍光観察装置はあれば参考になることがありますが、それ以上に重要なのは、定期的な診査、丁寧な視診・触診、経過観察、そして必要時の専門医紹介となっています。[1][2]

まとめ

口腔がん検診は、特別な機械がなければできないものではありません。一般歯科医院でも、視診と触診を基本にした丁寧な診査によって、異常の早期発見につなげることができます。[1][2]

蛍光観察装置は、病変検出数を増やし、見逃しを減らす方向に働く可能性がありますが、その一方で、特異度の低下や偽陽性の増加も起こりやすい補助機器です。現時点では、装置の有無で口腔がんの発見率がどれだけ上がるかを具体的に示した研究は十分に確認されていません

そのため、患者さんにとって本当に大切なのは、「特別な機械があるか」だけではなく、「口の中をきちんと診てくれるか」「気になる変化を相談しやすいか」「必要な検査につないでもらえるか」という点です。定期的な歯科受診は、むし歯や歯周病だけでなく、口腔がんの早期発見という面でも大きな意味があります。

治りにくい口内炎、粘膜にできた白や赤い斑点など、何か気になることがありましたらかわせみデンタルクリニックまでご相談ください。

参考文献

  1. 日本口腔外科学会『口腔粘膜の蛍光観察検査に関する基本的な考え方』(2020年)
    https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_1.pdf
  2. Efficacy of light based detection systems for early detection of oral cancer and oral potentially malignant disorders: Systematic review(2016)
    光学的補助装置による口腔がん・口腔潜在的悪性疾患の早期発見に関するシステマティックレビュー
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4920458/

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