今の歯の状態で寿命がわかる ?—— 19万人調査からわかった「長生きの秘訣」とは?
目次
- はじめに:歯と寿命の意外な関係
- 研究の概要:対象者は75歳以上の高齢者19万人
- 歯の「本数」より大事なもの:ポイントは「健全歯+治療済みの歯」
- 虫歯を放置するとどうなる?未治療う蝕と死亡リスク
- なぜ口の中の状態が全身の寿命に影響するのか
- 一般向けニュース記事が伝えていること
- 今日からできる「長生きのための歯の守り方」
- まとめ:歯の治療は「命の投資」
1. はじめに:歯と寿命の意外な関係
「歯が悪いと体にも悪い」とはよく聞きますが、どのくらい寿命に関係しているのかは、これまではっきりしていませんでした。
最近、日本の研究グループが75歳以上の高齢者約19万人を対象に、歯の状態とその後の死亡リスクを詳しく調べたところ、「どのくらい歯が残っているか」だけでなく、「残っている歯が健全か、治療済みか、虫歯のままか」が寿命予測に大きく関わることがわかりました。
2. 研究の概要:対象者は75歳以上の高齢者19万人
この研究は、大阪府で実施されている「後期高齢者歯科健診」と医療・介護データを組み合わせた、世界最大級の口腔疫学研究「OHSAKA study」の一部です。
2018〜2020年度に歯科健診を受けた75歳以上の高齢者190,282人を対象に、各歯の状態を記録し、その後2022年3月までの全死亡との関連を解析しました。
歯の状態は、1本ずつ次の4つに分類されています。
- 健全歯(sound):虫歯も治療もなく、健康な歯
- 処置歯(filled):虫歯治療などで詰め物・被せ物がされている歯
- 未処置歯・う蝕歯(decayed):虫歯があるが治療されていない歯
- 欠損歯(missing):すでに抜けてしまった歯
そのうえで、「どの状態の歯をどう数えたときに、死亡リスクを一番よく予測できるか」を統計的に検証しています。
3. 歯の「本数」より大事なもの:ポイントは「健全歯+治療済みの歯」
これまでの研究では、「残っている歯の本数」が少ないほど死亡リスクが高いことは知られていましたが、「歯の状態」まではあまり考慮されていませんでした。
今回の研究でわかった重要なポイントは、「健全歯に加えて、きちんと治療されている歯を含めた本数(健全歯+処置歯:S+F)が、死亡リスクを最もよく予測していた」ということです。
研究では、次の3つの数え方を比較しています。
- ① 健全歯だけの本数(S)
- ② 健全歯+処置歯の本数(S+F)
- ③ 健全歯+処置歯+未処置歯の本数(S+F+D)
その結果:
- S+Fの本数が多い人ほど、死亡リスクは段階的に低くなっていました(本数が増えるほどリスクが下がる「用量反応関係」)。
- Sだけ、あるいはS+F+Dの合計よりも、「S+F」が最も精度よく全死亡リスクを予測できました。
- つまり、「むし歯がなく」「必要な治療がきちんと行われている歯を多く維持していること」が、単に歯が残っているだけよりも、長生きの指標として優れていることが示されたのです。
4. 虫歯を放置するとどうなる?未治療う蝕と死亡リスク
この研究では、未治療の虫歯(decayed teeth)が多いほど、全死亡リスクが高くなることも示されています。
ポイントは次の通りです。
- 未処置歯の数が多い人では、死亡リスクが有意に高くなっていました。
- 一方で、処置歯(きちんと治療された歯)の多さは、死亡リスクの低さと関連していました。
- 虫歯があってもきちんと治療されている場合は、「健全歯+処置歯」としてカウントされ、予後のよいグループに入る傾向がありました。
つまり、「虫歯になったことがあるかどうか」より、「虫歯を放置せず治療しているかどうか」が、将来の健康や寿命にとって重要だと解釈できます。
5. なぜ口の中の状態が全身の寿命に影響するのか
歯や口の状態が、なぜ全身の死亡リスクと関わるのでしょうか。考えられているメカニズムはいくつかあります。
- 咀嚼機能と栄養状態
歯が少ない、虫歯や痛みで噛めない状態が続くと、硬いものや繊維質の多い食材(肉・魚・野菜・果物など)が食べづらくなり、低栄養やフレイル(虚弱)につながる可能性があります。 - 慢性炎症と全身疾患
未治療の虫歯や歯周病は、慢性的な炎症の原因になります。口の中の炎症が長く続くと、炎症性物質が血流に入り、心血管疾患や呼吸器疾患、糖尿病などのリスクを高める可能性が指摘されています。 - 口腔フレイルと要介護・死亡リスク
近年、「口腔フレイル」(歯の欠損、噛みにくさ、飲み込みにくさ、滑舌の悪化、口の渇きなどが重なった状態)が、要介護や死亡と関連することも報告されています。
もちろん、この研究だけで「歯が悪いから必ず早く亡くなる」と言い切れるわけではなく、生活習慣や経済状況など、他の要因も影響している可能性があります。
それでも、「口の健康状態が全身の健康状態の“鏡”になっている」という見方は、かなり現実的だと考えられます。
6. 一般向けニュース記事が伝えていること
記事で強調されている内容は、主に次の3点です。
- 歯が抜けている本数だけでなく、「残っている歯の状態(健全・治療済み・虫歯・欠損)」が早死にリスクの指標になりうること。
- 健全歯や処置歯が多い人ほど死亡リスクが低く、欠損歯や虫歯のままの歯が多い人では死亡リスクが高いこと。
- 虫歯や欠損をそのまま放置せず、「治療して噛める状態に戻すこと」が、健康な長寿につながる可能性があること。
7. 今日からできる「長生きのための歯の守り方」
今回の研究結果から、「長生きのために歯科で何を大切にすべきか」を整理すると、次のようになります。
- 虫歯を放置しない
「痛くなったら行く」のではなく、「虫歯かな?」と思ったら早めに受診し、未処置の虫歯を作らないことが重要です。 - 治療済みの歯も大切に使い続ける
詰め物や被せ物が入っている歯も、「処置歯」として健全歯と同じように、長生きにプラスの要素になっていました。治療して終わりではなく、その後のメンテナンスが大切です。 - 定期的な歯科健診・クリーニング
高齢者だけでなく、若い世代から定期検診を受けることで、虫歯や歯周病を早期発見・早期治療し、「健全歯+処置歯」を多く保ちやすくなります。 - 噛める状態を維持する(補綴治療も含めて)
すでに歯を失っている場合でも、入れ歯やインプラントなどで噛める状態を補うことは、栄養や生活の質、全身の健康を守るうえで重要です。 - 全身の生活習慣も見直す
喫煙、糖尿病、食生活の乱れなどは、歯周病や歯の喪失だけでなく、心血管疾患・死亡リスクとも共通する要因です。歯科と内科の両面から健康づくりを考えることが大切です。
8. まとめ:歯の治療は「命の投資」
今回の大規模研究から、「何本歯が残っているか」だけでなく、「残っている歯がきちんと治療され、機能しているかどうか」が、寿命の予測に重要であることが示されました。
虫歯や欠損をそのまま放置せず、「健全歯+処置歯」を1本でも多く保つことは、見た目や噛み心地だけでなく、「長生きする可能性」を高める行動とも言えます。
歯科治療や定期健診は、「その場しのぎの修理」ではなく、「将来の自分の命への投資」と考えて、ぜひ積極的に活用していただきたいと思います。
参考文献
- Assessing the effectivity of counting the number of teeth with their conditions to predict mortality: the OHSAKA study (2025)
歯の本数と状態による死亡予測の有効性評価:OHSAKA研究
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12751478/ - 歯の健康状態が死亡率予測の鍵に!高齢者19万人の歯科検診データから判明(2025)
歯の健康状態と全死亡リスクの関連を示した大阪公立大学のプレスリリース
https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-21251.html - The State of Your Teeth Could Predict an Early Death, Study Shows (2026)
歯の状態と早期死亡リスクに関する研究を紹介した一般向け記事
https://www.sciencealert.com/the-state-of-your-teeth-could-predict-an-early-death-study-shows - Tooth loss, dental prosthesis use, and cause-specific mortality in older Japanese adults: a 7-year cohort study (2025)
歯の喪失・補綴使用と死因別死亡率との関連を検討した日本のコホート研究
https://www.nature.com/articles/s41598-025-24357-1
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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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