【眼科と歯科】“歯並び”と“お口ぽかん”が“近視”や“見え方”と関係する —— 歯列不正や口唇閉鎖力と視力の意外な繋がり
はじめに
「かみ合わせが悪いと良くない」「口をぽかんと開けていると良くない」といった話を聞いたことがある方は多いと思います。しかし、それが視力と関係しているかもしれない、と聞いたらどう思われるでしょうか?
「お口の状態」と「視力や見え方」について、実際に医学論文のレベルでどこまで分かっているか、一般向けにはあまり整理されていません。
現在までの研究を総合すると、歯列不正(不正咬合)や口唇閉鎖力(口をしっかり閉じる力)と、視力・視機能の間には「まったく無関係とは言えない程度の関連」があるものの、「歯並びや口の筋トレだけで視力が良くなる」とまでは言えない、というのがバランスの取れた結論です。
この記事では、歯列不正・かみ合わせと視力、口唇閉鎖力と視力の研究結果を分かりやすくまとめ、「何が言えて、何はまだ言えないのか」まで整理します。
目次
- 歯列不正・かみ合わせと視力の関連
- 不正咬合と視機能(輻湊・眼位)の変化
- 口唇閉鎖力と視力の直接的な関連
- 口腔機能・歯列不正・視力を統合したイメージ
- 何が言えて、何が言えないのか
- 臨床・保護者向けの実際的な位置づけ
1. 歯列不正・かみ合わせと視力の関連
歯列不正(歯並びやかみ合わせのズレ)と、近視・遠視・乱視・斜視などの視力・視機能の異常は、「同時に見つかりやすい」というデータが複数あります。
ただし、ほとんどがある時点での状態を比較した横断研究で、「歯並びが視力を悪化させた」とまでは言えません。
Angle分類(アングル分類)と屈折異常の比較
歯列不正を分類するときによく使われるのがAngle分類です。
- クラスI:奥歯の関係はほぼ正常だが歯のガタつきなどがある「軽度の不正咬合」
- クラスII:上あご・上の前歯が前に出ている「出っ歯タイプ」
- クラスIII:下あごが前に出ている「受け口タイプ」
代表的な研究を一般向けに整理すると、次のような傾向が報告されています。
| 項目 | クラスI(比較的正常) | クラスII(出っ歯) | クラスIII(受け口) |
|---|---|---|---|
| かみ合わせの特徴 | 奥歯の関係はほぼ正常だが歯のガタつきなどがある | 上あご・上の前歯が前に出ている | 下あごが前に出ている |
| 近視の出現傾向 | 基準として扱われることが多い | クラスIより近視が多いとする報告が複数ある | データは少なく、一定の傾向ははっきりしない |
| 遠視・乱視の出現傾向 | 遠視・乱視が比較的多いとする報告がある | 近視優位で遠視はやや少ない傾向とする報告もある | 症例数が少なく、はっきりした傾向は不明 |
| 両眼視機能(輻湊・眼位など)の傾向 | 大きな異常は少ないとされる | 外斜位(目が外にずれやすい)や輻湊障害が多いとの報告 | 研究が少なく結論は不明 |
この表から読み取れるのは、「クラスII(出っ歯タイプ)の子どもでは、近視や両眼を寄せる機能の弱さが比較的多い」という傾向が一貫して観察されていることです。
2. 不正咬合と視機能(輻湊・眼位)の変化
視力(0.8、1.0といった数値)だけでなく、「両目でどれだけ楽に1つの像として見続けられるか」という視機能も生活の質に大きく影響します。
輻湊(ふくぞう)は、近くのものを見るときに左右の目を内側に寄せる動きです。
輻湊障害があると、「字が二重に見える」「本を読んでいると頭痛や疲れが出る」といった症状につながります。
小児を対象とした研究では、クラスII(出っ歯タイプ)の子どもで外斜位(目が外側に寄りやすい傾向)や輻湊能力の低下が有意に多く、機能性下顎偏位や交叉咬合のある子どもでは輻湊異常が増えると報告されています。
つまり、不正咬合があると、視力そのものだけでなく「目の使い方」にも負担がかかりやすい可能性が示唆されています。
3. 口唇閉鎖力と視力の直接的な関連
日本の小学生を対象とした研究は、「不正咬合を除外しても、口唇閉鎖力と視力に有意な関連がある」と報告しており、非常に示唆的です。
この研究では、日本の公立小学校2校の児童396名(7~12歳)について、
口唇閉鎖力:専用機器を用いて、唇だけで器具を挟み、最大限引っ張ったときの力(N)
視力:学校健診のランドルト環検査(Cの空いている方向を上下左右で読み上げるやつ)
- 高視力群:1.0以上(≥20/20)
- 低視力群:1.0未満(<20/20、眼鏡装用児も含む)
を測定しています。開咬・反対咬合・上顎前突などの典型的な不正咬合がある児童は、口唇閉鎖力が咬合状態に左右されるためあえて除外して解析されています。
主な結果は次の通りです。
- 高視力群は低視力群より口唇閉鎖力が有意に強い(平均 7.8 N vs 7.1 N)
- 性別・年齢・歯の発育段階(Hellmanの歯年齢)を調整しても、口唇閉鎖力が高いほど視力良好(1.0以上)であるオッズ比が1.65(95%信頼区間 1.04–2.64)と、有意な関連が残る
これを言い換えると
- 口をしっかり閉じる力が強い子どもは、弱い子どもに比べて『視力1.0以上である可能性が、およそ1.6倍くらい高かった』という結果です。
- 『たまたまの偶然ではなさそうだ』と言える程度には、統計的にハッキリとした差が出ています。
すなわち、「歯並びに大きな問題がない児童だけを見ても、唇をしっかり閉じる力が強いほど視力が良い傾向がある」と言えます。
この研究では、口輪筋(口のまわりの筋肉)と眼輪筋(まぶたのまわりの筋肉)が表情筋として顔面神経で支配され、筋肉や腱を介して物理的につながっていることから、「口の筋力が目の周囲の筋の働きや眼球の軸長に間接的に影響している可能性」が仮説として示されています。ただし、眼軸長や眼輪筋の機能を直接測定しているわけではなく、仕組みはまだ推測段階です。
4. 口腔機能・歯列不正・視力を統合したイメージ
ここまでのエビデンスをつなげると、現状もっとも妥当なイメージは次のように整理できます。
1つ目のルートは、「口腔機能 → 歯列・顎顔面 → 視力・視機能」という間接的なつながりです。
口唇閉鎖力や舌・頬の筋バランスが乱れると、開咬や上顎前突などの不正咬合が生じやすくなり、その不正咬合を持つ子どもでは、近視・遠視・乱視・斜視・輻湊障害などの視機能異常が有意に多く見つかる、という流れです。
2つ目のルートは、「口唇閉鎖力と視力の直接的な関連」です。
不正咬合をあらかじめ除外しても、口唇閉鎖力が強いほど視力良好な子どもが多いというデータがあり、口輪筋と眼輪筋、そしてそれらを支配する顔面神経を介して、より直接的な関連が存在する可能性が示唆されています。
この二つを合わせると、
- 口の機能は、歯並びと目の使い方の両方に、直接・間接に影響しているかもしれない
という二層構造で理解するのが、現時点でもっともバランスの良い見方と言えます。
5. 何が言えて、何が言えないのか
ここまでの研究を踏まえ、「エビデンスとして言えること」と「まだ言えないこと」を明確に分けておきます。
言えること(一定の根拠があること)
- 不正咬合(特にクラスIIや交叉咬合)のある小児では、近視・遠視・乱視・斜視・輻湊障害などの視機能異常の頻度が高いという報告が複数ある。
- 歯列不正のある小児集団では、正常咬合の子どもと比較して視力低下を伴う割合が高いという疫学データがある。
- 不正咬合を除外した日本の小児においても、口唇閉鎖力が強い子どもほど視力が良好(1.0以上)であるという有意な関連が示されている。
- 口唇閉鎖力や口腔機能は顎顔面の成長・歯列に影響し、その結果として視機能異常と「同時に見つかりやすい」背景の一部になっている可能性がある。
まだ言えないこと(現時点のエビデンスでは断定できないこと)
- 「歯列不正があるから視力が悪くなるのか」「歯列矯正をすれば視力が改善するかどうか」といった、原因・結果のはっきりした因果関係。
- 「口唇閉鎖トレーニングを行えば近視を予防・改善できるかどうか」といった介入の効果。
- 不正咬合や口唇閉鎖力の問題が、眼軸長(目の奥行き)や眼球の形状をどの程度実際に変化させるのか、といった具体的な影響の大きさ。
したがって、歯と目の関係は「全身の一部としてゆるく結びついているが、それだけで視力の良し悪しを説明することはできない」と理解するのが現状では適切です。
6. 臨床・保護者向けの実際的な位置づけ
歯科側では、歯列不正や口唇閉鎖不全のある子どもに対して、
- 「遠くが見えにくい」「字がにじむ・二重に見える」「本を読むと頭痛や疲労が出る」「目の向きが気になる」といった“見え方の困りごと”を問診で確認する。
- 何らかの視力低下・視機能異常が疑われる場合は、歯科と並行して眼科の受診を勧める。
一方で、患者さん・保護者には、
- 歯列矯正や口唇閉鎖力のトレーニングは、「口の健康・かみ合わせ・顔貌・発音・嚥下」を整えることが主目的であること
- 「歯と目は、姿勢や筋肉・神経を通じてゆるやかに影響し合っているかもしれないが、歯の治療だけで視力が劇的に変わるわけではない」こと
を丁寧に説明しておくと、過度な期待や誤解を避けつつ、全身の健康を意識したケアにつなげやすくなります。
参考文献
- Prevalence of Vision Problems in a Hospital-based Pediatric Population with Malocclusion (2013)
不正咬合を有する小児入院患者における視覚異常の有病率
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23756314/ - Correlations between the Visual Apparatus and Dental Occlusion: A Literature Review (2018)
視覚器と歯列咬合の関連:文献レビュー
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6077684/ - Association of Visual Defects and Occlusal Molar Class in Children (2018)
小児における視覚異常と大臼歯咬合クラスの関連
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6036834/ - Relationship between Visual Acuity and Labial Closure Force in Japanese Elementary School Children (2011)
日本人小学生における視力と口唇閉鎖力の関連
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/61/3/61_KJ00007330429/_article/-char/ja#article-overiew-references-wrap - The Relationship between Dental Occlusion and Visual Function: An Updated Review (2025)
歯列咬合と視機能の関連:最新レビュー
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12788702/
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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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