妊娠中〜2歳までの1000日間の砂糖を減らすと、大人の心筋梗塞・脳卒中はどれだけ減るのか?

目次
- どんな研究からわかった話なのか
- 「砂糖配給制」って何?なぜ自然実験になるの?
- Science論文でわかったこと:糖尿病・高血圧のリスク
- BMJ論文でさらにわかったこと:心筋梗塞・脳卒中まで減る
- 2つをつなげると見えてくる一生の流れ
- 妊娠中・乳幼児期にできる具体的な工夫
- 研究の限界と「やりすぎない」ためのポイント
- まとめ:ファースト1000デイズの砂糖との付き合い方
1. どんな研究からわかった話なのか
今回紹介するのは、どちらもイギリスの「砂糖配給制」という歴史的な出来事を利用した、大規模な“自然実験研究”です。
1つは医学誌BMJに掲載された、早期の砂糖制限と心臓病・脳卒中などの心血管疾患の関係を調べた研究です。もう1つはScienceに掲載された、同じ配給制を使って2型糖尿病と高血圧のリスクを調べた研究です。
2つを合わせると、
妊娠中〜2歳までの「最初の1000日」に砂糖が少ない環境だった人は、その後の人生で
- 糖尿病や高血圧になりにくく
- 心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患も少ない
という「一つながりのストーリー」が見えてきます。
2. 「砂糖配給制」って何?なぜ自然実験になるの?
第二次世界大戦中〜戦後のイギリスでは、食料不足のため砂糖やバターなどが国の管理下に置かれ、配給券がないと買えない時期がありました。
この「砂糖配給制」の下では、
- 大人が1日にとれる砂糖の量は今のガイドライン程度以下
- 2歳未満の子どもにはほとんど砂糖が回ってこない
という、かなり強い制限がありました。
やがて1953年9月に砂糖配給制が終了すると、砂糖の消費量は短期間でほぼ倍増しました。
ここで重要なのは、人々が「健康のために砂糖を減らそう」と自分で選んだわけではなく、
- 国の制度として、ある年に生まれた人は砂糖が少ない環境
- 別の年に生まれた人は砂糖が多い環境
になってしまった、という点です。
この「生まれ年による違い」は、
- それ以外の条件(遺伝、国、文化など)は似ているのに
- 早期の砂糖摂取だけが大きく違う
という“自然な比較グループ”を生み出しました。
これを利用して、「早い時期の砂糖の多い/少ない」が、その後の病気リスクにどう影響するかを検証したのが、今回の2つの論文です。
3. Science論文でわかったこと:糖尿病・高血圧のリスク
Scienceに掲載された研究は、1953年9月の砂糖配給制終了という「急な出来事」に注目しました。
- 配給制で砂糖が制限されていた時期に受胎した人
- 配給が終わって砂糖が一気に増えた時期に受胎した人
を比べることで、「早期に砂糖が少なかったこと」の影響を調べています。
この研究からわかったことを簡単にまとめると、
人生の最初の1000日間に砂糖配給制の影響を受けた人は
- 2型糖尿病のリスクが約3分の1減る
- 高血圧のリスクが約5分の1減る
- 糖尿病になったとしても発症が平均で数年遅れる
- 高血圧も同様に発症が遅くなる
という、かなりはっきりした保護効果が見られました。
また、
- 胎児期だけ砂糖制限があった場合でも効果の一部が見られ
- 生後6か月以降まで砂糖制限が続いていると、さらに効果が大きくなる
ことも示されています。
この段階でわかったのは、
「早い時期の砂糖制限 → 将来の糖尿病・高血圧が減る、発症が遅れる」
という、「メタボの入り口」に対する影響です。
4. BMJ論文でさらにわかったこと:心筋梗塞・脳卒中まで減る
今回のBMJ論文は、Science論文よりさらに先、「その後、実際にどんな大きな病気が起こったのか」まで追いかけています。
BMJ論文では、同じように受胎後最初の1000日間に砂糖配給制の影響を受けていたかどうかでグループ分けし、
- 心筋梗塞
- 脳卒中
- 心不全
- 心房細動
- 心血管疾患による死亡
といった「心臓・血管の大きな病気」がどれくらい起こったのかを調べました。
その結果、早期に砂糖が少ない環境だった人たちは、そうでない人たちに比べて、
- 心血管疾患全体:およそ2割程度リスクが低い
- 心筋梗塞:2〜3割程度少ない
- 脳卒中:3割前後少ない
- 心不全・心房細動・心血管死も同じくらい減っている
という、こちらもはっきりした差がみられました。
さらに、病気が発症する時期自体も、平均して数年遅れる傾向が報告されています。
5. 2つをつなげると見えてくる一生の流れ
この2つの研究をつなげると、次のような一生分の流れが見えてきます。
- 妊娠中〜2歳ごろまで、砂糖が少ない環境で育つ
- その結果として:2型糖尿病・高血圧になりにくい。なっても発症が数年遅くなる
- そしてさらに:心筋梗塞や脳卒中、心不全などの大きな心血管疾患も減る。それらの病気が起こる時期も遅くなる
つまり、早期の砂糖制限は「将来の生活習慣病」と「その先にある心臓・血管の大きな病気」の両方に良い影響を与えている可能性が高い、ということになります。
「赤ちゃんの頃の食環境」が、「中年以降の病気の出方」まで静かに形作っている、というイメージです。
6. 妊娠中・乳幼児期にできる具体的な工夫
この結果を、今の生活の中で活かすうえで大切なのは、「極端な糖質制限」ではなく、「砂糖をとりすぎない現実的な工夫」です。
妊娠中にできること
- 清涼飲料水・砂糖入りカフェラテ・甘い炭酸飲料などを「毎日の習慣」にしない
- おやつ・デザートは「少量をゆっくり楽しむ」程度にとどめる
- 甘くない飲み物(水、お茶、無糖の炭酸水など)を基本にする
0〜2歳ごろにできること
- ジュース・スポーツドリンク・甘い乳酸菌飲料などは「基本的にあげない」をベースにする
- おやつは、果物・いも類・おにぎり・野菜スティックなど、砂糖を足さなくてもおいしいものを中心にする
- 「泣いたから甘いお菓子」「がんばったから甘い飲み物」など、甘さとごほうびを結びつけすぎない
「完全に砂糖ゼロ」を目指す必要はありませんが、
- 日常的な飲み物・おやつから“余計な砂糖”を減らす
- 甘いものは「たまにの楽しみ」に位置づける
だけでも、将来の病気リスクを下げられる可能性があります。
7. 研究の限界と「やりすぎない」ためのポイント
大事なのは、「これで全てが説明できる」と思い込まないことです。
- 対象は戦後イギリスで、日本とは食文化も生活環境も違います。
- 配給制では砂糖だけでなく、他の食事パターンも多少変わっていた可能性があります。
- 遺伝や運動、喫煙など、多くの要因も病気リスクに関わります。
つまり、
「砂糖さえ減らせば病気にならない」わけではありませんし、
逆に「砂糖をとったからもう手遅れ」という話でもありません。
この2つの研究が教えてくれるのは、
- 早い時期の食環境は、一生の健康の“土台”として想像以上に大事そう
- その中でも、砂糖のとりすぎを避けることは、かなり有望な対策の一つ
という「方向性」です。
8. まとめ:ファースト1000デイズの砂糖との付き合い方
前回紹介したScience論文では、
- 妊娠中〜2歳までの砂糖を減らすことで、将来の2型糖尿病・高血圧のリスクが下がり、発症も遅れる
ことがわかりました。
今回のBMJ論文では、さらに一歩進んで、
- 心筋梗塞・脳卒中・心不全・心房細動・心血管死といった「大きな心臓病・脳血管の病気」まで減り、発症も遅くなる
ことが示されました。
妊娠中と、子どもが0〜2歳ぐらいまでの「ファースト1000デイズ」は、
- その子の将来の“代謝の体質”
- 心臓・血管の“老化のスピード”
に影響しうる、とても大事な時期です。
だからこそ、
- 甘い飲み物とお菓子を「日常」から「たまの楽しみ」にする
- 家族みんなで、砂糖をとりすぎない食習慣を作る
といった、無理のないレベルから始めてみる価値は十分にあると言えます。
参考文献
- Exposure to sugar rationing in the first 1000 days of life protected against chronic disease (2024)
人生最初の1000日間における砂糖配給制への曝露は慢性疾患からの保護効果を示した
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn5421
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12238948/(オープンアクセス版) - Exposure to sugar rationing in first 1000 days after conception and long term cardiovascular outcomes: natural experiment study (2025)
受胎後最初の1000日間における砂糖配給制への曝露と長期的な心血管アウトカム:自然実験研究
https://www.bmj.com/content/391/bmj-2024-083890 - Less sugar as a baby, fewer heart attacks as an adult (2026)
乳児期の砂糖摂取が少ないと、成人後の心筋梗塞が少ない可能性
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/02/260222092324.htm - Early-life sugar intake affects chronic disease risk (2025)
幼少期の砂糖摂取は慢性疾患リスクに影響する
https://www.nih.gov/news-events/nih-research-matters/early-life-sugar-intake-affects-chronic-disease-risk - Sugar rationing and chronic disease (2024)
砂糖配給制と慢性疾患の関連
https://ijbpe.com/news/47-news/862-sugar-rationing-and-chronic-disease
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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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