妊娠中の食事と授乳期間は子どものIQに影響する?頭囲の成長から読み解く2025年最新研究解説

2025年、デンマークの研究で母親の「妊娠中の食事パターン」と「授乳期間」は、子どもの頭囲の伸び方や知能発達とゆるやかにつながっており、とくに「バランスの良い食事」と「長めの授乳」がプラス、「西洋型の偏った食事」がマイナスに働きうることが示されました。
目次
- この研究はどんな内容?
- どんなお母さんたちを調べたのか
- 妊娠中の「西洋型」と「バランス型」食パターンとは
- 子どもの頭囲と知能はどう測った?
- 主な結果① 妊娠中の食事パターンと子どもの知能
- 主な結果② 頭囲の成長と知能の関係
- 主な結果③ 授乳期間と頭囲の成長
- 「頭囲が仲立ちする」ってどういうこと?
- この研究から言えること・言えないこと
- 日本の妊婦さん・子育て家庭への実践的なヒント
1. この研究はどんな内容?
デンマークの母子コホート(700組)を10歳まで追跡し、「妊娠中の母親の食事パターン」と「授乳期間」が、子どもの頭囲の成長と認知機能(知能検査の成績)にどう関係するかを調べた前向き研究です。
頭囲は「脳の大きさの指標」として、妊娠20週のエコーから10歳まで最大15回測定されました。
2. どんなお母さんたちを調べたのか
対象は「COPSAC2010」というデンマークの出生コホートに参加した母子700組で、2008〜2010年に登録され、そのうち10歳時点までの追跡率は約86%でした。
2歳半で627人、10歳で586人の子どもに認知機能検査が行われ、頭囲は合計9,501回分の測定データが集められています。
3. 妊娠中の「西洋型」と「バランス型」食パターンとは
妊娠24週ごろに行った360項目の食事質問票(FFQ)から、栄養素と食品群の組合せを統計的に解析し、2つの食パターンが抽出されました。
西洋型(Western pattern)
- 動物性脂肪、精製穀類、エナジードリンクなどが多い
- 果物、魚、野菜が少ない
バランス型(Varied pattern)
- 全粒穀物、魚、卵、ナッツなど多様な食品をバランスよく含む
さらに、血液中の代謝物(メタボローム)から「その人がどれくらい西洋型/バランス型の食事か」を客観的に数値化したスコアが作られています。
4. 子どもの頭囲と知能はどう測った?
頭囲
- 妊娠20週の胎児エコーから10歳まで、14回の予定診察と出生後1週を含め最大15回測定。
- 身長・体重・腹囲・性別・月齢などを統計的に調整し、「体格の違いをならした頭囲の成長」として解析しました。
認知機能(知能)
- 2歳半:Bayley-IIIを用いた認知合成スコア(平均100、SD15)。
- 10歳:WISC-IVの一部から推定されたFull-Scale IQ(FSIQ、平均100、SD15)。
さらに、子どもと母親の「知能」「頭囲」に関するポリジェニックスコア(遺伝的素因)を算出し、解析に組み込んでいます。
5. 主な結果① 妊娠中の食事パターンと子どもの知能
1)西洋型の食事パターンと早期の認知発達
- 妊娠中の西洋型パターンが1標準偏差高いと、2歳半の認知スコアは平均で約1.2ポイント低い関連がありました(多変量調整後 β −1.24, 95%CI −2.16〜−0.32)。
- 10歳のIQに対する影響は、単純解析では低い関連が見られましたが、詳細に調整すると統計学的には有意ではなくなりました。
2)バランス型の食事パターンと10歳時のIQ
- 妊娠中のバランス型パターンは2歳半のスコアとは明らかな関連を示しませんでしたが、10歳の推定IQとはプラスの関連がありました。
- バランス型が1標準偏差高いと、10歳のIQは約1.3ポイント高い関連が示されています(β 1.29, 95%CI 0.27〜2.30)。
3)授乳期間と知能
- 授乳期間が長いほど10歳IQが高い傾向は単純解析で見られましたが、所得・学歴などを調整すると有意差は消えています。
「妊娠中に偏った西洋型食を避け、魚・野菜・全粒穀物などを含むバランス型の食パターンをとることが、特に10歳時点の知能にとってプラスに働きうる」と解釈できますが、その差は「統計的に意味のあるが、個々の子どもレベルでは小さい差」です。
6. 主な結果② 頭囲の成長と知能の関係
頭囲の成長パターンと10歳のIQには、次のような関係がありました。
- 頭囲の成長軌道をクラス分けすると
- 「平均的な成長(Reference)」74%
- 「より増加する成長(Increasing)」26%
- 「より増加する」群の子どもは、10歳のIQが平均群より約3〜5ポイント高い関連を示しました(多変量調整後 β 3.40, 95%CI 1.21〜5.60)。
- 頭囲の「伸びの傾き」や「初期の大きさ」も、それぞれ独立して10歳のIQと正の関連を示しました。
一方で、2歳半の認知スコアと頭囲との間には明らかな関連は見られませんでした。
つまり、「頭囲の成長」は、より長い時間軸(10歳くらい)で見たときの知能と関連が強いという結果です。
7. 主な結果③ 授乳期間と頭囲の成長
授乳期間は「頭囲の成長」と独立したプラスの関連を示しました。
- 授乳期間が長いほど、出生後から10歳までの頭囲の成長が大きい傾向がありました(線形混合モデルで交互作用 p<0.0001)。
- 妊娠中の西洋型食パターンは、頭囲の成長と逆方向の関連(成長が小さい)を示しました。
- これらは親の頭囲や子どもの遺伝的スコアを調整しても残っており、「遺伝だけでは説明しきれない栄養環境の影響」が示唆されています。
なお、授乳期間そのものは、最終的な解析では10歳のIQに対する直接効果は有意でなく、「頭囲の成長を通じた間接的なプラス効果」が中心と考えられます。
8. 「頭囲が仲立ちする」ってどういうこと?
この研究では、「妊娠中のバランス型食パターン → 頭囲の成長 → 10歳のIQ」という流れの一部を、統計的な「媒介分析」で検討しています。
- バランス型の食パターンが高いほど、頭囲の成長は大きくなる。
- 頭囲の成長が大きいほど、10歳のIQが高い。
- このルートが、バランス型食パターンとIQの関連の約13.5%を説明している(媒介効果ACME 0.182, p=0.022)。
つまり、妊娠中のバランス良い食事が、子どもの「脳の器」とも言える頭囲の成長を少し押し上げ、その結果としてIQのわずかな上昇につながっている可能性がある、というイメージです。
9. この研究から言えること・言えないこと
言えること(示唆)
- 妊娠中の食生活は、単一の栄養素よりも「全体のパターン」としてみたときに、子どもの脳の発達と関連している可能性がある。
- 西洋型(動物脂肪・精製穀類・甘味飲料が多く、野菜・果物・魚が少ない)パターンは、頭囲の成長をやや抑え、2歳半の認知や10歳IQとマイナス方向に関連していた。
- バランス型パターンは、10歳IQとプラス方向の関連を示し、その一部は頭囲の成長を介している可能性がある。
- 授乳期間が長いほど頭囲の成長は大きくなる傾向があり、脳の成長には良い環境を提供していると考えられる。
言えないこと(限界)
- 観察研究であり、「この食事をとったから必ずIQが上がる/下がる」といった因果関係を断定することはできません。
- 食習慣の違いと同時に、家庭の収入、教育レベル、生活習慣などが複雑に絡み合っており、すべてを完璧に補正することは不可能です。
- デンマークの集団の結果であり、日本を含む他国にそのまま当てはめられるとは限りません。
- IQ差は平均で数ポイントという「小さな差」であり、個々の子どもの将来を決める決定打ではありません。
10. 日本の妊婦さん・子育て家庭への実践的なヒント
日本の妊婦さん・授乳中のお母さんに当てはめるときは、以下のような「方向性」として参考にするとよいと考えられます(個別の病状がある場合は必ず主治医と相談が必要です)。
「西洋型」のとりすぎに注意
- 揚げ物・加工肉・菓子パン・甘い飲料・ジャンクフードを「毎日たくさん」ではなく、「ときどき楽しむ」程度に抑える。
「バランス型」に近づける工夫
- 主食:白米中心でもよいが、可能なら雑穀米や全粒パンを時々取り入れる。
- 主菜:魚(特に青魚)や大豆製品、卵、赤身の肉などをローテーション。
- 副菜:毎食、野菜料理を1〜2品は確保する。
- 間食:甘いお菓子・飲料を減らし、果物・ナッツ(塩分控えめ)なども選択肢に。
授乳期間は「できる範囲」で延ばす
- この研究では平均約8か月程度の授乳が行われており、長いほど頭囲の成長にプラスでしたが、これは「長く授乳しなければいけない」というプレッシャーではありません。
- 仕事復帰や体調、家庭事情なども大切であり、「母子ともに無理のない範囲で続ける」が現実的な目標です。
完璧を目指さず「傾向」を整える
- 1回のジャンクフードや甘い飲み物が子どもの脳をいきなり悪くするわけではありません。
- 「数か月〜十年単位で見たときの全体的なパターン」が重要だと理解し、日々の選択を少しずつ整えるイメージが適切です。
参考文献
- Maternal dietary patterns, breastfeeding duration, and their association with child cognitive function and head circumference growth: A prospective mother–child cohort study (2025)
母親の食生活パターン、授乳期間、および子どもの認知機能と頭囲の成長との関連:前向き母子コホート研究
https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1004454
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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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