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歯が少ない人ほど「もの忘れ」が多い?世界の研究が示す認知症とお口の深い関係

歯周病や歯の喪失は認知症と関係するのでしょうか。最新の研究をもとに、炎症・口腔細菌・咀嚼低下との関係、中年期からの歯科受診の重要性を一般向けにわかりやすく解説します。

目次

  1. 歯が少ない人ほど「もの忘れ」が多い?
  2. 歯周病と認知症がつながる理由
  3. 歯を失うと認知症リスクはどれくらい上がる?
  4. 認知症と口のトラブルは双方向に悪化する
  5. 中年期からの歯科受診が大切な理由
  6. 今日からできるセルフチェック
  7. まとめ
  8. 参考文献

はじめに

「もの忘れが心配」と聞くと、多くの人は脳の病気や年齢のせいを思い浮かべます。ところが近年、歯周病や歯の喪失、歯科受診の習慣までが、認知機能の低下と関係する可能性があることが、世界中の研究で繰り返し報告されています。

特に注目されているのは、歯ぐきの慢性炎症、口の細菌、噛む力の低下、食生活の変化が、脳の老化や認知症リスクに関わるかもしれないという点です。しかもこの関係は一方通行ではなく、認知機能が落ちることで口の中の状態も悪化しやすくなる「双方向性」があると考えられています。

この記事では、「なぜ歯周病や歯の喪失が脳に影響しうるのか」「中年期からの歯科受診がなぜ大事なのか」を、一般の方向けにできるだけわかりやすく整理します。

1. 歯が少ない人ほど「もの忘れ」が多い?

米国CDC系の査読誌 Preventing Chronic Disease に2025年に掲載された解析では、2022年のBRFSSデータを使い、45歳以上の83,479人を対象に「主観的認知機能低下」と口腔状態の関係が調べられました。主観的認知機能低下とは、「この1年で以前よりもの忘れや混乱が増えた」と本人が感じている状態です。

この研究では、口の健康が悪い人では主観的認知機能低下の加重有病率が13.6%、口の健康が良い人では7.7%でした。また、主観的認知機能低下のある人では、6本以上の歯を失っている割合が22.4%で、主観的認知機能低下のない人の12.1%より高く、過去1年に歯科受診していた割合は57.7%で、認知機能低下のない人の69.3%より低いことが示されました。

さらに45〜64歳の層では、歯を多く失っているほど主観的認知機能低下の頻度が高く、過去1年の歯科受診は有病率比0.77と、主観的認知機能低下の少なさと関連していました。研究デザインは横断研究のため因果関係までは断定できませんが、「歯が少ない」「歯科にかかっていない」という状態が認知機能低下のサインと重なっていることは重要です。

2. 歯周病と認知症がつながる理由

近年の総説では、歯周病や歯の喪失が認知症やアルツハイマー病に関係しうる仕組みとして、大きく3つの経路が想定されています。1つ目は、歯周病菌やその産生物が炎症を通じて全身に広がること、2つ目は慢性炎症が血管や脳の免疫反応に影響すること、3つ目は噛みにくさや歯の喪失によって食事内容や咀嚼刺激が変化することです。

特に Porphyromonas gingivalis などの歯周病関連細菌や、その毒素が脳の炎症や神経変性に関与する可能性が議論されており、口腔マイクロバイオームと神経炎症のつながりは研究の中心テーマになっています。また、慢性の歯周炎はCRPや炎症性サイトカインの上昇と結びつき、こうした全身炎症が脳にも悪影響を及ぼす可能性があります。

ただし、現時点では「歯周病が認知症を直接引き起こす」と言い切れる段階ではありません。2022年の系統的レビューとメタアナリシスでも関連は支持された一方、研究間のばらつきや交絡の影響があり、エビデンス全体の質は高くないと評価されています。

3. 歯を失うと認知症リスクはどれくらい上がる?

2022年の系統的レビューとメタアナリシスでは、歯周病の悪化、歯の喪失、深い歯周ポケット、歯槽骨吸収などを含む「不良な歯周健康」が、認知機能低下と認知症の両方に関連していました。統合解析では、不良な歯周健康は認知機能低下とオッズ比1.23、認知症とハザード比1.21で関連し、歯の喪失だけを取り出しても認知機能低下オッズ比1.23、認知症ハザード比1.13でした。

同レビューでは、部分的な歯の喪失は認知機能低下と、完全な無歯顎は認知症と、より強く関係していました。つまり「まだ少し歯が残っている段階」でも油断できず、歯を失う過程そのものがリスクと重なっている可能性があります。

米国のHealth and Retirement Studyを用いた研究でも、無歯顎と不規則な歯科受診は、その後の認知機能低下の重要な予測因子とされました。歯を残すことと、歯科受診を続けることの両方が大切だと考えられます。

4. 認知症と口のトラブルは双方向に悪化する

最近のレビューでは、口の健康とアルツハイマー病の関係は「双方向性」が重要だとされています。つまり、歯周病や歯の喪失が認知機能に悪影響を及ぼす可能性がある一方で、認知症が進行するとセルフケア能力が落ち、歯磨き不足、受診中断、義歯管理不良などによって口の中の状態も悪化しやすくなります。

実際、地域在住高齢者を対象にした古典的研究でも、認知機能が低い人ほど歯科受診頻度が下がりやすく、その背景には口腔状態の悪化が関わることが示されていました。つまり「脳の衰えが口を悪くする」「口の悪化がさらに脳に悪い影響を与える」という悪循環が起こりうるわけです。

このため、認知症の予防や管理では、歯科は後回しにすべき領域ではありません。2025年の総説でも、口の健康はアルツハイマー病の予防と管理の両面で意味を持ち、神経内科と歯科の連携が必要だとまとめられています。

5. 中年期からの歯科受診が大切な理由

認知症は、症状がはっきり出る何年も前から、血管障害、慢性炎症、生活習慣、社会的要因が積み重なって発症すると考えられています。そのため、45〜64歳の中年期の段階で、歯の本数や歯周病、歯科受診習慣が主観的認知機能低下と関連していたというCDCの結果は、とても実践的です。

「歯ぐきから血が出る」「歯を失ったままにしている」「何年も歯科に行っていない」といった状態は、単に口の問題ではなく、将来の全身リスクを示すサインかもしれません。特に糖尿病、喫煙、心血管疾患などは歯周病と認知症の両方に関わるため、歯科受診は生活習慣を見直す入り口にもなります。

定期的な歯科受診そのものが認知症を予防すると断言することはまだできませんが、歯科を受診している人で主観的認知機能低下が少なかったこと、長期研究で歯科サービス利用が認知機能の経過と関連していたことから、中年期から受診習慣を作る意義は大きいと考えられます。

6. 今日からできるセルフチェック

次のような項目に当てはまる場合は、一度歯科で相談する価値があります。

  • 歯ぐきから血が出る
  • 口臭が気になる
  • 歯がぐらつく
  • 奥歯で噛みにくい
  • 失った歯をそのままにしている
  • 1年以上歯科を受診していない
  • 最近、もの忘れや集中しづらさが気になる

これらがあるからといって認知症だという意味ではありません。ただ、口のトラブルと認知機能低下は重なりやすいため、早めに口の状態を整えることには十分な意味があります。特に歯周病は初期には痛みが少なく、気づかないまま進みやすい病気です。

日常生活では、歯磨きに加えてフロスや歯間ブラシを使うこと、禁煙を意識すること、噛みやすいものばかりに偏らず栄養バランスを保つこと、そして症状がなくても年1回以上は歯科でチェックを受けることが大切です。こうした基本的な習慣は、口の健康だけでなく、将来の脳の健康にもつながる可能性があります。

7. まとめ

最近の研究からは、歯周病や歯の喪失、歯科受診の中断が、認知機能低下や認知症と関係する可能性がかなり一貫して示されています。特に米国の大規模データでは、歯を多く失っている人ほど主観的認知機能低下が多く、年1回以上歯科を受診している人ではその頻度が低いことが確認されました。

また、系統的レビューでは、不良な歯周健康と歯の喪失が認知機能低下や認知症と関連しており、最近の総説では、炎症、口腔細菌、咀嚼低下、セルフケア悪化を介した「双方向性」が強調されています。

認知症予防は、脳だけを見る時代から、口も含めて全身をみる時代へ移りつつあります。歯科に行くことは、歯を守るためだけではなく、将来の自分の生活の質を守るための一歩かもしれません。

船橋市で歯周病や歯が抜けて噛みにくいなどでお困りでしたらぜひ一度、かわせみデンタルクリニックまでご相談ください。

参考文献

  1. The Impact of Oral Health and Dental Services on the Prevalence of Subjective Cognitive Decline Among Middle-Aged and Older US Adults: Behavioral Risk Factor Surveillance System, 2022 (2025)
    中高年および高齢の米国成人における主観的認知機能低下の有病率に対する口腔健康と歯科サービス利用の影響:2022年BRFSS解析
    https://www.cdc.gov/pcd/issues/2025/25_0083.htm
  2. Periodontal health, cognitive decline, and dementia: A systematic review and meta-analysis of longitudinal studies (2022)
    歯周健康、認知機能低下、認知症:縦断研究の系統的レビューとメタアナリシス
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9826143/
  3. Alzheimer’s Disease and Oral Health from Clinical Challenges to Therapeutic Frontiers (2025)
    アルツハイマー病と口腔健康:臨床的課題から治療の最前線まで
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12524612/
  4. Edentulism Predicts Cognitive Decline in the US Health and Retirement Cohort Study (2023)
    米国Health and Retirementコホート研究において無歯顎は認知機能低下を予測する
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10399082/
  5. The Role of Dental Care Service Utilization in Cognitive Functioning Trajectories among Older Adults (2019)
    高齢者の認知機能の推移における歯科サービス利用の役割
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10676023/
  6. Oral health care for patients with Alzheimer’s disease: An update (2021)
    アルツハイマー病患者の口腔健康管理:アップデート
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/scd.12375

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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づいた正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けしています。


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