お口の中の“菌”が、物忘れに関係する? 最新研究が示す“口‐脳軸”とは
口の中の細菌バランスは、脳の健康にも関係するのでしょうか。2025年の最新研究をもとに、口腔マイクロバイオームと認知機能の関係、歯磨き・フロス・食生活の大切さを一般向けにわかりやすく解説します。
目次
- 口の中の“菌”と脳がつながるって本当?
- 2025年の新研究でわかったこと
- 何が「良い菌」「悪い菌」なのか
- 注目される“口‐脳軸”とは
- 歯周病菌だけが問題ではない
- 毎日のケアで菌のバランスは変えられる?
- こんな人は一度チェックを
- まとめ
- 参考文献
はじめに
「腸活」はよく聞くようになりましたが、最近はその一歩手前にある「口の中の菌」も注目されています。口の中には何百種類もの細菌が住んでいて、その集まりを口腔マイクロバイオームと呼びます。
この口腔マイクロバイオームは、むし歯や歯周病だけでなく、全身の炎症や血管の状態、さらには脳の健康にも関係するかもしれないと考えられるようになってきました。特に2025年には、高齢者の口の中の菌の構成と認知機能スコアの関連を示した研究が発表され、「口‐脳軸」という考え方がさらに注目されました。
この記事では、難しい専門用語はできるだけ避けながら、「口の中の菌と物忘れがなぜ関係しうるのか」「毎日の歯磨きや食生活がなぜ大切なのか」を整理していきます。
1. 口の中の“菌”と脳がつながるって本当?
2025年に npj Dementia に掲載された研究では、MIND試験に参加した高齢者143人の口腔マイクロバイオームと認知機能が調べられました。この研究では、唾液、舌、頬の粘膜という異なる場所ごとに細菌の構成を調べ、記憶や注意、実行機能などをまとめた認知機能スコアとの関係を分析しています。
その結果、口の中の細菌の種類やバランス、いわゆる多様性や構成の違いが認知機能と関連していました。特に、Gemella が少なく、Parvimonas、Treponema、Dialister などの嫌気性で炎症と関わりやすい菌が多い人ほど、認知機能スコアが低い傾向がみられました。
一方で、これまでアルツハイマー病との関連がよく話題になってきた Porphyromonas は、この研究では認知機能との有意な関連がみられませんでした。つまり、「この菌がいれば悪い」と単純に決まるのではなく、口の中全体のバランスを見ることが大切だということです。
2. 2025年の新研究でわかったこと
この研究が興味深いのは、「悪い菌が多いかどうか」だけではなく、口の中のどこに、どんな菌の組み合わせがいるかまでみている点です。唾液、舌、頬ではもともと細菌の住み方が違いますが、その“すみ分け”の違いそのものが認知機能と関係していました。
研究チームは、口腔マイクロバイオームが高齢者の認知機能のバイオマーカー、つまり状態を映す手がかりになる可能性があると述べています。ただし、この研究は横断研究なので、「菌の変化が先で、認知機能低下が後」とまでは証明できません。現時点では、関係があることを示した段階と理解するのが大切です。
別の2024年のNHANES解析でも、60〜69歳の米国成人605人で、口腔マイクロバイオームのα多様性が高い人ほどDSSTという認知機能テストの成績がよく、主観的な記憶低下も少ないことが示されました。こちらの結果も、「口の中の菌のバランス」が認知機能と関係するという流れを後押ししています。
3. 何が「良い菌」「悪い菌」なのか
一般向けの記事では「悪玉菌」「善玉菌」と言いたくなりますが、実際の口腔マイクロバイオームはそんなに単純ではありません。ある菌が多いことが良い場面もあれば、別の環境では問題になることもあります。
たとえば2025年の研究では、Gemella が少ないことや、Parvimonas、Treponema、Dialister などが多いことが低い認知機能スコアと関係していました。一方、別の研究では Neisseria が多い人ほど、実行機能や注意、ワーキングメモリが良い傾向も示されています。
大切なのは、「悪い菌をゼロにする」ことより、炎症に傾きにくい、安定した口内環境を保つことです。歯周病や乾燥、喫煙、偏った食事、清掃不足などが重なると、菌のバランスが崩れやすくなります。つまり問題は、単独の菌というよりも、菌が住みやすい環境がどうなっているかです。
4. 注目される“口‐脳軸”とは
「口‐脳軸」とは、口の中の環境が、炎症や代謝、神経免疫反応などを通じて脳に影響しうるという考え方です。2025年のレビューでは、口腔マイクロバイオームの乱れが、口から直接脳へ影響する経路だけでなく、腸内環境や全身炎症を介して脳に波及する口‐腸‐脳軸としても説明されています。
考えられている主な経路は3つあります。
- 歯周病菌やその成分が血流に入り、全身炎症を高める
- 口の中の菌の乱れが腸内細菌にも影響し、炎症や代謝物を通じて脳に作用する
- 口の細菌バランスの変化が、血管機能や一酸化窒素の産生に関わり、脳の血流や神経機能に影響する
まだ仮説段階の部分もありますが、「口は消化管の入り口」であり、体の他の臓器から切り離して考えない方がよいという方向性は、かなりはっきりしてきました。
5. 歯周病菌だけが問題ではない
これまで「口の菌と脳」と聞くと、Porphyromonas gingivalis のような歯周病菌が中心に語られることが多くありました。もちろんそれは重要ですが、2025年のMIND試験ベースの研究では、Porphyromonas は認知機能との有意な関連を示しませんでした。
この結果は、「今後はもっと全体像を見る必要がある」というメッセージでもあります。つまり、歯周病菌ひとつだけを悪者にするのではなく、複数の菌の組み合わせ、多様性、住んでいる場所、炎症の起こりやすさなど、口腔生態系全体で理解することが重要になってきています。
この考え方は、一般の人にとっても分かりやすいはずです。口の中は“除菌して無菌にする場所”ではなく、“バランスを整える場所”だと考える方が、現実に近いのです。
6. 毎日のケアで菌のバランスは変えられる?
結論から言えば、完全に思い通りにコントロールできるわけではありませんが、日々の習慣で口腔マイクロバイオームに影響を与えることは十分可能と考えられています。2024年のNHANES研究でも、口腔マイクロバイオームは口腔衛生、喫煙、食事などで変化しうる“修正可能な要因”だと述べられています。
一般の方がまず意識したいポイントは次のとおりです。
- 歯ブラシだけでなく、フロスや歯間ブラシで歯と歯の間の汚れを落とす
- 歯ぐきの出血を放置しない
- 甘い飲み物やだらだら食べを減らす
- 野菜、豆類、魚、全粒穀物などを含む、炎症を起こしにくい食事を意識する
- 喫煙している場合は禁煙を考える
- 口が乾きやすい人は、こまめな水分摂取や受診相談を行う
特に食生活は重要です。2025年には、炎症を起こしやすい食事パターンが認知機能低下と関連し、その関係が歯周病や胃の炎症のある人でより強いことも報告されました。口の中の菌は、毎日の食べ方の影響も強く受けています。
7. こんな人は一度チェックを
次のようなことがある人は、口腔マイクロバイオームの乱れや歯周病が背景にある可能性があります。
- 歯ぐきから血が出る
- 口臭が気になる
- 口が乾きやすい
- 舌がいつも白っぽい
- 物忘れが増えた気がする
- 奥歯でしっかり噛みにくい
- 何年も定期的な歯科受診をしていない
もちろん、これだけで脳の病気を意味するわけではありません。ただ、口の中の炎症や菌のバランスの乱れは、むし歯や歯周病の予防だけでなく、将来の全身の健康を考えるうえでも見直す価値があります。
8. まとめ
2025年のMIND試験由来の研究では、高齢者の口腔マイクロバイオームの構成が認知機能スコアと関連し、炎症に傾きやすい菌の多さと低い認知機能が結びつく可能性が示されました。一方で、特定の菌だけで単純に説明できるわけではなく、口の中全体のバランスを見ることの重要性も示されています。
また、2024年のNHANES解析や2025年のレビューからは、口腔マイクロバイオームの多様性や乱れが、認知機能や主観的記憶低下、さらには口‐腸‐脳軸を通じた炎症の問題とつながる可能性が見えてきました。
「物忘れ予防」というと脳トレばかりに目が向きがちですが、口の中の環境を整えることも、これからの予防の一部になるかもしれません。毎日の歯磨き、フロス、食生活、そして歯科受診は、歯のためだけでなく、将来の脳の健康を守る土台にもなりうるのです。
船橋市で歯周病や歯が抜けて噛みにくいなどでお困りでしたらぜひ一度、かわせみデンタルクリニックまでご相談ください。
参考文献
- Oral microbiome and nitric oxide biomarkers in older people with mild cognitive impairment and APOE4 genotype (2025)
軽度認知障害とAPOE4遺伝子をもつ高齢者における口腔マイクロバイオームと一酸化窒素バイオマーカー
https://researchportal.vub.be/en/publications/oral-microbiome-and-nitric-oxide-biomarkers-in-older-people-with-mild-cognitive-impairment-and-apoe4-genotype - Oral microbiome brain axis and cognitive performance in older adults (2025)
高齢者における口腔マイクロバイオーム・脳軸と認知機能
https://www.nature.com/articles/s44400-025-00004-4 - Association of the oral microbiome with cognitive function among older adults: NHANES 2011–2012 (2024)
高齢者における口腔マイクロバイオームと認知機能の関連:NHANES 2011–2012
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12878625/ - The Oral–Gut Microbiome–Brain Axis in Cognition (2025)
認知における口腔‐腸内マイクロバイオーム‐脳軸
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12029813/ - Longitudinal Association of Inflammatory Diets on Cognition in Older Adults: Insights from the Oral–Gut–Brain Axis (2025)
高齢者における炎症性食事と認知機能の縦断的関連:口‐腸‐脳軸からの知見
https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.19599
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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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