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「野菜を食べると歯周病予防になる?」閉経後女性1,175人の研究による食事と口腔細菌の関係

野菜や魚介・植物性たんぱく質を多く摂る人の口腔内では、歯周病を招く菌や心臓に影響する菌が少ないことが最新研究で示されました。さらに歯周病の菌が骨密度まで下げる可能性も。「閉経後の女性こそ食事で口を守る」理由を歯科医師がわかりやすく解説します。

目次

  1. はじめに:「何を食べるか」が口の中の菌を変えるかもしれない
  2. この研究の概要:1,175人の閉経後女性で何がわかったか
  3. なぜ「閉経後女性」が研究対象になったのか
  4. 「食事の質スコア(HEI-2020)」とは何か
  5. 食事の質が高いと、口腔内の”困った菌”が減った
  6. 多様な口腔マイクロバイオームが守るもの
  7. 驚きの新事実:歯周病菌が骨密度まで下げる?口腸骨連関という概念
  8. 砂糖と乳製品:多いと口腔マイクロバイオームの多様性が低下
  9. この研究の限界と「因果関係」について正直に整理する
  10. 食事×口腔ケアの実践:今日からできること
  11. まとめ:「食べること」は歯ぐきと骨を守る日常の習慣

1. はじめに:「何を食べるか」が口の中の菌を変えるかもしれない

「砂糖を食べすぎると虫歯になる」は多くの人が知っています。しかし最近の研究が示しているのは、もっと広い話です。毎日の食事の内容が、口の中の細菌の”バランス”そのものを変える可能性があるということです。

「口腔マイクロバイオーム(口腔内細菌叢)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。口の中には1,000種類以上もの細菌が生息しており1、その集まりが私たちの歯ぐきの健康だけでなく、全身の疾患リスクにも関わっていることが、近年の研究で次々と明らかになっています1,2

そして2025年、アメリカのバッファロー大学の研究グループが、「閉経後の女性1,175人の食事の質と口腔マイクロバイオームの関係」を調べた初めての本格的な研究を、権威ある栄養学誌『Journal of Nutrition』に発表しました3。この記事では、その研究内容を軸に、「食べ物が口の中の菌にどう影響するのか」を、歯科医師の視点からわかりやすくお伝えします。

2. この研究の概要:1,175人の閉経後女性で何がわかったか

この研究は、「バッファロー骨粗鬆症と歯周病(OsteoPerio)研究」のデータを用いた横断研究です3,4

研究の特徴と方法

  • 対象者:閉経後の女性1,175人(平均年齢67歳)
  • 食事評価:アメリカ食事指針への準拠度を数値化した「健康的食事指数 2020(Healthy Eating Index-2020、HEI-2020)」を用いて、各参加者の食事の質をスコア化
  • 口腔細菌の調べ方:歯ぐきの溝の中(歯肉縁下)のプラーク(歯垢)から細菌DNAを採取し、16S rRNA遺伝子解析という高精度な手法で口腔マイクロバイオームを分析3,5

特に注目すべき点は、「唾液中の細菌」ではなく「歯肉縁下のプラーク」を対象にしたことです。歯周病に直接関わる細菌は、主にこの歯ぐきの溝の深いところに住んでいるため、歯周病リスクをより正確に評価できる方法です5

3. なぜ「閉経後女性」が研究対象になったのか

閉経後の女性は、歯周病のリスクが特に高いグループです6,7。その主な理由はホルモン変化です。

閉経によって女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少すると、次のような変化が起こります6

  • 歯ぐきの血流が悪化し、炎症が起こりやすくなる
  • 歯を支える骨(歯槽骨)が弱くなり、骨粗鬆症のリスクも高まる
  • 免疫反応が変化し、歯周病菌に対する抵抗力が下がる

また、70歳以上で重度の骨粗鬆症がある女性では、同年代の健康な女性に比べて約3倍の頻度で全歯喪失が起こるとの報告もあります8。歯周病と骨粗鬆症が同時に悪化しやすいこのグループを対象に、「食事の質が口腔マイクロバイオームを保護できるか」を調べることは、非常に重要な意義を持ちます。

4. 「食事の質スコア(HEI-2020)」とは何か

HEI-2020(Healthy Eating Index 2020)とは、アメリカ農務省(USDA)と保健福祉省(HHS)が定めた「アメリカ食事指針2020-2025」への準拠度を0〜100点で数値化した指標です3,9

このスコアは13の項目(コンポーネント)から成り立っています。

  • 野菜の摂取量(特に緑黄色野菜)
  • 果物の摂取量
  • 全粒穀物の摂取量
  • 乳製品の摂取量
  • たんぱく質食品の摂取量(特に魚介・植物性たんぱく質)
  • 精製穀物・ナトリウム・添加糖・飽和脂肪酸の摂取量(少ないほど高スコア)

スコアが高いほど「食事の質が高い」(野菜・魚・豆類を多く摂り、砂糖や飽和脂肪を控えている)ことを意味します。この研究では、1,175人の参加者それぞれの食事のアンケート結果をHEIスコアに換算し、口腔内の細菌叢と比較しました3

5. 食事の質が高いと、口腔内の”困った菌”が減った

研究の結果、HEIスコアが高い(食事の質が高い)女性ほど、口腔内のある種の”困った菌”の割合が少ないことが示されました(偽発見率・FDR補正済み)3,9

具体的に減少が確認された細菌は次の通りです。

Streptococcus gordonii(ストレプトコッカス・ゴルドニー)
一定の条件下では歯ぐきに侵入しやすく、歯周病を進展させる可能性があるとされる細菌です9

Cardiobacterium valvarum・Cardiobacterium hominis(カルジオバクテリウム属)
口腔内に常在する細菌の一種ですが、血流に入り込んだ場合に、心臓の弁の感染症(感染性心内膜炎)の原因となることが知られています10,11,12。稀ではありますが、特に心臓弁膜症や人工弁を持つ方には注意が必要な菌です。

一方、食事の質が高い女性では Selenomonas 属の一部が増加していることも確認されました。Selenomonas 属は口腔内に多様に存在し、一部は健康な歯周組織とも関連しています3

また、個々の食事コンポーネントでは、魚介・植物性たんぱく質、総たんぱく質の摂取が多いと口腔マイクロバイオームの多様性が高く乳製品や添加糖の摂取が多いと多様性が低いことも明らかになりました9,3

6. 多様な口腔マイクロバイオームが守るもの

「多様性が高い」というのは、どういう意味でしょうか。

口腔内のマイクロバイオームは、多くの種類の細菌が共存しているほど安定しやすいと言われています。逆に、特定の有害な菌ばかりが増えた状態(ディスバイオーシス)になると、歯周病・虫歯・口臭などのリスクが高まります5,2

腸内細菌叢でよく言われる「多様性が高い腸は健康」というのと、考え方は同じです。口腔も腸も、多様な細菌がバランスよく共存している状態が「健康な環境」なのです。

野菜や魚介・植物性たんぱくを多く摂ることが、口腔内の多様性を保ちやすくする可能性があります。繊維質の豊富な食物が口腔内環境のpHや栄養状態を整え、特定の病原菌が優位になりにくくする可能性があると考えられています9,5。ただし、食事の構成成分がそれぞれ異なるメカニズムで働いており、「これだけ食べれば大丈夫」という単純な話ではないことを研究者たちも強調しています9

7. 驚きの新事実:歯周病菌が骨密度まで下げる?口腸骨連関という概念

今回のバッファロー大学の研究と合わせてお伝えしたいのが、2026年1月に世界的な口腔科学誌『International Journal of Oral Science』に発表された重要な研究です13,14

南京大学(中国)の研究グループは、歯周病患者の唾液細菌叢を「卵巣摘出マウス(閉経後骨粗鬆症の標準的な動物モデル)」に移植するという実験を行いました。その結果が衝撃的でした14

  • 歯周病患者の唾液細菌を投与されたマウスは、健常者の唾液細菌を投与されたマウスに比べて、骨密度が有意に低下し、骨の微細構造が悪化した
  • この骨への影響は腸内細菌叢を経由して引き起こされた(歯周病菌が直接骨に届いたわけではなく、腸内環境を乱すことで間接的に骨代謝に影響した)
  • 歯周病関連唾液細菌は、腸内でのトリプトファン代謝を抑制し、骨吸収を促進する「破骨細胞」の活性化をもたらした
  • トリプトファンの代謝産物「インドール-3-乳酸(ILA)」を口から補充すると、骨密度低下が改善した13,14

さらに、腸内細菌を移植するだけで(口腔細菌なしで)同じ骨損失を再現できたことで、「口腔→腸→骨」という連鎖が確認されました14。これは「口腸骨(oral-gut-bone)軸」とでも呼べる新しい概念を示すものです。

閉経後に骨粗鬆症リスクが高くなる女性にとって、歯周病は「歯だけの問題」ではない可能性を示唆する、非常に重要な知見です。ただし、これは動物実験の結果であり、ヒトでの直接的な因果関係を証明したものではないこと、さらなる臨床研究が必要であることを申し添えます14

8. 砂糖と乳製品:多いと口腔マイクロバイオームの多様性が低下

先ほど触れた「砂糖や乳製品が多いと口腔マイクロバイオームの多様性が低下する」という結果について、もう少し詳しく見ておきましょう。

添加糖(砂糖・果糖ブドウ糖液糖など)の摂取が多い場合
口腔内では、糖を栄養源として増殖しやすい細菌が優位になります。糖質を分解する際に酸が産生され、その酸がむし歯や歯ぐきへのダメージにつながります。バッファロー大学の先行研究(2022年)でも、炭水化物や砂糖摂取と歯肉縁下の Streptococcus mutans(むし歯の原因菌)および Leptotrichia(歯肉炎と関連する菌)の増加に関連が見られています5

乳製品摂取が多い場合に多様性が低下という今回の結果は、一見意外に思えるかもしれません。研究者は「乳製品のすべてが悪いのではなく、HEI-2020のスコアリング上では乳製品そのものの量が評価されており、個別の成分(チーズ・ヨーグルト・牛乳など)によって異なる可能性があること」「口腔マイクロバイオームへの影響は複雑であり、単一の食品カテゴリーの影響を単純に解釈することは難しい」と慎重なコメントをしています9

9. この研究の限界と「因果関係」について正直に整理する

この研究を正しく理解するために、研究の限界についても正直にお伝えします。

横断研究であること
今回の研究は「ある時点での食事と口腔細菌の状態を同時に調べた」もの(横断研究)です。「食事を変えたら口腔マイクロバイオームが変わった」という因果関係を直接証明するものではありません9,3。相関関係の確認にとどまっており、今後の長期追跡研究が必要です。

対象が閉経後女性に限定されている
1,175人と規模は大きいですが、参加者は閉経後の北米の女性に限定されており、日本人の若い世代や男性に同じ結果が当てはまるとは限りません9

HEI-2020はアメリカの基準に基づく
日本食や日本の食文化を直接反映したスコアではありません。ただし、「野菜・魚介・植物性たんぱくを増やし、添加糖を減らす」という方向性は、日本の食事指針とも大きく一致する部分があります3

口腔マイクロバイオームに影響する他の要因
食事以外にも、喫煙・口腔衛生習慣・薬剤使用・睡眠・ストレス・遺伝的要因などが口腔マイクロバイオームに影響します。今回の研究ではこれらを調整した解析もおこなっていますが、すべての交絡因子を完全に排除することはできません9

10. 食事×口腔ケアの実践:今日からできること

食事で意識してほしいこと

  • 野菜(特に緑黄色野菜)・きのこ・海藻を日常的に取り入れる:口腔マイクロバイオームの多様性と関連が示唆されています
  • 魚介・大豆・豆腐などの植物性たんぱく質を意識的に摂る:HEIスコアと口腔多様性の関連が確認された項目です3,9
  • 添加糖(清涼飲料水・お菓子・加工食品の砂糖)を控える:むし歯・歯ぐきへの影響は従来から知られており、今回の研究でも口腔細菌への影響が示唆されました5
  • 食事全体をバランスよく整える:単一の食品より「食事の質全体を高める」ことが、複合的に効果をもたらす可能性があります9

口腔ケアとして欠かせないこと

食事の改善は、口腔ケアの補助として考えることが重要です。研究者も「食事の改善は、既存の口腔衛生指導を置き換えるものではなく、補完するものとして位置づけるべき」と述べています9

  • 毎日の丁寧なブラッシングとフロス(歯間清掃):系統的レビューで、日常的なフロス使用が2型糖尿病・高血圧リスクを下げ、心血管疾患による死亡率低下とも関連することが示されています1
  • 定期的な歯科受診とプロフェッショナルクリーニング:歯肉縁下のプラーク(今回の研究が対象にした細菌の住処)は、自宅ケアだけでは完全に除去できません
  • 閉経後の方は特に歯周病検査を受ける:ホルモン変化による歯周病リスクの上昇を、早期に把握することが大切です6,7

11. まとめ:「食べること」は歯ぐきと骨を守る日常の習慣

バッファロー大学の研究は、「食事の質が高い閉経後女性ほど、歯周病を誘発する菌や心臓感染と関わる菌が口腔内で少ない」という、これまで誰も調べていなかった問いへの最初の重要な答えを出しました3,9

さらに2026年の動物実験では、歯周病の口腔内細菌が腸内細菌叢を経由して骨密度を下げる可能性まで示され、「口腸骨軸」という新しいつながりが浮かび上がっています13,14

これらの研究はまだ「観察」や「動物実験」の段階であり、「この食事で歯周病が治る」「骨粗鬆症が防げる」と断言できるものではありません。しかし、「毎日の食事の内容が口腔内の細菌バランスを通じて、歯ぐきや全身の健康に関わりうる」という大きな方向性は、複数の研究で一致してきています。

野菜や魚を多く食べ、砂糖を控え、毎日歯を磨いて定期的に歯科検診を受ける。それは単なる「歯のケア」を超えて、腸・骨・心臓まで守るための日常の投資でもあります。


口腔ケアのこと、食事と歯の健康の関係について詳しく知りたい方は、ぜひかわせみデンタルクリニックにご相談ください。お口の状態を丁寧に確認し、生活習慣も含めた個別のアドバイスをお伝えします。


参考文献

  1. Oral Microbiome and Cardiometabolic Conditions(2025)
    口腔マイクロバイオームと心臓代謝系疾患
    https://www.ifm.org/articles/oral-microbiome-and-cardiometabolic
  2. Oral microbiota in cardiovascular health and disease(2026)
    心臓血管の健康と疾患における口腔マイクロバイオーム
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12808365/
  3. Association Between Healthy Eating Index-2020 and Oral Microbiome Among Postmenopausal Women(2025)
    閉経後女性における健康的食事指数-2020と口腔マイクロバイオームの関連
    https://doi.org/10.1016/j.tjnut.2024.08.023
  4. Oral Microbiome and Periodontitis Prospective Study in Postmenopausal Women — University at Buffalo(2017)
    閉経後女性を対象とした口腔マイクロバイオームと歯周炎前向きコホート研究
    https://publichealth.buffalo.edu/epidemiology-and-environmental-health/research-and-facilities/funded-research/womens-health/oral-microbiome-periodontitis.html
  5. Research Explores How Dietary Choices Affect the Oral Microbiome in Postmenopausal Women(Today’s RDH, 2024)
    食事の選択が閉経後女性の口腔マイクロバイオームに与える影響を探る研究(先行研究の解説、2022年論文ベース)
    https://www.todaysrdh.com/research-explores-how-dietary-choices-affect-the-oral-microbiome-in-postmenopausal-women/
  6. Oral Manifestations in Menopause — A Scoping Review(2025)
    閉経期における口腔症状:スコーピングレビュー
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12113011/
  7. 閉経後女性は歯周病リスクが高い、ホルモン変化が影響(CareNet)
    https://academia.carenet.com/share/news/4ea17a2b-3dcd-4b02-ad15-7224ce6f17d6
  8. Oral microbiome, periodontal disease and systemic bone-related conditions — review(ScienceDirect)
    口腔マイクロバイオーム・歯周病と全身の骨関連疾患
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S209012322400362X
  9. Study examines how diet quality impacts oral microbiome — University at Buffalo News(2025)
    食事の質が口腔マイクロバイオームに与える影響を調べた研究(バッファロー大学プレスリリース・詳細解説)
    https://www.buffalo.edu/news/news-releases.host.html/content/shared/university/news/ub-reporter-articles/stories/2025/04/diet-quality-oral-microbiome.html
  10. Prosthetic Valve Endocarditis with Cardiobacterium hominis(2024)
    カルジオバクテリウム・ホミニスによる人工弁心内膜炎
    https://digitalcommons.unmc.edu/gmerj/vol6/iss2/1/
  11. Cardiobacterium hominis and Cardiobacterium valvarum: Two Case Reports(2016)
    カルジオバクテリウム属による感染性心内膜炎の2症例
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5204057/
  12. Endocarditis Caused by Cardiobacterium valvarum(2006)
    カルジオバクテリウム・バルバルムによる心内膜炎
    https://journals.asm.org/doi/10.1128/jcm.44.2.657-658.2006
  13. Periodontal bacteria trigger bone density reduction via the gut(News-Medical.net, 2026)
    歯周病菌が腸を介して骨密度低下を引き起こす(プレスリリース)
    https://www.news-medical.net/news/20260304/Periodontal-bacteria-trigger-bone-density-reduction-via-the-gut.aspx
  14. Periodontitis-associated salivary microbiota exacerbates systemic osteoclastogenesis via gut modulation and tryptophan metabolism suppression in ovariectomized mice(2026)
    歯周炎関連唾液微生物叢は腸内調節とトリプトファン代謝抑制を介して卵巣摘出マウスの全身的破骨細胞形成を悪化させる
    https://doi.org/10.1038/s41368-025-00415-2


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当院は、初診時にしっかりと検査を行い、歯周病虫歯根管治療から矯正歯科・小児矯正まで、丁寧にご説明のうえで治療を進めています。
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