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バンコク宣言「口腔の健康なくして健康なし」を経て国連がついに「口の健康」を正式に位置づけ

2025年の国連NCD・メンタルヘルス政治宣言で、口腔の健康が初めて明確に位置づけられました。なぜ今「歯」や「口」が国連レベルで注目されるのか。歯周病・糖尿病・心血管疾患との関係、共通リスク、今後の日本への影響まで歯科医師がわかりやすく解説します。

目次

  1. はじめに:なぜ国連で「口の健康」の話をするのか
  2. そもそもNCDとは何か
  3. 2025年の国連政治宣言で何が変わったのか
  4. なぜ「口腔」が正式に入ったことが大きいのか
  5. 口の病気は、実は世界最大級の慢性疾患だった
  6. 歯周病やむし歯は全身の病気とどうつながるのか
  7. キーワードは「共通リスク因子」
  8. バンコク宣言が果たした役割
  9. この政治宣言で、これから何が起こりうるのか
  10. 日本の歯科医療にとっての意味
  11. まとめ

1. はじめに:なぜ国連で「口の健康」の話をするのか

「歯」や「口の中の病気」は、これまで国際政治の中心テーマとしてはあまり目立たない存在でした。多くの人にとって、むし歯や歯周病は“歯科医院で治す病気”というイメージが強く、心臓病や糖尿病のような“全身の大きな病気”とは別物に見えやすかったからです1,2

ところが2025年、国連のNCD・メンタルヘルス政治宣言で、口腔の健康が明確に位置づけられたことは、その見方が世界レベルで変わりつつあることを意味します3,4。これは単に「歯科も大事ですね」と言われた程度の話ではなく、口の病気を慢性疾患対策や健康政策の本流に組み込む方向が、国際的に強く打ち出されたということです3,4

2. そもそもNCDとは何か

NCDは Noncommunicable Diseases の略で、日本語では「非感染性疾患」や「慢性疾患」と訳されます。代表的なのは、心血管疾患、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患などです1,5

これらは風邪やインフルエンザのように人から人へうつる病気ではなく、生活習慣、環境、社会的要因などが重なって長い時間をかけて進む病気です1,5。そして今、口の病気もこうしたNCDの流れの中で考えるべきだという認識が広がっています1,6

3. 2025年の国連政治宣言で何が変わったのか

WHOは2025年12月、国連総会で採択されたNCD・メンタルヘルス政治宣言について、これまでで最も包括的な宣言の一つだと発表しました3。この宣言では、2030年までの具体的な「ファストトラック目標」として、喫煙者を1億5,000万人減らすこと、高血圧がコントロールされている人を1億5,000万人増やすこと、メンタルヘルスケアにアクセスできる人を1億5,000万人増やすことが掲げられました3,4

さらに重要なのは、この宣言が従来より広いNCD領域を扱い、口腔、肺、小児がん、肝疾患、腎疾患、希少疾患まで含めたことです3,4。つまり、口の健康は“おまけ”ではなく、国際的な慢性疾患対策の正式なテーマの一つとして扱われる段階に進んだのです3,4

4. なぜ「口腔」が正式に入ったことが大きいのか

一番大きい意味は、口の病気が全身の健康や社会の課題と切り離せないという認識が、公的な国際文書でさらに明確になったことです3,6。これまでもWHOは2021年の口腔保健決議や、その後の戦略・行動計画で、口腔保健をNCDとユニバーサル・ヘルス・カバレッジの中に位置づける方向を示してきました7,8

今回の政治宣言は、その流れを国連レベルで後押しした形です3,8。政策の世界では、こうした文言の有無が、今後の予算、行動計画、指標づくり、各国の優先順位に影響することがあります3,9。そのため、「口腔が書き込まれた」こと自体に大きな意味があります3,4

5. 口の病気は、実は世界最大級の慢性疾患だった

WHOによると、2019年時点で35億人が何らかの口腔疾患の影響を受けていました2未治療のう蝕は25億人、重度歯周病は10億人、総義歯レベルの歯の喪失は3億5,000万人、口腔がんは38万人に影響しているとされています2

ここで大切なのは、口の病気が「ありふれている」だけでなく、ものを食べる、話す、眠る、働く、学ぶといった日常生活そのものに影響することです2,10。見た目や痛みだけの問題ではなく、栄養、生活の質、社会参加にも関わるため、世界的には大きな健康格差のテーマとして捉えられています2,10

6. 歯周病やむし歯は全身の病気とどうつながるのか

口の病気がNCDと一緒に語られる理由の一つは、全身疾患と共通する背景やつながりがあるからです。WHOやFDIは、口腔疾患が心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患などと共通リスクを持つと強調しています6,11

たとえば、糖分の多い食事、喫煙、アルコール、不十分な保健医療アクセス、社会経済的格差などは、むし歯や歯周病だけでなく、他の慢性疾患にも関係します6,11,12。さらに歯周病と糖尿病の相互関係のように、単に“背景が似ている”だけでなく、病態が影響し合う組み合わせもあります11,13

7. キーワードは「共通リスク因子」

この分野でよく出てくる考え方が、共通リスク因子アプローチです。これは、病気ごとに別々の対策をするのではなく、複数の病気に共通するリスクにまとめて介入しようという考え方です6,11

たとえば、砂糖の摂りすぎを減らすことは、むし歯予防だけでなく、肥満や糖尿病対策にもつながります。禁煙支援は、歯周病や口腔がんだけでなく、心血管疾患やがん、慢性呼吸器疾患の予防にも役立ちます6,11。だからこそ、口腔保健をNCD政策に入れることには、健康政策全体としての効率のよさがあります6

8. バンコク宣言が果たした役割

2024年、WHOはタイ・バンコクで初のグローバル口腔保健会議を開き、その成果として

Bangkok Declaration: No Health Without Oral Health (バンコク宣言:口腔の健康なくして健康なし)

が採択されました9,10。この宣言は、口腔保健をNCD、UHC、環境保健の流れの中にきちんと組み込むべきだと訴え、2025年の国連ハイレベル会合に向けた重要な土台になりました9,10

FDI(世界歯科連盟)やIADR(国際歯科研究学会)も、政治宣言の準備段階で「口腔を外さないように」と強く働きかけていました14,15。実際、2025年の草案段階では口腔の扱いが十分でないことに懸念が示されており、その後の修正を経て最終文書で明確な位置づけが得られた流れがあります14,15

9. この政治宣言で、これから何が起こりうるのか

政治宣言そのものに法律のような直接の強制力はありません。しかし、各国政府や国際機関が「次に何を優先するか」を決めるうえで、大きな方向性を示す意味があります3,16

FDIは2026年の世界口腔保健デーにあたり、この政治宣言で認められた口腔保健の約束を、各国が具体的な政策、財源、予防プログラム、必須サービスへのアクセス改善に結びつけるべきだと呼びかけました16。今後は、NCD対策の中に歯科保健指標を入れる、プライマリ・ケアに口腔保健を組み込む、保健教育や砂糖政策を連動させる、といった動きが進む可能性があります7,8,16

10. 日本の歯科医療にとっての意味

日本でも近年、「口の健康は全身の健康につながる」という考え方は広く共有されつつあります。ただ、国際的な政策文書で口腔がNCD対策の正式な一部として書き込まれたことは、日本の歯科医療にとっても追い風です3,7

たとえば、糖尿病対策、フレイル予防、禁煙支援、食育、学校保健、高齢者ケアなどと歯科をもっとつなげる根拠として使いやすくなります7,8。また、「歯科は口だけを見る分野」ではなく、「全身の健康づくりの入り口でもある」という説明を、国際標準の流れに沿ってしやすくなった点も大きいです3,6

11. まとめ

2025年の国連NCD・メンタルヘルス政治宣言で、口腔の健康が明確に位置づけられたことは、歯科がようやく世界の慢性疾患政策の中心に近づいてきたことを意味します3,4。その背景には、口腔疾患が35億人に影響する大きな健康問題であること、他のNCDと共通リスクを持つこと、そして予防や一次医療の中に組み込む価値が高いことがあります2,6,10

これから大切なのは、「国連で認められた」で終わらせず、実際の予防、受診、保健政策、医科歯科連携にどう落とし込むかです1,6。口の健康を後回しにしないことが、全身の健康を守る近道になるという考え方は、これからますます重要になっていきます3,7

最近しばらく歯科健診を受けていない方は、かわせみデンタルクリニックへご相談ください。お口の状態を整えることは、見た目や痛みの改善だけでなく、将来の全身の健康づくりにもつながります。
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参考文献

  1. Oral health and noncommunicable diseases | FDI
    口腔保健と非感染性疾患
    https://www.fdiworlddental.org/oral-health-and-noncommunicable-diseases
  2. Oral health – World Health Organization (WHO)(2025)
    口腔保健
    https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/oral-health
  3. World leaders adopt a historic global declaration on noncommunicable diseases and mental health(2025)
    世界の首脳が非感染性疾患とメンタルヘルスに関する歴史的な世界宣言を採択
    https://www.who.int/news/item/16-12-2025-world-leaders-adopt-a-historic-global-declaration-on-noncommunicable-diseases-and-mental-health
  4. World leaders show strong support for political declaration on noncommunicable diseases and mental health(2025)
    世界の首脳が非感染性疾患とメンタルヘルス政治宣言への強い支持を表明
    https://www.who.int/news/item/26-09-2025-world-leaders-show-strong-support-for-political-declaration-on-noncommunicable-diseases-and-mental-health
  5. Non-communicable Diseases and Oral Health: An Overview(2021)
    非感染性疾患と口腔保健:概説
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8757764/
  6. Policy Statement on Oral Diseases as Non communicable Diseases within the NCD Agenda(2025)
    NCDアジェンダにおける口腔疾患の位置づけに関する政策声明
    https://www.iadr.org/science-policy/policy-statement-oral-diseases-non-communicable-diseases-within-ncd-agenda
  7. Global strategy and action plan on oral health 2023–2030(2024)
    口腔保健に関するグローバル戦略と行動計画 2023–2030
    https://www.who.int/publications/i/item/9789240090538
  8. Oral health data portal – World Health Organization (WHO)
    WHO口腔保健データポータル
    https://www.who.int/data/gho/data/themes/oral-health-data-portal
  9. Bangkok Declaration – No Health Without Oral Health(2025)
    バンコク宣言:口腔保健なくして健康なし
    https://www.who.int/publications/m/item/bangkok-declaration—no-health-without-oral-health
  10. The first-ever global oral health conference highlights urgent need to address oral diseases(2024)
    初のグローバル口腔保健会議が口腔疾患対策の緊急性を強調
    https://www.who.int/thailand/news/detail/26-11-2024-the-first-ever-global-oral-health-conference
  11. Oral Health Community’s response to the Zero Draft of the 2025 Political Declaration on NCDs and Mental Health(2025)
    2025年NCD・メンタルヘルス政治宣言ゼロドラフトに対する口腔保健コミュニティの提言
    https://www.knowledge-action-portal.com/en/content/oral-health-communitys-response-zero-draft-2025-political-declaration-ncds-and-mental-health
  12. World Oral Health Day 2026: FDI urges governments to turn UN oral health commitments into action(2026)
    世界口腔保健デー2026:FDIが各国政府に国連の口腔保健コミットメントを行動に移すよう要請
    https://finance.yahoo.com/sectors/healthcare/articles/world-oral-health-day-2026-083000181.html


執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づいた正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けしています。


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