歯周病は環境にも影響する?最新LCA研究で見えた数値と予防の重要性を解説
歯周病が進むほど環境負荷が高まる可能性があります。Journal of Dentistry掲載のLCA研究をもとに、院内治療が在宅予防ケアの何倍になるのか、環境負荷の約90%を何が占めるのか、予防の価値を歯科医師がわかりやすく解説します。
目次
1. はじめに
歯周病というと、歯ぐきの腫れや出血、口臭、歯のぐらつきなど、「口の中の病気」というイメージが強いかもしれません。実際、歯周病はプラーク(細菌のかたまり)を主な原因とする感染性・炎症性疾患であり、進行すると歯を支える組織が壊れていく病気です。日本歯周病学会の診療ガイドラインでも、歯周病の主な原因はプラークであり、歯肉炎や歯周炎はプラーク中の細菌による感染症であるという理解が示されています。1
近年は、歯周病が全身の健康に関わるだけでなく、医療資源の使用や環境負荷の面からも注目されるようになってきました。2026年にJournal of Dentistryに掲載されたライフサイクルアセスメント(LCA)研究では、歯周病の進行に伴って環境影響が大きくなり、その主な要因は家庭でのケアではなく、歯科医院での治療介入であることが示されました。平均的な患者では、院内治療による環境影響は家庭での予防ケアより約2〜4倍高く、重症の歯周病では約10倍に達すると報告されています。2
さらにBusiness Wireの紹介では、歯周病の進行過程における環境負荷全体の約90%が臨床での治療介入に由来するとされています。家庭での日常的な口腔ケアでは、水の使用が最大の寄与要因であり、研究の前提条件の範囲内では、手用歯ブラシと電動歯ブラシの間に家庭での総環境影響の意味のある差は認められなかったと報告されています。2,6
2. 歯周病とはどんな病気か
歯周病は、歯と歯ぐきの境目にたまるプラーク中の細菌によって引き起こされる慢性炎症性疾患です。炎症が歯肉だけにとどまる段階が歯肉炎で、さらに進行して歯根膜や歯槽骨まで破壊が及ぶと歯周炎になります。日本歯周病学会のガイドラインでは、歯周治療の基本は原因除去療法であり、その中心がブラッシング、フロッシング、スケーリング、ルートプレーニングなどによるプラークコントロールだと整理されています。1
歯周病の特徴は、初期には痛みが目立ちにくいことです。歯みがき時の出血や口臭、歯ぐきの腫れがあっても受診が遅れやすく、気づいたときには歯周ポケットが深くなり、骨の吸収が進んでいることがあります。病態が進むほど、必要な治療回数や処置内容が増えやすくなるため、早期発見と早期介入が重要です。1,2
近年のGlobal Burden of Disease 2021データを用いた解析では、未治療う蝕、重度の歯周炎、無歯顎など主要な口腔疾患の年齢標準化有病率の合計は、2021年時点で10万人あたり約45,900人と推定され、約36億9,000万人が何らかの口腔疾患を有していると報告されています。その中でも、未治療の永久歯う蝕と重度の歯周炎は特に有病者数が多く、歯周病が世界的にも非常に身近で重要な疾患であることがわかります。3
日本の最新の「令和6年歯科疾患実態調査」では、4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は全体で47.8%でした。年齢階級別では15〜24歳で24.7%、25〜34歳で25.8%、35〜44歳で28.0%、45〜54歳で43.0%、55〜64歳で56.6%、65〜74歳で56.2%、75歳以上で56.5%と報告されており、若年層でも一定割合みられ、高齢になるほど高い水準で推移しています。個別の年齢階級では80〜84歳が61.6%で最も高く、15〜19歳でも21.2%でした。7,8
さらに同調査では、歯肉出血を有する者の割合は全体で42.9%で、80〜84歳では50.3%でした。また、歯をみがくと血が出ると自覚している人の割合は全体で6.3%、60〜64歳では12.8%と報告されています。症状として自覚しやすい出血が、実際の検査所見でも一定頻度で確認されている点は、歯周病が日常の中で見逃されやすい一方、決して珍しくない病気であることを示しています。9
同じ令和6年調査では、8020達成者、すなわち80歳で20本以上の歯を有する人の割合は61.5%でした。前回の令和4年調査では51.6%であったことから、歯を保ったまま高齢期を迎える人は増えています。一方で、4mm以上の歯周ポケット保有者は高齢層で高率にみられるため、「歯を残すこと」と「残した歯を歯周病から守ること」を両立させる視点が、これまで以上に重要になっています。7,8
また、過去1年間に歯科検診(健診)を受診した人の割合は63.8%で、初めて6割を超えました。受診率の上昇は望ましい変化ですが、それでもなお歯周ポケット保有者が多いことを考えると、受診の有無だけでなく、セルフケアの質や継続的なメインテナンスの内容も重要だといえます。7,8
3. LCA研究でわかったこと
2026年のJournal of Dentistry論文では、歯周健康から歯周病までの各段階について、家庭での予防ケアと歯科医院での治療介入をあわせて環境面から評価しています。この研究の目的は、家庭での予防的口腔ケアから歯科治療までを含めて、歯周健康および歯周病の環境影響を定量化することでした。2
評価対象には、手用歯ブラシまたは電動歯ブラシ、歯みがき剤、フロスを用いた日常の在宅ケアと、歯肉が健康な患者から各段階の歯周病患者に対する臨床治療が含まれています。このLCAはISO 14040/14044に準拠し、第三者検証を受けた枠組みで実施されました。また、歯科医院での活動と製品だけでなく、歯科医院への移動も評価対象に含まれています。2,6
結果として、歯周病の重症度が高くなるほど、通院回数、治療介入、院内エネルギー使用の増加に伴って、全体の環境影響も大きくなることが示されました。平均的な患者では、院内治療による環境影響は家庭での予防ケアより約2〜4倍高く、重症例では約10倍高いと報告されています。さらに、結論部分では、歯周病とその管理に関する環境影響を評価するには、在宅ケアと院内治療の両方を含めて考える必要があり、その中で院内治療が主要な排出源であるとまとめられています。2
家庭でのケアに関しては、手用歯ブラシと電動歯ブラシの間で、すべての環境影響カテゴリにおいて統計学的有意差は認められませんでした。これに加えて、家庭での日常的な口腔ケア習慣では、水の使用が最大の寄与要因であったと説明されています。つまり、家庭内の環境負荷を考えるうえでは、歯ブラシの種類だけでなく、ケアのやり方全体を見る必要があるということです。2,6
4. なぜ歯周病で環境負荷が増えるのか
歯周病が進むと、必要な医療介入が増えます。診査、スケーリング、ルートプレーニング、再評価、外科処置、メインテナンスなど、複数回の通院や多くの処置が必要になりやすくなります。環境影響増加の理由として、通院回数、治療内容、院内でのエネルギー使用の増加が挙げられています。2
Business Wireの注記では、この研究の分析対象システムに、患者の家庭で健康な歯ぐきと歯を維持するための活動と製品に加え、歯周健康を維持する、または歯周病を治療するために歯科医院で行われるすべての活動と製品、そして歯科医院への移動まで含まれていたと記載されています。また、エンドポイント正規化を用いて、累積環境負荷の少なくとも80%を占める影響カテゴリーを中心に評価している点も特徴です。3
歯科医療では、器材の使用、滅菌、使い捨て材料、照明や機器の電力、水の使用など、さまざまな資源が必要です。そのため、軽い炎症の段階で抑えられれば少ない介入ですみますが、重症化するとどうしても資源投入が増えやすくなります。LCA研究で院内治療が主要な排出源とされたのは、こうしたケア・パスウェイ全体の負荷を含めて評価した結果と考えられます。2,6
5. 抗菌薬と薬剤耐性の問題
歯周病治療の中心は、あくまで機械的なプラーク除去です。歯ブラシやフロスによるセルフケア、歯科医院でのスケーリングやルートプレーニングが基本であり、抗菌薬は補助的な位置づけです。日本歯周病学会のガイドラインでも、抗菌薬の単独使用は行わず、機械的プラークコントロールとの併用、あるいはその直後の使用を原則としています。乱用、漫然とした使用、長期投与は避けるべきとされています。1
2022年のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、歯周病関連微生物において抗菌薬耐性や耐性遺伝子が報告されており、バイオフィルムが耐性遺伝子のリザーバーになりうることも示されています。2024年のレビューでも、歯周炎患者のマイクロバイオータにおいて、アモキシシリン、クリンダマイシン、メトロニダゾールなどに対する耐性報告がある一方、地域差や研究の異質性が大きく、解釈には慎重さが必要とされています。7,8
歯周病が進行すると、急性症状や難治例で抗菌薬使用が検討される場面もあります。したがって、歯周病の重症化を防ぐことは、LCA研究が示した院内治療由来の環境負荷を減らすだけでなく、必要以上の抗菌薬使用を抑える面でも意義があります。歯周病予防は、環境負荷、医療資源、薬剤耐性という複数の課題に同時に関わるテーマです。1,2,7,8
6. 日常生活で取るべき対策
この研究から一般の方が受け取るべきメッセージは、とてもシンプルです。歯周病が進行する前に、毎日のセルフケアと定期受診で食い止めることが、健康面でも環境面でも理にかなっているということです。論文抄録でも、効果的な家庭での口腔衛生習慣は病気の進行予防を助け、歯科医院での歯周病治療に伴う環境影響の軽減に有益と結論づけています。2
英国の成人歯科保健調査(Adult Oral Health Survey 2023)でも、成人の口腔疾患、とくにう蝕や歯周疾患が依然として広くみられ、予防中心のアプローチの必要性が強調されています。こうした人口ベースの調査結果とも整合する形で、日常の予防ケアとしては、フッ化物配合歯みがき剤による1日2回のブラッシングと歯間清掃が推奨されます。6,9
- 1日2回、フッ化物配合歯みがき剤を使って各2分間を目安に丁寧に歯を磨く
- 歯ブラシだけでなく、フロスや歯間ブラシで歯間清掃を行う
- 歯ぐきからの出血、腫れ、口臭、歯のぐらつきがあれば早めに歯科を受診する
- 定期的に歯周検査とクリーニングを受ける
- 喫煙や糖尿病など、歯周病を悪化させやすい因子も管理する
手用歯ブラシと電動歯ブラシのどちらを使うかは、環境面だけで単純に優劣をつけられるわけではありません。今回のLCA研究では、家庭内ケア全体の環境影響に有意差は認められませんでした。そしてこれは「家庭内」ケア全体としてであり製産時の「家庭外」コスト、例えば電動歯ブラシのバッテリー、ICチップなどの生産コスト・環境負荷については計測されていないようです。一方でBusiness Wireでは、別の研究エビデンスとして、電動歯ブラシ、とくにオシレーション・ロータリー技術を採用した製品は、歯垢除去や短期的な歯ぐきの健康維持だけでなく、長期的にも健康上のメリットをもたらす可能性があると紹介されています。環境影響の話と、臨床効果の話は、分けて考えることが大切です。2,6
7. 歯周病予防が持つ意味
歯周病予防は、歯を守るための行動であると同時に、将来必要になるかもしれない治療介入を減らす行動でもあります。歯周病が軽いうちに見つけて対応できれば、通院回数や処置内容を抑えられる可能性があります。LCA研究が示したように、環境負荷の中心が院内治療にあるなら、重症化を防ぐこと自体が環境面でも意味を持つことになります。2,6
毎日の歯みがき、歯間清掃、定期的な歯科受診は、どれも特別なことではありません。しかし、こうした基本的な行動こそが、歯周病の進行を防ぎ、重症化に伴う大きな負担を避けるためのもっとも確実な方法です。歯ぐきの出血や腫れを「よくあること」で済ませず、早めに確認することが大切です。1,2
歯ぐきの出血や腫れ、口臭が気になる方は、早めのチェックで重症化を防げる可能性があります。かわせみデンタルクリニックでは、歯周病の検査・治療とメインテナンスを行っています。
参考文献
- 歯周病患者における抗菌療法の診療ガイドライン(2010)
https://www.perio.jp/publication/upload_file/jsp_guideline_antimicrobial_therapy.pdf - Quantifying the environmental impact potential from periodontal health to disease: Findings from a life cycle assessment study(2026)
歯周健康から歯周病に至るまでの潜在的な環境影響の定量化―ライフサイクルアセスメント研究の知見
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42086141/ - Global Burden of Disease 2021 Oral Disorders Collaborators. Trends in the global, regional, and national burden of oral conditions from 1990 to 2021: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2021(2025)
GBD 2021にもとづく主要口腔疾患の世界的負荷の推計
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)02811-3/fulltext - 「令和6年歯科疾患実態調査」の結果(概要)(2025)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59190.html - 令和6年 歯科疾患実態調査結果の概要(2025)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-17b_r06.pdf - 新たな研究により、歯周病が環境に与える真の影響と取るべき対策が明らかに(2026)
https://www.businesswire.com/news/home/20260601467474/ja - Antimicrobial resistance of microorganisms present in periodontal diseases: A systematic review and meta-analysis(2022)
歯周病に存在する微生物の抗菌薬耐性:システマティックレビューとメタアナリシス
https://www.frontiersin.org/journals/microbiology/articles/10.3389/fmicb.2022.961986/full - Antibiotic resistance in the microbiota of periodontitis patients(2024)
歯周炎患者のマイクロバイオータにおける抗菌薬耐性
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1040841X.2023.2197481 - Adult oral health survey 2023(2025)
成人口腔保健調査2023
https://www.gov.uk/government/statistics/adult-oral-health-survey-2023
関連記事|船橋の歯医者・矯正歯科|かわせみデンタルクリニック
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
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