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2027年度「国民皆歯科健診」で何が変わる?簡易検査と保険者評価を公式資料から解説

目次

  1. はじめに
  2. 今回のニュースの概要
  3. 国民皆歯科健診が必要とされる背景
  4. 2027年度から予定される歯科施策
  5. 簡易歯科健診は唾液検査だけなのか
  6. 簡易検査で分かることと分からないこと
  7. 簡易歯科健診の実施主体
  8. 後期高齢者支援金の加算・減算制度
  9. 2027年度から評価対象へ追加する根拠
  10. 現行制度と2027年度方針の違い
  11. 受診のための休暇は義務なのか
  12. 制度の確定範囲と今後の確認事項
  13. 参考文献

1.はじめに

2026年7月23日、日本経済新聞は、厚生労働省が2027年度から「国民皆歯科健診」に向けた取り組みを本格化すると報じました。1

記事では、歯周疾患検診の対象年齢を現在の10歳刻みから5歳刻みに広げることや、未受診者を中心に唾液などを用いた簡易検査を毎年受けられるようにすることが紹介されています。

しかし、報道だけでは分かりにくい点もあります。

  • 簡易歯科健診とは、実質的に唾液検査だけなのでしょうか。
  • 歯科医院で行う通常の歯科健診とは、どのような関係になるのでしょうか。
  • 2027年度から、保険者の負担金にどのように反映されるのでしょうか。
  • 「受診のための休暇」は、別枠の有給休暇として義務化されるのでしょうか。

この記事では、厚生労働省の「UENOプラン」や関連資料を確認しながら、資料に何が書かれているのか、その記載を実務上どのように読み解くべきかという順序で整理します。

2.今回のニュースの概要

日本経済新聞の報道によると、厚生労働省は健康寿命の延伸を目的とした予防・健康づくりの重点施策をまとめ、2027年度から「国民皆歯科健診」に向けた取り組みを進める方針を示しました。1

歯科に関する主な内容は、次のとおりです。

  • 自治体の歯周疾患検診について、対象年齢を10歳刻みから5歳刻みへ広げる
  • 歯科健診を受けていない人を中心に、毎年、簡易歯科健診を受けられる環境を整える
  • 希望者が唾液などを用いた検査によって、歯周病の可能性を調べられるようにする
  • 簡易歯科健診の結果に応じて、歯科医療機関への受診勧奨につなげる
  • 2027年度から、医療保険者に対する評価制度へ簡易歯科健診を追加する
  • 職域における歯科健診や受診勧奨を強化する

これらは、健康寿命の延伸を図る「攻めの予防医療」の重点施策、いわゆるUENOプランの一部として示されたものです。2 ただし、2026年7月時点では、政策の方向性が示された段階のものと、すでに実施要件が決まっているものが混在しています。

2027年度から全国一律に同じ方法で唾液検査が始まる、あるいは検査方法や評価点数がすでに確定しているという意味ではありません。

3.国民皆歯科健診が必要とされる背景

資料には何が書かれているか

厚生労働省の「健康寿命の延伸を図る『攻めの予防医療』の重点施策」では、歯科健診を受けていない人が依然として多いことが課題として挙げられています。3

資料では、2024年の状況として、過去1年間に歯科健診を受けていない人が約4割いるとされています。特に20歳代から60歳代までの働く世代では、学校歯科健診のような法定の機会がなくなった後、歯科健診から離れやすいことが問題視されています。

また、15歳以上の47.8%に4mm以上の歯周ポケットが認められ、60歳から85歳程度では、その割合が約6割に達することも示されています。3

一方、自治体が健康増進事業として実施している歯周疾患検診の受診率は、全国平均で約5%にとどまります。

どう読み解くか

政策の中心は、単純に「検診対象者を増やす」ことではありません。

これまで歯科健診を受けてこなかった層に、まず簡便な検査を提供し、必要な人を歯科医療機関へつなぐことが狙いです。

つまり、今回の簡易歯科健診は、歯科医師による口腔内診査を全面的に置き換えるものではなく、未受診者を抽出するための入口として位置付けられています。

4.2027年度から予定される歯科施策

厚生労働省資料から、歯科に関する工程を整理すると、次のようになります。3

時期主な取り組み
2026年度一般健診などの機会を活用した簡易な口腔スクリーニングのモデル事業
2027年度簡易歯科健診の位置付け、歯周疾患検診の対象年齢を10歳刻みから5歳刻みに拡大
2027年度以降未受診者を中心に、希望者が毎年簡易歯科健診を受けられるよう自治体などを支援
2028年度以降実施状況を踏まえ、健康増進法上の制度的な普及策を検討
継続的施策受診勧奨、保健指導、歯科医療機関への紹介、職域での普及啓発

ここで重要なのは、簡易歯科健診の全国的な仕組みが、2027年度から直ちに完成するという意味ではないことです。

2026年度のモデル事業で実施方法や課題を確認し、その結果を踏まえて2027年度以降の制度設計を進めるという段階的な工程です。

5.簡易歯科健診は唾液検査だけなのか

資料には何が書かれているか

厚生労働省の簡易な歯科健診に関する検討資料では、歯周病リスクを把握する検査として、次のような方法が示されています。4

  • 唾液中のヘモグロビンを測定する検査
  • 歯肉溝滲出液中のASTを測定する検査
  • 歯科に関する質問票
  • 検査結果に応じた受診勧奨

検討されている仕組みは、検体検査だけを単独で行うのではなく、質問票と体外診断用医薬品による歯周病リスク検査を組み合わせ、必要な人に歯科受診を勧めるものです。

どう読み解くか

したがって、「希望者は唾液検査だけを毎年受ける」という理解は正確ではありません。

唾液検査は有力な方法の一つですが、厚生労働省資料は唾液だけに限定していません。歯肉溝滲出液を用いる検査も想定されています。また、歯周病以外の口腔状態については、質問票によってリスクを確認する案が示されています。

希望者が、質問票と唾液などを用いた簡易検査によって歯周病などのリスクを確認し、必要に応じて歯科医療機関への受診勧奨を受けられる仕組みです。

簡易歯科健診は唾液検査そのものではなく、「簡易検査から受診勧奨までを含むスクリーニングの仕組み」と捉えるのが適切です。

6.簡易検査で分かることと分からないこと

資料には何が書かれているか

厚生労働省の検討資料では、簡易検査によって把握できるのは、基本的に歯周病の可能性やリスクであるとされています。4

一方、簡易検査だけでは、次のような診断や評価はできません。

  • う蝕の有無や深さ
  • 歯周ポケットの深さ
  • 歯の動揺度
  • 咬合状態
  • 口腔機能
  • 口腔粘膜疾患
  • 義歯の適合状態
  • エックス線画像による歯槽骨の評価
  • 歯科疾患の確定診断

どう読み解くか

唾液潜血反応が陽性であっても、その原因が歯周炎であると確定できるわけではありません。反対に、陰性であっても歯周病がないとは断定できません。

したがって、簡易検査は診断ではなく、受診の必要性を振り分けるスクリーニングです。

簡易検査で「問題なし」と判定されても、口腔内のすべての疾患が否定されたわけではありません。

この説明が不十分だと、陰性結果を受けた人が通常の歯科健診を長期間受けなくなる可能性があります。

簡易検査の普及と同時に、検査の限界を伝えることが不可欠です。

7.簡易歯科健診の実施主体

資料には何が書かれているか

2026年度のモデル事業では、実施主体として次の者が想定されています。5

  • 医療保険者
  • 事業主
  • 自治体
  • 実施主体から委託を受けた健診機関や事業者

実施方法としては、一般健診などの機会に簡易な口腔スクリーニングを組み込む方法のほか、特定健診の結果、診療報酬明細書、歯科受診歴などから対象者を抽出して実施する方法も示されています。

どう読み解くか

今回の仕組みは、歯科医院の診療室内だけで完結するものではありません。

職場の健康診断会場、自治体健診、保険者が行う保健事業など、これまで歯科との接点が少なかった場所にスクリーニングを組み込む構想です。

検体の採取や測定を健診機関などが担当し、一定の基準に該当した人を地域の歯科医療機関につなぐ形も考えられます。

ただし、次の事項は今後の実施要領を確認する必要があります。

  • 検査を実施できる職種
  • 使用できる検査キット
  • 結果判定の基準
  • 歯科医師の関与方法
  • 陽性者への受診勧奨方法
  • 精密検査を担当する歯科医療機関の登録要件
  • 検査結果の保険者・自治体への報告方法
  • 個人情報の取り扱い
  • 委託料や受診費用の支払方法

8.後期高齢者支援金の加算・減算制度

報道にある「予防・健康づくりの実績に応じて医療保険者の負担金を加算・減算する制度」とは、正確には後期高齢者支援金の加算・減算制度です。

これは、健康保険組合などの医療保険者が後期高齢者医療制度へ拠出する支援金について、保健事業などの取り組みを評価し、一定の加算または減算を行う制度です。

現行資料には何が書かれているか

2027年度から2029年度までの制度概要では、加算と減算は異なる考え方で運用されます。6

  • 加算側:特定健康診査・特定保健指導の実施率が著しく低い保険者を対象に判定
  • 減算側:保健事業などの取り組みを点数化し、一定の要件を満たした上位の保険者を評価

歯科に関する現行の評価項目には、次の内容があります。

評価項目主な内容配点
歯科健診と受診勧奨歯科健診または費用補助を行い、必要な人へ受診勧奨すること8点
歯科保健指導歯科疾患予防のための保健指導を実施すること5点

どう読み解くか

「歯科健診を実施しなければ、直ちに保険者の負担金が加算される」という制度ではありません。

現行の加算判定は、主に特定健康診査と特定保健指導の実施率を基準としています。歯科健診は、保険者が減算評価を獲得するための取り組みの一つです。

つまり、現在の制度は、歯科健診を実施しなかった保険者へ直接ペナルティーを科す仕組みではなく、積極的に取り組んだ保険者を減算側で評価する仕組みです。

9.2027年度から評価対象へ追加する根拠

どの資料に書かれているか

簡易歯科健診を評価制度へ追加する方針は、厚生労働省の「健康寿命の延伸を図る『攻めの予防医療』の重点施策」のうち、歯科保健対策を扱う部分に記載されています。3

同資料では、2027年度から、後期高齢者支援金の加算・減算制度における保険者の取り組みの評価対象に、簡易歯科健診を加えるという方針が示されています。

さらに、2028年度以降については、実施状況や効果を踏まえながら普及を進めるとされています。

これ以上の詳細はあるか

2026年7月時点で確認できる公式資料では、政策の方向性までは示されていますが、次の詳細は明らかになっていません。

  • 簡易歯科健診に何点を配分するのか
  • 現行の歯科健診8点の内数になるのか、別項目になるのか
  • 質問票だけで評価対象になるのか
  • 唾液などの検体を本人が郵送する方法も認められるのか
  • 対象者数や実施率に最低基準を設けるのか
  • 陽性者への受診勧奨や受診確認を必須とするのか
  • 歯科医師による対面確認を必要とするのか
  • 実施結果をどのような形式で報告するのか

厚生労働省は2027年度から簡易歯科健診を保険者評価へ追加する方針を示していますが、配点や具体的な算定要件は、今後の制度改正や実施要領を待つ必要があります。

「追加する」という政策方針は公式資料に記載されていますが、詳細な評価基準はまだ分かっていません。

10.現行制度と2027年度方針の違い

資料には何が書かれているか

厚生労働省が2026年5月21日に改定した後期高齢者支援金の加算・減算制度に関するQ&Aでは、検体を本人が送付する方法や質問票によるスクリーニングが、現行の「歯科健診」に該当するかという質問が扱われています。7

Q30では、評価対象となる歯科健診について、歯科医師による対面での実施に限るという趣旨の回答が示されています。

また、通常の保険診療として歯科医院を受診した実績だけでは、保険者が実施した歯科健診として評価されません。保険者が契約または費用補助を行い、健診結果を把握し、必要に応じて受診勧奨を行うことが求められています。

どう読み解くか

現在の制度と今後の方針には、次の違いがあります。

  • 2026年5月時点の現行ルール:検体郵送や質問票だけでは歯科健診として評価されない
  • 2026年7月公表の新方針:2027年度から簡易歯科健診を評価対象へ追加する
  • 今後必要な対応:評価基準やQ&Aの改定

したがって、2027年度からの追加を実現するには、現行の評価要件を変更するか、「歯科健診」とは別に「簡易歯科健診」という評価区分を設ける必要があります。

これは矛盾ではなく、現行制度を今後改正する方針が示されたと読むべきです。

歯科医療従事者や保険者が事業計画を作成する際には、2026年5月版のQ&Aだけで2027年度の取り扱いを判断せず、その後に公表される実施要領や改定Q&Aを確認する必要があります。

11.受診のための休暇は義務なのか

厚生労働省の検討資料では、健康診断や医療機関を受診しやすくする取り組みの例として、受診勧奨や休暇の付与などが挙げられています。8

ただし、これは歯科受診専用の有給休暇を新設する義務や、労働者に休暇を強制的に取得させる義務を示したものではありません。

企業は、年次有給休暇、時間単位休暇、特別休暇、勤務時間の変更など、自社の制度に応じた方法を選択できます。健診時間の賃金をどのように扱うかも、原則として労使間の協議や事業者の判断によります。9

したがって、受診のための休暇付与は法的義務ではなく、受診しやすい職場環境を整えるための取り組み例と理解するのが妥当です。

12.制度の確定範囲と今後の確認事項

厚生労働省が示した「国民皆歯科健診」は、全国民に毎年、歯科医師による口腔内診査を義務付ける制度ではありません。

中心となるのは、これまで歯科健診を受けていない人に簡易なスクリーニング機会を提供し、リスクのある人を歯科医療機関につなぐことです。

重要なポイントを整理します。

  • 2027年度から、歯周疾患検診の対象年齢を10歳刻みから5歳刻みへ広げる方針です。
  • 未受診者を中心に、希望者が毎年簡易歯科健診を受けられる環境を整備する方針です。
  • 簡易歯科健診は、唾液検査だけを意味するものではありません。
  • 質問票、唾液中ヘモグロビン、歯肉溝滲出液中ASTなどを用いた歯周病リスク評価が検討されています。
  • 簡易検査は診断ではなく、歯科受診につなげるためのスクリーニングです。
  • 2027年度から保険者評価に簡易歯科健診を追加する方針は、公式資料に記載されています。
  • ただし、配点や具体的な評価要件はまだ公表されていません。
  • 現行制度では、検体郵送や質問票だけの方法は、歯科健診の評価対象として認められていません。
  • 「受診のための休暇」は取り組み例であり、別枠の有給休暇を新設する義務ではありません。

歯科界にとって重要なのは、簡易検査が通常の歯科健診を代替するものではなく、未受診者を歯科医療へつなぐ新しい入口になる可能性があること。予防の意識を患者さんに持ってもらええる機会が増えることです。

今後は、2027年度の制度改正資料、後期高齢者支援金の評価基準、モデル事業の結果を継続的に確認する必要があります。

13.参考文献

  1. 日本経済新聞「27年度から『国民皆歯科検診』 上野厚労相、予防医療の重点施策発表」(2026年7月23日)
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2381E0T20C26A7000000/
  2. 厚生労働省「健康寿命の延伸を図る『攻めの予防医療』の重点施策(UENOプラン)」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/index_00154.html
  3. 厚生労働省「健康寿命の延伸を図る『攻めの予防医療』の重点施策」本文
    https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001727090.pdf
  4. 厚生労働省「簡易な歯科健診に関する検討資料」
    https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/001698747.pdf
  5. 厚生労働省「簡易な口腔スクリーニングを活用した歯科健診等に関するモデル事業」
    https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001646588.pdf
  6. 厚生労働省「2027年度~2029年度 後期高齢者支援金の加算・減算制度」
    https://www.mhlw.go.jp/content/001709452.pdf
  7. 厚生労働省「後期高齢者支援金の加算・減算制度に関するQ&A」(2026年5月21日改定)
    https://www.mhlw.go.jp/content/001695188.pdf
  8. 厚生労働省「労働者の健康保持増進に関する検討会報告書(案)」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001718232.pdf
  9. 厚生労働省・働き方・休み方改善ポータルサイト「病気休暇制度」
    https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuukaseido/recuperation.html

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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づいた正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けしています。


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