【2026年】診療報酬不正請求の自動検知とAI審査の現状:東京都の「第3の点検」から支払基金AI振分と国保との共同利用まで
医療機関や薬局が保険者に提出する請求書類を、レセプトと呼びます。
現在のレセプト審査では、コンピューターやAIがすべての請求を自動で決めるのではなく、人が詳しく確認するレセプトを絞り込む使い方が中心です。
一方、東京都後期高齢者医療広域連合では、2026年8月から不正請求の疑いがある案件を抽出する「第3の点検」を運用する計画が公表されました。1
AIによる審査対象の振り分け、保険者による不正請求疑いの確認、審査基準の統一、国保とのシステム共同利用は、似ているようで役割が異なります。

1. 東京都の「第3の点検」
東京都後期高齢者医療広域連合は、診療報酬明細書などを分析し、不正請求の疑いがある案件を抽出する検出システムを2026年8月から運用する計画を公表しました。

広域連合の議会会議録では、医師による不正請求事件を契機として、従来の審査に加える新しい点検の必要性が説明されました。従来の審査が請求書類の記載内容とルールの適合性を確認するのに対し、第3の点検は制度の悪用が疑われる案件を追加で拾い上げる仕組みです。2
募集要項では、システムを2026年7月31日までに構築し、2026年8月1日から2027年3月31日まで運用する計画です。3
点検は4段階で進む

| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1 | システムがレセプトのデータを分析し、確認が必要な案件を抽出する |
| 2 | 委託先の点検員が、抽出された案件を確認する |
| 3 | 疑いが強まった場合、被保険者へのアンケートなどで事実関係を確認する |
| 4 | 必要に応じて、指導権限を持つ行政機関と情報を共有する |
点検員には、医療事務に関する資格試験の合格者、または同等の知識や経験を持つ人を充てる考えが示されました。つまり、コンピューターが不正を確定するのではなく、データ分析で確認対象を絞り、人による点検と照会で事実関係を確かめる仕組みです。23
具体的な検出条件は公表されていない
公開資料から確認できるのは、レセプトのデータを分析して疑いのある案件を抽出し、その後の点検や照会につなげる枠組みまでです。
どの薬剤や請求を、どの程度の数量や金額で抽出するのか、複数の医療機関にまたがる情報をどのように扱うのかといった具体的な判定条件やアルゴリズムは、公開資料では確認できません。
そのため、システムに抽出された時点で不正請求が確定するわけではありません。確認が必要な案件を早く見つけるための入口であり、最終的な判断は点検と事実確認を踏まえて行われる流れといえます。
なお、募集要項の質疑回答では、対象は診療報酬明細書と調剤報酬明細書であり、柔道整復療養費や一般的な医療費分析とは別の対象です。3
2. 支払基金のAI振分
社会保険診療報酬支払基金では、過去の審査結果などを学習したAIを使い、人による審査が必要なレセプトと、コンピューターによるチェックで処理できるレセプトを振り分ける仕組みといえます。
ここでAIが行うのは、不正かどうかを最終決定することではありません。査定や返戻になる可能性が高いレセプトを、人が確認する対象として選びやすくする役割です。4

人による審査の対象を絞り込む
| 時期 | 人が確認する割合 | 自動処理の目安 |
|---|---|---|
| 新システム稼働時 | 約20% | 約80% |
| 2022年10月から | 約15% | 約85% |
| 2023年10月から | 約10% | 約90% |
人による審査の対象を約10%まで絞り込むことで、職員や審査委員が重点的に確認できるようにするためといえます。ただし、残りのレセプトが無条件に見逃されるという意味ではなく、コンピューターによる確認や既存の審査工程を経たうえで振り分ける工程といえます。45
AIは2段階でレセプトを振り分ける
支払基金の説明では、まず受付や点数表、医科や歯科のレセプトと院外処方の医薬品レセプトを確認するコンピューターチェックを行う工程です。
その後、1段階目で「人が見るレセプト」「AIによる振分対象」「判断が明らかなレセプト」に分類し、2段階目で2種類のAIを使って振り分ける流れといえます。4
| 技術 | 役割 |
|---|---|
| MinHash | 過去の似たレセプトが査定されたかどうかを参考に振り分ける |
| XGBoost | 過去1年間の傷病名、診療行為、医薬品などの情報と審査結果から、査定や返戻の可能性を算出する |
この仕組みは、AIの判断だけで審査を終えるものではありません。AIが過去のデータから確認の優先順位を付け、その結果を人による審査につなげる点に特徴があります。
3. 審査基準の統一と国保との共同利用
AIで振り分ける仕組みが機能するには、どの地域でも同じようなルールで審査できることが重要です。支払基金では、都道府県ごとに存在していた審査上の取扱いを整理し、審査結果の不合理な差を減らす取組を進めています。
2024年3月末時点の支払基金資料では、歯科の審査取決事項は1,009事例がすべて全国統一、調剤は301事例がすべて全国統一と整理されています。5
| 領域 | 確認できる整理(2024年3月末) |
|---|---|
| 歯科 | 1,009事例を全国統一 |
| 調剤 | 301事例を全国統一 |
| 医科 | 10,978事例のうち、622事例を全国またはブロックで統一し、9,974事例を削除 |
これはAIそのものの話ではありません。審査する人や地域が変わっても判断が大きく変わらないように、先にルールをそろえる取組です。
国保との共同利用に向けたシステム開発
社会保険診療報酬支払基金の令和8事業年度事業計画では、国保中央会や国保連との共同利用に対応した審査システムを開発し、2030年1月の新システム移行を目指す計画が示されています。
これは、すでにすべての審査が一つの組織に統合されたという意味ではありません。審査後のレセプト情報の管理や調剤レセプトの点検などを含め、異なる仕組みをより効率的に連携させるための基盤整備です。6
AI活用も次の段階へ進む
同じ事業計画では、AIによるレセプト振分の精度向上だけでなく、なぜそのレセプトを振り分けたのかを示す機能や、審査結果の理由を記載する作業を支援する機能についても調査や研究を進めるとされています。6
| 仕組み | 主な役割 |
|---|---|
| 東京都の第3の点検 | 不正請求の疑いがある案件を抽出し、点検や事実確認につなげる |
| 支払基金のAI振分 | 人が重点的に審査するレセプトを絞り込む |
| 審査基準の統一 | 地域による判断の差を小さくする |
| 国保との共同利用 | 審査支払システムをより効率的に連携させる |
これらは別々の施策ですが、目指している方向は共通しています。コンピューターやAIで確認対象を整理し、共通ルールと人の審査で請求の適正性を確かめる仕組みです。
今後は、AIが何を根拠に振り分けたのかを説明できること、地域や制度をまたいでも同じ基準で確認できることが、レセプト審査の信頼性を支えるポイントです。
参考文献
- 東京都後期高齢者医療広域連合「診療報酬明細書等の『不正請求疑義案件に対する検出システム(第3の点検)』の運用について」(2026年7月22日)公式ページ
- 東京都後期高齢者医療広域連合「令和7年第2回東京都後期高齢者医療広域連合議会定例会会議録」(2025年11月28日)会議録 [PDF]
- 東京都後期高齢者医療広域連合「診療報酬明細書等の不正請求疑義案件に対する検出システムの構築及び運用に係る業務委託に関する募集要項」募集要項 [PDF]
- 社会保険診療報酬支払基金「AIによるレセプト振分機能について」公式ページ
- 社会保険診療報酬支払基金「月刊基金 第65巻第8号」(2024年8月)月刊基金 [PDF]
- 社会保険診療報酬支払基金「令和8事業年度 社会保険診療報酬支払基金事業計画」(2026年)事業計画 [PDF]
執筆・監修
中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)
日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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