コラム|船橋の歯医者|かわせみデンタルクリニック

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入れ歯に生えるカビ、カンジダ菌について

入れ歯とカンジダ菌:知っておきたいリスクと予防法

入れ歯(義歯)は、失われた歯の機能や見た目を補うための大切な装置ですが、同時にお口の中の環境を変え、特定の微生物、特にカンジダ菌が増殖しやすい場所にもなり得ます。

1. 入れ歯使用者はカンジダ菌にかかりやすい?

答えは「はい」です。 特に「義歯性口内炎(Denture Stomatitis)」は、入れ歯使用者によく見られるカンジダ菌関連の代表的な疾患です。

  • 高い罹患率:
    入れ歯、特に総入れ歯を使用している高齢者において、義歯性口内炎の罹患率は 11%から67% と報告されており、非常に一般的であることがわかっています。これは、入れ歯をしていない人と比較して明らかに高い罹患率です。
  • なぜ入れ歯使用者に多いのか?:
    • カンジダ菌の温床: 入れ歯の材料(特にアクリルレジン)は表面に微細な凹凸や多孔質な構造を持っており、カンジダ菌が付着しやすく、バイオフィルム(菌の集合体)を形成する足場となります。
    • 唾液の洗浄作用の低下: 入れ歯が覆っている下の粘膜は、唾液による自浄作用が行き届きにくくなります。
    • 局所的な環境変化: 入れ歯の下は酸素が少なく湿潤な環境となり、カンジダ菌(特に Candida albicans)の増殖に適した状態になります¹ ⁴。
    • 不適合な義歯や不衛生な管理: サイズが合っていない義歯による粘膜への刺激や、清掃が不十分な義歯は、カンジダ菌の増殖をさらに助長します¹ ⁵。
    • 夜間装着: 就寝中も入れ歯を装着し続けることは、粘膜を休ませる時間がなくなり、カンジダ菌が増殖しやすくなる大きなリスク因子です¹ ⁵。

2. 義歯に付着したカンジダ菌による弊害

義歯にカンジダ菌が付着・増殖すると、様々な問題を引き起こす可能性があります。

  • 義歯性口内炎:
    最も一般的な弊害です。入れ歯が接触する口の粘膜(特に上あご)に、発赤、腫れ、ヒリヒリ感、まれに白い苔状のものが見られます。多くの場合、自覚症状が乏しいことも特徴です¹ ²。主な原因菌は Candida albicans です¹。
  • 誤嚥(ごえん)性肺炎のリスク上昇:
    高齢者や寝たきりの方などでは、義歯に付着したカンジダ菌を含む口腔内の細菌が唾液や飲食物と共に誤って気道に入ってしまう(誤嚥)ことで、肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こすリスクが高まる可能性が指摘されています。口腔ケアによって義歯や口腔内のカンジダ菌量を減らすことが、誤嚥性肺炎予防につながると考えられています。
  • 口臭や味覚の変化:
    カンジダ菌を含む微生物の増殖は、口臭の原因となったり、味覚に影響を与えたりする可能性があります。
  • 全身への影響(まれなケース):
    免疫力が著しく低下している方(例:重度の疾患、免疫抑制剤使用者など)では、口腔内のカンジダ菌が血流に入り込み、全身性のカンジダ感染症を引き起こす可能性もゼロではありません。

3. 義歯へのカンジダ菌付着の予防法

義歯へのカンジダ菌の付着を防ぎ、上記のような弊害を予防するためには、適切なケアが不可欠です。

  • 機械的清掃(ブラッシング):
    • 毎食後と就寝前に、入れ歯専用のブラシ(義歯ブラシ)を使って、流水下で丁寧に磨きましょう。歯磨き粉は研磨剤で義歯を傷つけることがあるため、基本的には使用しません。
    • ヌメリ(バイオフィルム)を物理的に除去することが最も重要です。
  • 化学的清掃(義歯洗浄剤の使用):
    • 機械的清掃だけでは除去しきれない細菌やカンジダ菌を除去するために、義歯洗浄剤の併用が推奨されます。
    • カンジダ菌除去には、次亜塩素酸系の洗浄剤が効果的とされますが、金属部分がある義歯には使えない場合があるため注意が必要です。酵素系過酸化物系の洗浄剤も広く使われています。製品の指示に従って正しく使用しましょう。
  • 就寝時は義歯を外す:
    • 夜間は義歯を外し、粘膜を休ませることが非常に重要です。
    • 外した義歯は乾燥させず、清潔な水や義歯洗浄液を入れた専用容器に入れて保管します。乾燥は義歯の変形や細菌の付着を招きます。
  • 自身の口腔ケア:
    • 入れ歯だけでなく、残っている自分の歯や、入れ歯が接触する歯ぐき、舌などの粘膜も清掃しましょう。舌苔(舌の汚れ)もカンジダ菌の温床になり得ます。
  • 定期的な歯科受診:
    • 歯科医院で定期的に入れ歯の適合状態のチェック、調整、専門的なクリーニング(PMTCならぬPMDC: Professional Mechanical Denture Cleaning)を受けることが大切です。
    • 口腔粘膜に異常がないかも診てもらいましょう。
  • その他:
    • 禁煙、バランスの取れた食事、糖尿病などの基礎疾患のコントロールも、口腔内の健康維持とカンジダ菌の過剰な増殖抑制に役立ちます。

まとめ

入れ歯の使用は、カンジダ菌が増殖しやすい環境を作り出し、義歯性口内炎などのリスクを高めます。しかし、毎日の適切な「機械的清掃」と「化学的清掃」、就寝時の取り外し、そして定期的な歯科受診によって、カンジダ菌の付着を効果的に予防し、関連する弊害(義歯性口内炎や誤嚥性肺炎リスクなど)を減らすことが可能です。快適な入れ歯ライフを送るために、正しいケアを継続しましょう。


参考文献リスト

  1. Gendreau, L., & Loewy, Z. G. (2011). Epidemiology and etiology of denture stomatitis. Journal of Prosthodontics, 20(4), 251–260. (義歯性口内炎の疫学と原因に関する総説)
  2. Salerno, C., et al. (2011). Candida-associated denture stomatitis. Medicina Oral, Patología Oral y Cirugía Bucal, 16(2), e139–e143. (カンジダ関連義歯性口内炎についてのレビュー)
  3. Kulangara, S., et al. (2022). Denture Hygiene Knowledge and Practices Among Complete Denture Wearers Attending a University Dental Clinic in Saudi Arabia. Clinical, Cosmetic and Investigational Dentistry, 14, 197–205. (義歯衛生に関する知識と実践についての調査)
  4. O’Donnell, L. E., et al. (2015). Dentures are a Reservoir for Respiratory Pathogens. Journal of Prosthodontics, 24(2), 99–104. (義歯が呼吸器病原体の貯蔵庫である可能性を示唆する研究)
  5. Pellizzaro, D., et al. (2012). Effect of Effervescent Denture Cleansers on Candida albicans Biofilm Formed on Polymethyl Methacrylate Resin. Brazilian Dental Journal, 23(4), 357–362. (義歯洗浄剤のカンジダバイオフィルムへの効果研究)

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