コラム|船橋の歯医者|かわせみデンタルクリニック

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歯科用拡大ルーペ使用の意思決定に関する論文

当院でも使用している歯科用拡大ルーペについてまとめてある論文を見つけたので、内容を簡単にまとめました。

術者の身体のこと、治療のクオリティを考えるなら使うに越したことはないですが、歯科医師が治療に用いる倍率を考えると、ライトの必要ない低倍率(3.5倍まで)では厳しく、最低でもライト付きの中倍率以上(4倍以上)が必要になってきます。そして、その倍率帯はメーカー次第でルーペとライト合わせて50万以上かかってきてしまいます。買ってみたけど自分には合わなかった、となってしまうと大きな痛手ですし、ライトのバッテリーも消耗品なのでそのうち買い替えが必要です。ルーペそれ自体によって直接収入が上がるわけではないので、多くの歯科医師が値段を理由に手を出せずにいるというこの論文の結論は納得の内容でした。


歯科医師における歯科用拡大ルーペ使用の意思決定要因:横断研究 2025 Clin Cosmet Investig Dent

Decision-Making Factors Among Dentists for Using Dental Magnifying Loupes: A Cross-Sectional Study [FULL TEXT]

歯科医療の物理的制約

歯科治療は極めて特殊な作業環境で行われる医療行為です。狭くて暗い口腔内という限られた空間での精密作業は、他の医療分野と比較しても類を見ない困難さを伴います[1]。このような身体的に厳しい作業条件は、歯科医師に様々な健康上の問題をもたらしています。

歯科医師の健康への影響

特に、筋骨格系障害は歯科医師の間で非常に高い発生率を示しており、報告によっては97.9%という驚くべき数値が示されています。これは、長時間にわたる不自然な姿勢での作業が主な原因であり、歯科医師の職業寿命にも深刻な影響を与えています。

拡大鏡技術による改善

このような課題に対し、歯科用拡大鏡(DML)は画期的な解決策を提供しています。拡大鏡を使用することで、歯科医師は以下のメリットを享受できます。

  • 視覚の改善: 微細な口腔内の構造がより鮮明に見えるようになり、診断や治療の精度が向上します。
  • 姿勢の改善: 適切な作業距離とレンズの傾斜角度を持つ拡大鏡を使うことで、前傾姿勢を減らし、首や肩への負担を大幅に軽減できます。これは、筋骨格系障害の予防や症状軽減に繋がります。

拡大鏡は一般的に2.5倍から6倍の倍率を提供し、照明システムと組み合わせることで、歯科医師の作業環境を大きく改善し、より精密で質の高い歯科医療の提供に貢献しています。

研究結果:驚くべき低い使用率

今回の調査で明らかになった最も衝撃的な事実は、328名の歯科医師のうち、拡大鏡を使用しているのはわずか13.41%(44名)だったということです。この数値は予想よりもはるかに低く、過去の研究と比較しても以下のような変遷が見られます:

  • 1995年スコットランド:9%
  • 2000年イギリス:8%(定期使用者)
  • 2013年イギリス:31%
  • 2015年スイス:64%
  • 2018年サウジアラビア:32.4%

拡大鏡使用の阻害要因

  1. 最大の障壁:高額な費用

拡大鏡を使用していない284名の歯科医師のうち、実に66.90%(190名)が「高額な費用」を最大の阻害要因として挙げました。この結果は他の研究でも一貫して報告されており、経済的負担が拡大鏡普及の最大の壁となっていることが明らかです。

 2.教育の欠如

調査では、歯科大学での拡大鏡に関する教育を受けた歯科医師は、受けなかった歯科医師と比較して1.64倍拡大鏡を使用する傾向があることが判明しました。しかし残念ながら、多くの歯科大学で拡大鏡の使用に関する十分な教育が行われていないのが現状です。

 3.その他の阻害要因

その他の主要な阻害要因として以下が挙げられています:

  • 眼鏡着用者にとっての使用困難さ
  • 拡大鏡使用に関する不十分な訓練
  • 拡大鏡への関心の欠如

拡大鏡使用のメリット

治療効果の向上

拡大鏡使用者が最も多く挙げた理由は「視界の改善」(63.64%)で、続いて「臨床効率の向上」(61.36%)、「患者ケアの改善」(50%)、「人間工学的改善」(47.73%)となっています。

具体的な治療効果として以下が報告されています:

  • 3.5倍拡大により口腔粘膜疾患の検出が有意に改善[2]
  • 初期う蝕病変の診断精度向上[3]
  • 歯質亀裂の検出能力向上[4]
  • 根管治療時間の短縮(2.5倍拡大使用時)[5]
  • 第二近心頬側根管の発見率向上[6]

筋骨格系症状の軽減

調査では73%の歯科医師が首・肩の不快感を訴えており、そのうち91%が拡大鏡を使用していませんでした。一方、首・肩の不快感を持つ歯科医師の81%が「拡大鏡により不快感が軽減される」と報告しています。

専門医と一般歯科医の違い

興味深いことに、専門医は一般歯科医と比較して1.94倍拡大鏡を使用する傾向があることが判明しました。これは専門的な治療における視覚的精度の重要性や、加齢に伴う視力変化への対応が影響していると考えられます。

拡大鏡の種類と購入決定要因

人気のタイプ

使用者の75%がフリップアップ(FU)タイプを選択しており、スルー・ザ・レンズ(TTL)タイプよりも人気があることが判明しました。FUタイプは価格が安く、複数の使用者間で共有可能な点が評価されている一方、TTLタイプは個人に合わせたカスタマイズが可能で軽量という利点があります。

購入決定要因

拡大鏡購入時の主要な検討要因(多い順):

  1. 価格(70.73%)
  2. 視野深度(69.51%)
  3. 拡大倍率(59.15%)
  4. 視野幅(36.59%)

解決策と今後の展望

歯科教育への統合

研究者たちは、拡大鏡使用率向上のために以下を提案しています:

  1. 歯科大学での早期教育導入:学部教育の早い段階から拡大鏡の使用を教育に組み込む
  2. 学生向け割引制度:歯科大学が学生に対して拡大鏡を割引価格で提供する制度の構築
  3. 教員の意識改革:教育スタッフ自身が拡大鏡の重要性を認識し、積極的に教育に取り入れる

費用対効果の認識向上

拡大鏡の初期投資は確かに高額ですが、以下の長期的メリットを考慮すると、その価値は十分にあると考えられます:

  • 治療精度の向上による再治療率の減少
  • 筋骨格系障害の予防による長期的な健康維持
  • 早期退職リスクの軽減

まとめ

この研究により、歯科用拡大鏡の普及には「高額な費用」と「教育不足」という二つの大きな壁があることが明らかになりました。しかし、拡大鏡の使用による治療効果の向上や筋骨格系症状の軽減といったメリットを考えると、これらの課題解決は歯科界全体にとって重要な課題です。

歯科医師個人レベルでは拡大鏡導入の検討を、歯科教育機関レベルでは教育カリキュラムへの統合と学生支援制度の構築を、そして業界全体では拡大鏡の重要性に関する啓発活動を進めることが求められます。

73%の歯科医師が首・肩の不快感を抱えている現状を考えると、拡大鏡の普及は単なる治療精度向上のツールではなく、歯科医師の健康と職業寿命を守るための重要な予防手段として位置づけるべきでしょう。

引用文献

1. Lietz J, Kozak A, Nienhaus A. Prevalence and occupational risk factors of musculoskeletal diseases and pain among dental professionals in Western countries: a systematic literature review and meta-analysis. PLoS One. 2018;13(12):e0208628.

2. Zhang Y, Yuan P, Jiang H, et al. Application of medical magnifying loupes in diagnosis of oral mucosal diseases. Zhejiang Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban. 2021;50(2):205–211.

3. Forgie AH, Pine CM, Pitts NB. The use of magnification in a preventive approach to caries detection. Quintessence Int. 2002;33(1):13–16.

4. Bud M, Jitaru S, Lucaciu O, et al. The advantages of the dental operative microscope in restorative dentistry. Med Pharm Rep. 2021;94(1):22–27.

5. Wong AW, Zhu X, Zhang S, Li SK, Zhang C, Chu CH. Treatment time for non-surgical endodontic therapy with or without a magnifying loupe. BMC Oral Health. 2015;15:40.

6. Vasundhara V, Lashkari KP. An in vitro study to find the incidence of mesiobuccal 2 canal in permanent maxillary first molars using three different methods. J Conserv Dent. 2017;20(3):190–193.