親知らずを抜くと小顔になるのか? 智歯抜歯と顔の形について
親知らず(智歯:第三大臼歯)の抜歯は、多くの人が経験する歯科処置です。そして、「親知らずを抜くと小顔になる」「顎のラインがシャープになる」といった話を聞いたことがある方もいるかもしれません。

ここでは、このような一般に広まっている認識と、科学的な研究結果との違いについて、分かりやすく解説します。
抜歯後の顔の一時的な変化
親知らずの抜歯後、顔が腫れたり、内出血が起きたりするのはごく一般的です。これは体が傷を治そうとする自然な反応で、一時的に顔が「リス顔」のように見えることもあります 1。
- 腫れと内出血: 腫れは通常、手術の2日後に最もひどくなり、その後4~5日かけて徐々に引いていきます。ほとんどの腫れは1週間以内に解消され、内出血も数週間で消えることがほとんどです。
- 顎の硬直: 口を大きく開けにくくなる「開口障害」もよく見られますが、これも通常1週間以内に改善します。
これらの変化は一時的なものであり、治癒が進むにつれて顔は元の状態に戻ります。顔の形や構造が永続的に変わることはありません。
顔の構造への長期的な影響
親知らずの抜歯が顔の形を永続的に変えるという科学的な証拠は、ほとんどありません。2,3 2023年のWangらの研究2でも、『親知らず抜歯後、抜歯側の硬組織の体積は減少するが、顔面軟組織の体積は顕著に変化しない。』としています。
- 骨の変化: 抜歯された部分の顎の骨は、わずかに体積が減少することが研究で示されています(平均約2.33 mL)。これは、歯を支えていた骨が、歯がなくなったことで徐々に吸収されるためです。しかし、親知らずは顎の奥の、顔の形を大きく左右しない部分に位置しているため、この骨の減少が顔の見た目に大きな変化をもたらすことはありません。
- 軟組織の変化: 頬の周りには厚い軟組織(皮膚や脂肪など)の層があり、骨のわずかな変化を覆い隠します。抜歯後一時的に軟組織の体積が減少しましたが、6ヶ月後には元のレベルに戻り、全体として目立った変化は見られませんでした。人間の目は約2mm以下の軟組織の変化を認識しにくいとされており、抜歯による微細な変化は肉眼ではほとんど気づかれないレベルです。また、親知らずの抜歯によって顔の脂肪が減ることはありません。
患者さんの認識と実際のギャップ
多くの患者さんが抜歯後に「小顔になった」と感じたり、「顎のラインがシャープになった」と認識したりすることがありますが、これは客観的な測定では裏付けられていません。この認識は、以下のような要因によるものと考えられます。
- 腫れの解消: 抜歯直後の腫れが引くことで、顔がすっきりしたと感じる場合があります。
- 既存の問題の改善: 抜歯前の親知らずが原因で痛みや腫れ、炎症があった場合、それらが解消されることで顔の印象が改善されたと感じることがあります。
- 咀嚼筋の変化: 親知らず周辺の咀嚼筋が発達していた場合、抜歯後に筋肉の使用頻度が減り、顔が引き締まって見える可能性があります。
- 加齢による自然な変化: 親知らずの抜歯は10代後半から20代にかけて行われることが多いですが、この時期は顔の骨密度や脂肪の分布が自然に変化し始める時期と重なります。そのため、これらの自然な変化を抜歯の影響と誤解する可能性も指摘されています。
結論
親知らずの抜歯は、痛みや感染の予防、歯並びの保護など、お口の健康を守るために行われる重要な医療行為です。顔の形を永続的に変えることを目的としたものではなく、実際に目に見えるような大きな変化が起こることは稀です。抜歯後の顔の変化はほとんどが一時的な腫れによるもので、時間とともに解消されます。患者さんは、抜歯の本来の目的と、顔貌への影響について正確な情報を理解することが大切です。
参考文献
- Comparative Evaluation of Postoperative Edema Following Mandibular Third Molar Extraction Using Zirconia versus Carbide Burs. DergiPark.(2025)
- Slim the face or not: 3D change of facial soft and hard tissues after third molars extraction.: a pilot study BMC Oral Health.(2023)
- A systematic review of post-extractional alveolar bone dimensional changes in humans. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. Clin Oral Implants Res (2012)
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