国内で起きた虫歯が原因で死亡した人の症例と救命できた症例
前回、海外の症例を集めたので、今回は日本の事例を集めてみました。
【虫歯が原因で死亡した症例】
妊娠中に齲歯(虫歯)の治療をせず分娩後縦隔洞炎,膿胸を起こし死亡した1例 1982年
Web上では詳細確認できず
【虫歯が原因で死亡した死亡した症例と救命できた症例】
降下性壊死性縦隔炎の3例 2020年
症例1: 45歳の男性
未治療の糖尿病あり.未治療の齲歯から発症した降下性壊死性縦隔炎(descending necrotizing mediastinitis;DNM)と診断.経頸部および経胸部(胸腔鏡下)縦隔ドレナージを施行した.術後3日目に多臓器不全が進行し,死亡退院となった.
症例2: 36歳の女性
心肺停止蘇生後,気管切開時の排膿を契機にDNMと診断した.経頸部縦隔ドレナージを施行した.術後気管狭窄をきたしたが,術後96日目に他施設に転院となった.
症例3: 48歳の男性
未治療の齲歯から発症したDNMと診断した.合計三度にわたる経頸部・経胸腔(胸腔鏡下)・経剣状突起下縦隔ドレナージを施行し,術後106日目に独歩退院となった.
口腔内不衛生に起因する重症感染症 2021年
症例1: 53歳の男性
発熱とけいれん,意識障害にて救急搬送.齲歯(虫歯)が多数見られ、未治療の糖尿病もあり、細菌培養にて口腔内細菌が同定されたことから口腔内の不衛生と糖尿病が相まって歯性上顎洞炎,硬膜下膿瘍を来したものと考えられた。抗生剤大量投与にて頭蓋内感染は鎮静化した.(入院期間不明)
症例2: 63歳の男性
発熱とけいれん,意識障害にて救急搬送.感染性心内膜炎に伴う心原性脳塞栓症,細菌性動脈瘤破裂に伴う脳出血と考えられた。血小板減少もあり,播種性血管内凝固症候群(DIC)を呈していた.治療により感染症,DICは改善の方向に向かったが,腎不全の進行,頭蓋内出血にて来院4日後に死亡した.
【救命できた症例】
妊娠中に齲歯から感染性心内膜炎を発症した1例 2011年
22歳女性.妊娠22 週3 日に38 度台の発熱があり,肺炎と診断.27週2 日に神戸大へ紹介となった.口腔内に多数の齲歯を認めた.27 週5 日に微熱とめまい.嘔吐があり,炎症所見が増悪.27 週6 日重度の僧帽弁閉鎖不全と疣贅の付着,陳旧性および早期の脳梗塞を認めた.妊娠中の人工心肺下の手術,抗凝固療法下の妊娠継続および低出生体重などのリスクを勘案して,最終的に人工早産が選択された.出血リスクを軽減する目的で帝王切開翌日に弁置換術を行う方針とした.27 週5 日に全身麻酔下で緊急帝上切開術を施行し1166g の男児を出産した.児に明らかな感染徴候はなく,胎盤病理でも絨毛膜羊膜炎の所見はなかった.疣贅培養から起炎菌はα 溶連菌と判明した.口腔内常在菌であるため,齲歯が原因と考えられた.その後抗生剤投与にて加療し,弁置換後32 日目に退院となった.
齲歯から生じたガス産生を伴う深頸部膿瘍の1例 2011年
40歳男性.右下顎智歯(親知らず)の歯性感染症が原因で生じたガス産生を伴う深頸部膿瘍で,造影CT検査にて膿瘍形成を早期に発見し,入院後3,5日目に切開排膿,32日目まで抗生剤による洗浄処置、64日目に右下顎智歯抜歯術を施行し救命できた.
齲歯が原因で生じた感染性海綿静脈洞血栓症とLemierre症候群の合併例 2015年
54歳女性.入院1年前に齲歯の治療中断歴があり,今回頭痛と発熱,眼窩部の腫脹疼痛を主訴に当科入院.検査結果から齲歯による敗血症を原因とする海綿静脈洞血栓症と診断した.抗菌薬と抗凝固療法で治療を開始し症状は軽快、入院後40日目に退院した.
歯性感染症から継発した脳膿瘍の1例 2020年
70歳代女性.頭痛,食欲不振,微熱,歩行障害が発現した.検査で脳膿瘍が疑われ、穿頭排膿術を施行。膿瘍から口腔内常在菌が同定され,歯性感染症による脳膿瘍と考えられたため,口腔ケアと原因歯である根尖性歯周炎の歯の抜歯を行ったところ,その後脳膿瘍は再発なく経過した.術後リハビリを行うも日常生活動作(ADL)の低下により介護施設へ転院となった.
国内で報告されている歯性感染症から啓発した頭蓋内膿瘍上の国内報告例(上記論文より引用)

まとめ
海外の症例では貧困や高額な医療費の問題が取り上げられていましたが、健康保険制度のある日本においても死亡例が認められます。当然、海外においてもニュースにならなかっただけで救命できなかった症例は多数あると思われます。

重篤な症例では、来院後わずか3~4日で死亡するケースもあります。また、救命できた症例でも入院期間は長期にわたり、短期間なものでも30日程度、症例によっては100日を超えているものもあります。

退院できたと言っても心臓の弁置換手術を受け、22歳にして今後一生血液をサラサラにする薬を飲み続ける生活が必要になったり、あるいは自宅に戻れず介護施設へ転院となったケースも認められました。
歯医者が苦手な人、痛い時にしか行かない人ほど症状が悪化しがちです。しかし、病気は治さなければ悪化して最悪命に関わることがあることも事実。何かお口の中で気になることがありましたら相談だけでも結構です、お気軽にご連絡ください。