歯と腎臓の健康:日本の男性歯科医師の研究から見えてきた意外な関連
前回の記事『意外な関係? 歯周病が腎臓の健康を左右する』に引き続き、腎臓と歯に関する論文を調べていたところ広島大学の発表を見つけました。
【研究成果】65歳未満の男性において歯の喪失が腎透析リスクと関連:医科歯科連携の重要性を提起 | 広島大学 (2024)
内容が気になったので元論文を見に行ってみたところありがたいことにオープンアクセスで全文公開されていました。この論文内容で、過去の研究から分かっている腎臓と歯の関係についても考察の項目で語られていたので、上の日本語記事にはなかった部分を含めてその内容を含め簡単にまとめてみようと思います。
既存歯数と維持透析療法との関連:成人男性歯科医師を対象とした横断研究 Association between the number of existing teeth and maintenance dialysis therapy: A cross-sectional study of adult male dentists | PLOS One
慢性腎臓病(CKD)は世界中で増えており、特に末期腎不全(ESKD)に進行すると、透析などの治療が必要になります。

日本は世界的に見ても透析患者の割合が高い国の一つです。近年、口の中の健康状態と腎臓の機能低下との関連が注目されており、今回、日本の男性歯科医師を対象にした研究で、その関係が詳しく調べられました。
研究の主な内容
この研究では、日本の歯科医師を対象とした「LEMONADE」という調査のデータを使いました。約7,500人の男性歯科医師の「残っている歯の数」(23本以上か未満か)と、「透析治療を受けているかどうか(ESKD)」の関連を調べました。
分析の結果、全体的には歯の数とESKDの間に大きな関係は見られませんでした。しかし、**65歳未満の男性に限って見ると、歯が23本未満の人は、透析が必要なESKDになるリスクが統計的に有意に高い**ことが分かりました。この関連は、年齢、肥満度、喫煙習慣、高血圧、糖尿病といった他の健康要因の影響を考慮しても同じでした。一方、65歳以上の男性では、歯の数とESKDの間にこのような関連は見られませんでした。
なぜ歯の数と腎臓病が関係するのか?(考えられる理由)
この研究の議論では、歯の喪失とESKDの関連を説明するいくつかの可能性が挙げられています。
1. ドライマウス(口の乾燥)と虫歯の進行:透析を受けている患者さんの約半数に口の乾燥が見られます。口が乾燥すると虫歯になりやすく、それが歯を失う原因となる可能性があります。
2. 歯周病と全身の炎症:歯周病は歯を失う主な原因の一つであり、その細菌が出す物質(炎症性サイトカイン)が全身に炎症を引き起こす可能性があります。この全身の炎症が、腎臓の機能低下やESKDの進行に関わっていると考えられています。
3. 遺伝的要因:遺伝的な体質が、腎機能の低下と歯の喪失の両方に関わっている可能性も指摘されています。特に若い世代でESKDを発症する場合に、遺伝的要因が関与している可能性が示唆されています。日本人を対象とした研究でも、IL-6–634のGG遺伝子型を持つ人は、CC遺伝子型を持つ人よりも有意に歯の数が少ないことが示されており、Gアレルが増えるほど歯の数が減少する傾向がありました。
この研究の強みと限界
この研究の強みは、参加者が歯科医師であるため、自分の歯の数を自己申告するデータの信頼性が高い点です。また、参加者の学歴や収入といった社会経済的な背景が比較的均一であるため、それらの要因による影響が少ないと考えられます。
しかし、限界もいくつかあります。この研究は日本の男性歯科医師に限定されているため、他の人々(女性や異なる職業の人々)に結果がそのまま当てはまるとは限りません。また、食生活や飲酒量など、歯の数とESKDの関連に影響を与える可能性のある他の要因が考慮されていない点も挙げられます。さらに、この研究は「ある時点での情報」を分析する「横断研究」であるため、歯の喪失がESKDの「原因」であると断定することはできません。どちらが先に起こるのかを明らかにするには、長期的な調査が必要です。
まとめ
この研究は、65歳未満の日本人男性において、残っている歯の数が少ないことが透析治療を必要とするリスクと関連している可能性を示しました。この結果は、口の健康状態が全身の健康、特に腎機能に影響を与える可能性があることを示唆する重要な知見です。今後、さらに研究を進めて詳細を解明し、医療と歯科の専門家が協力して、患者さんの口の健康改善に取り組むことが大切です。

