コラム|船橋の歯医者|かわせみデンタルクリニック

初診のみ
WEB予約
電話予約
初診のみ
WEB予約

コラム

コラムCOLUMN

筋トレで飲むプロテインが歯に与える影響について

1.はじめに

筋力トレーニング時に摂取するプロテインサプリメントは、筋肉増強や回復促進の目的で広く使用されています[1]

しかし、これらのサプリメントが口腔健康に与える影響については、十分に理解されていない部分があります[2]。この記事では、プロテイン摂取が歯や口腔健康に与える影響について科学的根拠を整理します。

2.プロテインと虫歯の関係

1. 糖分含有量と虫歯リスク

多くのプロテインには、グルコース(デキストロース、ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、マルトデキストリンなどの糖分が含まれており、これらは虫歯のリスクを増加させる可能性があります[1]。研究によると、プロテインサプリメントを1日に7-8回摂取することは、約107.9gの糖分摂取(角砂糖約27個分)に相当し、摂取量の増加とともに糖分量も増加します[1]

デキストロースは、そのD体(D-グルコース)の別名であり、特に食品や医療、サプリメントなどの商業的な文脈で使われる傾向があります。つまり、「デキストロース」という言葉を見たら、それは「ブドウ糖」の一種、特に工業的に生産されたり医療用に使われたりする「ブドウ糖」だと考えて問題ありません。

2. pH値と酸性度の影響で歯が溶けやすく

ホエイプロテイン飲料は透明性と安定性を高めるためにpH4.5未満に調整されることが多く、このpH値は口腔内の酸性環境を促進し、歯のエナメル質の脱灰化(歯が溶ける状態)を引き起こす可能性があります[3]。研究では、口腔内のpHが5.5以下に低下すると、唾液の回復時間が不十分となり、継続的な脱灰化によって虫歯が発生することが示されています[1]

3. ボディビルダーを対象とした研究結果

以下はサウジアラビアで実施された200名のボディビルダーを対象とした横断研究です[1]

・虫歯が多い

ボディビルダー群は非ボディビルダー群と比較して、約5倍も虫歯が多いことが分かりました。(虫歯スコア(4.47 vs 0.89)およびDMFT(虫歯、欠損、充填歯)スコア(8.75 vs 4.58)が有意に高値を示しました)。

・プロテインを飲む回数が多いほど口の中は悪化

同研究では、プロテイン摂取頻度の増加に伴い、虫歯スコアが0.298、歯肉炎指数が0.358、プラーク指数が0.347有意に増加することが示されました。研究参加者の100%がホエイプロテインを1日2-6回摂取していました。

・ボディービルダーは歯磨きの時間が短い

ボディビルダー群では口腔衛生習慣が不良であることも判明しました。ボディビルダーの55%が歯磨き時間を30秒のみとしていたのに対し、非ボディビルダーの89%は推奨される2分間の歯磨きを実施していました。

3.プロテインの種類による歯への影響

1. 動物性プロテインと植物性プロテインの比較

トルコで実施されたin vitro研究では、動物性および植物性プロテイン飲料が歯のエナメル質に与える影響を検討しました。結果として、すべてのプロテイン飲料(ココア風味のプロテインミルク、チョコレート風味のホエイプロテイン、エンドウ豆プロテイン、米プロテイン)がエナメル質を強くしている(微小硬度を異なる程度で増加させる)ことが示されました[4]

2. ホエイプロテインの抗菌作用

エジプトの国立研究センターで実施された研究では、ホエイプロテインを含有する歯磨き粉および歯磨き粉末が、健常者および糖尿病患者の両方において歯垢形成を有意に減少させることが報告されています。この研究では、プラーク指数、歯肉指数、歯肉出血指数、および総生菌数の有意な減少が確認されました[5]

※ホエイプロテインは牛乳に含まれるタンパク質の一種です。牛乳のタンパク質は大きく分けて、カゼイン(約80%)とホエイ(約20%)に分けられます。ホエイプロテインは、チーズを作る過程で固形物(カゼイン:酪素)を取り除いた後に残る液体、つまり「乳清(にゅうせい)」から分離・精製されたタンパク質です。ヨーグルトの上澄みにできる透明な液体が「ホエイ(乳清)」そのものです。

3.カゼインホスホペプチドの再石灰化効果

・エナメル質保護作用

牛乳由来のカゼインホスホペプチド・非晶質リン酸カルシウム(CPP-ACPは、歯のエナメル質表面でカルシウムとリン酸イオンの過飽和状態を維持し、再石灰化を促進することが複数の研究で示されています[11]。CPP-ACPは日本でもガムに配合されている商品が存在します。

・オレンジジュースへの蛋白質添加実験

ブラジルで実施されたin vitro研究では、オレンジジュースにカゼインやオバルブミン(鶏卵の卵白に最も多く含まれるタンパク質)などの動物性性蛋白質を添加することで、エナメル質の酸性侵食を軽減できることが報告されています。特にカゼイン添加群では、対照群と比較してエナメル質の表面微小硬度が有意に高値を示しました[12]

4.プロテインに含まれるアミノ酸の良い影響

1. アミノ酸 L-アルギニン の作用

プロテインを構成するアミノ酸は、口腔健康に多様な影響を与えます[6]L-アルギニンは口腔内細菌の凝集を阻害し、プラーク形成を防止することが示されています[6][7]。ニューカッスル大学とミシガン大学の共同研究では、L-アルギニンが実験室条件下で歯垢の形成を破壊することが確認されています[7]。

2. 歯肉炎症への影響

トルコで実施された研究では、ボディビルディングとプロテインパウダーサプリメントの使用が、CASP1、IL-1β、ASCの下方制御により歯肉炎症を減少させる可能性があることが示されています[8]

5.年齢とプロテイン摂取の関係

1. 蛋白質摂取量と歯周病治療効果

アメリカで実施された研究では、非喫煙の歯周病患者において、1g/kg体重/日以上の蛋白質摂取が歯周病治療後の治癒を改善することが報告されています。蛋白質摂取量が1g/kg体重/日以上の患者は、それ未満の患者と比較して、治療後のプロービング深度4mm以上の部位数が有意に少なくなりました(11±2 vs 16±2、p=0.05)[9]

2. 高齢者における蛋白質摂取と口腔微生物叢

オランダで実施された6か月間の無作為化対照試験では、高齢者における蛋白質摂取量の増加(0.8g/kg体重/日から1.2g/kg体重/日へ)が口腔微生物叢の多様性に軽微な変化をもたらすことが示されましたが、自己申告による口腔健康状態には影響を与えませんでした[10]

6.研究結果に対する考察

プロテイン摂取が口腔健康に対して良い面と悪い面があります。しかし、実際にボディービルダーの虫歯の有病率が高いことを考えるとトータルではマイナスの効果のほうが大きいと思われます。

今後の研究課題

研究には常に限界があり、さらなる長期的な縦断研究が必要です。特に、異なる種類のプロテインサプリメントの比較、最適な摂取方法、および効果的な口腔ケア戦略の確立に関する研究が求められています[2][13]

7.プロテインユーザーが取るべき対策

1. 摂取タイミングを工夫しよう

  • プロテイン摂取後はすぐに水でゆすぐことで口の中に糖分が長時間残らないようにする
  • 摂取間隔をなるべく空けることで、口の中のpHが回復する(酸性度が唾液で中性に戻る)のを待つ

2. 口腔ケアを徹底しよう

  • 1日2回以上2分間以上の適切なフッ化物配合歯磨き粉を使用して歯磨きを実施する
  • フッ化物洗口を積極的に行う
  • 定期的な歯科検診を受ける

3. 製品選びも重要

  • 糖分含有量が少ないプロテイン製品を選ぶことで、虫歯リスクを減らす

プロテインには糖質がほとんど含まれないもの(ホエイプロテインアイソレートなど)から、カーボアップを目的とした高糖質のもの(ウェイトゲイナーなど)まで、非常に幅広い製品が存在します。目的に合わせたプロテインを使用することが重要ですが、そのプロテインの虫歯のリスクがどれほどあるのか、取れる対策には何があるのか、一度確認してみましょう。

今、お口の中に虫歯があるかはレントゲンを撮影してみないと分からないことも多いです。もし気になることがありましたらお電話か、初めての方はこちらからWEB予約もご利用いただけます。


引用文献

  1. ボディビルダーの口腔健康状態に対するタンパク質サプリメント摂取の影響:横断研究 Effect of Protein Supplement Intake on Oral Health status of Bodybuilders. A Cross-sectional Study [PDF]
  2. スポーツ選手のスポーツ食と口腔衛生:包括的レビュー Sports Diet and Oral Health in Athletes: A Comprehensive Review
  3. 低pHでのホエータンパク質の渋みにおけるタンパク質濃度とタンパク質と唾液の相互作用の役割 Role of protein concentration and protein-saliva interactions in the astringency of whey proteins at low pH
  4. 動物性および植物性タンパク質がエナメル質の微小硬度に与える影響:in vitro研究 The Effect of Animal and Plant-Based Proteins on Enamel Micro-hardness: An in vitro Study
  5. 正常者と糖尿病患者におけるホエイプロテイン歯磨き粉と粉末の効果 Effect of Whey Protein Toothpaste and Powder in Normal and Diabetics [PDF]
  6. 高齢者のタンパク質摂取と口腔の健康 – ナラティブ レビュー Protein Intake and Oral Health in Older Adults-A Narrative Review
  7. 一部の食品に含まれるアミノ酸は口腔の健康を改善する可能性がある Amino acid found in some foods could improve oral health 
  8. ボディビルディングとタンパク質サプリメントが唾液、歯肉溝滲出液、血清に与える影響 Effects of bodybuilding and protein supplements in saliva, gingival crevicular fluid, and serum [PDF]
  9. 非外科的歯周治療後の治癒の改善は、非喫煙者である患者のタンパク質摂取量の増加と関連しています  Improved Healing after Non-Surgical Periodontal Therapy Is Associated with Higher Protein Intake in Patients Who Are Non-Smokers
  10. 高齢者の口腔健康と口腔微生物叢に対するタンパク質摂取量の増加を目的とした食事アドバイスの効果: ランダム化比較試験 The Effect of Dietary Advice Aimed at Increasing Protein Intake on Oral Health and Oral Microbiota in Older Adults: A Randomized Controlled Trial
  11. 実験用歯磨き粉におけるカゼインホスホペプチド、グリコマクロペプチドナノ複合体、およびプロバイオティクスの抗菌および再石灰化効果:in vitro比較研究 Antibacterial and Remineralization Efficacy of Casein Phosphopeptide, Glycomacropeptide Nanocomplex, and Probiotics in Experimental Toothpastes: An In Vitro Comparative Study
  12. エナメル質と象牙質の侵食を防ぐために、オレンジジュースに食物タンパク質を補給します Supplementation of an orange juice with dietary proteins to prevent enamel and dentin erosion
  13. アスリート集団における虫歯、歯の侵食、栄養習慣:横断的研究 Dental Caries, Tooth Erosion and Nutritional Habits in a Cohort of Athletes: A Cross-Sectional Study