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歯科治療における拡大装置(ルーペや顕微鏡)の使用に関する論文

歯医者さんが治療で使う「拡大装置」(ルーペや顕微鏡など)についての認識、好み、そして実際の使い方を調べた研究について、一般の方にも分かりやすいようにまとめました。

要点だけまとめると

拡大装置は現代の歯内療法および修復歯科診療における「標準的な治療」と見なされるべきである

専門医の約46.3%は、すべての処置において常に拡大装置を使用している

35.8%の参加者は、拡大装置が利用できない場合は患者さんの予約を延期したいと考えており、41.8%は処置内容によるが治療をしない可能性があると回答


歯内治療医と修復歯科医における拡大鏡の使用に関する実践と嗜好:多施設共同研究 Practices and preferences in the use of magnification among endodontists and restorative dentists: A multicentre study January 7, 2025

拡大装置とは?なぜ必要なのでしょう?

歯科治療、特に歯の神経の治療(歯内療法)や、詰め物・被せ物などの修復治療は、非常に細かく正確な作業が求められます。昔の歯医者さんは、手の感覚とレントゲン写真に頼って治療していましたが、それでは見えにくい部分が多く、治療のミスにつながるリスクがありました

そこで近年、「拡大装置」という道具が導入されるようになりました。これには、メガネのようにかける「歯科用拡大ルーペ」や、もっと大きく拡大できる「歯科用手術顕微鏡(DOM)」などがあります。

これらの拡大装置は、以下の点で歯医者さんと患者さんにとって大きなメリットがあると考えられています。

  • よく見えるようになる: 治療する部分が大きくはっきり見えるため、より精密な作業が可能になります。
  • 疲れにくい: 姿勢が改善され、首や肩の筋肉への負担が減り、歯医者さんの体へのストレスが軽減されます。
  • 治療の質が上がる: 隠れた根管を見つけたり、石灰化した(硬くなった)根管を治療したり、折れた器具を取り出したりといった難しい処置がしやすくなります。
  • 治療の成功率が上がる: 難しいケースでの治療成績(予後)が改善すると考えられています。

このようなメリットがあるにもかかわらず、地域によっては拡大装置の利用が進んでいないケースもあるため、この研究では世界各地の歯医者さんが拡大装置をどう考えているかを調べました。

どのような調査が行われましたか?

この研究は、中東・北アフリカ(MENA)、イギリス諸島、インド亜大陸という3つの異なる地域の歯内療法医と修復歯科医を対象に行われました。

  • 対象者: 25歳から65歳までの、大学院で専門的な教育(修士号以上)を修了した歯医者さん、合計534人が参加しました。
  • 方法: 質問紙調査(アンケート)が使われました。アンケートは、歯医者さんの年齢や経験などの「基本情報」、拡大装置への「認識」、どの装置を「好むか」、実際にどう「使っているか」の4つのセクションに分かれていました。
  • データの収集: WhatsAppを使ってオンラインでアンケートが配布され、口コミで参加者を募る「スノーボール便宜サンプリング」という方法でデータが集められました。

調査から分かった主なことは何ですか?

この研究から、拡大装置に対する歯医者さんの考え方や実際の利用状況について、いくつかの重要な結果が得られました。

1. 拡大装置に対する歯医者さんの「認識」

  • 参加者の大多数(71%)は、拡大装置が歯医者さんの視野を改善すると強く同意しました。
  • 多くの歯医者さん(58.8%)は、拡大装置が体の負担(人間工学)を改善すると認識していました。
  • また、53.6%が目の疲れを防ぐと、63.5%が治療時間を短縮すると、57.1%が仕事の質を高めると回答しました。
  • 特に重要視されたのは、拡大装置が現代の歯内療法において「標準的な治療法」と見なされるべきであるという意見(60.9%)と、大学院の教育課程に必須の要素として組み込むべきであるという意見(60.3%)でした。

2. 歯医者さんの「好み」

  • 拡大装置の種類では、フリップアップルーペ(51.1%)が最も好まれ、次いで歯科用手術顕微鏡(32.2%)でした。
  • 好まれる倍率としては、**中程度の倍率(8倍~16倍、48.5%)**が最も多かったです。
  • 興味深いことに、35.8%の参加者は、拡大装置が利用できない場合は患者さんの予約を延期したいと考えており、41.8%は処置内容によるが治療をしない可能性があると回答しました。これは、拡大装置への依存度の高さを示しています。

3. 歯医者さんの「実践」(実際の使い方)

  • 専門医の約46.3%は、すべての処置において常に拡大装置を使用していると報告しました。
  • 特に、隠れた根管の特定、石灰化した根管の治療、折れた器具の除去、外科的な歯内療法、ひび割れの検出などの難しい処置で日常的に使われていることが分かりました。
  • 拡大装置の使い方は、大学院でのトレーニング中に学んだ(48.9%)、または**継続的な専門能力開発コースやワークショップに参加して学んだ(39.3%)**という回答がほとんどでした。

4. 拡大装置の利用傾向に影響する要因

  • 地域: イギリス諸島の参加者は、インド亜大陸の参加者に比べて、拡大装置に対する「適切な認識」が2.42倍高いことが示されました。
  • 学歴: フェローシップ(専門的な資格)を持つ参加者は、修士号を持つ参加者に比べて2.77倍「適切な認識」が高い傾向にありました。
  • 勤務先: 公的機関で働く歯医者さんは、民間機関で働く歯医者さんに比べて5.499倍「適切な認識」が高いことが示されました。これは、公的機関がより設備が整っている可能性があるためと考えられます。
  • 年齢・経験: 45~55歳の中高年層の参加者や、15年以上の経験を持つベテランの歯医者さんの方が、拡大装置の使用に対してより「適切な認識」を持っている傾向にありました。

この研究の結論は何ですか?

この研究の参加者の大多数は、歯科用拡大装置が歯医者さんの視力、体の負担(人間工学)、仕事の質を改善し、目の疲れを防ぎ、治療時間を短縮し、治療の成功率を高めると信じています。

そのため、この研究は、これらの装置が現代の歯内療法および修復歯科診療における「標準的な治療」と見なされるべきであると強く推奨しています。

また、将来の歯医者さんがこれらの重要なツールを効果的に使えるようにするために、公認された大学院の歯科研修プログラムやカリキュラムに、拡大装置の使用を必須で含めるべきであると強調されています。

この研究の強みと限界

  • 強み: 世界中の異なる地域の歯医者さんを対象としたため、幅広い視点や多様な状況を捉えることができました。また、高度な学位を持つ経験豊富な専門家に焦点を当てたため、結果の信頼性が高いです。
  • 限界: オンラインでのアンケート調査であったため、回答に偏り(回答バイアス)が生じる可能性があります。より広い集団に結果を一般化するためには、もっと計画的な無作為抽出による大規模な研究が望ましいとされています。