おしゃれの裏に潜むリスク:舌ピアス・唇ピアスがあなたの歯や歯茎、歯並びにもたらす影響
ピアスは、個性を表現するファッションアイテムとして人気がありますが、舌ピアスの許容度(他人から受け入れられる度合い)は全体で10%とかなり低く、口ピアスも17%程度に留まり、耳の97.9%と比較してかなり低くなる傾向にあります[1]。

そして実は、口の中の健康に様々な悪影響を及ぼす可能性があることも研究で明らかになっています。オシャレのために始めたピアスが、将来的に深刻な口腔トラブルにつながることも少なくありません。そんな口腔内のピアスについて書かれている論文をまとめてみました。
当院での実際の症例は【症例|舌ピアスによる歯の破折】を御覧ください
舌・唇ピアスが引き起こす主な口腔トラブル
歯や歯ぐきへの直接的なダメージ
- 歯の欠け・破折は3倍のリスク増加
金属製のピアスが歯に繰り返し当たることで、歯の表面が削れたり、ひびが入ったり、最悪の場合には歯が欠けてしまうリスクが非常に高いことが示されています[2,3]。
口腔ピアスを有する参加者における歯牙破折の有病率は34%であり、歯の摩耗は34%、歯の損傷は27%、歯の欠け(チッピング)は22%。口腔ピアスと歯牙破折の存在との間には有意な関連が認められ、ピアスのない人と比較して破折リスクは3倍でした。[2]
- 歯ぐきの後退(歯肉退縮)は7倍のリスク増加
ピアスが歯ぐきに慢性的に当たることで、歯ぐきが下がって歯の根元が露出し、見た目の問題だけでなく、知覚過敏を引き起こすこともあります。特に舌ピアスは歯肉の後退が多く報告されています。[4,5] そして、ピアスのない人と比較して歯肉退縮リスクは7倍でした。[2]
- 歯並びの乱れ(歯の移動・正中離開)
特に舌ピアスが前歯を押し続けることによって、歯と歯の間にすき間(正中離開)ができたり、歯並びが乱れたりするケースも報告されています[6]。正中離開の該当論文は画像もあるので見たい方はこちら
歯周病や骨への影響
- 歯周病のリスク増加
ピアスの周囲は食べかすや細菌がたまりやすく、通常の歯磨きでは汚れが完全に除去しにくいため、歯ぐきの炎症や歯周病を発症するリスクが高まります[4]。
- 歯を支える骨(歯槽骨)の減少
ピアスによる慢性的な刺激や炎症が原因で、歯を支えている骨(歯槽骨)が吸収されて減少してしまうリスクもあります。重症化すると、外科手術が必要になる場合もあります。[5]
- インプラント周囲炎のリスク増加
舌ピアスは、インプラントを装着している場合、インプラント周囲炎(インプラント周囲の炎症)を引き起こす可能性も指摘されています[7]。
感染症・その他の重篤な合併症
- 感染症:
口の中には多くの細菌が存在するため、ピアスの穴から細菌が侵入しやすく、感染症を引き起こすことがあります。腫れや痛み、発熱だけでなく、発声や飲み込みが困難になったり、喉が腫れて呼吸がしにくくなるなど、重篤な症状に至るケースも報告されています。
- ピアスの埋没や誤飲:
ピアスが口の中の組織に埋まってしまったり、外れて誤って飲み込んでしまう事故も報告されています。
特に強調すべきポイント
- トラブルは徐々に進行する:
「歯が欠ける」「歯ぐきが下がる」といったトラブルは、ピアスを開けてすぐに現れるとは限りません。多くの場合、数年かけて徐々に進行し、気づいた時にはかなり深刻な状態になっていることがあります。
- 歯科治療への影響が大きい
口腔内のダメージは、将来的に必要となる歯科治療(例えば、歯列矯正やインプラント治療)の成功率を下げたり、治療期間を延ばしたりする原因にもなり得ます。
- 歯科レントゲン写真の撮影障害
歯科での検査でピアスによりレントゲンが正確に写ってこない部位が出てくるため必要に応じて追加の撮影が必要になります。

- 若年層ほど注意が必要
特に10代や20代といった若い年齢でピアスを開けた場合、すぐに問題がなくても、30代以降になってから深刻な口腔トラブルが現れるリスクが高いことが示されています。若い時期にはリスクに気づきにくい傾向がありますが、将来的に歯を失うことにもつながりかねません。
予防策・リスクを減らすためにできること
おしゃれのためのピアスですが、口の中に装着する場合は、想像以上に大きなリスクが伴うことが、信頼できる研究によって明らかになっています。トラブルを防ぎ、口の健康を守るためには、以下の点を心がけましょう。
- ピアスの装着を検討する前に、必ず歯科医師に相談しましょう。
- 装着後は、毎日の丁寧な口腔ケアと、定期的な歯科検診を欠かさないようにしましょう。ピアス周囲は特に丁寧に清掃し、食後や寝る前にはうがいを徹底して清潔を保ち、感染予防に努めましょう。
- 腫れや痛み、違和感、あるいは歯ぐきの変化などを感じたら、すぐにピアスを外し、速やかに歯科や口腔外科を受診しましょう。
- ピアスの材質やサイズ、装着位置に十分注意し、歯や歯ぐきに繰り返し当たらないものを選ぶことが重要です。
- もしピアスが常に歯や歯ぐきに当たる感覚がある場合は、早めに見直しを検討しましょう。
まとめ
アメリカでは12歳の子に舌ピアスをすることで炎上しているという2025年の日本語の記事[8] もあり、社会的な関心も高い話題です。そして、その記事にもある通りアメリカ小児科学会もトラブルの多さから注意喚起をするほどで、「ボディピアス、10代の若者、そして潜在的な健康リスク」として歯の外傷や脱落による誤飲、顎骨が影響を受けて歯を保存するために口腔外科手術が必要になる可能性、口や唇の感染症は発声、咀嚼、嚥下障害、あるいは喉を塞ぐ腫れを引き起こす可能性を示しています。[9]そして、アメリカ小児科学会の臨床報告で以下のように述べています。[10]
「舌ピアスを考えている若者は、舌ピアスによって歯が欠ける確率が高いことを知らされるべきです。」
「ピアスが見える場合、就職や生活、教育にどのような影響があるかについて、青少年にカウンセリングを行うべきである。」
舌ピアスや唇ピアスは、手軽なおしゃれに見えますが、その裏には全身の健康にまで及ぶ重大なリスクが潜んでいます。特に「歯が欠ける」「歯ぐきが下がる」「歯が動く」といった問題は、一度起きてしまうと完全に元に戻すことが非常に難しい場合が多いです。
安易に考えず、長期的な健康リスクをしっかりと理解し、歯科医師とよく相談した上で、後悔しない選択をしてください。すでにピアスをしている方も、日々のケアと定期的なチェックを怠らないことが、健康な口を保つために不可欠です。
舌ピアスで歯が欠けたという方は当院にもいらっしゃることがあります。自覚がなくとも一度検診をされてもいいかと思いますのでお気軽にご予約ください。
引用文献
- 印象形成におけるピアスが与える影響について [PDF] 京都先端科学大学 心理学科
- オーラルピアスは口内に問題を引き起こしますか? Do oral piercings cause problems in the mouth? A systematic review and meta-analysis
- 舌ピアスの長期的影響 – 症例対照研究 Long-term effects of tongue piercing — a case control study
- 口腔ピアスが歯周の健康に及ぼす影響 – 体系的なレビュー Impact of oral piercings on periodontal health: A systematic review
- 唇と舌のピアスによる歯槽骨の喪失と歯肉退縮 Alveolar bone loss and gingival recession due to lip and tongue piercing
- 舌ピアスによる正中線歯間隙 Midline Diastema Caused by Tongue Piercing (Journal of Clinical Orthodontics)
- 舌ピアスが歯周組織およびインプラント周囲の健康に及ぼす影響:成人を対象とした横断的症例対照研究 Effect of tongue piercing on periodontal and peri-implant health: A cross-sectional case-control study in adults
- 12歳の娘に“舌ピアス”を許可した母親に賛否両論。「舌ピアスを開けるには若すぎる」との声も Harper’s BAZAAR(日本語記事)
- ボディピアス、10代の若者、そして潜在的な健康リスク:AAPレポート解説 米国小児科学会の著作記事 Body Piercings, Teens & Potential Health Risks: AAP Report Explained – HealthyChildren.org
- 思春期および若年成人のタトゥー、ピアス、瘢痕化 Adolescent and Young Adult Tattooing, Piercing, and Scarification | Pediatrics | American Academy of Pediatrics
その他の参考文献
- A 大学生のピアスに関する実態調査 [PDF] 茨城大学教育学部
- ピアッシング,コスプレ,自傷行為と自己概念との関連性の検討 [PDF] 文化女子大学服装学部

