なぜ韓国人は日本人より歯周病が少ないのか?
近年、隣国である韓国と日本の間で、意外な健康格差が注目されています。両国は遺伝的に非常に近く、生活水準や社会背景も似ているにも関わらず、韓国人の方が日本人より歯周病の有病率が低いという事実が明らかになりました[1]。この謎を解明するため、九州大学の研究チームが行った画期的な研究[2]について、分かりやすく解説します。
研究の背景:なぜ口腔内細菌に注目したのか?
私たちの口の中には、実に約700種類もの細菌が住んでいます。これらの細菌は「口腔マイクロバイオーム」と呼ばれ、口腔内の健康維持に重要な役割を果たしています。従来、歯周病などの口腔疾患は単に特定の「悪玉菌」が原因とされていましたが、近年の研究により、細菌叢全体のバランスが健康維持には重要であることが分かってきました3。
研究者たちは、日韓の歯周病有病率の違いが、この口腔内細菌叢の組成の違いにあるのではないかと仮説を立てました。
研究方法:最新技術で細菌を調べる
この研究では、最新の分子生物学的手法を用いて細菌叢の解析が行われました。
調査対象:
- 韓国:楊平(ヤンピョン)郡の住民543名
- 日本:福岡県久山町の住民2,272名
解析方法:
- T-RFLP法:すべての参加者の唾液から細菌構成を比較
- 16S rRNA遺伝子解析:細菌を特定するための「指紋」のような遺伝子を調べる手法
- 次世代シーケンサー:大量の細菌DNAを高速で解析
重要なのは、口腔の健康状態が細菌構成に影響を与えることを避けるため、完全に健康な口腔を持つ人(韓国人52名、日本人88名)に限定して詳細な分析を行ったことです。
主な発見
細菌叢の構成が日韓で明確に異なる
日本人の特徴:
より多様な細菌コミュニティを持つ 17種類の細菌属がより多く存在
「問題のある」細菌グループ:Veillonella(ベイロネラ)、Prevotella(プレボテラ)、Fusobacterium(フゾバクテリウム)が多い
- PrevotellaとVeillonella:歯周病患者の唾液で高い比率を示すことが以前の研究で確認されている
- Fusobacterium:歯周病の原因菌として知られ、口臭の原因にもなる
韓国人の特徴:
「健康的」な細菌グループ:Neisseria(ナイセリア)とHaemophilus(ヘモフィルス)が多い
- Neisseria:健康な口腔でより高い比率を示し、口腔疾患の予防に寄与する可能性
- Haemophilus:同様に健康な口腔環境の維持に関与
考察:日韓の食文化が口腔マイクロバイオームに与える影響
本研究では、日本人の口腔マイクロバイオームが韓国人に比べて歯周病関連菌が優勢である一方、韓国人では健康維持に寄与する菌が多いことが示されました。この背景には、両国の「発酵食品」や「味付けの特徴」といった食文化の違いが大きく関わっていると考えられます。
韓国の食文化と口腔細菌叢
- キムチの毎日の摂取
韓国人は乳酸発酵食品であるキムチをほぼ毎食摂取しており、これは主要な乳酸菌(例えばWeissella koreensis、Leuconostoc属、Lactobacillus属)が豊富に含まれます。

- 辛味・塩味の強い味付け
唐辛子由来のカプサイシンや高塩分食品は、口腔内の一部の有害菌を抑制し、健康的な細菌群集を維持する可能性がある。
これらにより、韓国人では健康口腔で優位とされるNeisseriaやHaemophilusなどの菌が多く検出される結果となりました。
日本の食文化と口腔細菌叢
- 大豆発酵食品の摂取
味噌、納豆、醤油など、日本人の食卓には大豆を原料とした発酵食品が豊富です。これらはビフィズス菌や納豆菌(Bacillus subtilis)、各種乳酸菌を含み、口腔内で善玉菌をサポートします。 - ヨーグルトやチーズなどの乳製品
ヨーグルトに含まれる乳酸菌は、腸内だけでなく口腔内でも悪玉菌の増殖抑制や免疫活性化に寄与すると報告されており、口臭予防にも有効とされています。
しかし本研究の日本人では、Prevotella、Veillonella、Fusobacteriumなど歯周病関連菌が優勢でした。これは、現代の精製炭水化物中心の食生活や、過度な殺菌口腔ケアが、発酵食品の摂取効果を相殺している可能性を示唆します。
発酵食品がもたらす作用機序
- 乳酸菌・ビフィズス菌などのプロバイオティクス効果により、口腔内での悪玉菌のコロニー形成を阻害。
- 発酵過程で生成される酵素(アミラーゼなど)が歯面に付着したデンプン残渣を分解し、プラーク形成を抑制。
- ビタミンC・Kなどの抗酸化・抗炎症成分が歯肉の炎症を軽減し、歯周組織の健康維持に寄与。
食文化改善の提案
- 発酵食品+多様な微生物:キムチ×納豆、ヨーグルト×味噌汁など、日本と韓国双方の発酵食品を組み合わせることで、相乗的に口腔内の善玉菌を増やせる可能性があります。
- 辛味・食物繊維の導入:唐辛子由来成分や食物繊維が豊富な野菜・海藻を日常的に摂取し、口腔内環境のバランス改善を図りましょう。
- 適度な口腔ケアの併用:発酵食品の摂取だけでなく、過度な殺菌を避ける、正しいブラッシング・洗口を継続することが重要です。
以上のように、日韓の食文化の違いが口腔マイクロバイオームの構成差を生み、その結果として歯周病有病率の差につながっている可能性が高いと考えられます。今後は両国の発酵食品成分がどのように口腔内細菌に作用するかを解明し、食生活を通じた口腔健康維持法の確立が期待されます。
引用文献
- 日本人と韓国人の口腔保健状態および口腔常在細菌叢の国際比較 [PDF] 九州大学学術情報リポジトリ
- 韓国人と日本人の成人における口腔常在細菌叢の異なる構成 Kim O-S, Cho Y-J, Lim Y-W, et al. Distinct composition of the oral indigenous microbiota in South Korean and Japanese adults. Sci Rep. 2014 Nov 11;4:6990.
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