歯科疾患・味覚障害・舌痛症で使われる漢方薬のやさしい解説
最終更新日:2025/12/25
はじめに
最近、歯科や口の中のトラブルに漢方薬が使われるケースが増えています。漢方は体全体のバランスを整えたり、慢性的な症状を緩和したりする力があります。この記事では、実際に歯医者さんで処方されることが多い漢方薬や、その使い方についてわかりやすくまとめました。

歯やお口のトラブル別・漢方薬ガイド
| 症状例 | 主な漢方薬 | 特徴・ポイント |
|---|---|---|
| 歯が痛い・抜歯後の痛み | 立効散(りっこうさん) | 直接口の中で効かせるタイプ。抜歯の後などの痛みをやわらげます。 |
| 繰り返す口内炎 | 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) | 胃の調子や体の炎症にも対応し、口の中の炎症を鎮めます。 |
| 口が乾く(ドライマウス) | 五苓散(ごれいさん) | 体の水分バランスを整えて、口の乾きを軽減します。 |
| 歯周病・歯ぐきの腫れ | 排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう) | 化膿した歯ぐきの炎症を抑えて「うみ」を出しやすくします。 |
| 体力低下・病後 | 補中益気湯(ほちゅうえっきとう) | 体力や免疫力を回復し、元気を取り戻したい時に使われます。 |
| 神経痛・顔の痛み | 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) | 神経の痛みや筋肉のこわばりを和らげます。 |
| 高齢による歯ぐきや骨の衰え | 六味地黄丸(ろくみじおうがん) | 老化や慢性症状に合わせて体を元気づけ、歯ぐきの栄養状態を保ちます。 |
味覚障害・舌痛症に適応する漢方
| 症状例 | 主な漢方薬 | 特徴・ポイント |
|---|---|---|
| 味が感じにくい | 補中益気湯(ほちゅうえっきとう) | 体力低下や疲れがある時の味覚障害によく使います。 |
| 口の中や舌が乾く | 麦門冬湯(ばくもんどうとう) | 口や舌の乾燥をしっとりさせます。 |
| 舌がピリピリ痛む(舌痛症) | 加味逍遙散(かみしょうようさん) | ストレスや更年期が関係する舌痛症によく処方されます。 |
| 精神的ストレス・緊張関連 | 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) | 不安や緊張が強い時、舌や口の違和感がある場合に向いています。 |
| 舌の表面が赤い・炎症が目立つ | 黄連解毒湯(おうれんげどくとう) | 口の中に熱がこもって違和感や痛みが強い方の炎症を鎮めます。 |
| 直接舌や粘膜に使う | 立効散(りっこうさん) | 粉末を含む・うがいに使い、舌の痛みの局所的なケアにも使われます。 |
歯科で投薬される代表的な漢方薬と構成生薬
現代の歯科医療では、7つの代表的な漢方薬が広く使用されています。
| 漢方薬名 | 読み方 | 適応症 | 構成生薬 | 生薬数 |
|---|---|---|---|---|
| 立効散 | りっこうさん | 歯痛、抜歯後の疼痛 | 防風、細辛、升麻、甘草、竜胆 | 5種 |
| 半夏瀉心湯 | はんげしゃしんとう | 口内炎 | 半夏、黄芩、乾姜、人参、甘草、大棗、黄連 | 7種 |
| 黄連湯 | おうれんとう | 口内炎 | 黄連、半夏、人参、甘草、桂皮、大棗、乾姜 | 7種 |
| 茵陳蒿湯 | いんちんこうとう | 口内炎 | 茵陳蒿、山梔子、大黄 | 3種 |
| 五苓散 | ごれいさん | 口渇(口腔乾燥症) | 沢瀉、猪苓、蒼朮、茯苓、桂皮 | 5種 |
| 白虎加人参湯 | びゃっこかにんじんとう | 口渇(口腔乾燥症) | 石膏、知母、粳米、人参、甘草 | 5種 |
| 排膿散及湯 | はいのうさんきゅうとう | 歯周炎 | 桔梗、芍薬、生姜、大棗、甘草 | 5種 |
1. 立効散(りっこうさん)
適応症: 歯痛、抜歯後の疼痛
特徴: 歯痛に対する古典的で信頼される処方。風邪による熱型の歯痛に特に有効
構成生薬の役割:
- 防風(ぼうふう):解熱、抗炎症
- 細辛(さいしん):局所麻酔様作用、鎮痛
- 升麻(しょうま):清熱、消腫
- 甘草(かんぞう):調和、鎮痛、抗炎症
- 竜胆(りゅうたん):清熱、利湿
2. 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
適応症: 口内炎(特に反復性・心下支結を伴う)
特徴: 胃腸機能と口腔環境の同時調整。最も処方される口内炎治療薬の一つ
構成生薬の役割:
- 半夏(はんげ):止嘔、利水
- 黄芩(おうごん):清熱、止血
- 黄連(おうれん):清熱、抗菌
- 乾姜(かんきょう):温中、鎮嘔
- 人参(にんじん):補気、調和
- 甘草(かんぞう):調和、鎮痛
- 大棗(たいそう):補気血、調和
3. 黄連湯(おうれんとう)
適応症: 口内炎(特に熱型で口渇を伴う)
特徴: 黄連の抗菌作用を主体とした直接的な抗炎症処方
構成生薬の役割:
- 黄連(おうれん):清熱、抗菌、抗炎症
- 半夏(はんげ):利水、鎮嘔
- 人参(にんじん):補気
- 甘草(かんぞう):調和、鎮痛
- 桂皮(けいひ):温中、血行促進
- 大棗(たいそう):補気血
- 乾姜(かんきょう):温中
4. 茵陳蒿湯(いんちんこうとう)
適応症: 口内炎(特に黄疸様症状や肝機能障害を伴う場合)
特徴: 肝胆機能の改善を通じた口内炎治療
構成生薬の役割:
- 茵陳蒿(いんちんこう):清熱、利湿、退黄
- 山梔子(さんしし):清熱、抗炎症
- 大黄(だいおう):瀉下、活血
5. 五苓散(ごれいさん)
適応症: 口渇(口腔乾燥症)
特徴: 水代謝の異常に起因する口渇を改善する利水処方
構成生薬の役割:
- 沢瀉(たくしゃ):利水、甘味
- 茯苓(ぶくりょう):健脾、利水
- 猪苓(ちょれい):利水
- 蒼朮(そうじゅつ):燥湿、健脾
- 桂皮(けいひ):温陽、気化
6. 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
適応症: 口渇(口腔乾燥症、特に熱燥型)
特徴: 高温期の口渇や放射線療法による口腔乾燥に有効
構成生薬の役割:
- 石膏(せっこう):清熱、生津、鎮静
- 知母(ちも):清熱、潤肺、生津
- 粳米(こうべい):健脾、生津、調和
- 人参(にんじん):補気、生津
- 甘草(かんぞう):調和、生津
7. 排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)
適応症: 歯周炎(化膿性疾患一般)
特徴: 排膿作用と鎮痛作用を同時に発揮。歯周病の急性増悪時に有効
構成生薬の役割:
- 桔梗(ききょう):排膿、止痛、宣肺
- 芍薬(しゃくやく):活血、止痛
- 生姜(しょうきょう):温中、発散
- 大棗(たいそう):補気血、調和
- 甘草(かんぞう):調和、鎮痛、排膿
漢方薬を選ぶうえでの注意点
- 同じ症状でも体質(証)によって使う薬が変わります。自己判断せず、必ず歯科医や専門家にご相談を。
- 体全体の状態、食欲や睡眠、不安や生活リズムも合わせて診てくれるのが漢方の特徴です。
- 副作用や他のお薬との飲み合わせに注意し、現在飲んでいる薬は医師に伝えてください。
- 漢方薬は数週間〜数ヶ月と、やや長めに続けて効き目が現れることもあります。
ポイント
- 症状だけでなく体質を大切にするのが漢方の良さです。
- 長引く口のトラブルや、どこに相談していいかわからない時は、かかりつけの歯科医院や漢方相談薬局に一度聞いてみてください。
参考文献
- 歯科における漢方 – 日本歯科医師会
- がん患者さんの味覚障害 – がんと向き合うあなたの応援サイトAssist | 第一三共エスファ
- [保険診療のてびき] 当科味覚外来における漢方使用 – 医科 – 学術・研究 | 兵庫県保険医協会
- 立効散の含嗽療法が舌痛症と味覚障害に奏効した1例(論文PDF)
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この記事の監修者
中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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