『薬屋のひとりごと』で描かれる「おしろいは毒」は、この世界で今も続く病理である
『薬屋のひとりごと』、厚生労働省から電子処方箋の普及についてのコラボポスターが届いたので、医療従事者では存在を知らないひとがいないと思われるこの作品。
第三期と劇場版の放映も決まって人気はとどまる所を知りません。

そんな『薬屋のひとりごと』の第1期1話にこんなセリフがあります。
玉葉妃「“おしろいは どく 赤子に ふれさすな” 無知は罪ですね」
猫猫「おしろいに含まれる毒に体をむしばまれ 命を落としました」
作中では梨花妃が重篤な中毒症状を起こしています。
別の作品、『異世界薬局』アニメ第1期 第5話では、白粉(おしろい)の毒性について説明され、鉛白や塩化第一水銀など有害な重金属が含まれていたことが語られています。
このように異世界の話として描かれている有毒なおしろい(白粉)ですが、このおしろいにまつわる毒性の話自体はこの世界で起きたことをベースに描かれています。そして、これは中世に起きていた過去のものではなく、現在進行形で今もなお続いてる国際的な社会問題となっています。
歯科治療においては、水銀を用いたアマルガムという合金による治療が中国の659年に編纂された医学文献『新修本草』に載っています。それから1000年以上が経ち、現在でもカナダやアメリカでは現役で使用されているアマルガムと、その水銀が含まれた廃液処理は、歯科医師にとって身近にある、あるいは日本でも身近にあった事柄でもあります。
そんな日本では廃止されたアマルガム合金を現在でも使用している国があるように、世界的には化粧品における水銀が依然として問題となっているのです。
国連が段階的廃止を推進しているにもかかわらず、水銀の使用は増加している
水俣条約会議
国連水銀に関する水俣条約の第6回締約国会議が2025年11月3日から7日までジュネーブで開催されました。
- 水銀の使用量は増加しており、特に小規模金鉱採掘や美白製品への使用が顕著
- 条約加盟国は金の供給チェーンを追跡する新たな方法に同意したが、一部の国は水銀を含む美白クリームを段階的に廃止するためのさらなる時間を求めた
各国はスキンケア製品中の水銀問題に対処するためにさらなる時間を求めている
”加盟国は、2023年のCOPで1ppmの閾値を全面禁止に置き換える決定がなされたにもかかわらず、美白製品(SLP)における水銀の継続的な使用に関する条約会合も開催した。環境・健康擁護団体の国際連合であるゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループによると、市販の美白クリーム37種類のうち35種類で、従来の1ppmの閾値の数千倍に相当する濃度の水銀が検出された。あるサンプルでは、科学者らが24,000ppmの水銀を検出した。
「ZMWG報告書は、水銀含有化粧品の各国による禁止だけでは有害な化粧品の販売を抑制するのに十分ではないという厳しい真実を突きつけています」「世界的な生産規制を実施することで問題の根本原因に対処しなければ、水銀含有化粧品の悪影響から人々の健康と環境を守ることは困難でしょう。」
バングラデシュ、タイ、インドを含む複数の国の代表は、実用的な代替品の不足と、特に遠隔地における段階的廃止を監督する国家能力の不足を理由に、水銀含有美白クリームの段階的廃止にさらなる時間を要するよう求めた。加盟国は、これらの例外を認めるべきかどうか、また、水銀化合物の供給者、供給源、取引状況をどのように把握すべきかについて議論した。”
これはつまり、今現在においてタイやインドなどで現地の美白クリームを購入した場合、水銀が入っている可能性がある、ということです。
日本におけるおしろいの広がりの歴史と規制について
日本では、奈良時代である7世紀ごろに中国から「はらや」(塩化第一水銀)、「はふに」(鉛白)という白粉がもたらされたようです。白粉が大衆化したのは江戸時代以降で、特に鉛白粉が広く使われました。鉛白は安価で色付きがよく、のびやすいという特徴から庶民から歌舞伎役者、上流階級まで幅広く利用されました。その流通は16世紀初頭に堺で始まり、江戸時代には本格的に一般化しました。
健康被害と社会問題化
鉛白には強い毒性があり、慢性的な使用で鉛中毒を引き起こします。中毒症状としては貧血、消化不良、神経障害、最悪の場合脳膜炎や死亡事故も発生しました。有名な事件としては、1887年の歌舞伎役者・中村福助の鉛白中毒発症が社会に大きな衝撃を与え、医学界や婦人雑誌でもこの危険性が取り上げられるようになりました。
水銀白粉の歴史
鉛白の前後には水銀を成分とする「軽粉」も使われており、特に室町時代から伊勢地方で生産されていました。水銀白粉も毒性が高く、やはり健康被害が問題となりました。
規制と代替品
これらの有毒な白粉は、徐々に規制対象となり、明治末期から大正期にかけて「無鉛白粉」の研究・商品化が進みました。昭和5年の内務省令により鉛白粉の製造・販売は1933年までに段階的に禁止されました。
現実には鉛や水銀を主成分とする有毒な白粉が、何世紀にもわたって美容のために使用され、深刻な健康問題を引き起こしました。規制と技術の進歩による代替品の登場で、日本におけるこの歴史に終止符が打たれました。
日本における化粧品の鉛および水銀の規制について
鉛の規制
日本では医薬品医療機器等法(旧薬事法)に基づく「化粧品基準」により、鉛の配合は厳しく制限されています。具体的には化粧品中の鉛含有量は10ppm(10mg/kg)以下に制限されており、人体への影響を考慮して使用が禁止あるいは制限されています。全成分表示義務もあり、輸入品についても成分分析が求められているため、規制の強化が図られています。
水銀の規制
水銀も極めて有害であり、化粧品中への配合は禁止されています。化粧品基準で水銀含有量は1ppm(1mg/kg)以下に制限され、実質的にほぼ使用禁止です。さらに国際条約である「水俣条約」にもとづき、水銀含有化粧品の製造・輸出入は禁止されており、日本もこれを踏まえています。しかし違法に高濃度水銀を含む化粧品が輸入される例もあり、健康被害の注意喚起が厚労省などから行われています。
まとめ
- 鉛は10ppm以下、ほぼ使用禁止に近い規制で、全成分表示義務と合わせて監視されている。
- 水銀は1ppm以下でほぼ禁止され、「水俣条約」の影響も強い。
- 違法輸入製品による健康被害には依然注意が必要。
このように、日本は鉛および水銀の化粧品中での使用を厳しく規制し、消費者の安全確保に努めていますます。
化粧品については非常に厳格な基準を作ってくれているので、国内ので販売されているものについてはまず安心できると考えてよいでしょう。しかし、海外で購入したもの、違法輸入商品や個人輸入ではその規制をかいくぐってしまう恐れがあるため、十分な注意が必要です。
参考文献
- Mercury use is on the rise despite a UN push for phaseout
https://cen.acs.org/environment/pollution/mercury-gold-minamata-toxic-skincare/103/web/2025/11 - テーマ資料 色材からみた化粧品の歴史
https://jstage.jst.go.jp/article/jcesj/45/7/45_311/_pdf/-char/ja - 第4章 毒と人間 4-4 毒と白粉文化
https://note.com/take_judge/n/n83debf3f6f41 - Wikipedia「おしろい」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8A%E3%81%97%E3%82%8D%E3%81%84 - 鉛(Pb)-鉛中毒の歴史 – 高純度化学研究所 公式ブログ
https://www.kojundo.blog/history/6113/ - 19 ~ 20世紀にわが国で使用された含鉛おしろいに関する研究
https://www.kose-cosmetology.or.jp/research_report/archives/2015/fullVersion/Cosmetology%20Vol23%202015%20p173-176%20Yoshinaga_J.pdf - 資生堂「もともとファンデは『鉛』でできていたの?」
https://www.shiseido.co.jp/foundation100/answer/q32.html - 国立国会図書館「第1章 江戸時代の化粧」
https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/29/1.html
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