コラム|船橋の歯医者|かわせみデンタルクリニック

初診のみ
WEB予約
電話予約
初診のみ
WEB予約

コラム

コラムCOLUMN

アスピリン喘息患者における鎮痛薬選択の落とし穴

~アセトアミノフェン「300mgの壁」と他剤の使用の可否、新たな薬の可能性まで~

注:この記事は医療従事者向けの記事です。
2025年時点での状況を記したものです。
ガイドラインや添付文書の改訂については最新のものをご確認下さい。

はじめに

歯科診療において、疼痛管理は極めて重要な課題です。しかし、アスピリン喘息(AERD:Aspirin-Exacerbated Respiratory Disease)の既往を持つ患者に対する鎮痛薬の選択は、医療現場で常に悩ましい問題となっています。

2023年10月、カロナール錠の添付文書が大きく改訂されました。これまで「禁忌」とされていた「アスピリン喘息又はその既往歴のある患者」という記載が削除され、代わりに「用法及び用量に関連する注意」として、「アスピリン喘息又はその既往歴のある患者に対する1回あたりの最大用量はアセトアミノフェンとして300mg以下とすること」という条件付き使用が可能になりました。

この改訂により、アセトアミノフェンは「アスピリン喘息患者でも安全に使用できる薬剤」という認識が広まりました。しかし、この認識には重大な落とし穴が潜んでいます。本稿では、2025年11月に公表された薬局ヒヤリハット事例を皮切りに、アスピリン喘息患者における鎮痛薬選択の実態と課題を検証します。

目次

  1. ヒヤリハット事例
  2. アセトアミノフェン:「安全」という幻想
  3. 用量が300mgでは効かないのであれば他剤はどうか?
  4. 歯痛管理の新たな選択肢の可能性
  5. 実際の医療現場で考えられる処方例と対応
  6. 薬剤師とのダブルチェックが大事
  7. まとめ

1. ヒヤリハット事例

日本医療機能評価機構の報告:2025年No.11 事例2

公益財団法人日本医療機能評価機構は2025年11月25日、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例2025年No.11」を公表しました。その中の事例2は、アセトアミノフェンの用量制限に関する重要な警告を含んでいます。

【事例の詳細】

70歳代の患者が歯科診療所を受診し、ロキソプロフェンNa錠60mg 1回1錠(疼痛時)が処方されました。しかし、患者はアスピリン喘息の既往があり、かかりつけの医師から「アスピリンやその他の非ステロイド性抗炎症薬を服用しないように」と指示を受けていました。

薬剤師が歯科医師に疑義照会を行ったところ、処方はカロナール錠500 1回1錠(疼痛時)に変更されました。薬剤師は一旦これを交付しましたが、その後、添付文書を改めて確認した際に、「アスピリン喘息又はその既往歴のある患者に対する1回あたりの最大用量はアセトアミノフェンとして300mg以下とすること」という記載があることに気付きました。

薬剤師は再度、歯科医師に疑義照会を行い、カロナール錠300 1回1錠(疼痛時)へ変更となりました。患者に連絡してカロナール錠500を回収し、カロナール錠300を渡すことで、重大なインシデントを回避できました。

【推定される要因】

報告書によれば、「薬剤師は、アスピリン喘息又はその既往歴のある患者に対するアセトアミノフェンの1回あたりの用量が300mg以下と定められていることを知らなかったため、カロナール錠500への変更は問題ないと考えた」とされています。

この事例から明らかなのは、「禁忌」から除外されたことで「安全」という認識が広まったが、実際には厳格な用量制限が存在するという事実です。

2. アセトアミノフェン:「安全」という幻想

高用量での発作誘発率34%の衝撃

アセトアミノフェンがアスピリン喘息患者に対して「1回300mg以下」という制限が設けられている理由は、用量依存的に喘息発作を誘発するリスクがあるためです。

国際的な研究によれば、アセトアミノフェン1000mg投与時には、アスピリン喘息患者の約34%で喘息発作が誘発されることが報告されています。一方、500mg以下では発作誘発率は低下しますが、それでも個人差が大きく、完全に安全とは言えません。

病型別・個人差による交差反応率の変動

アスピリン喘息(AERD)は、成人喘息患者の5~10%、小児喘息患者の3.6~7.8%に認められます。さらに、救急外来を受診する重症喘息患者の約40%がAERDであるという報告もあります。

交差反応率は病型によっても異なります。特に、慢性鼻副鼻腔炎を合併する重症AERD患者では、アセトアミノフェンへの交差反応率が高い傾向にあります。

歯痛・抜歯後疼痛における有効性

歯痛や抜歯後の疼痛に対して、アセトアミノフェン300mgの鎮痛効果は十分とは言えません。多くの臨床試験では、抜歯後の急性疼痛に対してアセトアミノフェン650mg以上が用いられており、300mgでは除痛が不十分なケースが多いのが現実です。

添付文書においても小児の用量は10mg/kg以上で記載されていることからも、体重が50kgの成人では500mgは必要と考えるのが妥当です。

アセトアミノフェン小児用量

抜歯後疼痛管理のジレンマ

ここに大きなジレンマが生じます。アスピリン喘息患者に対しては「1回300mg以下」という制限があるため、十分な鎮痛効果が得られない可能性が高い一方で、用量を増やせば喘息発作のリスクが上昇します。この課題をどう乗り越えるかが、臨床現場での大きな課題となっています。

では、アセトアミノフェンが300mgでは効かないのであれば他の薬剤を使用するのはどうでしょうか?

3. 代用薬の考察

3-1. キョーリンAP2 [発売中止]

アスピリン喘息患者へ使える禁忌でない薬剤だった

キョーリンAP2配合顆粒は、シメトリド(中枢鎮痛作用)と無水カフェインを組み合わせた配合剤で、添付文書上、アスピリン喘息患者に対する禁忌の記載がありませんでした。このため、一部の歯科医療機関では、アスピリン喘息患者への鎮痛薬として使用されていました。

発売中止となった経緯とその理由

しかし、杏林製薬は2023年10月に製造販売中止を案内し、2025年3月31日に経過措置期間が満了しました。2025年4月1日以降は保険請求ができなくなり、現在では入手不可能となっています。

製造販売中止の理由は公式には明示されていませんが、市場規模の縮小や製造上の問題が背景にあると推測されます。アスピリン喘息患者にとって貴重な選択肢の一つが失われたことは、臨床現場にとって大きな痛手となっています。

3-2. ソランタール(チアラミド塩酸塩)[塩基性NSAID]

ソランタールは、塩基性非ステロイド性抗炎症薬という独特な分類に属します。最大の特徴は、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用がないことです。

一般的なNSAIDsはCOX-1を阻害することでプロスタグランジンの産生を抑制し、その結果として鎮痛・抗炎症効果を発揮します。しかし、COX-1阻害はアラキドン酸代謝経路の変化を引き起こし、システイニルロイコトリエンの産生を増加させ、これが気道平滑筋収縮を引き起こすことでアスピリン喘息発作を誘発します。

ソランタールはCOX阻害作用を持たないため、理論的にはアスピリン喘息患者でも使用可能と考えられます。作用機序は、炎症部位で起炎因子のヒスタミンやセロトニンと強く拮抗し、急性炎症を特異的に抑制することです。

歯痛・抜歯後疼痛における有効性

ソランタールの臨床試験成績では、以下の有効率が報告されています:

  • 急性智歯周囲炎:76.0%(38/50例、対照薬48.8%、p<0.05)
  • 抜歯後の疼痛・炎症:69.6%

添付文書上の矛盾と臨床上の位置づけ

しかし、ソランタール錠の添付文書には、「アスピリン喘息又はその既往歴のある患者」が禁忌として記載されています。

これは大きな矛盾です。作用機序的にはCOX阻害作用がないため安全性が高いと考えられるにもかかわらず、添付文書上は禁忌とされています。この理由について、一部の専門家は「塩基性NSAIDsでも重症不安定なアスピリン喘息患者では喘息悪化の報告があるため、安全性の観点から禁忌に含めている」と説明しています。

臨床上は、軽症から中等症のアスピリン喘息患者に対して、慎重投与として使用される場合があるとの報告もありますが、添付文書上は禁忌であるため、保険診療上は使用が困難です。

3-3. セレコキシブ [COX-2選択的阻害薬]

臨床試験で実証された高い安全性

セレコキシブ(商品名:セレコックス)は、COX-2選択的阻害薬として分類されます。アスピリン喘息の原因となるCOX-1阻害作用がほとんどないため、理論的にはアスピリン喘息患者でも安全に使用できると考えられています。

歯痛・抜歯後疼痛での有効性

セレコキシブは、抜歯後疼痛に対して高い有効性が報告されています。多くの臨床試験では、セレコキシブ200~400mgが抜歯後の急性疼痛に対して有効であることが示されています。

国際的な臨床試験では、セレコキシブのアスピリン喘息患者に対する高い安全性が実証済み

Martín-García et al. (2003)の研究では、アスピリンや他のNSAIDsで喘息発作を起こした33名の患者に対してセレコキシブ200mgを投与したところ、全員が良好な耐容性を示し、喘息発作は1例も発生しませんでした

2005年の研究では、NSAIDsによる副作用歴を持つ120名の患者にセレコキシブ200mgを投与し、98.9%の耐容性が確認されました。特に、呼吸器症状やアナフィラキシー症状を呈した28名全員が、セレコキシブに対して良好な耐容性を示しました。

欧米におけるアスピリン喘息患者に対する使用

欧米の一部のガイドラインでは、アスピリン喘息患者に対してCOX-2選択的阻害薬(セレコキシブなど)を使用することが推奨されています。特に、米国アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI)のガイドラインでは、セレコキシブはアスピリン喘息患者でも安全に使用できる可能性が高いとされています。

添付文書と学術的エビデンスのねじれ

しかし、日本のセレコックス錠の添付文書には、「アスピリン喘息又はその既往歴のある患者」が禁忌として記載されています。

これは、国際的な学術的エビデンスと日本の添付文書の間に大きな「ねじれ」が存在することを意味します。欧米では、アスピリン喘息患者に対してセレコキシブを使用することが臨床ガイドラインで推奨されているケースもあるのに対し、日本では添付文書上の禁忌により使用できません。

3-4. トラムセット配合錠 [重要な制限]

「抜歯後の疼痛」という適応における禁忌

トラムセット配合錠は、トラマドール塩酸塩37.5mgとアセトアミノフェン325mgの配合剤です。特筆すべき重要な点として、2023年10月の改訂により、「抜歯後の疼痛」を適応とする場合に限り、「アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者」が禁忌として明記されました

添付文書には、禁忌の項に「〈抜歯後の疼痛〉2.8 アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者」と明確に記載されています。

禁忌とされた理由は、トラムセット配合錠に含有されるアセトアミノフェンの用量にあります。1錠中にアセトアミノフェン325mgが含有されており、これはアスピリン喘息患者の1回最大用量300mgを超えているため、添付文書上、抜歯後の疼痛では禁忌とされているようです。

非がん性慢性疼痛での用量制限

一方、トラムセット配合錠の「非がん性慢性疼痛」への適応については、アスピリン喘息患者に対して「1回1錠とすること」という制限が加わりました。ただし、この場合も最大300mgという制限があるため、1錠中の325mgのアセトアミノフェンを含むという矛盾が残存しています。

3-5. リリカ(プレガバリン)[神経障害性疼痛]

成分と作用機序

リリカ(一般名:プレガバリン)は、α2δ-リガンドに分類される神経障害性疼痛治療薬です。電位依存性カルシウムチャネルのα2δ-1サブユニットに結合し、神経前シナプスのカルシウム流入を抑制することで、グルタミン酸やサブスタンスPなどの興奮性神経伝達物質の放出を抑制します。

リリカは、添付文書上、神経障害性疼痛線維筋痛症に伴う疼痛を適応としています。通常の歯痛や抜歯後疼痛は、主に侵害受容性疼痛であり、神経障害性疼痛ではありません。そのため、これらの疾患に対してリリカを使用することは、添付文書上、適応外となります。

しかし、抜髄後の3~5%の患者に発症する神経障害性疼痛や、三叉神経痛など、歯科領域にも神経障害性疼痛は存在します。これらの疾患に対しては、リリカは有効性が期待できます。

歯痛・抜歯後疼痛での有効性

徳島大学の症例報告では、従来のNSAIDsでは対応困難な口腔顔面痛に対して、プレガバリン、トラムセット、加工附子末の三剤併用により、痛みが消失あるいは著明に改善した3例が報告されています。

アスピリン喘息患者への禁忌

重要な点として、リリカの添付文書には、アスピリン喘息患者に対する禁忌の記載がありません。神経障害性疼痛が疑われる歯科疾患(抜髄後神経障害性疼痛、三叉神経痛など)に対しては、アスピリン喘息患者でも使用可能です。

ただし、通常の歯痛や抜歯後疼痛に対して使用する場合は適応外使用となり、保険診療上の問題が生じます。

3-6. 立効散(ツムラ110番)[抜歯後の疼痛・歯痛]

成分と生薬構成

立効散は、医療用漢方薬で、以下の5種類の生薬、細辛(さいしん)2.0g、升麻(しょうま)2.0g、防風(ぼうふう)2.0g、甘草(かんぞう)1.5g、竜胆(りゅうたん)1.0gから構成されています。乾燥エキス含有量は7.5g中1.5gです。

歯科の適応範囲と効能

立効散は、添付文書上、明確に「抜歯後の疼痛、歯痛」が効能・効果として記載されています。医療用漢方薬として保険適応があり、アスピリン喘息患者の抜歯後疼痛管理において、安全性という面において最も信頼性のある選択肢となります。

立効散の作用機序と薬理学的特性

立効散は、その構成生薬により複合的な鎮痛効果を発揮します:

温性生薬による効果:防風と細辛は温性で、痛みや腫れを発散させます。細辛には特に局所麻酔作用があり、口腔内に含むことで歯痛や粘膜の痛みに対して直接的な鎮痛効果が得られます。

寒性生薬による効果:升麻と竜胆は寒性で、熱を冷まし炎症をとります。

調和作用:甘草は炎症反応を抑え、痛みを緩和します。

基礎研究により、立効散はシクロオキシゲナーゼ(COX)-2活性を抑制しながら、胃粘膜保護作用のあるCOX-1を抑制しないことが報告されています。このため、NSAIDsのように胃腸障害を引き起こしにくいと考えられます。

歯痛・抜歯後疼痛での有効率

日本歯科保存学会が2024年に発表した総説では、立効散の臨床的有効性が詳細に報告されています:

臨床研究の成績

  • 抜歯後疹痛20例への使用で、85%の有効性が報告
  • 口腔内の諸疾患の疼痛89例への使用で、81%の有効率
  • 象牙質知覚過敏症25例への使用で、フッ化ジアンミン銀塗布と立効散の内服(3包7.5g/日)の併用により、有効例が80%(20例)、やや有効が8%(2例)、無効が12%(3例)
  • 抜歯後疼痛50例への使用で、普通抜歯での有効率53.7%難抜歯での有効率46.2%骨性水平埋状智歯抜歯での有効率30%

含嗽療法の効果
立効散を湯に溶かし10秒間口に含んでゆっくり服用し、10分程度の含嗽で30~40分程度の疼痛抑制効果が得られると報告されています。

アスピリン喘息患者への禁忌と臨床応用

重要な点として、立効散の添付文書には、アスピリン喘息患者に対する禁忌の記載がありません。実際に、日本歯科保存学会の報告では、以下のような症例が記載されています:

アスピリン喘息患者での臨床例
「アスピリン喘息、高度腎障害、川崎病などで、酸性NSAIDsとアセトアミノフェンなどの西洋薬の選択が難しい場合に立効散を選択していた」と記載されており、実際の臨床現場でアスピリン喘息患者の疼痛管理に用いられていることが報告されています。

緩和ケアにおける応用

立効散は緩和ケアにおいても応用されています。6例の緩和ケア患者に対する立効散投与で、投与1~3回で口腔内の疼痛スコアが改善し、食事摂取や口腔ケアが可能になったと報告されています。

アセトアミノフェンアレルギーとNSAIDs不耐症患者への重要な役割

日本歯科保存学会の報告では、以下の重要な指摘がなされています:

「NSAIDs及びアセトアミノフェンが使用困難であった習慣性扁桃炎の診断から口蓋扁桃摘出術後の患者に対して、立効散2.5gを1包、10秒間の含嗽後に服用したところ、服用直後より疼痛が軽減し始めた。その後も立効散の頓用使用により疼痛管理を行い、良好な術後経過をたどり、術後6日目に退院した」

立効散におけるその他の適応疾患

応用疾患は多岐に渡っており、以下が報告されています:

口内痛、象牙質知覚過敏症、急性化膿性根尖性歯周炎、三叉神経痛、舌咽神経痛、下顎歯肉部痛、舌痛症、非定型顔面痛、ヘルペス性口内炎、ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死(BRONJ)、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)、神経障害性疼痛など。

甘草含有による注意事項

ただし、立効散には甘草1.5gが含まれているため、他の甘草含有製剤との併用により偽アルドステロン症(低カリウム血症、血圧上昇、浮腫)のリスクがあることには注意が必要です。

3-7. 排膿散及湯(ツムラ122番)[化膿性炎症と歯周組織炎]

成分と化膿疾患への適応

排膿散及湯は、以下の7種類の生薬:桔梗(きききょう)4.0g、芍薬(しゃくやく)3.0g、甘草(かんぞう)3.0g、大棗(たいそう)3.0g、枳実(きじつ)3.0g、生姜(しょうきょう)1.0gから構成されています。

添付文書の効能・効果は、「患部が発赤、腫脹して疼痛をともなった化膿症、癰(よう)、癤(せつ)、面疔(めんちょう)、その他癤腫症」と明記されています。

これは歯周組織炎、歯周膿瘍などの化膿性歯周疾患に保険適応がある数少ない漢方薬です。効能・効果に「疼痛をともなった」とあり、鎮痛剤とは言えないかもしれませんが効果に期待はできます。

歯周組織炎への臨床的有効性

日本歯科保存学会の報告では、排膿散及湯の歯周組織炎に対する有効性が詳細に記載されています:

慢性辺縁性歯周炎急性発作(P急発)への臨床成績

  • 13例への投薬(1日7.5g、3回分割、7日間処方)において、3日目で症状が消退・軽減したのは9例(抗菌薬併用2例)、7日目で消失したのは2例(抗菌薬併用1例)、改善しなかったのは1例

P急発10例での詳細な改善度

  • 歯肉発赤:投与前70%に明らかな発赤が認められたが、投与後70%は消失、30%は軽減
  • 腫脹:投与前70%に明らかな腫脹が認められたが、投与後80%は消失、20%は軽減
  • 疼痛:投与前80%に強い疼痛があったが、投与後すべて疼痛消失
  • 排膿:投与前50%に明らかな排膿が認められたが、投与後すべて排膿は認められなくなった

虚証患者での抗菌薬併用効果
虚証(体力がない)の患者に、抗菌薬とともに排膿散及湯(1日7.5g、3回分割、7日間処方)を併用投与した場合、抗菌薬単独で投与した場合より臨床症状の改善に効果があり、投薬日数は併用が平均3.9日、抗菌薬のみが平均3.85日であった。

抗菌薬アレルギー患者での応用

排膿散及湯は、抗菌薬アレルギーがある患者の歯周疾患や歯性感染症管理に極めて重要な選択肢です。日本歯科保存学会の報告では、以下のような具体的な症例が記載されています:

症例:抗菌薬アレルギーと小児喘息の既往
慢性化膿性根尖性歯周炎の診断下で感染根管治療を行い、根管充塡後、術前から術後に排膿散及湯を服用させ、歯根端切除を行った。抗菌薬を使用しなかったが術後の強い炎症や疼痛の発現はなく、6ヶ月経過後根尖部エックス線透過像の減少を認め、順調に推移した

症例:授乳期間中で抗菌薬不可
患者は授乳期間中であり抗菌薬が使用できない状況で、慢性化膿性根尖性歯周炎の診断下で感染根管治療を行った。根管充塡後、術前から術後に排膿散及湯を服用させ、膿瘍切開・根尖搔爬を行った。抗菌薬を使用せずに、術後の強い炎症や疼痛の発現はなく、術後3ヶ月臨床的に良好な推移で、エックス線診断でも根尖周囲の透過像が減少した。

基礎研究による作用機序の解明

排膿散及湯は、通常の抗菌薬とは異なる免疫活性化メカニズムで効果を発揮することが基礎研究により示唆されています:

  • マウスにA群溶連菌を感染させた実験で、排膿散及湯投与により、IFN-γやIL-12が産生促進され、マクロファージ貪食能の増強が認められた
  • 歯周病培養モデルから、排膿散及湯は自然免疫系の増強や免疫細胞遊走・細菌の貪食を促進する免疫活性化の可能性が示唆された
  • ラットの動物実験で、歯肉の腫脹を抑制し、病理組織学的には歯周ポケット深化抑制、上皮層びらん改善、炎症細胞の減少が確認された

3-8.各薬剤比較表

薬剤適応アスピリン喘息患者有効率
アセトアミノフェン歯痛・抜歯後疼痛可(1回300mg以下)不十分(300mg制限)
ソランタール歯痛・抜歯後疼痛禁忌69.6~76%
セレコキシブ歯痛・抜歯後疼痛禁忌高い
トラムセット抜歯後疼痛禁忌高い
リリカ神経障害性疼痛神経障害性疼痛で有効
立効散歯痛抜歯後疼痛可(禁忌なし)普通抜歯で53.7%
排膿散及湯歯周組織炎・化膿症可(禁忌なし)P急発10例で疼痛全て消失

4. CBDの登場:歯痛管理の新たな選択肢の可能性

2024年、Journal of Dental Research誌に、歯痛に対するCBD(カンナビジオール)の有効性を検証した初めてのランダム化臨床試験が発表され、大きな注目を集めました。

Chrepa et al. (2024)の研究では、中等度から重度の歯原性疼痛(歯髄炎または歯髄壊死と症候性根尖性歯周炎)を有する61名の患者を対象に、以下の3群:CBD 10mg/kg群(20名)、CBD 20mg/kg群(20名)、プラセボ群(21名)に分けて二重盲検試験を実施しました。

鎮痛効果

CBD 10mg/kg群と20mg/kg群の両者で、投与後30分以内に有意な疼痛軽減が認められました。投与後180分時点では、両CBD群でベースラインから73%の疼痛軽減が得られたのに対し、プラセボ群では33%の軽減にとどまりました。

咬合力の改善

両CBD群で、投与後90分と180分時点において咬合力の有意な増加が認められました。これは、疼痛軽減に伴う機能改善を示唆しています。

副作用

  • CBD 10mg/kg群:プラセボ群と比較して14倍の傾眠(p<0.05)
  • CBD 20mg/kg群:プラセボ群と比較して8倍の傾眠、10倍の下痢・腹痛(p<0.05)

歯科領域での位置付けと今後の課題

この研究は、歯痛に対する全身性鎮痛薬のプラセボ対照試験としては初めてのものであり、CBDが歯痛管理の新たな選択肢となる可能性を示しました。

特に、NSAIDsが使用できないアスピリン喘息患者にとって、CBDは重要な治療オプションとなる可能性があります。CBDはCOX阻害作用を持たないため、理論的にはアスピリン喘息患者でも安全に使用できると考えられます。

ただし、現時点では以下の課題があります:

  1. 日本ではCBD製剤は承認されていない
  2. 保険適応がない
  3. 長期使用時の安全性データが不足している
  4. 薬物相互作用のリスク(特にCYP3A4、CYP2C19関連)

今後、さらなる臨床試験の蓄積により、CBDが歯科領域での鎮痛薬として確立される可能性があります。

5. 実際の医療現場で考えられる処方例と対応

アスピリン喘息の既往がある患者が抜歯後の疼痛管理を必要とする場合、以下のような段階的アプローチが考えられます。

ステップ1:第一選択薬

カロナール錠300mg 1回1錠(疼痛時)

  • 添付文書上、1回300mg以下という制限内で使用可能
  • ただし、鎮痛効果が不十分な可能性があるため、あらかじめ患者に伝えておく
  • 事前に、除痛効果が不十分な場合に取れる選択肢を提示、相談しておく
  • カフェインには鎮痛薬の効果を増強する作用があるため、可能なら併用してもらう → [参考記事]

ステップ2:除痛効果が不十分であった場合

  • 大学病院等、基幹病院へ紹介を考慮。
  • 紹介したとしても保険診療において取れる選択肢は基本的に変わらないが、発作等、何かあった際の対応は取りやすい。

大学病院等への繋ぎとして:立効散 2.5g 1日3回(食前または食間)の切り替えを考慮

  • 抜歯後の疼痛に保険適応がある漢方薬であり、アスピリン喘息患者でも使用可能
  • アセトアミノフェンは薬局でも売っているが立効散は薬局で売っていない
  • 単体での鎮痛作用は不十分な可能性があるため、アセトアミノフェンとの併用も考慮
  • 併用ではアセトアミノフェン(中枢)と立効散(COX-2阻害:抹消)のダブルブロックが可能
  • 鎮痛薬の併用については保険診療においては認められない可能性がある。症状詳記は必須

ステップ3:何らかの理由により適応外使用を考慮する場合

例:カロナール錠500mg 1回1錠(疼痛時)に増量や、セレコキシブの使用を検討する場合など

医療現場で適応外使用を行う場合の実務的な対応】

  1. 当該医薬品が55年通知の対象であるかを社会保険診療報酬支払基金の審査情報により確認する
  2. 学術的根拠に基づく処方であることを診療録および症状詳記に記載する
  3. 患者に対して適応外使用であること、期待される効果と副作用リスクについて十分に説明し、書面による同意を得る。

薬剤師との連携が不可欠

今回の薬局ヒヤリハット事例No.11が示すように、薬剤師による疑義照会が重大なインシデントを防いだことは極めて重要です。医療はチームで行うものです。歯科医師が院外処方し、薬剤師とダブルチェックを行うことで、重大なインシデントを防ぐ安全網が構築されます。

特に、2023年10月の添付文書改訂のように、「禁忌から除外」という変更は、一見すると「使いやすくなった」と誤解されがちです。しかし実際には「条件付き使用可能」または「特定の適応では引き続き禁忌」という複雑な状況であり、このような微妙な変更こそ、薬剤師との連携が不可欠です。

まとめ

アスピリン喘息患者における歯痛・抜歯後疼痛の管理は、依然として医療現場の大きな課題です。

「300mgの壁」という現実

2023年10月のカロナール添付文書改訂により、アセトアミノフェンは「禁忌から除外」されましたが、「1回300mg以下」という厳格な用量制限が設けられました。しかし、この用量では抜歯後の急性疼痛に対して十分な鎮痛効果が得られない可能性が高く、臨床現場は「300mgの壁」というジレンマに直面しています。代替薬の選択肢も十分と言えないのが現状です。実際に患者さんが通院された時にどうするべきかは各医院ごとで想定しておく必要があります。

医療安全の要:薬剤師とのダブルチェック

2025年11月の薬局ヒヤリハット事例が示すように、薬剤師による疑義照会が重大なインシデントを防ぐことができます。歯科医師と薬剤師が連携し、患者の既往歴を確認し、適切な薬剤選択と用量設定を行うことが、医療安全の基本です。

今後の課題

  1. 添付文書と学術的エビデンスの乖離の解消:ソランタールやセレコキシブのように、理論的・学術的には安全性が高いと考えられる薬剤が、添付文書上は禁忌とされている矛盾を解消する必要があります。
  2. 医療従事者への周知徹底:2023年10月の添付文書改訂や、2023年11月のトラムセット配合錠の改訂のような重要な変更について、医療従事者への周知徹底が必要です。
  3. 漢方医学教育の推進:2016年から「歯学教育モデル・コア・カリキュラム」に「和漢薬」が掲載され、現在歯学教育の現場では「漢方医学教育」が実施されています。これらの知識も臨床実践に活かす必要があります。

アスピリン喘息患者の疼痛管理は、単なる薬剤選択の問題ではなく、医療安全、保険診療上の制約、患者のQOL、漢方医学の活用が複雑に絡み合う課題です。医療従事者は、最新の学術的知見と添付文書の記載を正確に理解し、患者一人ひとりに最適な疼痛管理を提供する責任があります。

参考文献

  1. 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 共有すべき事例2025年No.11
    https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/sharing_case_2025_11.pdf
  2. キョーリンAP2配合顆粒 経過措置満了のご案内
    https://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/information/pdf/202502kyorinAP2soldout.pdf
  3. トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠 使用上の注意改訂のお知らせ
    https://www.nc-medical.com/product_topics/doc/S-2936_toaraset_t.pdf
  4. Martín-García C. Celecoxib, a highly selective COX-2 inhibitor, is safe in aspirin-induced asthma patients. [International Archives of Allergy and Immunology]. 2003;137(2):145-50
    セレコキシブ、高度に選択的COX-2阻害薬は、アスピリン誘発喘息患者で安全である
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12861847/
  5. 三剤併用が奏効した口腔顔面痛の3例
    日本口腔顔面痛学会雑誌 9(1):53-59. 2016.
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjop/9/1/9_53/_pdf
  6. 王 宝禮. 歯科保存治療に適用する漢方薬―立効散と排膿散及湯―
    日本歯科保存学雑誌 67(3): 131-138. 2024.
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikahozon/67/3/67_131/_pdf/-char/ja
  7. Chrepa M, Murphy M, et al. Cannabidiol as an Alternative Analgesic for Acute Dental Pain. [Journal of Dental Research]. 2024;103(1):30-38
    急性歯痛の代替鎮痛薬としてのカンナビジオール
    https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00220345231200814
  8. Murphy M, Hayes MJ. Cannabidiol – an effective analgesic for toothache? [Evidence-Based Dentistry]. 2024;25:70-71
    カンナビジオール:歯痛に対する有効な鎮痛薬か?
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38649735/
  9. Celecoxib Tolerability in Patients with Hypersensitivity to Nonsteroidal Anti-Inflammatory Drugs [International Archives of Allergy and Immunology]. 2005;137(2):145-50
    非ステロイド性消炎鎮痛薬に過敏性を持つ患者におけるセレコキシブの耐容性
    https://karger.com/iaa/article/137/2/145/164973/
  10. Aspirin Intolerance: Experimental Models for Bed-to-Bench [Inflammation and Regeneration]. 2016;36:11
    アスピリン不耐症:実験モデルから臨床へ
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5345322/
  11. ソランタール錠 医薬品インタビューフォーム
    https://www.ltl-pharma.com/common/pdf/product/solantal/solantal_op.pdf
  12. トラムセット配合錠 患者向医薬品ガイド
    https://med.mochida.co.jp/dfp/pdf/trc202310.pdf
  13. ツムラ立効散エキス顆粒(医療用)添付文書
    https://medical.tsumura.co.jp/products/110/pdf/110-tenbun.pdf
  14. アセトアミノフェンを含有する製剤(医療用)に関する使用上の注意改訂について
    厚生労働省医薬局医薬安全対策課
    https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001124657.pdf
  15. 昭和55年9月3日付保発第51号「保険診療における医薬品の取扱いについて」
    http://www.jsrm.or.jp/announce/handling.pdf
  16. 厚生労働省 適応外使用の保険適用について
    https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000018toj-att/2r98520000018tzy.pdf
  17. 厚生労働省 未承認薬・適応外薬等に関する情報提供のQ&A
    https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2018/181031/201806018A_upload/201806018A0005.pdf

関連記事|船橋の歯医者|かわせみデンタルクリニック