虫歯にしないためにできること -WHO 砂糖と虫歯 から考える虫歯予防についての新常識-
虫歯は感染しない
WHOのファクトシート(科学的知見に基づく概要書)にある 砂糖と虫歯1) では、”世界中で最も一般的な非伝染性疾患“と記載があります。
感染症に関しては「コッホの原則」というものがあります。
1.特定の伝染病になった個体からは,特定の病原微生物が必ず発見される
2.その病原微生物が分離,同定される
3.それを純粋に培養したもので原病が再現できる
しかし、虫歯はこれに当てはまりませんでした。ミュータンスレンサ球菌が絶対に存在していなくても発生し、ミュータンスレンサ球菌がたくさん存在していても虫歯にならないことがあることもわかっています。つまり、特定の菌が虫歯を発生させるわけではないため虫歯は感染症には当てはまらないということです。
生態学的プラーク仮説
そして現在は、虫歯に関しても生態学的プラーク仮説2)という仮説に基づく考え方が主流となっています。
- 口腔内には常在細菌として様々な菌が存在し、唾液分泌量や食習慣などの環境変化で細菌叢のバランスを保っています
- しかし、糖分の摂取によって細菌が糖を代謝して酸にすることで環境が酸性に傾きます
- 細菌叢は酸に弱い細菌が減り、酸を生産する菌や耐酸性能を持つ叢へとシフトします
- 結果的に口腔内が酸性に維持され、虫歯になりやすくなります
一言でまとめると、糖分を摂る習慣によって常に虫歯になりやすい状態になる。ということです。
これらのことから、虫歯を非伝染性の行動疾患として理解する3) ことが重要であるとして、世界的に虫歯に対する考え方が変わってきています。
虫歯にしないためにできること
齲蝕の予防と管理において、糖分の頻繁な摂取によって歯が溶けやすい状態(低pH状態)が続くことが問題です。
齲蝕の制御とは、特定の微生物を根絶しようとするものではなく、バランスのとれた口腔内バイオフィルム(biofilm)の生態系を維持するためにはリスク因子をコントロールすることです。
したがって
- まず第一に、甘いものを控える 4)
- 現状の虫歯になりやすいバイオフィルムを破壊・除去し、バランスの取れた口腔内バイオフィルムの再構築を目指す
- 歯ブラシをする際にはフッ化物歯磨剤を使用することで虫歯の進行を遅らせることができる
WHO ガイドライン: 大人と子供の砂糖摂取量
推奨事項
- WHO は、生涯を通して遊離糖類の摂取量を減らすことを推奨しています (強い推奨 )。
- WHO は、成人と子供の両方において、遊離糖の摂取量を総エネルギー摂取量の 10% 未満に減らすことを推奨しています(強い推奨)。
- WHO は、遊離糖の摂取量を総エネルギー摂取量の 5% 未満(1日25g以下)にさらに削減することを提案しています (条件付き推奨 )。
甘いものの摂取量よりも回数(間食)に注意
・一度に食べる甘いものの量は増えても大きな影響はありません 5 )
・甘いものを食べるときはお茶やお水を飲むようにしましょう。(最後に甘いものが口の中に残ったままでいることは良くありません。ジュースを飲むときなども最後にお水で口をゆすぐようにして口の中に残る糖分の量を減らすことが肝心です。)
妊娠中から虫歯予防
妊娠中または生後まもない時期に食事と摂食に関する情報提供を受けると小児期初期カリエスのリスクをわずかに低下(15% 減少)させることにつながります6)
当院で行える虫歯予防
虫歯にしないために現状の虫歯になりやすいバイオフィルムを破壊・除去し、バランスの取れた口腔内バイオフィルムの再構築を目指すためには、エアフローによるPMTCが有効です。
かわせみデンタルクリニックでは予防歯科にも力を入れています。気になることがありましたらお気軽にご相談下さい。
日本語の総説
令和のカリオロジー&ペリオドンとロジー [PDF] 神奈川歯学,57-1,1~4,2022 神奈川歯科大学学会第56回総会特別講演総説
参考文献
1) Sugar and dental caries. WHO 2017 or 砂糖と虫歯 | 公益社団法人 日本WHO協会
3) Prdrigo A. Giacaman, et al., Understanding dental caries as a non-communicable and behavioral disease: Management implications. Front Oral Health. 2022
4) Guideline: sugars intake for adults and children WHO 2015