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下顎第二大臼歯の樋状根はどれくらい多いのか? – 出現頻度を日本人と世界各国で比較

日本人の下顎第二大臼歯に多い樋状根(C-shaped canal)について、古典的抜去歯研究、国内CBCT研究、Scientific Reports論文をもとに、出現頻度と臨床的意義を歯科医師向けに整理します。

目次

  1. 樋状根とは何か
  2. 日本人の下顎第二大臼歯における出現頻度
  3. Scientific Reports 論文と日本人の位置づけ
  4. 下顎第一大臼歯の樋状根
  5. 下顎第三大臼歯の樋状根
  6. 日本人の樋状根頻度をどう考えるか
  7. 臨床への応用
  8. 参考文献

1. 樋状根とは何か

樋状根(C-shaped root canal system)は、下顎大臼歯、とくに下顎第二大臼歯で問題となる代表的な解剖学的バリエーションです。1,2 根管口の探索、機械的拡大、洗浄、根管充填のいずれにも影響し、通常の二根二根管を前提にした診療では見落としや不十分な処置につながるおそれがあります。1,2

樋状根とは、歯根の癒合や発生過程の変異によって、根管系が断面でC字状を呈する形態を指します。1,2 下顎第二大臼歯に最も多く認められ、イスムス、フィン、狭窄部、根分岐部に連続する溝状構造を伴いやすいことが特徴です。1,2

この形態が臨床上問題となる理由は、単に根の本数が違うことではありません。むしろ重要なのは、根管内の連続性が複雑で、器具が届きにくい扁平部や交通枝が存在し、感染組織やデブリが残存しやすい点にあります。1,2 そのため、樋状根は通常の根管よりも、化学的洗浄と三次元的把握の重要性が高い形態といえます。1

日本人では樋状根の頻度が高いことが以前から知られていましたが、その具体的な出現頻度は、抜去歯研究では約3割、CBCT研究や国際的メタアナリシスを踏まえると約4割前後と理解するのが妥当です。2,3,4 とくに下顎第二大臼歯では、樋状根を例外的形態としてではなく、日常臨床で相当頻繁に遭遇する形態異常として認識する必要があります。3,4

2. 日本人の下顎第二大臼歯における出現頻度

2-1. 古典的抜去歯研究では約3割

日本人の下顎第二大臼歯における樋状根の頻度として、古くから参照されてきたのは抜去歯研究による約3割という値です。3 中山らの報告として整理されたデータでは、個人特定可能な下顎第二大臼歯135本中39本(28.9%)、個人特定不可能な391本中124本(31.7%)に樋状根が認められたとされています。3

この数値は、日本人における下顎第二大臼歯樋状根のクラシカルな基準値として現在も参照されます。3 ただし、抜去歯研究には、対象患者の年齢・性別・地域が十分に分からないこと、診断が三次元的ではないこと、不完全なC-shaped canalを拾いにくいことといった限界があります。1,3

2-2. CBCT時代では約4割前後

近年は、CBCTを用いた形態研究によって、日本人の下顎第二大臼歯における樋状根の実態がより精密に把握されるようになりました。2,4 日本のCBCT研究では、下顎第二大臼歯の歯根形態として二根性が57.7%、樋状根が39.9%とされており、単根性・三根性・過剰根を伴う形態も少数ながら存在すると報告されています。4

この約39.9%という値は、従来の約30%より高く、CBCTによって不完全型や複雑な連続形態が見落とされにくくなった結果と解釈できます。2,4 そのため、日本人の下顎第二大臼歯における樋状根の頻度は約4割前後と整理するのが現時点ではもっとも合理的です。2,3,4

2-3. 女性に多い傾向

樋状根は日本人を含む東アジア集団で女性に多い傾向があると報告されています。2,4 国際メタアナリシスでは、下顎第二大臼歯の樋状根について、男性のオッズが女性より有意に低いとされています。2

一方で、日本人における男女別の正確な出現頻度は研究ごとに変動します。したがって、臨床では「日本人の下顎第二大臼歯では女性でより疑うべき形態」という理解にとどめ、具体的な数値は対象研究に依存すると考えるのが安全です。2,4

3. Scientific Reports 論文と日本人の位置づけ

Scientific Reports に掲載されたシステマティックレビュー/メタアナリシスでは、CBCT研究をもとに、樋状根形態の頻度が歯種別・地域別に検討されています。その結果、下顎第二大臼歯のC-shaped canal頻度は、下顎第一大臼歯の0.3%に対し12%と有意に高く、さらに東アジアでは39.6%と、他地域より明らかに高頻度でした。6

論文中の表では、東アジアが世界の中でも突出した高頻度クラスターとして示され、マレーシア、中国、韓国で40%を超え非常に多いことが視覚的に把握できます。6 これは、日本人のCBCT研究で示された約39.9%という値とほぼ一致しており、日本人がこの東アジア高頻度クラスターの中核に位置すると考える根拠になります。2,4

一方で、欧米や他地域では頻度が数%台から一桁台にとどまる報告が多く、日本の臨床家が日常的に経験する下顎第二大臼歯の難しさは、世界的には必ずしも普遍的ではありません。6 つまり、日本の一般臨床で第二大臼歯なら樋状根をまず疑うという思考は、地域特異的な疫学的背景に裏付けられた合理的な診療態度といえます。2,4,6

4. 下顎第一大臼歯の樋状根

下顎第一大臼歯にも樋状根は存在しますが、頻度はきわめて低いと考えられています。1,2 国際メタアナリシスでは、下顎第一大臼歯の樋状根頻度は0.3%(0.1〜0.6%)とされ、下顎第二大臼歯より大幅に低い値でした。2

このため、日本人の下顎第一大臼歯では、樋状根をルーチンで強く疑う場面は多くありません。2 ただし、X線像で根分岐形態が非典型的な場合、通常の解剖学的想定で説明しにくい根管走行を示す場合、あるいは再治療で未処置部位が疑われる場合には、まれな形態変異として念頭に置く価値があります。1,2

5. 下顎第三大臼歯の樋状根

下顎第三大臼歯にも樋状根は認められますが、第二大臼歯ほど一般的ではありません。5 モンゴロイド系集団を対象としたCBCT研究では、第三大臼歯の樋状根頻度を16.6%、同じ集団の第二大臼歯では42.4%と報告しており、第三大臼歯も無視できないものの、主戦場はやはり第二大臼歯であることが分かります。5

日本人の下顎第三大臼歯だけを対象にした高精度の大規模頻度データは、現時点で広く参照しやすい形では十分ではありません。したがって、日本人の第三大臼歯における正確な頻度は未確認としつつ、東アジア集団の傾向から、第二大臼歯より低いが一定頻度で存在すると理解するのが妥当です。2,5

6. 日本人の樋状根頻度をどう考えるか

以上を総合すると、日本人の下顎第二大臼歯における樋状根の出現頻度は、古典的抜去歯研究に基づけば約3割、CBCT研究や国際的メタアナリシスを踏まえれば約4割前後と整理できます。2,3,4 この差は、集団差だけでなく、診断精度の向上、評価基準の違い、不完全型の拾い上げの違いによって生じている可能性が高いと考えられます。1,2,4,6

東アジア高頻度クラスターの中に日本人データが収まることは、日本人の下顎第二大臼歯で樋状根を高頻度形態として扱う妥当性を強く支持します。2,4,6 一方で、第一大臼歯では稀、第三大臼歯では第二大臼歯より低頻度だが一定数存在することが分かります。2,5

7. 臨床への応用

日本の臨床では、下顎第二大臼歯の根管治療にあたって、術前X線で典型的な二根性が読み取りにくい場合や、根分岐部が不明瞭な場合には、樋状根を積極的に疑う姿勢が重要です。1,2 とくに再根管治療、持続する根尖性歯周炎、近遠心方向で説明しにくい透過像がある症例では、CBCTによる三次元評価が有用と考えられます。1,2,6

また、樋状根では機械的形成だけで感染制御を完結させることが難しく、洗浄、イスムス対応、扁平部のデブリ除去、封鎖性の高い充填が重要になります。1 したがって、日本人の下顎第二大臼歯では「樋状根かもしれない」と考えること自体が、診断、説明、術式選択、予後判定の質を高める出発点になります。1,2,4,6

奥歯の治療後の違和感や痛みの症状が続く場合は、複雑な根管形態が隠れていることがあります。精密な検査と丁寧な説明を受けたい方は、かわせみデンタルクリニックの関連ページもご参照ください。

8. 参考文献

  1. Aetiology, incidence and morphology of the C-shaped root canal system and its impact on clinical endodontics(2014)
    C-shaped root canal systemの成因・発現頻度・形態と臨床歯内療法への影響
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24483229/
  2. Prevalence of C‐shaped canal morphology using cone beam computed tomography – a systematic review with meta‐analysis(2019)
    CBCTを用いたC-shaped canal形態の有病率:システマティックレビューとメタアナリシス
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/iej.13169
  3. 樋(とい)状根・樋状根管 C-shaper root・C-shaped root canal(2014)
    https://a-kato.agu.ac.jp/C-shaped_Document_shigakukai.pdf
  4. 歯科用コーンビームCT画像における日本人下顎第二大臼歯の歯根と根管形態の観察(2018)
    小川 淳,關 聖太郎: 日本歯内療法学会雑誌 39: 12-18
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jeajournal/39/1/39_12/_pdf
  5. Prevalence of C-shaped Canals and Three-rooted Mandibular Molars Using Cone-beam Computed Tomography in a Thai Population(2022)
    タイ人集団におけるCBCTを用いたC-shaped canalおよび三根性下顎大臼歯の有病率
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9709890/
  6. The C-shaped root canal systems in mandibular second molars in an Emirati population: a cone-beam computed tomography study(2021)
    エミレーツ人集団における下顎第二大臼歯C-shaped root canal systemのCBCT研究
    https://www.nature.com/articles/s41598-021-03329-1


執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づいた正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けしています。


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