大学の健康診断は歯科を外せる。18歳から22歳の空白は、省令の一行で埋められるか
文部科学省や大学、厚生労働省、保険者・自治体・企業の担当者に向けて、大学在学中に歯科の検査が途切れる理由とその埋め方、改正が届かない人についてまとめました。
18歳から22歳の空白のうち大学に通う学生の分について、国が法律を改正せずに打てる手は、省令の一行の改正です。
目次
1. 10歳代後半から下がる歯科健診の受診率
国の検討会と政策計画が共通して挙げるのは、10歳代後半から下がる歯科健診の受診率です。
厚生労働省の歯科健診等のあり方等に関する検討会は、2026年7月31日の中間とりまとめ(確定版)で、過去1年間に歯科検診を受けた人の割合を取り上げました。検討会が指摘しているのは、この割合が10歳代前半までは高く、10歳代後半以降に下がる点です。検討会はその背景の一つに、学校保健安全法に基づく学校歯科健診の影響を挙げています1。
もとになった令和6年歯科疾患実態調査の値は、次のとおりです2。
| 年齢 | 過去1年間に歯科検診を受けた人の割合 |
|---|---|
| 10〜14歳 | 95.2% |
| 15〜19歳 | 76.1% |
| 20〜24歳 | 45.1% |
| 25〜29歳 | 55.1% |
割合は15〜19歳から20〜24歳にかけて31.0ポイント下がり、20〜24歳の男性は36.4%と全年代の男女別で最も低い値でした。25〜29歳になると再び上がります2。
厚生労働省が予防医療の施策をまとめたU.E.N.O.Plan(2026年7月23日公表)でも、学校歯科健診の機会がなくなる20歳以降は受診率が低いと記されています3。
国もこの年代への対策を始めており、2024年度(令和6年度)には、市町村が行う歯周病検診の対象年齢に20歳と30歳が加わりました。それまで20〜30代は原則として歯科健診制度の対象外でした4。国民皆歯科健診は骨太の方針2022に盛り込まれた施策です4。検討会の第1回資料にある制度一覧によると、大学は学校歯科健診を省略できるとされています4。第1回資料と中間とりまとめ確定版の本文(PDF 1〜10頁)のどちらにも、国民皆歯科健診の対象や進め方で大学に通う年代をどう扱うかは示されていません1,4。それでも18歳から22歳のうち、市町村の歯周病検診の対象年齢に当たるのは20歳だけです。この記事では、高校卒業から22歳まで定期的な歯科の検査が制度として定められていない期間を空白と呼びます。
大学へ進学した人が在学中に歯科の検査を受けられるかは、各大学が定める健康診断の規定で決まります。
2. 高校は必須、大学は省略できる歯科の検査
大学にも学生の健康診断はありますが、歯科は大学が検査項目から外せる4項目の1つです。
学校保健安全法は、大学を含む学校に対し、学生をはじめとする児童生徒等の健康診断を毎学年定期的に行うよう定めています5,6。
学校保健安全法施行規則(文部科学省令。以下、施行規則)第5条では、健康診断を毎学年6月30日までに行うよう定めており、第6条第1項第7号で検査項目の一つに「歯及び口腔の疾病及び異常の有無」を挙げています7。
ところが同じ第6条第4項によると、大学では次の4項目を検査項目から除外できます7。
- 第3号 脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無と四肢の状態
- 第4号 視力及び聴力
- 第7号 歯及び口腔の疾病及び異常の有無
- 第10号 尿
高校で除外できるのは第2学年の聴力だけで、歯科の検査は外せません7。高校までは歯科の検査が必ず行われますが、大学で実施するかは各大学が決めます。大学に通う学生が在学中に歯科の検査を受けられないことがあるのは、この第4項に「第7号」が入っているためです。
では、実際に歯科の検査を行っている大学はどれだけあるのでしょうか。法令の条文や検討会の資料、全国大学保健管理協会(大学で保健管理を担う団体)の公開ページを調べた範囲では、全国の実施率を示す集計は見つかりませんでした8。
新潟県が令和7年度に行った調査は、実態を知る手がかりになります。県内の大学(学部単位)、短大、専門学校119施設のうち、68施設(57.1%)が回答しました。大学・短大では、回答した29施設のうち4施設(14%)が令和5年4月からの2年間に歯科健診を実施したと答え、専門学校では39施設のうち実施したと答えたのは0施設でした9。
3. 歯肉出血と受診しない高校生、受診を自分で決める大学生
高校では歯肉出血のある生徒や、要受診とされても受診しない生徒がいますが、大学へ進むと、毎年の歯科の検査は途切れることがあります。
福岡市の私立高校1校で生徒の半数近くにみられた歯肉出血
福岡市の私立高校1校で歯ぐきを器具で調べた横断研究では、参加した15〜18歳の生徒の44.2%(半数近く)に歯肉出血がありました。
この結果は、福岡市内の私立高校1校でHaresakuらが2023年に報告した横断研究(ある時点の状態を調べる研究)によるものです。対象となった15〜18歳の生徒1,202人のうち、1,069人(88.9%)が参加しました。代表的な6本の歯を器具で調べるPCPI(部分的な地域歯周指数)によると、参加した生徒の44.2%に歯肉出血があり、42.2%に歯石が見られました。歯周ポケットが4〜5mmの生徒は11.4%(約9人に1人)、6mm以上は1.6%でした10。
受診が必要とされた高校生の84.1%が受診せず
3府県の学校歯科治療調査では、学校歯科健診で要受診とされた高校生の84.1%が歯科を受診していませんでした。全国保険医団体連合会(保団連)が2018年に公表した学校歯科治療調査の中間報告に、その数が示されています。大阪・兵庫・長崎の3府県で学校歯科健診を受けた高校生95,854人のうち、29,445人(30.7%)が要受診とされました。歯科を受診していなかったのは、そのうち84.1%です。同じ調査では、むし歯が10本以上あるなど「口腔崩壊」の状態にある生徒がいたと答えた高校は、回答校の50.3%でした11。歯科を受診しないまま卒業すると、口の治療が必要なまま大学へ進むことになります。そうした学生が大学にどれだけいるかは、大学が検査して初めて分かります。
成年になり、受診を自分で決める大学生
大学が歯科の検査を外せば、高校の検査で見つかっていたようなむし歯や歯肉出血を在学中に見つける機会は、20歳の歯周病検診を除けば、学生自身が受診するときだけです。大学生の多くは18歳以上で、民法上は成年です12。親元を離れて一人暮らしを始める学生もいます。歯の手入れや受診は自分で決めることになりますが、仕送りやバイト代から歯科の診療代を払うのは大きな負担で、親に頼れていたときよりも受診が遠のきやすくなります。大学が行う歯科の検査は、学生が自分の口の状態を知り、受診するかどうかを自ら判断する力を身につける機会にもなるのです。
4. 省令の一行の改正と、改正が届かない人
文部科学省が施行規則第6条第4項にある「第3号、第4号、第7号及び第10号」から「第7号」を削れば足ります7。
学校保健安全法第17条第2項では検査項目を文部科学省令で定めることになっており、法律を改正する必要はありません5。高校までは学校歯科医を置く規定がありますが、大学にはありません(学校保健安全法第23条第2項)5。この改正に法律の改正は要りませんが、検査を担当する歯科医師の確保や日程調整、結果の通知、受診先の案内には、大学側で費用と人手がかかります。大学が体制を整えられるよう、文部科学省には改正から施行までの準備期間を設けることが望まれます。
| 誰が | 何をすると | 何が変わるか |
|---|---|---|
| 文部科学省 | 第6条第4項(大学で除外できる項目)から第7号(歯及び口腔の疾病及び異常の有無)を削る | 大学が歯科を検査項目から外せなくなる |
| 大学 | 毎学年6月30日までの健康診断に、歯及び口腔の検査を入れる | 学生が在学中も毎年歯科の検査を受け、歯肉出血などが見つかれば受診を勧められる |
| 厚生労働省 | 検討会で整理した健診の進め方や受診を促す工夫を大学に伝える | 大学が結果の通知と受診の案内を整えやすくなる |
| 地域の歯科医師会や歯科医療機関 | 大学から相談があれば、歯科の検査を担当する歯科医師の確保や受診先との連携に協力する | 大学が実施体制を組みやすくなる |
改正が届く人と届かない人
大学(学部)への進学率は58.6%、短期大学や専門学校などを含めた高等教育機関への進学率は85.4%です。これらの値は、文部科学省の学校基本調査(令和7年度の確定値、2025年12月26日公表)によるものです。いずれも過年度の高校卒業者を含む入学者数を、3年前の中学校卒業者などの数で割って算出しています13。85.4%には、この改正が届かない専門学校への進学も含まれます。
この改正が届くのは短期大学を含む大学に在学する学生だけで、通信による教育を受ける学生、専門学校の学生、大学へ進まずに就職した人には届きません。短期大学は、学校教育法第108条で大学の一つに位置づけられています6。通信による教育を受ける学生は、学校保健安全法第13条で健康診断の対象から外されています5。専門学校は、学校教育法第1条が定める学校(小中高校、大学、高等専門学校など)には含まれず、学校保健安全法に基づく健康診断の対象外です5,6。検討会は、就職した人を含め、こうした人たちが歯科健診を受ける機会を、事業主や保険者、自治体の取り組みで整える方向を示しています1。健診の機会がない間も、歯ぐきの出血や痛みなど気になる症状があれば、歯科医院を受診できます。
5. 改正の効果を確かめる6項目の記録
文部科学省が記録項目を定め、各大学が実施の有無から受診を勧めた学生の受診状況までを、改正の前から同じ6項目で記録すれば、改正の前後を比べられます。
省令の改正後は、健診を受ける学生が増えたかや、必要な受診につながったかを文部科学省が確かめることが有効です。6項目のうち次の5項目は、各大学の健康診断の実施記録から集められます。
- 実施の有無
- 対象学年
- 検査方法
- 受診率
- 結果の通知方法
残る1項目の「受診を勧めた後に、受診したかどうか」は、大学の担当者がその学生に後日たずねて記録するため、手間のかかる作業です。改正の前後を比べれば、歯科の検査を行う大学や受診した学生がどれだけ増えたかが分かります。結果の通知方法ごとに受診を勧めた学生のうち受診した人の割合を調べると、通知が受診につながったかも確かめられます。
18歳から22歳の空白は、大学に通う学生の分なら、省令の一行で埋められます。文部科学省が施行規則第6条第4項から第7号を削れば、大学は歯科の検査を外せなくなり、高校まで毎年行われていた検査は在学中も途切れません。
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参考文献
- 歯科健診等のあり方等に関する検討会「中間とりまとめ」(確定版、2026年7月31日公表、PDF通し頁3・印刷頁2)。
- 厚生労働省「令和6年歯科疾患実態調査結果の概要」表26(2025年6月26日公表、PDF通し頁32・印刷頁31)。 資料PDF [PDF]
- 厚生労働省「U.E.N.O.Plan 〜攻めの予防医療 厚生労働省関係施策〜」(2026年7月23日公表、歯科保健の課題、PDF通し頁7)。
- 厚生労働省「歯科健診等のあり方等に関する検討会(第1回)資料2 歯科健診を取り巻く現状と検討会の今後の進め方について」(2026年5月11日、制度一覧はPDF通し頁16、歯周病検診の対象年齢拡大は17頁)。
- e-Gov法令検索「学校保健安全法」(昭和33年法律第56号)第2条、第13条、第17条、第23条。
- e-Gov法令検索「学校教育法」(昭和22年法律第26号)第1条、第108条、第124条。
- e-Gov法令検索「学校保健安全法施行規則」(昭和33年文部省令第18号)第5条、第6条。
- 公益社団法人全国大学保健管理協会「事業紹介」「機関誌(CAMPUS HEALTH)バックナンバー」「会員専用ページ」(2026年9月11日確認)。 資料PDF [PDF] 資料PDF [PDF]
- 新潟県福祉保健部健康づくり支援課「令和7年度 大学・専門学校における歯と口の健康づくりに関するアンケート調査報告書」表Ⅱ-1-1(PDF通し頁6・印刷頁4)。
- Haresaku S, Chishaki A, Hatakeyama J, et al. Current status and factors of periodontal disease among Japanese high school students: a cross-sectional study. BDJ Open. 2023;9:29. doi:10.1038/s41405-023-00149-5
- 全国保険医団体連合会「学校歯科治療調査『中間報告』」(2018年6月7日、PDF2頁・5頁)。 資料PDF [PDF]
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)第4条。
- 文部科学省「令和7年度学校基本統計(学校基本調査の結果)確定値について公表します」表3・図3・別添の進学率の算定式(2025年12月26日公表、PDF通し頁6・10)。
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。
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