コラム|船橋の歯医者|かわせみデンタルクリニック

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マウスガードによる外傷予防・パフォーマンス向上・心理的効果について

日本歯科医学会誌 座談会・特別企画号(2017)「 2020年東京に五輪の華ひらく アスリートの最大能力発揮支援に歯科界が動く!」[PDF]

こちらの記事から、気になった部分をまとめました。

アスリートへの歯科的支援の大きな文脈において、マウスガードの現状と効果は、スポーツ歯科医学において極めて重要なテーマとして議論されています。単なる外傷予防の域を超え、その多面的な役割が認識されつつあります。

マウスガードの現状

現状として、日本ではトップアスリートにおけるマウスガードの普及が依然として課題とされています。

  • 低い使用率

日本のトップシニア選手(約2,000名、37種目)の調査では、コンタクトスポーツの選手でさえマウスガードの使用率は10.7%に留まっています。高校生までのユースオリンピック代表選手でも14.9%と、シニア選手をやや上回るものの、十分とは言えません。

  • ハイリスク種目での課題

レスリングや水球など、ルールで着用が義務付けられていないにもかかわらず、歯科外傷既往率が20%を超えるハイリスク種目が存在しており、これらの競技での普及啓発が強く求められています。

  • タイプの変化

かつては市販のマウスフォームド・マウスガード(自分で温めて作るタイプ)が使われることもありましたが、現在はカスタムメイド・マウスガードが推奨され、一部のチームでは100%導入されています。しかし、歯科医師の間でも競技特性や選手の癖に合わせた製作に関する知識不足が指摘されており、単に「4mm」といった指示書だけで製作されるケースも存在します。

  • 用語の不統一

「マウスピース」と「マウスガード」という呼び方が混在しており、アスリートに混乱を招いているという懸念もあります。

  • 意識の低さ

室伏広治選手や上野由岐子選手の実体験からも、トップアスリートでさえ、歯の重要性や歯科治療の必要性に気づかない限り、積極的に歯科医院を訪れることは少ないという現状が示されています。特に若い選手の間では、スポーツクレンチング(噛みしめ)の効果や習慣を知らない選手が増えていると感じられています。

マウスガードの効果

マウスガードは、その外傷予防効果に加え、パフォーマンス向上や精神的安定にも寄与することが示されています。

外傷予防効果

  • 直接的な保護

歯の破折、脱臼、口腔内軟組織(唇や舌など)の裂傷といったスポーツによる外傷を効果的に防ぎます。カスタムメイド・マウスガードの着用は、外傷受傷リスクを低下させるという大規模疫学研究のエビデンスも蓄積されています。

  • シース(鞘)効果

薄いマウスガードでも、鋭利な歯から唇や口腔内の軟組織を保護する「シース(鞘)効果」が重要であると指摘されています。上野由岐子選手も、マウスガードの着用で唇がボロボロになることを防げたと述べています。

  • 脳震盪の予防

マウスガードを装着することで頭部の加速度が抑えられるというデータがあり、脳震盪の予防にも効果が期待されています。アマチュアボクシングでは1900年頃からマウスガードが導入されており、脳震盪対策としての歴史的背景があります。

パフォーマンス向上効果

  • 顎の安定と力の分散

上野由岐子選手は、マウスガードを装着することで「顎を安定させてボールを投げている」感覚があり、無意識に楽な力で顎が固定され、その力を他のところに分散できると語っています。これにより、プレーに集中し、コントロールや指先に意識を向けることができるようになったとのことです。

  • 筋活動の補助

マウスガードの装着は、体幹の筋力発揮時に下顎を固定するための顎二腹筋の活動量を半減させるという研究結果があります。これはアスリートが「楽になった」と感じる理由の一つとされており、余計な筋力を使わずに済むためです。

  • 筋力発揮

静的筋力や低・中速域の動的筋力(例: 肩関節外転・内転、膝関節伸展など)において、噛みしめることで4%から12%の上昇効果が認められています。

  • バランスの安定

噛みしめは、姿勢外乱時(外部からの揺さぶり)において、前後方向の大きな重心動揺を有意に抑制し、バランスを安定させる効果が実験で示されています。

  • 遠隔促通(Remote Facilitation)効果

強く噛むことで、離れた部位の筋肉の興奮性も増加することが知られており、歯のクレンチングは手を握りしめるよりも強く脊髄の運動ニューロンを興奮させることが示されています。

心理的効果

  • 安心感の増大: マウスガードの着用は、事故防止につながるため、アスリートの精神的な安心感を大きくし、肉体的にも競技に集中できるという効果があります。特に外傷経験のある選手にとっては、再度の怪我への不安を軽減し、プレーへの集中力を高める上で重要です。

これらの効果を最大限に引き出すためには、競技特性や選手の個々の癖、顎位、パフォーマンスに合わせたカスタムメイドのマウスガード製作と、それに対する歯科医師、スポーツ科学者、コーチなどの多職種連携によるアプローチが不可欠であると、関係者らは提言しています。