歯垢を落とせばむし歯は防げる? 歯みがきとフロスの役割を整理
毎日の歯みがきでは、歯垢(プラーク)を落としながらフッ化物入り歯磨剤を使いましょう。 フッ化物入り歯磨剤で磨くほうが、フッ化物なしの歯磨剤で磨くより、新しいむし歯が少なくなることは研究で示されています。1 歯垢を落とすことは、歯ぐきの炎症を防ぐためにも大切です。2
1. フッ化物入り歯磨剤を使う根拠
フッ化物入り歯磨剤を使う根拠は、フッ化物の有無を比べた研究にあります。 2019年のCochraneレビューでは、フッ化物入り歯磨剤で磨く人と、フッ化物なしの歯磨剤で磨く人を比較しました。子どもや青少年の永久歯では、1000~1250ppm(フッ化物の濃度を示す単位)や1450~1500ppmの歯磨剤で新しいむし歯が少なくなりました。成人の永久歯でも、1000ppmまたは1100ppmの歯磨剤で予防効果が示されています。1
WHO(世界保健機関)は、糖の摂取量を減らすことと、1000~1500ppmのフッ化物入り歯磨剤で1日2回磨くことの両方を勧めています。3 日本の歯科4学会の推奨も、年齢に合った濃度と量のフッ化物入り歯磨剤を、就寝前を含めて1日2回使うというものです。4
一方、フッ化物を使わずに、清掃を強化するだけでむし歯が減るかは、別の問いです。2018年にHujoelらがまとめたのは、この清掃そのものの効果を調べた試験でした。1980年や1981年などに報告された3つの無作為化比較試験、計743人が対象です。学校で清掃を丁寧に行うよう指導・監督した群などを対照群と比べても、新しいむし歯の増え方にはっきりした差は見られませんでした。5
このレビューが調べたのは、フッ化物の働きを除いた清掃そのものの効果です。歯を全く磨かない人と磨く人を比べた試験とは条件が異なります。試験が3つと少なく、主な対象は子どもで、清掃の方法も限られています。日常の歯みがきでは、歯垢を落とす働きと、歯磨剤のフッ化物を歯に届ける働きの両方を考える必要があります。
2. 歯垢除去とフッ化物を組み合わせる理由
歯垢を落とすことと、フッ化物を歯の表面に届けることの両方が大切です。 歯と歯ぐきの境目の歯垢を歯ブラシで落とすことは、歯肉炎の予防に役立ちます。欧州歯周病学会の2020年の診療指針も、手用・電動の歯ブラシを、歯垢と歯肉炎を減らす基本的な方法として勧めています。2
歯垢が残っていると、フッ化物はその中を通って歯の表面付近へ届く必要があります。2005年の研究では、口の中で育てた歯垢を取り出し、フッ化物液に30秒または120秒触れさせました。歯垢全体の平均濃度は上がりましたが、上昇は唾液に触れる側で大きく、歯に近い深い層では小さい傾向でした。深い層でも平均値は上がっていたものの、フッ化物液に触れさせていない歯垢との差を統計的には確認できませんでした。接触時間を延ばすと、より深く浸透しました。6 歯垢を落とせば、この妨げが減り、フッ化物が歯面へ届きやすくなると考えられます。
歯垢がある状態で歯に変化が起きるかを調べた実験もあります。1991年の実験では、人工的な初期むし歯をつくったエナメル質を口の中に装着し、フッ化物洗口(フッ化物入りの洗口液で行ううがい)を2週間続けました。画像解析では再石灰化(失われたミネラルが歯に戻ること)が認められ、歯垢の有無による再石灰化量の差は見られませんでした。ただし、同じ研究で行った別のミネラル量測定では、有意な再石灰化を確認できませんでした。結果は測定法によって異なるため、この実験だけで歯垢除去の必要性を判断することはできません。7
フッ化物洗口にも予防効果があります。学校で監督を受けながら定期的に行った試験では、子どもや青少年の永久歯のむし歯が減りました。8 日々の歯みがきでは、歯垢を落とす働きも生かせます。歯垢を落としながらフッ化物入り歯磨剤を使い、洗口は必要に応じて補助として取り入れるのがよいでしょう。
3. フロスは何を防ぐために使う?
フロス(糸ようじ)を歯みがきに加えると歯ぐきの炎症が減る可能性がありますが、むし歯の予防効果はまだはっきりしていません。 歯ブラシの毛先が届きにくい歯と歯の間を、フロスや歯間ブラシで清掃します。
2006年にHujoelらが4~13歳の計808人を含む6試験をまとめたところ、若年者が自分でフロスを使った試験では、歯間のむし歯が減るかは不確かでした。一方、フッ化物に触れる機会が少ない子どもに専門家が登校日ごとに約1.7年間フロスを使った研究では、歯間のむし歯リスクが約40%低下しました。9 この40%は専門家が行った条件での結果です。家庭で使うフロスの効果とは分けて考える必要がありますが、きちんとフロスを使いこなせれば近い効果は期待できるかも知れません。
歯ぐきについては、2019年のCochraneレビューで、歯みがきにフロスを加えると歯肉炎が減る可能性が示されました。歯間ブラシにも、歯肉炎や歯垢を減らす可能性があります。ただし、研究の確実性は低いか非常に低く、むし歯を評価した試験もありませんでした。10 歯間ブラシはきちんとしたサイズを用いないと歯茎を傷つける恐れがあるため、歯間ブラシは歯間の広さに合うものを歯科で確認しましょう。
4. 歯みがきに加えて見直したい、飲食と歯の溝
甘い飲食を何度も続けると、歯が回復する時間が短くなります。 糖から酸をつくるのは、歯垢の中の細菌です。歯を磨いても、その後に糖を含む飲食を繰り返せば、歯は何度も酸の影響を受けます。むし歯が気になるときは、飲食の習慣も振り返ってみてください。
WHOの2015年のガイドラインは、大人も子どもも、遊離糖類を1日の総摂取エネルギーの10%未満に減らすことを強く勧め、さらに5%未満に減らすことを条件付きで勧めています。遊離糖類とは、食品や飲み物に加えた糖と、蜂蜜・シロップ・果汁などに含まれる糖です。フッ化物を使っていても、糖の摂り方を見直すことが大切です。11
厚生労働省のe-ヘルスネットは、砂糖をとる総量と回数の両方を減らすことを勧めています。過去の調査では、砂糖を含む菓子を食事のときだけ食べた時期より、食事と間食に分けて食べた時期のほうが、むし歯が増えました。12 量と回数の両方に目を向けることが大切です。
酸にさらされて歯から失われたミネラルは、唾液の成分やフッ化物の働きで補われます。米国国立歯科・頭蓋顔面研究所は、糖を含む飲食が頻繁だと酸の影響が繰り返され、歯の回復が追いつきにくくなると説明しています。13

むし歯予防には、歯が回復できる時間をつくることも大切です。たとえば、机に置いた甘い飲み物を少しずつ飲んでいるなら、水や無糖の飲み物に替えられる場面はないでしょうか。甘い飲食を長時間続けないことも、毎日の歯みがきと並ぶ予防の工夫です。
奥歯のかむ面には、歯ブラシの毛先より細く、奥まで清掃しにくい溝があります。 小窩裂溝(しょうかれっこう)と呼ばれるくぼみや溝で、形や深さには個人差があります。磨く時間を延ばしても、毛先が届かない部分の歯垢は落としきれません。溝の形やむし歯のリスクに応じて、歯科でシーラント(溝を材料で覆う予防処置)などを検討します。詳しくは、当院の「歯の溝、黒くなってませんか?それ、実は虫歯で、ものすごく深いかも」でも説明しています。
5. 今日から何を変える?
歯垢を落としながらフッ化物を使い、糖をとる回数にも目を向けましょう。 フッ化物なしで磨いている方は、まず普段の歯磨剤にフッ化物が入っているか確認してみてください。日本の歯科4学会は、フッ化物入り歯磨剤を就寝前を含めて1日2回使い、年齢に応じて濃度と量を選ぶよう勧めています。4
歯磨剤の適切な量は年齢によって異なります。3歳以上は磨いた後に歯磨剤を軽く吐き出し、すすぐ場合は少量の水で1回にします。歯が生えてから2歳までの使用量と使い方は別なので、保護者は学会の年齢別表を確認してください。4
歯ぐきからの出血が続くなら、歯科で原因や清掃方法を確認してください。むし歯を繰り返すなら、磨き残しだけでなく、歯磨剤と甘い飲食の習慣も一緒に振り返りましょう。診察では、むし歯ができた場所や歯ぐきの状態を確認し、その方に合う予防策を考えます。
歯垢を落とすだけで、むし歯を十分に防げるとは言い切れません。 それでも歯垢を残すと、歯ぐきの炎症につながり、フッ化物も短時間では歯面に届きにくくなります。歯垢を落とし、フッ化物入り歯磨剤を使い、甘い飲食のとり方を見直して、歯と歯ぐきの両方を守りましょう。
船橋でご自身に合う予防方法を相談したい方は、かわせみデンタルクリニックのむし歯の診療案内と歯周病の診療案内もご覧ください。
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参考文献
- [1] Walsh T, Worthington HV, Glenny AM, et al. Fluoride toothpastes of different concentrations for preventing dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019;(3):CD007868. DOI: 10.1002/14651858.CD007868.pub3.
- [2] Sanz M, Herrera D, Kebschull M, et al. Treatment of stage I–III periodontitis—The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2020;47(Suppl 22):4–60. DOI: 10.1111/jcpe.13290.
- [3] World Health Organization. Oral health. 2025.
- [4] 日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会.う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法(2023年版).2023年.
- [5] Hujoel PP, Hujoel MLA, Kotsakis GA. Personal oral hygiene and dental caries: A systematic review of randomised controlled trials. Gerodontology. 2018;35(4):282–289. DOI: 10.1111/ger.12331.
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- [7] Dodds MW, Edgar WM. Interactions between fluoride and plaque in the remineralization of enamel caries-like lesions. Am J Dent. 1991;4(3):111–114. PMID: 1863429.
- [8] Marinho VCC, Chong LY, Worthington HV, Walsh T. Fluoride mouthrinses for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2016;(7):CD002284. DOI: 10.1002/14651858.CD002284.pub2.
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- [10] Worthington HV, MacDonald L, Poklepovic Pericic T, et al. Home use of interdental cleaning devices, in addition to toothbrushing, for preventing and controlling periodontal diseases and dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019;(4):CD012018. DOI: 10.1002/14651858.CD012018.pub2.
- [11] World Health Organization. Guideline: sugars intake for adults and children. 2015. Recommendations and remarks(推奨と解説).
- [12] 厚生労働省 e-ヘルスネット.甘味(砂糖)の適正摂取方法.
- [13] 米国国立歯科・頭蓋顔面研究所.The Tooth Decay Process: How to Reverse It and Avoid a Cavity.
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
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