年齢を重ねても、歯は守れるのか
継続して予防管理を受け、30年後まで経過を確認できた人たちでは、30年間に失った歯は平均0.4~1.8本でした。1 歯の本数には年齢に加えて、日々のケアと専門的な管理が関わります。
30年間で失った歯は、どのくらいか
長期の予防管理を受けた人たちでは、開始時の年齢が異なっても、平均喪失歯数は30年間で2本未満でした。 スウェーデンのアクセルソン氏らは、1972年に予防プログラムへ参加した成人を追い、2004年に30年後の結果を報告しています。1
| 開始時の年齢 | 30年後に評価できた人数 | 30年間の平均喪失歯数 |
|---|---|---|
| 20~35歳 | 133人 | 0.4本 |
| 36~50歳 | 100人 | 0.7本 |
| 51~65歳 | 24人 | 1.8本 |
当初の参加者375人のうち、30年後に評価できたのは257人です。特に開始時に51~65歳だったグループは85人から24人に減り、開始時点で残っていた歯の平均本数も若いグループの26.7本に対して20.1本でした。当初の比較グループも6年後に終了しています。表の数字は、長く管理を続けられた人たちの成績です。1
「通い続ける」ことで、何を続けたのか
参加者は必要な治療を受けたうえで、歯磨き・歯間清掃の指導、専門的な清掃、状態の再評価を重ねました。 最初の6年を過ぎると、研究では病気のリスクに応じて来院間隔を3か月、6か月、12か月に分けています。1
日本でも、日吉歯科診療所の熊谷崇氏が2022年の学会講演要旨で、メインテナンスを受けた患者の成績を報告しています。20~34歳で管理を始め、21年以上メインテナンスを受けた344人の平均喪失歯数は0.3本でした。55歳以上でメインテナンスを受けた患者では1.8本です。対象や集計方法はスウェーデンの研究と異なります。2
では、通院の多さをそのまま歯を守る力と見なせるでしょうか。熊谷氏らが加わった2006年の後ろ向き研究では、継続的に通った患者のほうが抜歯を経験しやすいという結果も出ました。著者らは、管理中に歯科医療者が抜歯を判断することが数字に影響した可能性を挙げています。3 一方、2010年の別の解析では、継続して通ったグループで大臼歯を失うリスクが約3割低いという関連が報告されました。4
1998年の総説が紹介したデータでは、定期的に診査・指導を受けたグループは、症状があるときに受診したグループより、各年齢層の1年あたりの平均喪失歯数が少なくなっています。5 通院した回数だけで結果を測るより、口の状態と受けたケアの中身を見ることが大切です。
むし歯や歯周病を抑えれば、歯はすべて残るのか
むし歯や歯周病を抑えても、歯根破折などで失う歯があるため、すべて残るとは限りません。 アクセルソン氏らの研究で30年後まで追えた257人が失った173本のうち、108本は歯根破折によるものでした。歯周病による喪失は9本、むし歯による喪失は12本です。1
この結果からは、残っている歯の本数に加え、治療済みの歯の状態も確認しながら管理する必要性が見えてきます。1
歯が残ることは、自立して暮らす期間も延ばすのか
ここで紹介する研究からは、歯を多く残すことで自立して暮らせる期間が延びるかどうかは分かりませんでした。 秋山弘子氏らは2008年の米国老年学会で、日本の高齢者を長期間追った生活機能の分析を発表しました。秋山氏の2013年の講演資料では、男性は「徐々に低下」70.1%、「早期に低下」19.0%、「比較的長く維持」10.9%の三つのグループに分かれています。調査で確認したのは買い物や外出、入浴、歩行などに必要な日常生活の機能です。6,7
同じ全国高齢者調査を用いた村山洋史氏らの2020年の論文は、25年間の生活機能の変化をさらに分析し、開始時60~74歳の人では、障害の少ない状態を長く保ったグループが80.3%だったと報告しました。教育や世帯所得などの社会経済状況も、生活機能の経過と関連していました。この分類は2008年の発表と解析対象や方法が異なるため、別の結果として読む必要があります。8
歯と生活機能の関係を知るには、同じ人について両方を追い、持病や生活環境なども考慮する研究が必要です。
何を目標に、ケアを続けるか
目標は「何か月ごとに通う」と一律に決めることではなく、自分の歯を失う要因に合わせて管理を続けることです。 スウェーデンの長期研究では、清掃、必要な治療、専門的なケア、再評価を組み合わせていました。1 歯の本数に加えて、むし歯・歯周病や過去に治療した歯の状態を確認することが、その人に合った方法を選ぶ手がかりになります。1,2
年齢を重ねても多くの歯を保ってきた人たちの成績は、歯を守る取り組みを続ける理由になります。年齢を重ねても、口の状態に合わせた管理を積み重ねることが、今ある研究から引き出せる実践的な答えです。
歯の本数や過去に治療した歯の状態が気になる方は、当院の予防歯科もご覧ください。
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参考文献
- Axelsson P, Nyström B, Lindhe J.The long-term effect of a plaque control program on tooth mortality, caries and periodontal disease in adults.Journal of Clinical Periodontology,2004;31:749–757.原著PDF。
- 熊谷崇.「人生100年時代に向けて8020から『KEEP28』へ」掲載ページ.日本歯科保存学会2022年度秋季学術大会。講演要旨PDF。
- Miyamoto T, et al.Compliance as a Prognostic Indicator: Retrospective Study of 505 Patients Treated and Maintained for 15 Years.Journal of Periodontology,2006;77:223–232。
- Miyamoto T, et al.Compliance as a prognostic indicator. II. Impact of patient's compliance to the individual tooth survival.Journal of Periodontology,2010;81:1280–1288。
- 新庄文明,Berkey DB.高齢者に対する地域歯科医療と歯科臨床判断.日本補綴歯科学会雑誌,1998;42:201–206(図2)。
- JAHEAD.研究成果(学会発表一覧の掲載ページ).2008年の秋山氏らの発表を収録した一覧。
- Akiyama H.Trajectories of Functional Health and Subjective Well-being over 20 Yearsの掲載ページ・講演資料,2013年10月23日。
- Murayama H, et al.Socioeconomic Differences in Trajectories of Functional Capacity Among Older Japanese.Journal of the American Medical Directors Association,2020;21:734–739.e1。
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。
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