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お口の中に22種類分の“抗菌薬耐性遺伝子”が?歯周病と抗生物質の使い方を考える新研究


口の中には、健康な人でも多くの抗菌薬耐性遺伝子が存在することが最新レビューで示されました。歯垢・唾液・入れ歯・矯正装置とAMRの関係、そして厚生労働省「歯科編」から見る抗菌薬の正しい使い方を歯科医師がわかりやすく解説します。

目次

  1. はじめに:抗生物質は「効けば安心」ではない時代
  2. そもそも「薬剤耐性」とは何か
  3. 口の中にも“耐性遺伝子のプール”がある
  4. 最新レビューでわかったこと
  5. なぜ歯垢と唾液が注目されるのか
  6. 健康な人の口にも耐性遺伝子はある
  7. 入れ歯・矯正装置・ユニットの水も油断できない
  8. 日本でもAMR対策が歯科に広がっている
  9. 抗菌薬を減らすために、歯科で本当に大事なこと
  10. まとめ

1. はじめに:抗生物質は「効けば安心」ではない時代

「歯が腫れたら、とりあえず抗生物質を飲めば安心」と思っている方は少なくありません。ですが今、世界中で問題になっているのは、抗菌薬を使うたびに“効きにくい菌”が選ばれてしまう可能性があることです1。

厚生労働省は薬剤耐性(AMR)を、抗微生物薬の不必要使用や不適切使用によって薬が効かなくなる、または効きにくくなる状態と説明しています1。しかもAMRは「サイレントパンデミック」と呼ばれ、このまま有効な対策が進まなければ、2050年には世界で年間1,000万人がAMR関連で亡くなるという推計も紹介されています1。

2. そもそも「薬剤耐性」とは何か

薬剤耐性とは、細菌が抗菌薬にさらされる中で、生き残る仕組みを持つようになることです1,2。その仕組みの多くは「耐性遺伝子(ARGs)」によって支えられており、細菌どうしで受け渡されることもあります2。

この「ある場所にどんな耐性遺伝子が、どれくらい集まっているか」をまとめて見たものが「レジストーム」です2。腸内細菌の話でよく聞く言葉ですが、実は口の中も、耐性遺伝子の重要な保管庫になりうることが分かってきました2,3。

3. 口の中にも“耐性遺伝子のプール”がある

口の中には、歯の表面、歯ぐきの境目、舌、粘膜、唾液など、性質の異なる場所がたくさんあります2。こうした場所ごとに細菌の集まり方が違うため、耐性遺伝子の種類や量も変わります2。

2024年公表のシステマティックレビューでは、2015年から2023年の英語論文580本を調べ、条件を満たした15研究を解析しました2,4。その結果、口腔内6部位から158種類の耐性遺伝子が見つかり、22種類の抗菌薬クラスに対応していたと報告されています2。一部の要約記事では159種類と表現されていますが、PubMed要約では159種類、PMC本文の抄録では158種類であり、現時点では報告表現に差があるため、そのまま併記して理解するのが妥当です2,4。

4. 最新レビューでわかったこと

このレビューで特に重要なのは、耐性遺伝子が「病気の人だけ」にあるわけではなかったことです2。健康な人の口の中にも、すでに多様な耐性遺伝子が存在していました2。

また、口腔内のどこにでも見つかる“コアレジストーム”として、テトラサイクリン耐性の tet(M)、tet(O)、そしてマクロライド耐性の ermB が共通して検出されました2。つまり、お口の中には、もともと「耐性のタネ」が広く存在している可能性があるということです2,4。

さらに、歯垢と唾液では耐性遺伝子の豊富さが特に高く、テトラサイクリン系とマクロライド系の耐性遺伝子が広く分布していました2,4。歯科で比較的なじみのある薬剤群と関わる耐性遺伝子が目立つ点は、一般の方にも知っておいてほしいポイントです。

5. なぜ歯垢と唾液が注目されるのか

歯垢、つまりプラークは、細菌が集まって膜のようなかたまりを作る“バイオフィルム”です2。このバイオフィルムの中では細菌どうしが近くで暮らしているため、耐性遺伝子のやり取りが起こりやすい環境になります2。

レビューでも、歯の表面に付く歯肉縁上プラークは口腔内で最も多様なレジストームを持っていました2。一方、唾液は口全体を反映しやすいため、将来は口腔レジストームを簡便に見るサンプルとして役立つ可能性も示されています2。

6. 健康な人の口にも耐性遺伝子はある

ここで誤解してほしくないのは、「耐性遺伝子がある=すぐ危険な感染症になる」という意味ではないことです2。健康な人の口にも耐性遺伝子は存在しうる一方で、それが実際に問題を起こすかどうかは、菌の種類、量、口腔環境、全身状態など複数の条件で変わります2,4。

ただし、健康な口の中に“耐性の種”がすでにあるという事実は、抗菌薬を安易に繰り返し使わない理由としては十分重要です1,2。厚生労働省も、不必要使用だけでなく、不適切な薬剤選択や使用期間もAMRを進める要因だと明記しています1。

7. 入れ歯・矯正装置・ユニットの水も油断できない

2025年の歯科AMRレビューでは、臨床感染だけでなく、入れ歯、矯正装置、ユニットウォーターラインが耐性微生物の見落とされがちな温床になりうると指摘されています5。これらはどれもバイオフィルムができやすく、微生物がとどまりやすい環境です5。

矯正装置については、清掃が難しくなることで口腔内細菌叢が変化しやすいことが別レビューでも示されています6。そのため、装置を使うこと自体を怖がる必要はありませんが、装置が入るほど毎日の清掃と定期管理が大切になる、という理解が現実的です5,6。

入れ歯も同じです。外して洗う、専用洗浄剤を使う、夜間の管理を見直すといった基本が、口臭や粘膜炎だけでなく、AMR対策の意味でも大切になってきます5。

8. 日本でもAMR対策が歯科に広がっている

日本では厚生労働省がAMR対策を進めており、「薬剤耐性(AMR)アクションプラン 2023-2027」を掲げています1。その中で、適切な薬剤を、必要な場合に限り、適切な量と期間で使うことが基本方針として示されています1。

そして2026年1月、厚生労働省は「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 歯科編」と、その要約版を公表しました1,7。これは、歯科でも抗菌薬を“なんとなく出す”時代ではなく、病態に応じて本当に必要かどうかを見極める時代になったことを意味します1,7。

厚労省の要約版でも、薬剤耐性菌発生リスクを減らすために、抗菌薬投与の必要性や各薬剤の耐性化リスクを十分に考慮することが示されています7。一般の方にとって大切なのは、「薬を出してくれる歯科医院が良い医院」ではなく、「必要なときだけ適切に使う歯科医院が信頼できる」という見方です1,7。

9. 抗菌薬を減らすために、歯科で本当に大事なこと

歯科の感染症では、原因が歯の根の中や膿のたまり、深い歯周ポケットなど、局所にあることが少なくありません2。そのため、薬だけでなく、原因部位の洗浄、排膿、根管治療、歯石除去、必要な外科処置など、原因そのものへの処置が重要です7。

一般の方向けに言い換えると、抗菌薬は“主役”ではなく“補助役”であることが多いのです7。だからこそ、毎日のプラークコントロール、フロスや歯間ブラシ、入れ歯や矯正装置の清掃、そして定期的なプロフェッショナルケアが、遠回りに見えて最も確実なAMR対策になります2,5。

怖がりすぎる必要はありません。けれど、抗菌薬に頼りすぎないこと、お口の細菌を日頃から増やしすぎないこと、その2つがこれからの歯科医療ではますます大切になります1,2。

10. まとめ

最新のシステマティックレビューから、口の中には22種類の抗菌薬クラスに関わる158〜159種類の耐性遺伝子が存在し、特に歯垢と唾液が重要な“レジストームの場”であることが見えてきました2,4。健康な人の口の中にも耐性遺伝子はありますが、それはすぐ危険という意味ではなく、だからこそ抗菌薬を慎重に使うべきだというメッセージです1,2。

日本でも厚生労働省が歯科編の手引きを整備し、歯科におけるAMR対策が本格化しています1,7。「薬を飲む前に、まず原因を減らす」。この考え方を知っておくことが、これからの歯周病予防と抗菌薬の正しい使い方につながります1,7。

気になる腫れや痛みを繰り返している方、抗菌薬を何度も処方されて不安な方は、かわせみデンタルクリニックへご相談ください。原因を見極め、薬に頼りすぎない治療と毎日のケアの両面から、お口の健康を一緒に整えていきます。
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参考文献

  1. 薬剤耐性(AMR)対策
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html
  2. Mapping the oral resistome: a systematic review(2024)
    口腔レジストームのマッピング:システマティックレビュー
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11318793/
  3. Abundance and diversity of resistomes differ between healthy human oral cavities and gut(2020)
    健康なヒトの口腔と腸ではレジストームの量と多様性が異なる
    https://www.nature.com/articles/s41467-020-14422-w
  4. Antimicrobial resistance genes in the oral microbiome(2025)
    口腔マイクロバイオームにおける抗菌薬耐性遺伝子
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40050500/
  5. Antimicrobial Resistance in Oral Healthcare: A Growing Concern in Dentistry(2025)
    口腔医療における薬剤耐性:歯科で高まる懸念
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41002664/
  6. Comparative study between the influence of fixed and removable orthodontic appliances in microbiota, and salivary parameters in saliva and oral health: a systematic review(2023)
    固定式・可撤式矯正装置が口腔微生物叢と唾液指標に与える影響の比較:システマティックレビュー
    https://rsdjournal.org/rsd/article/view/39448
  7. 抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 歯科編 要約版(2026年1月)
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001630940.pdf


執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔学会 認定医
医療記事を数多く執筆・TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づいた正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けしています。


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