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目は口ほどにものを言う?――目元と口元から考える笑顔の文化差

日米の研究では、表情を読むときに日本の参加者は目元、米国の参加者は口元を相対的に重視する傾向が見られました。1 その違いは、歯並びへの意識にもつながるのでしょうか。研究で分かったことと考察を分け、表情の読み方と歯への意識のつながりを考えます。

目次
  1. 「目は口ほどにものを言う」は研究でも確かめられる?
  2. 表情ごとに、目と口の役割は変わる?
  3. 日本で目元を重視する理由は、分かっている?
  4. マスクで口が隠れると、笑顔の伝わり方は変わる?
  5. マスクの習慣は、コロナ前から違っていた?
  6. サングラスや英語のなまりも、口元の役割を考える材料になる?
  7. 顔文字では、目と口のどちらを使う?
  8. 漫画やアニメでは、目と口をどう描く?
  9. 八重歯の「かわいい」と、ドラキュラの牙は何を物語る?
  10. 口元を見る習慣は、歯への意識につながる?
  11. 歯並びは「仕事ができる人」という評価につながる?
  12. 日本の矯正とまぶたの美容手術は、長期でどう変わった?
  13. 口元への意識は、歯への意識の文化差につながる?

「目は口ほどにものを言う」は研究でも確かめられる?

日米の実験では、目と口のどちらを手がかりにするかに違いが見られました。

「目は口ほどにものを言う」ということわざがあります。言葉に出さなくても、目つきから気持ちが伝わるという意味ですが、表情の研究にも重なる部分があります。

研究で確認されたのは、Yukiらが2007年に報告した日米の大学生を対象にした実験です。目元と口元に異なる感情を組み合わせた顔文字を見せたところ、日本の参加者は目元、米国の参加者は口元の情報からより強い影響を受けました。顔写真を使った別の実験でも、同じような傾向の違いが見られました。1

ここで比較されたのは、表情を判断するときにどちらの情報を重く見たかという点です。眼球の動きを直接測った実験ではありません。

Jackらの2009年の研究では、実際に「どこを見るか」という視線の動きを調べています。西洋系と東アジア系の参加者に表情の写真を分類してもらい、視線を計測しました。東アジア系は目元、西洋系は目と口の両方をよく見ていました。ただし、各群13人の小規模な実験で、東アジア系の13人のうち日本人は1人でした。2

日本と英国を直接比べたSenjuらの2013年の研究では、視線を向けたりそらしたりする顔の動画を1〜7歳の子どもが見る様子を計測しました。全体では日本の子どもは目元、英国の子どもは口元を見る時間が長く、年齢や性別によって差の表れ方も変わりました。3

顔を見分ける課題を調べたBlaisらの2008年の実験では異なる結果が示されており、西洋系は目や口、東アジア系は鼻を含む顔の中央を多く見ていました。4 「顔を覚える」ときと「感情を読む」ときとで結果が変わる点からも、どのような課題で顔を見ているのかが大切だと分かります。

この結果を日常の笑顔に当てはめると、よく使う手がかりが人によって違うという仮説を立てられます。口角の上がり方を重視する人と、目元の変化を重視する人では、同じ顔から受け取る印象が少し変わるのでしょう。ことわざは、その違いを考えるきっかけになります。

言葉の表現に着目した研究として、Langlotzは2018年、日・英・独・仏・西・韓・広東語の感情を表す慣用句を比較しました。驚きでは7言語とも目と顔の下半分を使う表現があり、怒りで歯をむき出す口の表現がなかったのは日本語と韓国語でした。5 この研究は感情ごとの違いや共通点を調べるものであり、目と口に関することわざ全体の数を比べたものではありませんでした。

表情ごとに、目と口の役割は変わる?

笑顔では口元が有力な手がかりになり、ほかの表情では目や眉、鼻も役割を持ちます。

文化による違いに加えて、どの表情を読み取るかも大切です。Wegrzynらは2017年、94人の学生を対象に、少しずつ見える範囲を広げた顔写真から感情を判断してもらいました。幸福や嫌悪では口元が、恐怖や怒り、悲しみでは目や眉の情報が判断に役立ち、驚きには目と口の両方が関わりました。男女2人が演じた顔写真を使った実験です。6

同じ感情でも、見分ける相手によって手がかりは変わります。DuranとAtkinsonの2021年の実験では、短時間表示された恐怖や驚きの顔を口元で捉えると、目元で捉えるより正確に判断できました。口の違いが、恐怖と驚きを取り違える誤りを減らしたのです。7

こうした結果から、文化ごとの傾向と、表情や課題ごとの違いを合わせて考える必要があると分かります。笑顔の読み取りで得られた結果を、そのまま怒りや恐怖の理解に当てはめると、目と口の役割を見誤ることになります。

日本で目元を重視する理由は、分かっている?

感情の表し方や視線の向け方は、文化的な習慣として身につくという仮説が検討されています。

Yukiらは、日本では感情を控えめに表す作法があり、口元より意図的に動かしにくい目元を手がかりにするという仮説を立てました。実験では日米で判断の重みに違いがあることが示されたものの、その作法が目元の重視につながったのかという因果関係は、今後の検討課題として残されています。1

表情をどのように表すかについても、比較研究が行われています。Cowenらは2024年の研究で、感情を引き起こす動画を見た参加者の顔の動きと、本人が報告した感情を調べました。日本と北米・欧州の間では、感情に結び付く顔の動きに多くの共通点が見られ、表情の強さに差がありました。8 これは、ふだん目にする表情から読み方を学ぶという考察の材料になります。

目元が本心の印になるという説明には、注意が必要です。Girardらは2021年、楽しさや羞恥、恐怖や痛みを引き起こす課題で生じた笑顔を調べました。目の周りの収縮は、肯定的な感情だけに現れる特徴ではないと報告しています。9 目元や口元、声、その場の状況を合わせて受け取ることが、相手の気持ちを考える助けになります。

マスクで口が隠れると、笑顔の伝わり方は変わる?

マスクの影響には日米差が見られますが、認識の正確さと、本人がどれくらい困っているかは別の指標です。

コロナ禍では、マスクで表情が分かりにくいと感じる場面がありました。口元を重視する人にとっては、笑顔を見分ける大きな手がかりが隠れてしまうことになります。

Saitoらの2023年の研究では、米国の203人と日本の209人に、マスクのある顔とない顔の感情を判断してもらいました。米国の参加者ではマスクによって幸福の表情を正しく認識できる割合が下がった一方、日本の参加者では同じような低下は見られませんでした。これは、特定の表情を識別する実験の結果です。10

一方、Nayaniらの2023年の調査では、本人が予想する読み取りの難しさを尋ねています。米国の参加者はサングラスよりもマスク、日本の参加者はマスクよりもサングラスを着けた顔のほうが、感情を読み取りにくいと回答しました。マスクで表情を読み取りにくくなるという予想は、マスクを着ける行動の日米差とも関連していました。11

この二つの結果を合わせると、目元が見えていることが、日本の参加者にとって表情を理解する助けになる場合もある、という考察につながります。ただし、この実験と調査から「日本ではコミュニケーションに困った人の割合が少なかった」とまで言うことはできません。米国でのマスクへの態度にも、社会的な慣習など複数の要因が関わっています。11

マスクの習慣は、コロナ前から違っていた?

公開動画の観察では、コロナ前も流行初期も日本の着用割合が西欧・米国より高く、以前からの習慣を考える材料になります。

BurgessとHoriiは2012年、日本でのマスク着用を社会的な習慣として論じています。2011年に東京の通行人120人に行った調査では、マスク姿を配慮や礼儀と結び付ける回答があり、着用を過敏と見る回答もありました。12

コロナ前後を比べた研究もあります。Chenらは2020年、駅や街路、公園などの公開動画から、マスクを着けていた人の割合を調べました。13

地域コロナ前流行初期
日本3.1%38.7%
西欧5か国0.2%1.6%
米国0.4%2.1%

コロナ前は2018年1月〜2019年10月、流行初期は日本が2020年2〜3月、西欧と米国が3月の動画です。西欧は英国・フランス・ドイツ・スペイン・イタリアを含みます。旅行や暮らしを紹介する動画の観察であり、国民全体の着用率ではありません。当時の流行状況や着用の推奨も異なります。13

マスク姿の意味付けにも、文化的な記述があります。Leoneは2020年、フランスの店でマスク姿の自分が警戒されたと感じた体験を紹介し、顔を隠すことが病気や脅威と結び付く受け止め方を論じています。個人の経験をもとにした文化論であり、欧米の人々が不審者と感じる割合を調べた研究ではありません。14

こうした習慣や意味付けは、表情の読み取りやすさと合わせて、マスクを受け入れる背景として考えられます。ふだんからマスク姿に接する機会があれば、口元が隠れたやり取りにも慣れやすいのではないか、という考察ができます。

サングラスや英語のなまりも、口元の役割を考える材料になる?

話す人の口元が見えることが聞き取りを助ける研究はあります。サングラスの文化差とのつながりは考察です。

サングラスで目元が隠れる場面も、口元の役割を考える材料になります。虹彩の色に関する2013年の研究では、853人を調べたところ、明るい青色の虹彩を持つグループは、ほかの色のグループよりも目の中で散乱する光が多いと報告されました。著者らは、夜間運転などで視界を妨げるまぶしさとの関連を指摘しています。15 目の性質も、サングラスを考える一つの材料です。

言葉を聞き取るときにも、口元の動きが関わってきます。Hisanagaらの2016年の実験では、英語を母語とする人と日本語を母語とする人の間で、口の動きの使い方や視線の向け方に違いが見られました。英語を母語とする人には、口元へ視線を向ける傾向がありました。16

口の動きそのものを測った研究もあります。WestburyとHashiは1997年、単純な母音や唇を閉じて出す子音を発音したときに、米語と日本語の唇の動きがおおむね似ていたと報告しました。17 話すときの口の動きと、聞き手が口の情報をどれだけ使うかは、分けて考える必要があります。

なまりについても具体的な研究があります。Banksらは2015年、慣れないなまりの英語を騒音の中で聞く実験で、音声だけで聞く場合より、話す人の顔や口の動きも見える場合のほうが、聞き取りやすくなると報告しました。18

これらの研究からは、目が隠れている場面や聞き取りにくい場面では、見えている口元が会話の手がかりになり得る、という考察が成り立ちます。

サングラスをかけることが受け入れられる文化では、目元が見えないまま会話する経験が重なり、目に頼らないやり取りの習慣が育ちやすいのではないか、という考察もできます。

顔文字では、目と口のどちらを使う?

日本と米国の顔文字では、感情を表す部分に違いがあり、実験でも目と口の重み付けに違いが見られました。

(^_^) と :) を比べると、前者は目、後者は口の形が笑顔を伝える印になっています。Yukiらの研究も、こうした顔文字の表現を背景に、目と口の手がかりを実験で比較しました。1 

論文で紹介されている顔文字を並べると、同じ感情を異なる部分で表していることが分かります。1

感情の例正面向き(日本の例)横向き(米国の例)
笑顔(^_^):)
悲しみ(;_;):(

正面向きでは目が ^ から ; に、横向きでは口が ) から ( に変わっています。

実験では、目と口が表す感情を組み合わせた6種類の顔文字を比べました。「嬉しい目・悲しい口」は日本の参加者が米国の参加者より嬉しそうと評価し、逆の「悲しい目・嬉しい口」は米国の参加者が日本の参加者より嬉しそうと評価しました。1

漫画やアニメでは、目と口をどう描く?

目や口の描き方には作品ごとの特徴があり、唇を線で簡略化する表現と、輪郭や色を描き込む表現も見られます。

感情の手がかりをどう描くかという文化的な表現の例として、漫画研究者のNeil Cohnは、日本の漫画で大きな目と小さな口を組み合わせる表現を、一つの共有された定型として説明しています。19 CohnとEhlyによる少年・少女漫画各10冊の調査も、目や口などの描き方を感情表現の記号として分析した研究です。作品のジャンルによる違いもあり、日本の漫画にも大きく開いた口や尖った歯で感情を表す表現が見られます。20

目の中の描き込みにも特徴があり、CohnとEhlyは少女漫画の様式として、大きく描いた目の中に星や輝きを入れる表現を紹介しています。20 大きさだけでなく、瞳の中の光も目の表現を豊かにしています。Liuらの2019年の研究では、2005〜2017年の日米のアニメ映画から選んだ100キャラクターを人間の合成顔と比較し、両群とも目を大きく描く傾向を確認しています。21

歴史をたどると、地域同士の影響も見えてきます。手塚治虫の公式サイトには、本人が『ケン1探偵長』の人物のモデルを米国の古いアニメーションに求め、「目がビー玉だったり」と振り返る文章が紹介されています。22

ミッキーの表情を見ると、口を横に大きく広げた笑顔が印象的です。公式画像を見比べると、1930年頃のモデルシートや1935年のセル画、近年のシリーズのポスターに、片目の横幅より広く口を描いた例が見られます。23,24 目の描き方は時代とともに変わっていますが、こうした口の表現は初期の作品にも近年の作品にも見られます。

唇をどのように描き込んでいるかにも、違いが表れています。ジブリの公式静止画で千尋やソフィーの口を簡潔な線で表す場面と、ディズニーの公式画像で白雪姫やアリエルの上下の唇を赤く描く場面を比べると、口元の表し方の違いがよく分かります。25,26,27,28 一方、同じジブリのリンにはピンクの上下の唇が描かれています。25 こうした作品例には、唇を簡略化するか、輪郭や色を描き込むかという描き方の傾向が見えます。

こうした表現に注目すると、目や口をどう描くかという特徴は、感情を伝える手がかりの選び方と重ねて考えることができます。

八重歯の「かわいい」と、ドラキュラの牙は何を物語る?

八重歯をかわいいとする回答に加え、ドラキュラに結び付けた文化的な受け止め方も記録されています。

2012年に刊行された鶴見大学の調査では、歯科衛生科の女子学生に「八重歯はかわいいと思いますか」と尋ねています。「はい」という回答は1年生で61.8%、3年生で46.6%でした。少なくとも、この学生集団には八重歯を肯定的に捉える人がいました。29

日本歯科医師会による文化解説では、1976年にパリで開かれた国際心理学会議での発表が紹介されています。そこには、日本の精神科を訪れた在日西欧人が経験した文化ショックの例として、「八重歯がドラキュラみたいで気味悪い」という受け止め方があったと記録されています。30

これは国民全体の割合を調べた調査ではなく、当時の特定の人々による受け止め方を紹介したものです。それでも、同じ歯の特徴がかわいらしさにも不気味さにも結び付く例として、文化を考える材料になります。

英国の歯科誌British Dental Journalも2013年のニュース記事で、八重歯を「吸血鬼のような牙」と表現し、日本でかわいらしく受け止められていることを紹介しました。31 歯の形に結び付く人物像や物語が、見る側の印象に関わるという考察の材料になります。

口元を見る習慣は、歯への意識につながる?

口元への注意と歯の見た目を結び付ける研究はあり、文化の違いと結びつける議論は考察にとどまります。

日本人であっても、笑顔を見るときには口元を見る時間が増えます。Yamamotoらの2017年の実験では、日本人20人が、口を閉じた顔と歯の見える笑顔の写真を見ました。笑顔では口元を見る時間が長くなり、目元を見る時間は短くなりました。32

歯への評価と視線が、同じように変わるとは限りません。Gasparelloらの2022年の研究では、歯並びを変えた男女の顔写真を、ブラジルの一般参加者90人が見ています。歯並びによって人物への評価は変わったものの、目や鼻、口を見ている時間などには有意差がありませんでした。33 口元をより長く見なくても、歯の見た目によって評価が変わり得る、という読み解き方ができます。写真は5秒間提示され、判断が成立した瞬間は測っていないため、「一瞬で判断した」とまでは言えません。

ここからの考察として、口元を重視して人を見る習慣があれば、歯の形や並びも気に留まりやすくなり、その積み重ねが歯の見た目への期待を育てるのではないか、という仮説が立てられます。現在の研究で直接つながっているのは、特定の顔や歯の見た目と、その場での視線や評価です。文化ごとの習慣が本人の歯への関心を育てる仕組みは、さらに確かめる問いとして残ります。

歯並びは「仕事ができる人」という評価につながる?

歯の見た目が人物の印象に影響する実験はあります。その印象を、実際の能力と分けて考えることが大切です。

かわせみデンタルクリニックの過去記事では、歯の見た目と就職時の評価、笑顔の理想が生むプレッシャーを取り上げてきました。今回の文化差についても、「どんな歯を好むか」という視点から「歯を見て相手をどう評価するか」へと進むと、別の問題が見えてきます。

Pithonらの2014年の研究では、歯並びを画像上で整えた笑顔と、元の笑顔を、企業の採用を担当する100人が評価しました。整えた写真では知性や採用される見込みが高く評価された一方、誠実さや仕事の効率の評価には有意な差が見られませんでした。34 この調査で調べたのは写真から受ける印象であり、実際の仕事ぶりを評価したわけではありません。

こうした結果からは、「歯並びを整えることが自己管理の表れと受け取られる」という見方も考えられます。ただし、ジム通いと同じ位置付けなのか、欧米社会全体に共通する価値観なのかは、この実験では測っていません。

また、文化差には共通点もあります。ConsとJennyの1994年の研究では、日本を含む11の集団の学生が歯並びの写真に付けた評価は、米国の学生の評価とよく似ていました。35 「日本は歯を気にしない、欧米は気にする」と単純に分けるよりも、共通する好みと異なる意味付けを併せて考えるほうが実像に近そうです。

こうした点から考えると、歯を見たときの印象が人物の評価に入り込むほど、見る側にも自身の判断を問い直す余地があります。口元への関心と、人の能力や価値を歯並びで決めることは、分けて考えたい問題です。

日本の矯正とまぶたの美容手術は、長期でどう変わった?

矯正の調査日推計患者数は増え、まぶたの美容手術は10年前とほぼ同水準です。

厚生労働省の患者調査では、歯科診療所で「歯科矯正」を受けた推計患者数を比べることができます。36,37 これは調査日に受診した患者の推計で、年間に矯正を始めた人数や、治療中の全人数を表す数字ではありませんが、参考にはなります。

成人の動きも見られます。日本臨床矯正歯科医会の会員診療所調査では、新たに治療を始めた患者のうち18歳以上が40%を超える診療所の割合は、2016年の24.6%から2021年の49.1%へ増えました。38 約2倍になったのは、この条件に当てはまる診療所の割合です。

美容施術については、国際美容外科学会ISAPSの美容・審美施術調査による日本の推計を10年間で比べます。39,40 矯正の患者調査と並べると、変化の大きさは次のようになります。

項目・集計の単位比較期間開始時終了時倍率増加率
歯科矯正・調査日の推計患者数2014→2023年(9年)19,600人39,600人約2.02倍約102%
まぶたの美容手術(眼瞼手術)・年間の推計施術件数2014→2024年(10年)138,990件140,000件約1.01倍約0.7%

矯正の調査日推計患者数は約2倍になりました。一方、2014年と2024年の眼瞼手術の推計件数はほぼ同水準です。ただし、比較した期間は9年と10年で異なり、集計対象も患者と施術とで違いがあります。この倍率だけで、矯正と美容施術の普及率や関心の強さを比較することはできません。

ISAPSの数値は形成外科医による美容・審美施術の推計であり、調査の回答者や推計方法による違いもあります。保険診療と自費診療を分けた集計ではないため、支払方法はこの数値から分かりません。一人が複数の施術を受ける場合を含み、人数とは異なります。眼瞼手術から二重手術、目頭切開、涙袋などを一括して「目元の整形が増えた」とは言えません。39,40

これらは意識そのものを尋ねた調査ではなく、受診や施術の動向を示す資料です。関心の変化そのものを示す数字ではありませんが、目元や口元への関心を考える際の背景にはなります。

なお、日本と欧米の矯正の普及率を比べるには、同じ分母と条件で集めた統計が必要です。海外の歯科審美に関する論文を多く目にするからといって、地域ごとの研究数を比較したことにはなりません。

口元への意識は、歯への意識の文化差につながる?

口元を重視する習慣が歯への関心にも関わる、という仮説には、研究と文化を合わせて考える余地があります。

表情を読むときに目元と口元のどちらを重視するかについては、文化による平均的な違いが研究で報告されています。歯の見た目が人物の印象に影響する実験もあります。この二つを合わせると、会話や笑顔で口元に注意を向ける機会が多いほど、歯にも目が向き、歯の見た目への期待や関心が育つのではないかという考察ができます。

人物への評価が変わっても見つめる時間には有意差がなかったという結果は、口元からの影響を否定するものとは限りません。この結果は、歯の見た目が評価に使われることと、口元を長く見つめることとを分けて考える材料になります。33 また、日本を含む集団と米国で歯並びの写真の評価が似ていた結果もあります。35 歯並びの好みが似ているからといって、視線の向け方や自分の歯への関心、実際に治療を受ける行動までが同じだとは言えません。

八重歯の受け止め方や、顔文字・漫画における表現は、この仮説をそれぞれの文化の文脈に置いて考える材料になります。日本の矯正やまぶたの美容手術を長期で比較すると、受診や施術の動きも一様ではないことが分かります。日米の実験結果を「日本と欧米の全員」に当てはまる性質へと広げてしまわず、年代や場面、個人ごとの差を含めて捉えるのがよいでしょう。

この視点は、かわせみの過去記事で考えてきた歯の見た目とルッキズムの問題にもつながります。歯への期待が生まれる背景を知ることは、その期待にどこまで応えたいかを自分で選ぶ助けになります。歯並びを整えたい気持ちも、今の笑顔への愛着も、その人自身の選択として尊重したいものです。

関連記事

参考文献

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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。


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治療後も再発予防に努め、安心して通える歯科医院を目指します。