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医療人材の検討会は、なぜ始まり、何を変えようとしているのか

厚生労働省の「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」は、少子化のなかで看護師、歯科衛生士、歯科技工士などを育て、地域医療の担い手を確保するために始まりました。入学できる環境から働き続けられる職場までを、学校、医療機関、自治体が一緒に整えることが議論の中心です。1

目次
  1. 医療人材不足を学校と職場の両方から考える
  2. 仕事内容の認知度は職種によって異なる
  3. 社会人が医療職を目指すとき、学費と仕事の両立が障壁になる
  4. 学び直しを支える履修免除と柔軟な授業
  5. 社会人を受け入れる意向と、学べる体制は別の課題
  6. 都道府県が学校と医療機関をつなぐ案
  7. 人材確保には、養成だけでなく離職防止・復職支援も必要
  8. 医療を受ける人にとって、何が変わる議論なのか

1. 医療人材不足を学校と職場の両方から考える

医療職の募集を見ても、必要な資格を持っていなければ応募できません。資格を取るには学校で学ぶ期間が必要で、その間の学費や生活、実習への参加を考えることになります。医療人材の確保は採用広告を出す何年も前から始まっているのです。

今回の検討会が向き合っているのは、この養成の入口が細くなる問題です。開催要綱は、2040年頃にかけて医療と介護の両方を必要とする高齢者が増える一方、15〜64歳の人口や18歳人口が減り、養成校の定員充足率も低下していると説明しています。定員充足率とは入学定員に対して実際に何人入学したかを示す割合です。1

入学者が減ると、学校の運営にも影響します。第3回の資料は、看護師等の養成所では学生からの納付金が収入の大きな部分を占め、入学者の減少が収入の減少に直結すると示しています。教員や実習設備を維持しながら、地域に学ぶ場所を残すことが課題です。2

検討会の直接の出発点は2025年12月8日の社会保障審議会医療部会の取りまとめでした。2026年5月7日の初会合で厚労省は、業務効率化や職場環境改善とともに、地域の養成体制や養成課程を整えるために検討会を開いたと説明しています。3

人を育てる学校と、その人が働く職場をつないで考えることです。ここに、この検討会の役割があります。

2. 仕事内容の認知度は職種によって異なる

医療関係職種の資格を持たない20歳以上40,520人を対象としたWeb調査では、仕事内容の認知度に職種間の違いがありました。歯科衛生士の仕事内容を「よく知っている」人は11.8%、名称とおおよその仕事内容を知る人は45.7%で、歯科技工士ではそれぞれ6.6%、33.5%でした。職業の名称を知ることと、実際の仕事を知ることには違いがあります。4

医療関係14職種の仕事内容の認知度。仕事内容を知る先頭2区分の合計が高い順。歯科衛生士と歯科技工士の行を枠と歯科表示で強調。歯科関係2職種の4区分の数値は直後の表で確認できます。
図:厚労省資料3を基に作図。第5回資料3、印刷p7(PDF8枚目)。仕事内容を知る2区分合計の高い順に、原表から並べ替え。単一回答、速報値。4
職種仕事内容までよく知っている名称とおおよその仕事内容を知っている名称のみ知っている知らない
歯科衛生士11.8%45.7%32.4%10.1%
歯科技工士6.6%33.5%37.6%22.4%
認知度の数値(%):歯科関係2職種を抜粋。その他の職種は上の図をご覧ください。

3. 社会人が医療職を目指すとき、学費と仕事の両立が障壁になる

厚労省が2026年10月に示したWeb調査の速報では、資格取得を断念した人や現在は検討していない人の理由として、学費の負担と仕事との両立が上位でした。

調査は2026年9月18〜25日に、医療関係職種の資格を持たない20歳以上の男女40,520人を対象に行われました。そのうち、資格取得を検討したものの断念した、または現在は検討していない5,778人の回答は次のとおりです。4

資格取得の検討をやめた理由回答割合
学費の負担が大きい37.1%
仕事との両立が難しい33.4%
年齢面に不安がある28.1%

複数回答による速報値です。出典は厚労省第5回資料3のp9です。4

関心があっても、収入を止めて通学する生活を組めるかが問題になります。同じ調査で、医療関係職種に関心がある1,400人に望ましい受講形態を聞くと、75.1%が働きながら学べる課程を選びました。4

この結果を読むと、社会人の参入を増やすには、職業の魅力を伝えることに加えて、学ぶ時間と生活を両立できる仕組みが必要だと分かります。第4回で出た意見にも、夜間や週末の授業、録画を自分の都合に合わせて見るオンデマンド授業、実習や子育てと両立する教育環境が挙がっています。4

4. 学び直しを支える履修免除と柔軟な授業

学び直す人のなかには別の学校や医療職の養成課程ですでに関連科目を学んだ人もいます。現在も、過去の学修内容を進学先の学校が認めれば、対応する科目の履修を免除する仕組みがあるのです。第3回資料では、授業の内容や時間数が分かるシラバスなどを使い、学校が内容を照合する流れを紹介しています。2

すでに学んだ内容を評価することと、新しい資格に必要な知識や実技を身につけることを、両立させる設計です。遠隔授業や、本校とは別の場所に教室を設けるサテライト施設も、通学距離や時間の制約に対応する選択肢になります。2

この方向の支援には、すでに公募まで進んだものがあります。検討会の発足に先立ち、厚労省の「医療関係職種へのキャリアチェンジ推進モデル事業」は2026年3月18日〜4月17日に実施する養成施設を募集しました。過去に履修した科目を評価する体制や、遠隔授業、サテライト施設などの取組を支援し、導入過程の課題や効果を調べる事業です。5

一方、医療の教育には患者に接する実習や、対面で身につける技術があります。検討会でも教育の質を確保しながら、就労、実習、家庭生活をどう両立するかが論点になっています。学校側には授業時間の組み直し、実習先との調整、教員の負担への対応が求められるのです。2,4

歯科衛生士を例にすると、現在の養成期間は指定規則で3年以上と定められています。学び直しや養成課程の柔軟化はこうした職種ごとの現行基準を踏まえて議論されています。6

5. 社会人を受け入れる意向と、学べる体制は別の課題

歯科の養成校では、社会人を受け入れたいという意向に比べて、夜間や遠隔で学べる支援の実施割合は低い結果となりました。第5回の学校調査では、社会人・既資格者の受入れに「積極的」または「条件が整えば」と答えた割合は、歯科衛生士養成校で74.5%、歯科技工士養成校で85.0%でした。一方、現在の支援として夜間・土日・短時間の課程を挙げたのは7.5%と10.0%、遠隔授業・サテライトは3.7%と5.0%でした。両質問の分母はそれぞれ161校、40校で、受入れへの意向と現在の実施体制を別々に聞いています。4

歯科衛生士養成校161校、歯科技工士養成校40校の受入れ意向と現在の支援体制。前向きな意向は74.5%と85.0%、夜間等は7.5%と10.0%、遠隔等は3.7%と5.0%。
図:厚労省資料3を基に作図。印刷p34〜35(PDF35〜36枚目)。2026年7月15日〜8月7日の養成校調査、速報値。4

受入れの方針だけでなく、時間割、通学、既修得単位の認定をどう組み合わせるかが、社会人の学び直しを具体化する課題になります。

6. 都道府県が学校と医療機関をつなぐ案

学校を卒業した人が全員その学校のある県で働くとは限りません。第5回の資料は、職種や学校によって県内就職と県外就職の割合が異なることを示しています。学校の所在地だけで、その地域に供給される人材を判断しにくいことが分かるのです。4

そこで提案されているのが、都道府県単位の協議の場です。資料では「プラットフォーム」と呼ばれ、市町村・職能団体・ハローワーク・養成校・医療機関などが参加するイメージが示されています。4

地域でどの職種がどれだけ必要か、どこで育ち、どこで働いているかを共有し、その情報から対策を決める案です。話し合う内容には、新しい人材の養成・職場への定着・復職支援・学校同士の連携や再編・業務効率化が含まれます。4

例えば、学びたい人はいるものの通える学校が遠い地域なら、遠隔授業や通学を支える取組が候補になります。学校はあっても卒業生が地域外へ出ていく場合には、地域で働く条件も一緒に考えることになります。第5回のたたき台には、スクーリングへの支援、転居支援、地域での就職を支える取組が並んでいます。4

厚労省は2027年度概算要求にも、こうした協議の場づくりや人材の需給把握、確保策を試すモデル事業を盛り込んでいます。この段階では予算要求と検討案であり、全国で使える新制度としての開始時期や詳細は今後の決定事項です。4

7. 人材確保には、養成だけでなく離職防止・復職支援も必要

資格を取った人が職場を離れれば、その地域で働く人は減ります。第1回では歯科の立場から、歯科衛生士では就労後の離職、歯科技工士では養成校や入学者の少なさが問題だと指摘されました。不足しているという言葉が同じでも、必要な対策は職種によって変わるのです。3

第5回では勤務環境も議題になり、育児や介護との両立、ハラスメントへの対応、キャリア形成、業務効率化が取り上げられました。人材を増やす取組と、今いる人が働き続けるための取組を、同時に進める構想です。4

医療機関が勤務環境を見直す際には、すでに各都道府県にある医療勤務環境改善支援センターという相談先もあります。労務や経営の専門家が、労働時間の管理、育児や介護との両立、ハラスメント対策などを、窓口相談や個別訪問で支援する仕組みです。4

復職支援には、資格を持ちながら現在は就業していない人を把握する課題もあります。第4回で日本歯科衛生士会の構成員が地域ごとのデータ整備を求めたのに対し、厚労省は職種による状況の違いやデータの乏しさを挙げ、対応を検討すると答えています。7

8. 医療を受ける人にとって、何が変わる議論なのか

今回の議論が目指すのは、将来も地域で必要な医療を受けられるよう、その担い手を育て、確保することです。進学や転職を考える人にとっては、通える場所、学べる時間、過去に学んだ内容の扱いが関係します。医療機関にとっては採用に加えて、地域の養成校との関わりや働き続けられる環境が問われます。1,2,4

すでにある履修免除や勤務環境の相談支援、養成施設を対象としたモデル事業と、現在議論されている地域の新しい枠組みには、進み具合の違いがあります。第1回で示された予定では、2026年冬頃に議論を取りまとめ、医療部会へ報告することになっています。1

医療の担い手を確保するために、学び始めるために何をすればいいか、働き続けるために何をすればいいかをまとめ、改善に繋げることです。これが、検討会が変えようとしている中身です。今後は、地域の話し合いが具体的な学習支援や勤務環境の改善にどう結びつくかが焦点になります。

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参考文献

  1. 厚生労働省.第1回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会:資料.2026.資料1、2、4
  2. 厚生労働省.第3回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会:資料.2026.資料2、p14、21、28〜31、33〜34
  3. 厚生労働省.第1回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会 議事録.2026
  4. 厚生労働省.第5回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会:資料.2026.資料1 p32〜33、41、資料2 p21、資料3 p2、5、7、9、11、34〜35、資料5
  5. 厚生労働省.医療関係職種へのキャリアチェンジ推進モデル事業実施養成施設の公募について.2026.公募要領
  6. 厚生労働省.歯科衛生士学校養成所指定規則.第2条
  7. 厚生労働省.第4回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会 議事録.2026


執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。


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