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金価格上昇が引き起こす連鎖:歯科治療からチョコレートまで

「世界は今、不安定だ」——そんな時に金の価値が上がる理由

あなたが最近、銀歯の治療が高くなったと感じたり、好きなチョコレートが棚から消えていたり、値段が跳ね上がっていることに気づいたことはありませんか?一見、無関係に思えるこれらの出来事は、実は同じ根っこでつながっています。

その根っことは、世界の政治・経済が不安定になるたびに跳ね上がる「金(Gold)」の価格です。

金価格が上昇すれば、アフリカの貧困地域では違法な金採掘が増加し、水銀汚染が広がります。

その汚染はカカオ農園を破壊し、チョコレートの原料不足につながります。

同時に、金属インフレは歯科治療にも影響を及ぼします。この一連の流れを追うことで、私たちが日常で経験する「値上げ」や「品不足」の理由の一端が見えてきます。

1. 世界が不安定だと金が値上がりする理由

日本人が「実感できる」金価格の上昇

2025年の金価格を、日本人にとって分かりやすい単位で説明します。

1グラムあたりの金の売却価格は、2020年初頭は約3,500円でした。それが2025年12月現在、約21,500円まで上昇しています。つまり、わずか5年で約6倍に値上がりしたのです。

別の視点で見ると、もっと分かりやすいかもしれません。1オンス(約28グラム)あたりの金の価格は:

  • 1980年:約850ドル(当時の円相場で約20万円相当)
  • 2020年初頭:約1,770ドル(約190万円相当)
  • 2025年12月:約4,000ドル超(円安も相まって日本円で約670万円に到達)

言い換えれば、40年前から比べると4.7倍、直近5年でも2.3倍の値上がりです。

なぜこんなことが起きるのか?理由は「世界が不安定だから」

金価格が跳ね上がるのは、つねに**「有事」**の時です。具体的には、以下のような要因が重なっています:

  • 米国の政治的不確実性:米国大統領と連邦準備制度理事会(FRB)の対立など、政策の先行きが不透明化
  • 地域紛争:中東情勢の悪化、ウクライナ情勢の長期化
  • 経済的摩擦:米国による新たな関税政策、各国との貿易戦争
  • 通貨不安:米ドルへの信頼低下、インフレ懸念の再燃

こうした「有事」の局面では、投資家たちは株や債券よりも、金に資金を逃がします。金は国家に依存しない、普遍的な価値を持つ資産だからです。

各国中銀も金を爆買いしている

さらに重要なのが、各国の中央銀行までもが金を大量に買い増しているという動きです。中国の人民銀行は2025年上半期だけで120トンの金を準備金に組み入れました。インド、ロシア、トルコなど新興国の中銀も同じです。理由は「脱ドル化」——つまり、米国のドルへの依存を減らし、自国通貨や金といった資産で国家の資産を守ろうとしているのです。

この「公的部門からの安定的な買い」が、金価格を底支えしています。株式市場が一時的に乱高下しても、金は買われ続けるわけです。

結果として、金の国際価格は上昇し続けています。

2. 金価格上昇が仕掛けるワナ:零細金採掘の急増と水銀汚染

「簡単に稼げる仕事」:金採掘への参入

金価格が上がれば、西アフリカやアマゾン流域の貧困地域では何が起きるでしょう?答えは違法・零細な金採掘(ASGM:artisanal and small-scale gold mining)の爆発的な増加です。

国連の報告によれば、世界の金の約20%は零細採掘によって産出されており、現在1,000万~2,000万人がこの産業に関わっています。多くは失業や低賃金に苦しむ地域の住民たちです。

金価格が跳ね上がると、「このビジネスなら数カ月で生活費を稼げる」と、農民たちが土地を手放してでも採掘に走ります。西アフリカのガーナやコートジボワールでは、まさにこれが起きています。

水銀:土から水へ、食卓へ

ここで登場するのが水銀です。零細採掘者たちは、採掘した土や砂に水銀を混ぜて「アマルガム」という合金を作ります。その後、この混合物を加熱すると、水銀は蒸気となって大気中へ消え、純粋な金だけが残る——それが採掘のプロセスです。

しかし、この過程で:

  • 大気中に放出された水銀が雨で川に流れ込む
  • 川や湖の沈殿物に蓄積した水銀が、飲料水源を汚染する
  • 土壌に蓄積した水銀が、農作物の根から吸収される

結果として、採掘地周辺の生態系は「水銀に汚れた荒野」へと変わります。

国連ミナマタ条約の2025年会議では、この問題がいよいよ深刻化していることが報告されました。零細金採掘から大気中に放出される水銀は年間838±163メガトン、土地と河川に放出されるのは年間1,221±637メガトンと推定されています。

条約発効後も水銀使用は増加し続けている——これが現実です。

3. カカオ農園の消失:金採掘とチョコレート危機

「農家が金を選んだ」理由

西アフリカ、特にガーナとコートジボワール。ここは世界のカカオの約70%を供給する「チョコレートの心臓」です。ところが、この2つの国では今、農家たちが次々とカカオ栽培を放棄しています。

理由は金採掘(ガーナでは「ガラムシー」と呼ばれる違法採掘)が儲かるからです。

カカオ農家の平均月収は数万円程度。一方、金採掘に参入すれば、数カ月で数十万円の現金が手に入ります。カカオ樹は植え付けから実をつけるまで3~5年かかりますが、金採掘は「今すぐ金になる」のです。

結果として:

  • ガーナのカカオ生産は過去5年で急激に減少
  • 2024/25年シーズン:650,000トン
  • 予想される2025/26年シーズン:585,000トン(さらに10%減)
  • コートジボワールも同様に減産傾向

農家たちは、自分たちが所有する農地を「採掘用地」として売却するか、自分たちがガラムシーに手を染めるか、どちらかの選択を迫られているのです。

農地の「二次被害」:水銀汚染による収量低下

さらに悪いことに、採掘地周辺の農地は単に奪われるだけでなく、水銀汚染によって「農業ができない土地」に変わってしまいます

ガーナ政府の報告では、東部地域のカカオ農園の80%以上が違法採掘の影響を受けていると指摘されました。汚染された水で灌漑されたカカオ樹は、収量が低下し、やがて枯れます。同時に、残された農家たちも高齢化が進んでいます。

結果として、カカオ供給はどんどん減少します。

チョコレート価格の急騰

カカオ供給が減れば、国際市場での価格は跳ね上がります。カカオ供給問題の原因として地球温暖化の影響などもあるため、金採掘による水銀汚染だけが原因ではありませんが、原因の一部となっていることは間違いありません。

カカオの国際価格推移:

  • 2022年末:1キログラムあたり約2.51ドル
  • 2024年10月ピーク:1トンあたり12,906ドル(1キログラムあたり約12.9ドル)
  • 2025年11月現在:1キログラムあたり約5.6ドル

つまり、2022年から2024年ピークまで、わずか2年で約5倍に跳ね上がったのです。現在は調整局面にあるものの、2022年比では依然として2倍以上の高水準が続いています。

この高騰は、チョコレート菓子の製造コストを直撃します。スーパーの棚では高級チョコレートから廉価品まで、一律に値上げされています。

「好きなチョコレートが高くて買えなくなった」という消費者の実感は、遠くアフリカで起きている「金採掘による水銀汚染」と、実は直結しているのです。

4. 歯の治療も金の値上げで困窮する

歯科用金属の国際相場

金価格の上昇は、チョコレート市場だけにとどまりません。医療現場、特に歯科治療にも大きな影響を与えています

日本を含め、多くの国では虫歯治療に「金パラジウム合金」という歯科用金属が使われてきました。これは、金とパラジウムを一定比率で合わせた合金で、歯科冠(いわゆる「銀歯」)の主原料です。

この合金の国際相場は、金とパラジウムの世界市場価格に連動しています。

患者負担の増加:日本円で見ると

パラジウムの価格上昇は特に深刻です:

  • 1990年:1グラムあたり約1,500~2,000円
  • 2025年12月現在:1グラムあたり約5,700円以上

つまり、過去35年間で10倍近くの価格上昇です。

さらに深刻なのが、円安の影響です。歯科用金属は国際市場で取引されるため、円が弱くなると、ドル建てで同じ価格の金属を買うのに、より多くの円が必要になります。

つまり、金価格上昇 → 国際相場の上昇 → 円安による割増効果 → 日本国内の負担増加、という多段階の値上げが重ねられているわけです。

日本の保険診療では、歯科医院の材料費負担と「保険から支払われる技術料」に差が出始めています。つまり、材料の原価が保険点数(診療報酬)より高くなる「逆転現象」が起きているのです。これは端的にいえば「治療をしたら赤字」ということです。

結果として、患者の窓口負担も徐々に増加する傾向が報告されていますし、他の素材へ切り替える動きも出てきています。

5. ミナマタ条約:「禁止」と現実のズレ

日本が名付けた「水銀汚染の警告」

1950年代~1970年代、熊本県水俣市で、化学工場の排水に含まれた水銀が食物連鎖を通じて人体を蝕み、多くの人が神経障害で苦しむ「水俣病」が発生しました。

この教訓を世界に伝えるため、2013年に「水銀に関する水俣条約」(ミナマタ条約)が採択されました。発効は2017年。国連のもと、世界が一致して水銀の使用廃止に向かう——そのはずでした。

条約の成果と限界

2025年11月のCOP6(第6回締約国会合)では、重要な決定が下されました:

  • 歯科用アマルガムの2034年までの段階的廃止が決定
  • 金採掘の供給チェーン追跡(トレーサビリティ)の強化
  • 水銀含有化粧品の規制強化

しかし、現場では規制が追いついていません

違法な金採掘は、むしろ金価格上昇とともに増加しています。水銀が国際市場で密売されている疑いも指摘されています。アマゾン流域では、メキシコから違法に輸入された水銀が、ボリビア、コロンビア、ペルーの違法金鉱に使われています。

また、皮膚漂白クリーム(スキンライトニング製品)からの水銀除去も進みません。2025年11月のCOP6では、バングラデシュ、タイ、インドなどの国が「代替品がない」「管理能力がない」という理由で、水銀含有化粧品の使用期限延長を求めました。

条約が禁止しても、貧困地域での需要と国際的な密売ネットワークが、規制を骨抜きにしているのが実態です。

6. 「つながり」を知ると、世界が違って見える

あなたのチョコレート、その代償は?

私たちが何気なく口にするチョコレート1枚は、以下の連鎖の果てにあります:

  1. 世界情勢の不安定化 → 金価格上昇(5年で6倍)
  2. 金採掘の急増 → アフリカの農地侵食
  3. 水銀汚染 → カカオ樹の枯死と土壌悪化
  4. カカオ供給不足 → カカオ価格が2年で5倍に跳ね上がり、チョコレート値上げ
  5. 製品の入手困難化 → 消費者負担の増加

「安いチョコレート」を享受するために、アフリカの農民が水銀汚染された水を飲み、子どもが健康被害を受けています。

あなたの歯の治療の代償は?

同様に、あなたが虫歯治療を受けるとき:

  1. 世界情勢の不安定化 → 金価格上昇(5年で6倍)
  2. 金・パラジウム採掘の増加 → 環境汚染と労働搾取
  3. 金属相場の高騰 → パラジウムが35年で10倍に値上がり
  4. 円安の進行 → さらなる国内コスト増加
  5. 患者負担の増加 → 治療の選択肢縮小

医療の現場でも、同じ構造が起きています。

社会情勢が不安定だと、私たちの日常も揺らぐ

この記事で伝えたいメッセージは、シンプルです:

世界が「有事」になれば、金価格は上がる。金価格が上がれば、違法採掘は増える。違法採掘が増えれば、環境汚染が広がり、医療と食卓が値上げされる。

つまり、地政学リスク、経済不安、政策の不透明性といった遠い世界の出来事が、あなたのチョコレートの値段と、あなたの歯科治療の費用に、ダイレクトに影響を与えているのです。

私たち個人にできることは何か?

短期的には難しい問題です。金価格や世界情勢は、個人レベルではコントロール不可能です。

しかし、長期的には、選択肢があります

  1. サプライチェーンの透明性を求める:チョコレートメーカーに対し、「違法採掘由来のカカオを使っていない」という証明を要求する声を上げること
  2. トレーサビリティの強化を支持する:金の採掘地を追跡し、違法採掘品が市場に流入しないようにする国際的な仕組みに、市民として関心を持つこと
  3. 医療政策への関心:歯科医療の材料費危機を国や地方自治体に認識させ、保険診療の見直しを促すこと
  4. 教育:周囲に、このつながりを説明すること。市民の関心が高まれば、政策も動きます。

終わりに:「つながり」が見えると、行動が変わる

人間は、遠い出来事には無関心になりやすい生き物です。

「アフリカの金採掘なんて、自分とは関係ない」「水銀汚染は、あちらの問題」——そう思いがちです。

しかし、実際には、あなたのチョコレート、あなたの歯の健康、あなたの医療費、すべてが、世界経済の不安定性と、その結果としての「違法採掘による環境汚染」とつながっています。

2025年、世界は政治的・経済的に不安定な状態が続いています。金価格も高止まりしそうです。

であれば、この「つながり」を知った私たちには、責任があります。

「高い物を安く買いたい」という便利さの追求だけでなく、その背景で何が起きているのかを問い直す。企業や政府に対し、透明性と持続可能性を要求する。

そうした1つ1つの行動が、遠く離れたアフリカの水銀汚染を減らし、カカオ農家の権利を守り、医療現場の危機を緩和することにつながるのです。

参考文献

  1. 日本の経済産業省・外務省・環境省(2025年11月)
    「ミナマタ条約第6回締約国会合の成果」
    https://www.meti.go.jp/english/press/2025/1113_001.html
  2. Reuters(2025年7月9日)
    「West Africa facing 10% drop in cocoa output in 2025/26」
    (西アフリカは2025/26年にカカオ生産量が10%減少する見通し)
    https://www.reuters.com/world/africa/west-africa-facing-10-drop-cocoa-output-202526-industry-sources-say-2025-07-09/
  3. Reuters(2025年10月17日)
    「High prices, bad quality slow down Ivory Coast cocoa purchases」
    (高い価格と品質低下がコートジボワールのカカオ購買を減速させている)
    https://www.reuters.com/world/africa/high-prices-bad-quality-slow-down-ivory-coast-cocoa-purchases-sources-say-2025-10-17/
  4. BBC(2024年10月19日)
    「Ghana’s illegal gold mining industry causes environmental impact」
    (ガーナの違法金採掘産業が環境に悪影響を及ぼしている)
    https://www.bbc.com/news/articles/cn9dn8xq92jo
  5. City AM(2025年9月25日)
    「Surging gold prices send shockwaves through the chocolate market」
    (急騰する金価格がチョコレート市場に衝撃を与えている)
    https://www.cityam.com/surging-gold-prices-send-shockwaves-through-the-chocolate-market/
  6. UNEP Minamata Convention Progress Report(2024年)
    「MINAMATA CONVENTION ON MERCURY」
    (水銀に関する水俣条約進捗報告書)
    https://zoinet.org/wp-content/uploads/2018/01/Minamata-Convention-Progress-Report-2024_EN.pdf
  7. ACS Central Science(2025年11月)
    「Mercury use is on the rise despite a UN push for phaseout」
    (国連の廃止推進にもかかわらず水銀使用は増加している)
    https://cen.acs.org/environment/pollution/mercury-gold-minamata-toxic-skincare/103/web/2025/11
  8. Trading Economics
    「Cocoa – Price – Chart – Historical Data」
    (カカオの価格推移・歴史的データ)
    https://tradingeconomics.com/commodity/cocoa
  9. Bankrate(2025年7月)
    「Gold price history and historical prices (1915-2025)」
    (金の価格歴史:1915年~2025年)
    https://www.bankrate.com/investing/gold-price-history/
  10. Inflation Adjusted Annual Average Gold Prices
    「Inflation Adjusted Annual Average Gold Prices」
    (インフレ調整済み金年間平均価格)
    https://inflationdata.com/articles/charts/inflation-adjusted-annual-average-gold-prices/
  11. J.P. Morgan(2025年6月30日)
    「Cocoa prices are finally falling. Why?」
    (カカオ価格がようやく下落している。なぜか?)
    https://www.jpmorgan.com/insights/global-research/commodities/cocoa-prices

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