歯髄結石は全身疾患のサインになり得るか? ―心血管疾患・糖尿病との関連エビデンスを中心に―

目次
- はじめに
- 歯髄結石とは?
- 全身疾患との関連:歯科視点からのまとめ
3.1 心血管疾患(CVD)との関連(2020)
3.2 糖尿病(DM)との関連(2024, 2025)
3.3 大動脈・頚動脈石灰化との関連(2019, 2023) - 他の全身疾患・背景因子(2011, 2015, 2021)
4.1 高血圧・高脂血症・慢性腎疾患
4.2 歯周病・局所刺激との関係(2021) - 歯科医院での臨床的対応
5.1 根管治療時の注意点
5.2 全身疾患スクリーニングとしての「サイン」として扱う
5.3 患者説明のポイント - まとめ-歯科医院ができること
1. はじめに
歯科医院の診療で、パノラマX線やデンタルX線を読んでいると、歯の神経の入っている部分(髄腔)に「白い点や塊」が見えることがあります。
それが「歯髄結石(pulp stones)」です。
近年、歯髄結石が心血管疾患や糖尿病、そして頚動脈の石灰化(CAC)など、全身の石灰化関連疾患との関連を示す報告が増えてきました。
このことから、歯科医院は「全身疾患の早期発見のサインを見つける場所」として、より重要な役割を担うようになっています。
本記事では「歯科医師向けの知識整理」として、歯髄結石と全身疾患(特に糖尿病・頚動脈石灰化)との関連を、エビデンスに基づいてまとめます。
2. 歯髄結石とは?
2.1 定義とでき方
歯髄結石は、歯髄(歯の神経・血管・結合組織)の中に形成される石灰化塊で、組織学的には象牙様組織や無構造の石灰沈着として確認されることが多いです。
発生の背景には、年齢の上昇、長期間のう蝕・大きな修復物、歯周病、外傷などによる「局所の慢性刺激」がよく指摘されています。
2.2 検出方法と頻度
臨床では、以下の画像診断で歯髄結石が確認されます。
- デンタルX線(咬翼・根尖)
- パノラマX線
- CBCT(三次元的確認が可能)
有病率は研究により幅がありますが、成人では10〜40%台という報告が多く、とくに中高年層で高頻度に見られます。
3. 全身疾患との関連:歯科視点からのまとめ
3.1 心血管疾患(CVD)との関連(2020)
サウジアラビアのCBCTを用いた研究では、心血管疾患(CVD)のある患者と健常対照群の歯髄結石有病率を比較しています。
- CVD群:歯単位で約16.7%の歯で歯髄結石が確認
- DM群:約9.0%
- 対照群:約3.9%
この研究では、CVDが歯髄結石の独立したリスク因子として示され、「CVD患者は約3倍のリスクで歯髄結石が出現しやすい」ことが示唆されています。
つまり、心臓・血管疾患の既往を有する患者で歯髄結石が多発している場合、「全身の石灰化傾向が高まっている可能性」があると解釈できます。
3.2 糖尿病(DM)との関連(2024, 2025)
2024年の研究:糖尿病と全身の石灰化傾向(2024)
2024年に発表されたオープンアクセス研究では、歯髄結石と高血圧・糖尿病・脂質代謝異常などの「代謝性疾患」との関連が検討されています。
- 糖尿病や高血圧、高脂血症の患者で、歯髄結石の有病率が有意に高くなる傾向が示された
これは、糖尿病に伴う慢性的な炎症・高血糖・石灰化の傾向が、全身の石灰化バランスに影響し、歯髄にも反映されている可能性を示唆しています。
2025年の論文:頚動脈石灰化・歯髄結石と糖尿病の関連(2025)
2025年にBMC Endocrine Disordersに掲載された後ろ向き観察研究では、「頚動脈石灰化と歯髄結石が糖尿病のアラームサインになり得るか?」を検討しています。
- 対象:糖尿病患者107名と、一般健常者300名のパノラマX線を評価
- 結果:
- 頚動脈石灰化の頻度は、健常群で14%
- 糖尿病群で41.1%と有意に高値
- 片側・両側の頚動脈石灰化とも、糖尿病群で頻度が有意に高かった(p<0.05)
- 歯髄結石の相対頻度も糖尿病群で有意に高かった
この研究は、「パノラマX線で偶然認める歯髄結石や頚動脈石灰化は、糖尿病患者の血管石灰化リスクを評価するうえで有用なサインになり得る」と結論づけています。
したがって、歯科の診療で歯髄結石や頚動脈石灰化が認められた糖尿病患者では、全身の石灰化リスクが高まっている可能性を意識する必要があります。
3.3 大動脈・頚動脈石灰化との関連(2019, 2023)
2023年の研究:大動脈石灰化の早期マーカー(2023)
2023年にScientific Reportsに掲載された研究では、歯髄結石が大動脈石灰化の「早期のサイン」になり得る可能性が示されています。
- 解剖学的検討では、大動脈石灰化が認められた症例の多くで、歯髄結石がすでに存在していた
- 高リン血症ラットモデルでは、歯髄の石灰化が大動脈の石灰化よりも「先行して」現れる
このことから、歯科のレントゲンで確認される歯髄結石が、心血管疾患のリスクを反映する「早期のサイン」として有用かもしれないという仮説が提唱されています。
2019年の研究:頚動脈石灰化と歯髄結石の相関(2019)
2019年の研究では、パノラマX線で確認される頚動脈石灰化と歯髄結石の有病率を比較しています。[3]
- 頚動脈石灰化の有病率:約6.8%
- 歯髄結石の有病率:約40.2%
- 両者は統計学的に有意な正の相関(p<0.05)
この研究では、特に糖尿病患者で両者の併存率が高まっていることが示されており、「歯科の画像所見は全身の石灰化状態を映し出す一材料」として位置づけられています。
4. 他の全身疾患・背景因子(2011, 2015, 2021)
4.1 高血圧・高脂血症・慢性腎疾患
- 2021年の研究では、高血圧・高脂血症患者で歯髄結石の有病率が有意に高くなる傾向が示されています。
- 2015年の研究では、歯髄結石と腎結石の有病率が相関し、腎結石患者では約3倍の歯髄結石有病率が報告されています。
これらは、慢性腎臓病に伴う高リン血症など、全身の石灰化の乱れが歯髄にも反映している可能性を示唆します。
さらに、2011年の研究では、歯髄結石から「石灰化ナノ粒子(calcifying nanoparticles)」が高頻度に検出されており、全身石灰化との共通病態の可能性が示されています。
4.2 歯周病・局所刺激との関係(2021)
歯周病患者を対象とした研究では、歯周病がある患者で歯髄結石の有病率が高くなることが示されています。
これは、慢性の炎症・血流・代謝の変化が、歯髄の石灰化を促進している可能性を示唆します。
また、大きな充填物やブリッジなどによる機械的刺激、長期の歯髄刺激歴がある歯では、歯髄結石の出現頻度が高くなることが報告されています。
このため、歯髄結石は「全身因子(高血圧・糖尿病・高リン血症など)+局所因子(歯周病・う蝕・修復物・外傷)」の複合的な結果として形成される「石灰化のサイン」と捉えるのが妥当です。
5. 歯科医院での臨床的対応
5.1 根管治療時の注意点
歯髄結石があると、根管の開口が難しくなり、
- ファイル破折
- 根管穿孔
- 髄床底・根管の石灰化によるアクセスの困難
などのリスクが高まる可能性があります。
特に、上顎第一大臼歯など、歯髄結石がよく観察される部位では、
- 放大・歯内用顕微鏡(マイクロスコープ)の活用
- CBCTやデンタルCTを用いた詳細な確認
- 超音波チップを用いた石灰化の除去
などを検討することで、治療の安全性を高めることができます。
5.2 全身疾患スクリーニングとしての「サイン」として扱う
歯髄結石自体は「必ず病的」というものではありません。多くは無症状で、偶然見つかる所見です。
しかし、エビデンスから以下の点が示唆されています。
- 心血管疾患・糖尿病・高血圧・高脂血症・慢性腎疾患などの患者で、歯髄結石の有病率が相対的に高い傾向がある
- 大動脈・頚動脈の石灰化と、歯髄結石が関連し、前者に先行する可能性がある
- 2025年の研究では、糖尿病患者で歯髄結石と頚動脈石灰化の頻度が有意に高まっていることが示された
このため、歯科医院では以下の点を意識して対応することが可能です。
全身疾患の既往を確認
- 問診で「心臓・血管の病気」「糖尿病」「高血圧」「高脂血症」「腎疾患」の有無を確認
- 既に診断を受けている場合は、かかりつけ医との連携を意識する
歯髄結石や頚動脈石灰化が多発している場合の対応
- 「全身の石灰化傾向が高まっている可能性がある」として、患者に説明
- 既に糖尿病や心血管疾患を抱えている場合は、最新の検査結果(HbA1c、脂質、腎機能、画像検査など)の確認を促す
画像の再評価・追加検査の検討
- パノラマX線で歯髄結石が多数認められる場合、頚動脈石灰化領域の再評価を行う
- すでに全身疾患を抱えている場合は、定期的な血液検査や画像検査の重要性を説明する
5.3 患者説明のポイント
「歯のレントゲンで、歯の内側に「白い点」が見えることがあります。これは歯髄結石と呼ばれる石灰化の塊で、多くは痛みを伴わず、偶然見つかるものです。
しかし、最近の研究では、歯髄結石や頚動脈の石灰化が糖尿病や心臓・血管疾患のリスクと関連している可能性が示されています。
すでに心臓の病気や糖尿病、高血圧などをお持ちの方で、歯髄結石が複数認められる場合、全身の石灰化傾向が高まっている可能性があります。
この場合は、歯科の検査結果をもとに、定期的な全身検査や生活習慣の見直しを検討することをおすすめすることがあります。」
6. まとめ-歯科医院ができること
- 歯髄結石は、糖尿病・高血圧・高脂血症・心血管疾患・腎疾患など、全身の石灰化に関連する疾患との関連が示されている。
- 2025年の研究では、糖尿病患者で歯髄結石と頚動脈石灰化が有意に高頻度に認められており、「パノラマX線の所見は全身疾患のスクリーニングサインになり得る」ことが示唆されている。
- ただし、健常者でも高頻度に見られるため、「必ず病気」というわけではない。最も適切な扱いは、「石灰化傾向を示すサイン・リスク再評価のきっかけ」として位置づけることである。
- 歯科医院では、歯髄結石の有無を確認しつつ、根管治療の計画、全身疾患の既往の確認、医科との連携の必要性を検討することで、歯科的・全身的両面の予防・治療の観点から、患者の健康管理に貢献できると考えられます。
参考文献
- Assessing the Prevalence and Association of Pulp Stones with Cardiovascular Diseases and Diabetes Mellitus in the Saudi Arabian Population—A CBCT Based Study(2020)
サウジアラビア人における心血管疾患・糖尿病と歯髄結石の関連:CBCTを用いた頻度調査
https://www.mdpi.com/1660-4601/17/24/9293 - Early diagnosis of aortic calcification through dental X-ray examination for dental pulp stones(2023)
歯科X線検査で認める歯髄結石による大動脈石灰化の早期診断可能性
https://www.nature.com/articles/s41598-023-45902-w - The Prevalence and Correlation of Carotid Artery Calcifications and Dental Pulp Stones in a Saudi Arabian Population(2019)
サウジアラビア人における頚動脈石灰化と歯髄結石の有病率とその関連
https://www.mdpi.com/2079-9721/7/3/50 - Clinicopathological Correlation of Pulp Stones and Its Association with Hypertension and Hyperlipidemia: A Hospital-based Prevalence Study(2021)
歯髄結石の臨床病理学的特徴と高血圧・高脂血症との関連:病院ベース有病率研究
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8686932/ - Prevalence of and relationship between pulp and renal stones: A radiographic study(2015)
歯髄結石と腎結石の有病率と関連:放射線学的研究
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4623275/ - Detecting calcified pulp stones in patients with periodontal diseases using digital panoramic and periapical radiographies(2021)
デジタルパノラマおよびデンタルX線による歯周病患者の歯髄結石検出
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9201651/ - Dental pulp stones and their correlation with metabolic diseases(2024)
歯髄結石と代謝性疾患との関連
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11329071/ - Association between dental pulp stones and calcifying nanoparticles(2011)
歯髄結石と石灰化ナノ粒子の関連
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3026576/ - Could carotid artery calcifications and pulp stones be an alarm sign for diabetes mellitus? A retrospective observational study(2025)
頚動脈石灰化と歯髄結石は糖尿病のアラームサインになり得るか?:後ろ向き観察研究
https://bmcendocrdisord.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12902-025-02005-z
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この記事の監修者
中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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