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根管治療(神経の治療)はなぜ何度も通院が必要なのか?

この記事について: 日本大学松戸歯学部・歯内療法学講座の松島潔教授による総説論文「歯内療法の現状と新たな提案」の内容を、一般の方にわかりやすく解説したものです。

目次

  1. 歯の「神経の治療」とは?
  2. 根管治療の成功率——実は意外と低い?
  3. 保険データが語る「再治療の多さ」
  4. 治療には思った以上の時間がかかる
  5. 現行の保険制度と治療の矛盾
  6. 質を高めるため新しい提案
  7. 患者さんへのメッセージ
  8. 参考文献

1. 歯の「神経の治療」とは?

歯の内部には「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経や血管の束が通っています。虫歯が深く進行したり、歯が割れたりして細菌が歯髄に達すると、強い痛みが生じたり、歯の根の先(根尖)に炎症が広がったりします。

この状態を治すために行うのが根管治療(こんかんちりょう)です。歯の内側の管(根管)を丁寧に清掃・消毒し、細菌を取り除いて密封する処置で、歯を抜かずに残すための最も重要な治療のひとつです。

根管治療には大きく2種類あります。

  • 抜髄(ばつずい):まだ生きている(あるいは炎症を起こした)歯髄を取り除く初回の治療
  • 感染根管治療:一度治療した根管に再び細菌が感染したり、治療が不十分だった場合に行う「やり直し」の治療

2. 根管治療の成功率——実は意外と低い?

根管治療の成功率について、国際的に引用される研究があります。[1]

治療の種類成功率
初回の抜髄(神経を抜く治療)85%
未治療の感染根管(初めての根管治療)80%
再治療の感染根管(やり直し治療)56%

この数字は何を意味するのでしょうか。初回の治療できちんと成功すれば約85%の確率で歯を長く保てますが、一度失敗して「やり直し」になると成功率が大きく下がり、約56%にとどまるという事実があります。

初回に正確で丁寧な治療を行うことが、いかに重要かがわかります。

3. 保険データが語る「再治療の多さ」

論文の著者である松島先生は、厚生労働省が公表している「社会医療診療行為別統計」(令和元年6月審査分)のデータを詳しく分析しました。

その結果、全国で1ヶ月に行われた根管治療の件数は以下の通りでした。

根管の種類抜髄(件)感染根管処置(件)感染根管/抜髄の比率
単根管(1根管)210,505302,2511.44倍
2根管89,752103,7601.16倍
3根管以上237,320295,8931.25倍
合計537,577701,9041.31倍

注目すべき点は、感染根管治療(やり直し)の件数が抜髄(初回)の件数を1.31倍上回っていることです。

さらにこの傾向は2010年から2019年の10年間にわたって一貫して続いており、単なる偶然ではないことが示されています。 本来、最初の原因は「歯髄炎(神経の炎症)」より「根尖性歯周炎(根の先の炎症)」の方が多いとは考えにくく、この比率の高さは相当数の再根管治療が実施されていることを強く示唆しています。

著者の推計では、保険診療における根管治療の実質的な成功率は50%を下回る可能性があるとされており、非常に深刻な状況といえます。

4. 治療には思った以上の時間がかかる

「根管治療は何回も通わないといけないのはなぜ?」と感じたことのある方は多いと思います。

日本歯科医学会の2016年のタイムスタディ調査をもとに、根管治療全体にかかる総時間を計算すると、以下の通りです。

治療の種類単根管2根管3根管4根管樋状根管
抜髄(初回治療)228分250分274分288分289分
感染根管治療(やり直し)224分250分269分285分289分

1回の通院で行われる処置だけでも、たとえば「抜髄(1根管)」には69.4分、「感染根管処置(1根管)」には64.5分、「根管貼薬(薬を詰める処置)」には32.7分、「根管充塡(最終的な詰め物)」には42.0分かかります。

通院回数は平均で3〜4回以上になることも珍しくなく、合計すると4〜5時間近くの治療時間が必要です。

5. 現行の保険制度と治療の矛盾

ここに大きな問題があります。現在の日本の保険制度では、1回の治療時間が長くても短くても、治療費は同じ評価になっています。

たとえば、根管貼薬(通院途中で薬を交換する処置)は、何分かけても診療報酬は変わりません。つまり、「丁寧に時間をかけて少ない回数で治療する」より「短時間で何度も通院させる」方が合理的になってしまうという矛盾があります。

また、ラバーダム防湿(根管内を清潔に保つためのゴムのシート)や隔壁設置(歯の隔壁を作る処置)など、治療の質を高める手順を踏んでも踏まなくても、保険上の評価は同じです。つまり、丁寧で良い治療を行うとその分赤字になる、ということを示しています。

このような制度的な問題が、日本の根管治療の成功率を下げている一因と考えられています。

6. 質を高めるための新しい提案

この問題を解決するために、松島先生は入院医療で使われているDPC/PDPS制度(診断群分類別包括支払い制度)の考え方を応用することを提案しています。

DPC制度とは?

DPC(Diagnosis Procedure Combination)制度は、2003年から急性期入院医療に導入されている制度で、病名と治療内容を組み合わせて「包括的な医療費」を決める仕組みです。治療の難しさや必要性に応じた適切な報酬を確保できる特徴があります。

歯内療法への応用イメージ

この仕組みを根管治療に応用するための具体的な手順として、以下のステップが提案されています。

術前の詳細な検査を実施する

  • CBCT(歯科用CT)で根管の形態や骨吸収の状態を3次元的に把握
  • 非歯原性歯痛(虫歯ではない原因による歯の痛み)を除外するための検査
  • プロービング(歯根破折の確認)など

ICD10の病名コードを活用して難易度を表現する

  • 現在の保険病名は「急性化膿性根尖性歯周炎」など状態を示すだけで、治療の難しさが反映されていない
  • 国際疾病分類(ICD10)のK04.9(歯髄及び根尖周囲組織のその他及び詳細不明の疾患)に含まれる「根管穿孔」「根管狭窄」「根管異常」などの病名を組み合わせることで、難治性・複雑症例を明確にできる
  • 例:「根管穿孔を伴う慢性化膿性根尖性歯周炎」「根管異常を伴う慢性化膿性根尖性歯周炎」など

治療回数に関わらない包括的な報酬評価の導入

  • 「何回通院したか」ではなく「どれだけ質の高い治療をしたか」で評価する
  • 治療後も定期的な経過観察を義務づけ、治療の成否を追跡する

治療の質の担保

  • ラバーダム防湿の使用を標準化
  • 専門医がマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を使用した治療を推奨

7. 患者さんへのメッセージ

根管治療は「何度も通院が必要で、なかなか終わらない」というイメージを持たれがちです。しかし、その背景には保険制度の問題があり、本来は適切な環境さえ整えば、原則を守ることで決して困難な治療ではないと松島教授は述べています。

患者さんとしてできることは、以下の点に注意することです。

  • 虫歯は早期に治療を受ける:重症化すると根管治療が必要になり、成功率も下がります
  • 初回の根管治療を丁寧に行ってくれる歯科医院を選ぶ:再治療になると成功率が大きく下がるため、初回が最も重要です
  • ラバーダムを使用しているか確認する:治療の質を高める上で重要な処置です
  • 治療後も経過観察を続ける:治療が終わった後も定期的に歯科医院で確認してもらうことが大切です

根管治療の質が向上し、制度が整備されることで、歯を長く保ちやすい環境が実現することが期待されます。

当院では保険診療においても基本的にラバーダムを用いた根管治療を行っております。また、拡大率10倍のルーペは常に使用し、自費診療においてはマイクロスコープを用いた治療なども行っております。船橋市で根管治療にお困りの際はぜひ一度、かわせみデンタルクリニックまでご相談ください。

参考文献

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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づいた正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けしています。


かわせみデンタルクリニック

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土曜 9:00 ~ 13:00 14:00 ~ 17:00
(休診:日曜・月曜・祝日)

当院は、初診時にしっかりと検査を行い、歯周病虫歯根管治療から矯正歯科・小児矯正まで、丁寧にご説明のうえで治療を進めています。
治療後も再発予防に努め、安心して通える歯科医院をめざしています。