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世界ではびこる笑気ガス乱用とは? – 日本での規制の流れ、歯科との関わり、環境負荷について

笑気ガス(亜酸化窒素、N2O)乱用の問題を一般向けにわかりやすく解説。日本での主な報道・法規制の時系列、笑気の歴史、歯科との関わり、医療での適正使用、地球温暖化の観点から見た使用見直しまで根拠に基づいてまとめます。

目次

  1. 笑気ガスとは
  2. 笑気の歴史
  3. 笑気と歯科との関わり
  4. なぜ笑気ガス乱用が問題になるのか
  5. 日本での笑気ガス関連の主な時系列ポイント
  6. 医療で使う笑気と乱用は何が違うのか
  7. 環境面からも見直しが進む理由
  8. 参考文献

笑気ガスとは

笑気ガスは、一酸化二窒素、つまり亜酸化窒素(N2O)のことです。医療では鎮静や鎮痛、麻酔の補助に使われ、歯科では不安や恐怖心を和らげる目的で「笑気吸入鎮静法」として用いられてきました。日本では乱用対策のため、2016年から薬機法上の「指定薬物」となり、医療や食品用途以外での所持や使用などが禁止されています。

ここで最初に知っておきたいのは、歯科や手術で管理下に使う笑気と、娯楽目的で吸引する乱用はまったく別だということです。名前は同じでも、目的、使い方、危険性、法律上の扱いは大きく異なります。

笑気の歴史

亜酸化窒素は18世紀に発見され、19世紀になると人に吸わせたときの鎮痛作用や気分変化が注目されるようになりました。歯科麻酔の歴史では、1844年に米国の歯科医ホレス・ウェルズが抜歯に応用したことがよく知られており、笑気ガスは歯科麻酔の発展と深く結びついています。

その後、酸素と組み合わせて使う方法や、投与量を調整する機器、安全管理の考え方が進歩し、笑気は「痛みを完全に消す薬」というより、「不安をやわらげて治療を受けやすくする鎮静法」としての位置づけが整理されていきました。日本でも歯科麻酔の発展とともに、笑気吸入鎮静法は重要な方法のひとつとして広がってきました。

笑気と歯科との関わり

歯科治療は、痛みだけでなく「音が怖い」「麻酔が怖い」「気分が悪くなりそう」といった不安が治療の障壁になりやすい分野です。そのため歯科では、局所麻酔に加えて患者さんの緊張を和らげる方法として、笑気吸入鎮静法が活用されてきました。

笑気吸入鎮静法では、通常は酸素と混合した低濃度の笑気を鼻から吸入し、意識を保ったままリラックスした状態をつくります。全身麻酔のように完全に眠らせるのではなく、不安感や恐怖心を軽減して処置を受けやすくする方法であり、小児歯科、歯科恐怖症、嘔吐反射が強い患者さんなどで用いられることがあります。

一方で、笑気は本来医療ガスであるからこそ、「医療に使うものなら安全」と誤解されやすい面もあります。だからこそ、医療現場での適正使用と、娯楽目的の乱用とをしっかり分けて理解することが大切です。

なぜ笑気ガス乱用が問題になるのか

笑気ガス乱用が問題になるのは、短時間の多幸感や浮遊感を得られる一方で、低酸素、意識障害、事故、神経障害など深刻な健康被害につながりうるからです。海外報道では、笑気ガスを吸った状態での運転事故や、若年層を中心とした乱用の広がりが問題になっています。

さらに、歯科向けメディアでは、海外で笑気ガスの娯楽使用に関連して口腔内凍傷や粘膜障害が報告されていることも紹介されています。これは歯科の観点からも見逃せない点で、単に「酔うガス」ではなく、口の中や神経にも被害が及ぶ可能性があることを示しています。

笑気ガスは、医療現場では管理された条件で使われる一方、乱用では酸素不足や過量吸入、危険行動と結びつきやすくなります。問題なのは物質そのものだけでなく、どのような目的で、どのように使うかです。

日本での笑気ガス関連の主な時系列ポイント

日本での笑気ガス関連の流れを、一般の方にもわかりやすいよう表にまとめます。日本では「大規模事件が繰り返し報道された」というより、「乱用リスクが問題視され、法規制が入った」という流れが中心です。

年・日付出来事意味すること
昭和20年代後半〜日本で笑気を主体とする吸入麻酔が医療現場で広く使われるようになったとされる。もともとは医療用として普及したガスです。
2015年10月22日厚生労働省の指定薬物部会で、一酸化二窒素を指定薬物とすることが適当と判断された。法規制に向かう大きな転機です。
2016年2月18日厚生労働省が一酸化二窒素(亜酸化窒素)を指定薬物に追加する省令を公布した。医療・食品用途以外の扱いが厳しく制限されることになります。
2016年2月28日省令が施行され、医療・食品用途以外での所持・使用・譲渡などが禁止された。日本ではこの時点から娯楽目的の笑気ガスは違法となりました。
2016年以降自治体が「シバガス」など亜酸化窒素を圧縮したガス型ドラッグに注意喚起を行った。規制後も、形を変えた流通や誤認を防ぐ啓発が必要でした。
2020年前後海外での乱用問題が日本語記事でたびたび紹介され、日本では2016年に規制されたことが解説されるようになった。日本は「先に規制した国」として語られることが増えました。
2026年4月フランスでの死亡事故や若者乱用が日本メディアでも大きく報じられ、日本でも笑気ガスへの関心が高まった。海外の深刻な実態を通じて、日本でもあらためて注意が向けられました。

国内報道で押さえておきたいニュース

国内で確認しやすい報道としては、2026年4月にフランスでの死亡事故と若年層乱用を詳しく伝えたニュースがあります。そこでは、日本ではすでに2016年から指定薬物となっていることもあわせて紹介されており、海外の問題を通じて日本の規制の意味を理解しやすい内容になっています。

また、自治体による危険ドラッグの注意喚起では、亜酸化窒素を圧縮したガス型ドラッグに対して「買わない、使わない、かかわらない」といったメッセージが出されています。一般向けの記事では、こうした公的な注意喚起を一緒に示すことで、違法性や危険性が伝わりやすくなります。

医療で使う笑気と乱用は何が違うのか

医療での笑気使用は、濃度、酸素投与、患者監視、適応の見極めなどを前提にした管理された使用です。歯科での笑気吸入鎮静法は、患者さんを眠らせるためではなく、不安を和らげ、局所麻酔や処置を受けやすくするための方法です。

一方で、乱用は陶酔感を得ること自体が目的であり、酸素不足、反復吸入、運転など危険行動と結びつきやすい点が本質的に異なります。見た目には同じ「笑気ガス」という言葉でも、医療と乱用では意味がまったく違うと考えた方がわかりやすいでしょう。

環境面からも見直しが進む理由

笑気ガスは乱用の問題だけでなく、地球温暖化の観点からも見直しが進んでいます。亜酸化窒素(N2O)の100年値の地球温暖化係数(GWP100)は、近年の主要資料ではおおむね二酸化炭素(CO2)の約273〜298倍とされ、古い文献や日本語資料では約310倍と説明されることがあります。数値に幅はありますが、非常に強力な温室効果ガスであることに変わりはありません。

麻酔ガスの環境負荷を考える際に重要なのは、笑気ガスは「患者に投与した分」だけが問題なのではないという点です。病院では中央配管システムを通じて笑気ガスを供給することがありますが、近年のレビューや専門団体の資料では、購入したN2Oのかなりの割合が配管からの漏出や未使用分の放散によって大気中に失われる可能性が指摘されています。

このため現在の議論は、単に「笑気ガスは便利かどうか」ではなく、「本当に必要な症例に限って使うべきではないか」「中央配管の常時供給をやめた方がよいのではないか」という方向に進んでいます。世界麻酔科学会連盟は中央配管N2Oシステムの停止を支持する声明を出しており、各国の持続可能な麻酔ガイドラインでも習慣的な使用の見直しがテーマになっています。

米国麻酔科学会の資料でも、環境への影響を減らす観点から、明確な臨床的適応がない限り亜酸化窒素やデスフルランの使用を避けることが推奨されています。これは笑気ガスを全面的に否定するという意味ではなく、患者に利益がある場面と、別の方法で十分対応できる場面をきちんと分けようという考え方です。

実際、医療機関では教育、運用ルールの変更、設備面の見直しを組み合わせることで、笑気ガス関連の温室効果ガス排出を大きく減らせることが報告されています。今後は「安全かどうか」だけでなく、「本当に必要か」「環境負荷を減らせるか」も、笑気ガスを考えるうえで大切な視点になっていきます。

参考文献

  1. 指定薬物を指定する省令が公布されました(2016)
    https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubuturanyou/oshirase/20160218.html
  2. “笑いから悲劇へ”パリに転がる“謎”のガスボンベの正体 若者をむしばむ「笑気ガス」乱用の実態(2026)
    https://www.fnn.jp/articles/-/1032097
  3. 危険ドラッグは『買わない、使わない、かかわらない』(愛知県)
    https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kasugai-hc/0000086433.html
  4. 中国で「笑気ガス」乱用が問題に、95%以上が若年層との報告も(2020)
    https://www.recordchina.co.jp/b814890-s0-c30-d0142.html
  5. スウェーデンにおける笑気ガスの娯楽使用と口腔内への影響
    https://d.dental-plaza.com/archives/23786
  6. 日本歯科麻酔学会 50年の軌跡
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdsa/52/1/52_1/_pdf/-char/ja
  7. Environmental Impact of Inhaled Anesthetics(2024)
    https://www.asahq.org/about-asa/governance-and-committees/asa-committees/environmental-sustainability/greening-the-operating-room-and-perioperative-arena/environmental-impact-of-inhaled-anesthetics
  8. Reducing Greenhouse Gas Emissions and Modifying Nitrous Oxide Practices Within the Stanford Health Care System(2025)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11757946/
  9. C.6 Nitrous oxide – EML and EMLc(2025)
    https://cdn.who.int/media/docs/default-source/2025-eml-expert-committee/expert-reviews/c.6_nitrous-oxide_review1.pdf
  10. Greenhouse Gas Management of Anesthetic Gases(2023)
    https://www.ashe.org/sustainability/decarbonization/management-anesthetic-gases
  11. Mitigating the systemic loss of nitrous oxide: a narrative review and clinician-targeted guidance(2024)
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0007091224005099
  12. WFSA Statement on Deactivating Central Piped Nitrous Oxide Systems
    https://wfsahq.org/wp-content/uploads/WFSA-Statement-on-Deactivating-Central-Piped-Nitrous-Oxide-Systems.pdf
  13. 国立環境研究所 温室効果ガスインベントリ報告書(N2O関連記載)
    https://www.nies.go.jp/gio/archive/nir/jqjm1000000j8ary-att/nir2007ver5.0j.pdf


執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づいた正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けしています。


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