歯の未来シミュレーターの作り方:厚生労働省の統計をどう読み、どう加工したか
当院の歯の未来シミュレーターは厚生労働省の統計の表1枚から、同年代100人の中での位置を出しています。作った理由、統計の集め方と加工、バージョンごとの変更をまとめます。
加工は3つです。年齢層の値を真ん中の年齢の値とみなすこと、85歳以上の値を90歳の値とみなすこと、22歳より後の値をならすことです。
目次
作った理由は予防とメインテナンスの動機づけ
歯の本数を「同年代の中のどこにいるか」で見せると、今の状態と、この先保つことの意味が伝わりやすくなるためです。
もとになったのは、吉野浩一先生らが報告してきた「歯の数のパーセンタイル曲線」です1,2,3。年齢ごとの歯の本数の分布を線で描き、自分がどの線の近くにいるかを見る方法です。吉野先生は用い方として、同年齢での位置が分かること、将来の目安が分かること、予防のモチベーションにつながることなどを挙げています3。

この図は職域の男性3,195人(実線)と東京都の調査(破線)の現在歯数を、年齢ごとのパーセンタイル値で線にしたものです。この図のように、自分の年齢と本数が同年代のどのあたりかを試せるようにしたのが、歯の未来シミュレーターです。アプリの線は、後で書くとおり厚生労働省の表10-14から引き直しています。図の線は歯が少ない人ほど高いパーセンタイルで描かれています。
開発は2026年9月3日に始めました。目的は患者さんに今の状態を知ってもらい、予防とメインテナンスを続ける気持ちを支えることです。そのため、診断や予測に見える表現を避け、次の4つを最初に決めました。
- 悪くなる方向の線を初期表示にしない
- 本数を言い切らず、同年代の中での位置で伝える
- 実測の点と、仮定した点を見た目で分ける
- 出典を画面に表示する(のちに常に見える位置へ移した)
作るときは、生成AIを3つ使い分けました。構想と資料の下調べはChatGPT、設計と資料の読み込み、画面の確認はClaude Code、プログラムを書く作業の多くはCodexです。ChatGPTでまとめた構想を、9月3日にClaude Codeへ引き継いで開発を始めました。
元の図は出典を示して引用しています。シミュレーターの線は図の元データではなく、公開されている最新の統計(厚生労働省の表10-14)から自分で引き直したものです。
いちばん伝えたかったのは、「今は下のほうにいる人が、今の本数を保てたら何歳で同年代のまん中に並ぶか」です。
使った統計は令和6年歯科疾患実態調査の表10-14
政府統計の総合窓口(e-Stat)から表10-14のExcelファイルを取得し、プログラムで読み込みました。数字を手で写した箇所はありません。
使ったのは、表10-14「1人平均現在歯数およびパーセンタイル値、年齢階級別、全国補正値、5歳以上」です4。2026年9月3日に取得しました。表には5歳ごとの年齢階級について、調べた人数、平均、標準偏差と、0〜100%の9つのパーセンタイル値が載っています。歯の本数は親知らずを含めた数です。表の一部を抜粋します(調べた人数と、現在歯数のパーセンタイル値。単位は人と本。数値は原表のまま)。
| 年齢階級 | 被調査者数 | 5% | 10% | 25% | 50% | 75% | 90% | 95% |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 15〜19歳 | 144 | 27 | 28 | 28 | 28 | 28 | 29 | 31 |
| 40〜44歳 | 442 | 24 | 26 | 28 | 28 | 29 | 31 | 31 |
| 60〜64歳 | 665 | 16 | 20 | 25 | 27 | 28 | 30 | 30 |
| 80〜84歳 | 678 | 1 | 6 | 15 | 22 | 25 | 28 | 28 |
| 85歳以上 | 379 | 0 | 0 | 4 | 16 | 24 | 28 | 29 |
出典:厚生労働省. 令和6年歯科疾患実態調査 表10-14「1人平均現在歯数およびパーセンタイル値、年齢階級別、全国補正値、5歳以上」より抜粋して引用4
この表は歯が多い人ほど高いパーセンタイルで、吉野先生の図とは向きが逆です。
この調査は令和2年国勢調査の調査区から475地区を選び、満1歳以上の約54,000人を対象に、令和6年10〜11月に行われました5。歯の診査を受けた人は表10-14の総数で8,357人です。
アプリで使ったのは次の範囲です。
| 項目 | 使った範囲 | 理由 |
|---|---|---|
| 年齢 | 15〜19歳から85歳以上まで | 5〜14歳は乳歯から永久歯への生え変わりの時期 |
| パーセンタイル | 5・10・25・50・75・90・95% | 0%と100%は最小値と最大値で、極端な1人の値になる |
画面で入力できる年齢は20〜85歳です。15〜19歳の値は、20歳前後の線を引くために使っています。
読み込みのプログラムは表の列の位置を固定せず、「被調査者数」「パーセンタイル値」などの見出しの文字から列を探します。読み込んだあと、総数8,357人、15〜19歳144人、60〜64歳の10%値20本・5%値16本が表と一致しなければ処理を止めます。列を取り違えたまま計算に進まないようにするためです。
1歳刻みの頻度分布が載った表10-22も取得しましたが、使っていません。表10-14にパーセンタイル値が計算済みで、1歳ごとの人数は数十人と少ないためです。
表の数字を線にするまでの加工は3つ
5歳ごとの表を1歳刻みの線にするために、各年齢層の値を真ん中の年齢の値とみなして直線で結び、85歳以上の値を90歳の値とみなし、22歳より後の値をならしました。
- 真ん中の年齢の値とみなし、直線で結ぶ:例えば15〜19歳の値は17歳の値とみなし、各年齢層のあいだを直線で結びました。曲線の式に当てはめていないので、どの年齢の値も表の2つの値から電卓で確かめられます。
- 85歳以上の値は90歳の値とみなす:人口推計から計算した85歳以上の平均年齢は89.9歳でした6。85歳の値とみなすと、線が80歳代で急に落ちて見えます。
- 22歳より後の値をならす:年齢層ごとに別の人を調べているため、表には年齢が上がると本数が増える揺れがあります(下位10%は75〜79歳で4本、80〜84歳で6本)。22歳より後のこうした逆転は、その区間の平均に置き換えました(単調回帰)。親知らずが生える17〜22歳は残しています。
順位は上下の線から比例で割り出す
入力した本数がその年齢の7本の線のどのあいだにあるかを見て、上下の線の本数から比例で割り出し、同年代100人のうち何人が自分より少ないかを出します。
60歳で19本なら、同年代100人のうち自分より歯が少ない人は6人(下位6%)です。同年代のまん中(中央値)は27.4本です。
若い年代では、同じ本数に複数の線が重なります。例えば57歳では、50%と75%の線がどちらも28本です。最初はこの重なりの扱いがずれていて、57歳27本だけ順位がまん中に跳ね上がる不具合がありました。重なった本数ちょうどのときは上側の線を、それより少ないときは下側の線を使うように直しています。
グラフの線は各年齢層の真ん中の年齢で折れる所だけを、前後1歳の範囲で丸めて描いています。値は変えておらず、線と値のずれは最大0.34本です。
最初の画面は開発初日の2026年9月3日にできた
最初の画面は表の値を線でつないだだけのもので、順位は上から数えていました。
結果は「同年代100人中94番目」と、歯の多い人から数えた順番で出していました。将来の見通しは「順位が上がった場合」と「このまま順位が下がっていった場合」の2つで、10年後の位置を点で示していました。

この日のうちにバージョン1.0.37まで直しを重ねています。
85歳以上の扱いを変えて、80歳代の線の急な落ち込みが消えた
同じ「60歳・19本」の入力でも、85歳以上の値を何歳の値とみなすかを変えたことで、線の形と結果が変わりました。
2026年10月1日:表の値をそのまま線にしていたころ
まん中の線が82歳から85歳にかけて22本から16本へ急に落ちています。下位10%の線は77歳ごろにへこみ、82歳へ向けて上がっています。どちらも表の値に手を加えていなかったためです。結果は「あなたより歯が多い人が94人」と、多い人の数で伝えていました。急に落ちる線のせいで、「84歳ごろに同年代の平均に並びます」と出ています。

2026年10月3日(バージョン1.0.52):85歳以上の値を90歳の値とみなした
前日のバージョン1.0.46(2026年10月2日)は、10月1日と同じく表の値に手を加えないままで、画面そのもの(入力・結果・グラフ・これからの見通し)を撮ったものです。まん中の線は82歳から85歳で急に落ち、85歳の位置は「上位41%」でした。

85歳以上の値を90歳の値とみなしたバージョン1.0.52が次の画面です。まん中の線は85歳までゆるやかに下がるようになりました。同じ入力で、85歳の位置は「上位41%」から「下位48%(ほぼ平均)」に変わり、「84歳ごろに平均に並ぶ」という見かけの結果も出なくなりました。

80歳・15本の人が今の流れのまま進んだ場合の85歳の本数も、4本から11本に変わりました。85歳以上の値を85歳の値とみなしていたために、実際より約5歳上の人の値で計算していたことになります。
ならしと伝え方を変えて、今のバージョンへ
22歳より後の値をならし、結果を「自分より歯が少ない人の数」で伝えるように変えて、今の画面になりました。
2026年10月3日(バージョン1.0.58・1.0.59):ならしと、少ない人の数で伝える
85歳以上の扱いを変えたのと同じ日のうちに、22歳より後のならしを入れました。続けて、結果を「あなたより歯が少ない人」の数で伝えるように変えました。「上を見ても歯は増えないから、下を見たほうが良い」と考えたためです。60歳19本の結果は「歯が多い人が94人」から「歯が少ない人が6人」になりました。
今のバージョン(Ver.1.1.32)
線は年齢とともになめらかに下がり、下位10%・5%の線も途中で上がりません。今の19本を保てた場合は、70歳で24人、80歳で39人、84歳ごろで45人が自分より少ない計算です。85歳ごろには同年代のまん中に近い位置になる計算です。

ほかに重ねた変更は次の4つです。
- 親知らずの扱い(後述)
- 年齢別の表の追加(表10-14の25・50・75%の値をそのまま載せた)
- 入力できる年齢を20歳からにする変更
- 医院サイトのページとしての公開(歯の未来シミュレーター、2026年11月5日)
これからの見通しは2通りの計算で示す
「今の本数を保てた場合」と「このまま推移した場合」を並べ、2つの計算の違いを「80歳で18本の違い」のように本数で見せています。
画面では「差」ではなく「違い」と書いています。治療の効果の差と読まれないようにするためです。
この2つの示し方は、歯科医院向けのカルテソフトの開発ブログが紹介していた説明の仕方をもとにしています7。
- 今の本数を保てた場合:本数を変えずに年齢だけ進めます。同年代の人は歯を失っていくので、同年代の中での位置は上がっていきます。
- このまま推移した場合:同年代の中での位置を変えずに年齢を進め、自分がいる線の減り方に沿って本数を減らします。1歳ずつ計算し、前の年齢より増えないようにしています。
60歳・19本では、このまま推移すると70歳で5本くらい、84歳ごろに1本未満の計算です。保てた場合との違いは、80歳で18本になります。どちらも個人の将来の予測ではなく、同年代の分布から計算した目安です。
下位5%より下、上位5%より上の人は、沿わせる線がありません。いちばん近い線と同じペースの概算とし、10年後までにとどめています。
将来の本数の推計を報告した吉野先生らの2009年の論文8も読みましたが、計算には使っていません。1999年に55〜64歳だった人たちの6年後を推計したもので、ほかの年齢や期間に当てはめる根拠が論文に無いためです。
親知らずと、矯正で抜いた歯の数え方
統計は親知らずを含む32本で数えているので、順位も親知らずを含めて計算し、8020の目安だけ親知らずを除いた28本で見ています。
きっかけは院長自身の歯で試したときです。親知らずを含めた今の本数を入れると、矯正のために抜いた4本が無い分、同年代の中央値より下と表示されました。
調べると、この統計は歯を失った理由を区別していません。比べている同年代の人たちにも、矯正で歯を抜いた人や、生まれつき歯が無い人が含まれています。そのため、自分の分だけ足し戻すと実際より良い位置に見えます。矯正で抜いた歯と生まれつき無い歯は、どちらも「今ない歯」として数え、順位を調整する入力欄は作りませんでした。
一方、8020の「20本」は親知らずを除いた28本のうちの本数です9。8020の補足の説明と国の目標の文は、親知らずを除いた本数で判定し、80歳未満で20本以上ある人にだけ出しています。グラフの8020の印は全員に出ています。
このアプリでできることと、できないこと
示すのは、令和6年に調べた同年代の人たちの中での位置と、そこから計算した目安です。
同じ時期にいろいろな年代の人を一度に調べた横断調査なので、1人の歯が年齢とともにどう減るかを追った記録ではありません。「このまま推移した場合」は、同じ位置にいる人たちが年齢ごとにどのあたりにいるかをつないだ目安です。若い年代は調べた人数が少なく(15〜19歳は144人)、高齢になるほど値の揺れが大きくなります。
本数は、歯ぐきの状態やむし歯、噛めているかまでは表しません。同年代の中で上のほうにいても、歯ぐきの腫れや出血、歯のぐらつきなど気になることがあれば、歯科医院で口の中を診てもらってください。
関連記事
参考文献
- 吉野浩一, 松久保隆, 高江洲義矩. 職域における成人の現在歯数および健全歯数のパーセンタイル曲線による評価. 口腔衛生学会雑誌 2000;50(1):40-51
- 吉野浩一. 歯の数は歯の喪失のリスクファクターの一つである. ヘルスサイエンス・ヘルスケア 2011;11(1):22-25
- 吉野浩一. 歯の数のパーセンタイル曲線の用い方. 歯科学報 2024;124(2):103-105
- 厚生労働省. 令和6年歯科疾患実態調査 表10-14「1人平均現在歯数およびパーセンタイル値、年齢階級別、全国補正値、5歳以上」. 政府統計の総合窓口(e-Stat) (2026年9月3日閲覧)
- 厚生労働省. 歯科疾患実態調査:結果の概要(令和6年歯科疾患実態調査)
- 総務省統計局. 人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)
- カルテメーカー開発ブログ. 歯のパーセンタイル曲線を使って患者さんに説明しよう!(2016年7月11日)
- 吉野浩一, 櫻井美和, 村松康子, ほか. 現在歯数別にみた喪失歯数の推計―歯科疾患実態調査を用いた解析―. 口腔衛生学会雑誌 2009;59(3):159-164
- 8020推進財団. 8020運動とは
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。
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