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歯周病は治るのか?歯周病継続支援治療(SPT)から考える「限界と可能性」

歯周病は本当に治るのか?日本の「歯周治療のガイドライン2022」と国際的な新分類、水平・垂直的骨欠損の再生療法に関する一流誌の論文、SPT(サポーティブペリオドンタルセラピー)の役割をもとに、「治る」と「現状維持」の現実的なラインを歯科医がわかりやすく解説します。

目次

  1. 日本における歯周病の定義
  2. 「治る」とは何を指すのか
  3. 水平的骨欠損と再生の限界
  4. 垂直的骨欠損で期待できること
  5. SPT(サポーティブペリオドンタルセラピー)とは何か
  6. SPTとメインテナンスの違い
  7. 骨欠損の程度別イメージと現実的なゴール
  8. 今後の研究動向と未確認事項
  9. まとめ:歯周病は治るのか、治らないのか
  10. かわせみデンタルクリニックのご案内
  11. 参考文献

1. 日本における歯周病の定義

日本歯周病学会の「歯周治療のガイドライン2022」では、歯周病は「歯周組織に生じる感染性炎症性疾患」であり、細菌バイオフィルムと宿主反応の相互作用によって歯周組織(歯肉・歯根膜・セメント質・歯槽骨)が破壊される疾患と定義されています。1,6
このガイドラインは、日本における歯周病の実態・分類・検査・診断・治療計画・インプラント周囲疾患・継続管理までを視野に入れており、「歯周病=歯を支える組織全体の慢性炎症性疾患」と位置づけています。1,6

2018年の国際ワークショップで策定された新分類(AAP/EFP)では、歯肉炎と歯周炎が区別され、歯周炎についてはステージ(重症度)とグレード(進行速度)で評価する枠組みが導入されました。2–4
日本のガイドラインもこの分類を参照し、歯肉炎は骨や付着レベルの喪失がない炎症状態、歯周炎は骨吸収と臨床的付着喪失を伴う状態として整理しています。1–4

2. 「治る」とは何を指すのか

歯周病が「治るかどうか」を考える際には、臨床的な治癒と形態的な完全回復を分けて考える必要があります。
臨床的な治癒とは、歯周ポケットの減少、プロービング時の出血の消失、プラークコントロールの確立など、炎症と症状がコントロールされた状態を指します。1,4–6

一方、形態的な完全回復とは、失われた歯槽骨や付着レベルが発症前の高さ・形態まで完全に再構築されることを意味しますが、「歯周治療のガイドライン2022」や国際的な総説でも、進行した歯周炎でこれを現実的なゴールとすることは推奨されていません。1–4,6
現実的な治療目標は、「炎症の制御と進行の抑制」「機能的・審美的な安定」「再発リスクの低減」とされており、特に継続管理(SPT・メインテナンス)の重要性が強調されています。1,5,6,9

つまり、

  • 臨床的な治癒:炎症のない安定した状態を目指すという意味では治る
  • 形態的な完全回復:歯茎や骨が20代の頃のように元通りに戻るという意味では治らない

形態的にはこれ以上悪化しないように現状維持を目指していくということになります。

3. 水平的骨欠損と再生の限界

水平的骨欠損は、歯根周囲の歯槽骨が均一に低くなるパターンで、慢性歯周炎に最もよく見られます。
Biomedicine & Pharmacotherapy などの一流誌に掲載された総説では、水平的骨欠損は「歯周組織欠損の中で再生予知性が最も低いタイプ」とされ、従来から用いられてきた再生療法(GTR・骨補填材・成長因子など)は、主に垂直的骨欠損(骨内欠損)に対して高い効果を示す一方、水平的骨欠損では限られた効果にとどまると述べられています。7

このようなエビデンスを踏まえると、歯槽骨レベルが歯根長の約1/2に達するような水平的骨欠損について、「20代の頃の骨高さまで完全に戻す」ことを現代歯周治療のゴールとするのは現実的ではありません1,7
むしろ、「炎症を抑え、骨レベルのさらなる低下を防ぐ」「機能的な安定を維持する」ことを主なゴールとし、SPT・メインテナンスを通じて長期的なコントロールを図ることが、ガイドラインとこの総説に沿った考え方です。1,5–7

4. 垂直的骨欠損で期待できること

垂直的骨欠損(骨内欠損)は、歯根に沿って縦方向に深く落ち込む骨欠損で、残存骨壁の数(3壁・2壁・1壁)によって分類されます。1,6
歯周ガイドラインおよび国際誌のレビューでは、このような骨内欠損に対しては、GTR・EMD・骨補填材などを組み合わせた再生療法が有効であることが多数報告されています。1,6,8

代表的なレビューでは、骨内欠損に対する再生療法において、PPDの平均3〜5mm減少、CALの3〜4mm改善、およびX線・CBCT上で1〜3mm程度の骨欠損縮小が得られたと報告されています。8
ただし、これらの結果は欠損形態・術式・口腔衛生状態・喫煙などによって大きく左右されるため、「垂直的骨欠損は必ず元通りになる」と説明することはできません。1,6,8
現実的には、「適切な症例選択とプラークコントロールのもとで、数mm単位の骨・付着レベルの部分的再生が期待できる」と考えるのが妥当です。8

5. SPT(サポーティブペリオドンタルセラピー)とは何か

SPT(Supportive Periodontal Therapy)は、アクティブな歯周治療(非外科治療・外科治療・補綴処置など)の後に行う継続的な支持療法として古くから位置づけられてきた概念です。5,9
Echeverría らによる総説では、SPTは「治療後の歯周組織を長期に維持し、付着喪失と歯の喪失を防ぐことを目的とした、個々の患者に合わせた定期的なケア」と定義されています。5,9

日本歯周病学会のガイドラインでも、アクティブな歯周治療が終了した後の継続管理(maintenance/supportive therapy)の重要性が繰り返し強調されており、「治療→SPT→メインテナンス」という流れが標準的なケアパスとして提示されています。1,6
SPTに含まれる主な要素は、

  • 歯周組織の再評価(PPD・CAL・出血・動揺など)
  • プラークコントロールの評価と再指導
  • スケーリング・必要に応じたルートプレーニング
  • 咬合・修復物のチェック
    などであり、患者のリスクに応じて1〜3ヶ月程度の間隔で継続されます。1,5,9

6. SPTとメインテナンスの違い

SPT(支持療法)とメインテナンス(維持管理)は似た用語ですが、ガイドラインおよび総説ではそれぞれの役割が明確に区別されています。1,5,6,9

項目SPT(Supportive Periodontal Therapy)メインテナンス(Maintenance care)
主な対象アクティブ治療後、病状が一時的に安定したが再発リスクが残る患者1,5,9健康または安定した歯周組織を持ち、リスクが比較的低い患者1,5
主な目的付着レベルの維持、再発・進行・歯の喪失の予防5,9健康状態の維持と早期異常の検出5,9
介入の内容定期的な歯周検査、スケーリング、必要に応じたSRP・咬合調整など「治療的」介入1,5,9状態チェックと軽度のプロフェッショナルケアが中心5,9
診療頻度の目安1〜3ヶ月ごと(リスクに応じて短く設定)5,93〜6ヶ月ごと(比較的長い間隔が可能)5,9
エビデンスSPTを受ける患者では、受けない患者に比べて付着喪失と歯の喪失が有意に少ない長期データが報告されている5,9,120定期的メインテナンスが歯の喪失低減に寄与することが疫学的研究で示されている5,9,120

日本の診療報酬制度では細かな名称や区分が改訂されつつありますが、ガイドラインと一流誌のエビデンスに基づく限り、SPTは「治療の延長線上にある支持療法」、メインテナンスは「比較的安定した状態を見守る維持管理」と整理するのが適切です。1,5,6,9

7. 骨欠損の程度別イメージと現実的なゴール

ガイドラインとエビデンスを踏まえると、骨欠損の程度によって設定すべきゴールは変わります。ここでは一般向けに、代表的なステージを表で整理します(数値はあくまでイメージであり、厳密な閾値ではありません)。1–4,7,8

状態骨・付着の特徴現実的な治療ゴール
歯肉炎骨吸収・付着喪失なしプラークコントロールとプロフェッショナルケアにより「元通り」の健康状態に戻す
軽度〜中等度歯周炎骨吸収が歯根長の約1/3程度まで非外科治療+必要に応じて外科治療で炎症とポケットを改善し、機能的な安定を得る
中等度〜重度歯周炎
(主に水平的骨欠損)
骨吸収が歯根長の約1/2以上で、広範囲に水平的骨欠損骨高さの大幅な回復は期待せず、炎症の制御と進行抑制、機能的安定をゴールとする
垂直的骨欠損を伴う歯周炎深さ数mm以上の骨内欠損が存在再生療法により、数mm単位の骨・付着レベルの部分的再生を目標とする

このように、「どの程度進行しているか」「骨欠損の形が水平中心か垂直中心か」によって、患者さんに提示すべきゴールは変わります。
重要なのは、「すべてを元通りにする」ことだけを目標にするのではなく、「どのレベルまで回復・安定が見込めるか」を共有し、そのうえでSPTやメインテナンスを組み合わせた長期管理を行うことです。1–4,5,7–9

8. 今後の研究動向と未確認事項

水平的骨欠損の再生については、成長因子・細胞治療・新規バイオマテリアルなどを用いた研究が進んでいますが、一流誌の総説でも「予知性の高い標準治療」と呼べるレベルには達していないことが指摘されています。7
垂直的骨欠損に関しては、多くの臨床研究と長期フォローアップデータが蓄積しつつありますが、欠損形態・全身状態・喫煙等を考慮した個別予測モデルはまだ発展途上です。1,6,8

SPTに関しては、J Clin Periodontol をはじめとする一流誌で、SPTを受ける患者では受けない患者に比べて付着喪失と歯の喪失が有意に少ないこと、またリスク要因(喫煙・糖尿病・残存ポケットなど)によって再発リスクが異なることが報告されています。5,9,120

一方、最適な頻度や介入内容については、患者ごとのリスクプロファイルに応じた個別化が必要であり、「一律の正解」は存在しないことも示されています。5,9,120

9. まとめ:歯周病は治るのか、治らないのか

ガイドラインと一流誌のエビデンスを踏まえると、歯周病は「完全に元通りに治すことが難しいが、適切な治療とSPT・メインテナンスにより長期的にコントロール可能な慢性疾患」と位置づけるのが妥当です。1,5–7,9
歯肉炎の段階では、骨や付着レベルの喪失がないため、原因バイオフィルムを除去すれば「完治」に近い状態が期待できますが、骨吸収を伴う歯周炎では、骨形態の完全回復ではなく「炎症の制御と進行の抑制」「機能的安定の維持」が現実的なゴールとなります。1–4,7,8

SPT(支持療法)とメインテナンスを適切に組み合わせることで、治療後の付着レベルと歯の喪失を抑制し、患者ごとに異なるリスクに応じた長期管理が可能であることは、多くのレビューで支持されています。5,9,120
「歯周病は治らないから何をしても無駄」という諦めではなく、「どこまで回復させて、どうやって維持していくか」を患者さんと共有しながら進めることが、現代の歯周治療の基本的なスタンスと言えるでしょう。1,5–7,9

10. かわせみデンタルクリニックのご案内

自分の歯周病がどのステージにあるのか、骨欠損が水平優位なのか垂直優位なのか、どの程度の回復・安定が見込めるのかを把握するには、歯周精査とX線・必要に応じてCTなどの詳細な検査が欠かせません。

船橋駅徒歩4分のかわせみデンタルクリニックでは、日本歯周病学会のガイドラインと国際的な分類に基づき、歯周検査・診断・治療計画・SPT(支持療法)・メインテナンスまでを一貫して設計し、患者さんごとのリスクとゴールを丁寧に共有することを大切にしています。
「自分の歯周病がどこまで治せるのか」「どのようなペースで通えばよいのか」を知りたい方は、ぜひ一度、当院で歯周病の精査とご相談を受けてみてください。

11. 参考文献

  1. 日本歯周病学会 編:歯周治療のガイドライン2022(2022)
    https://www.perio.jp/publication/guideline.shtml
  2. Caton JG, Armitage GC, Berglundh T, et al. A new classification scheme for periodontal and peri‐implant diseases and conditions – Introduction and key changes from the 1999 classification(2018)
    新しい歯周病・インプラント周囲疾患分類:1999年分類からの主な変更点
    https://aap.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/JPER.18-0157
  3. Tonetti MS, Greenwell H, Kornman KS. Staging and grading of periodontitis: Framework and proposal of a new classification(2018)
    歯周炎のステージングとグレーディングの枠組み
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29926495/
  4. 日本歯周病学会医療委員会:基礎から学ぶ歯周病の新分類 ——アップデートと臨床活用(2021)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjacp/43/2/43_94/_pdf/-char/ja
  5. Echeverría JJ, Manau GC, Guerrero A. Supportive care after active periodontal treatment: a review(1996)
    アクティブ治療後の支持療法に関する総説
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8915017/
  6. 日本歯周病学会:歯周治療を適切・安全に行うためのポイント − 全身状態への配慮(2023)
    https://www.perio.jp/file/news/info_230801.pdf
  7. Zhang Y, et al. Recent advances in horizontal alveolar bone regeneration(2023)
    水平的歯槽骨再生における最近の進歩
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37196651/
  8. AAP. Periodontal Maintenance and Oral Physiotherapy References(2019)
    AAPによる歯周メインテナンスと口腔衛生指導の文献リスト
    https://www.perio.org/research-science/periodontal-literature-review/periodontal-maintenance-and-oral-physiotherapy/
  9. Tonetti MS, Mombelli A, et al. Risk assessment of recurrence of disease during supportive periodontal care. Epidemiological considerations(1996)
    支持療法中の再発リスク評価に関する疫学的検討
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8707983/

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