歯科電子カルテの2030年目標に向けて、自院の更新計画をどう進めるか
国が示したのは次にシステムを入れ替えるときに移る道です。レセコンのままでも、いわゆるDX加算の下位区分は届け出られます。今は電子処方箋に対応すれば上位区分にも届きます。補助はまだ案の段階です。システムの入れ替えが近い診療所は、契約の前に補助の対象になる契約の時期を確かめるのが良いでしょう。
目次
1. 国は、なぜ2030年という目標を置き、歯科診療所に何を用意したのか
2030年の電子カルテ目標は、政府に課された国全体の整備目標です。国は、歯科診療所がシステムを入れ替えるときに移る道と補助案を、そろえつつあります。
法律が義務を課す相手は、診療所ではなく政府です。地域医療介護総合確保法第12条の3第4項は、政府に、2030年12月31日までに電子カルテの普及率を約100%にするよう求めています。1 厚生労働大臣は2026年7月21日の会見で、個々の医療機関への導入義務ではないと説明しました。2 この目標の目的は、必要な診療情報を医療機関の間で共有できるようにすることです。3
歯科診療所に向けて、国は2026年9月にまとめた電子カルテ普及計画で、導入の道と補助案を示しました。4
1つ目は導入の道です。診療所は、次の更改に合わせて、認証製品かパッケージ版へ移ります。更改とは、レセコンや電子カルテなどのシステムと機器を入れ替えて、新しくすることです。国の資料は、機器更改が近いか当分先かで、道を分けています。更改が当分先なら、今のシステムを改修して国の医療DXサービスへつなぎます。4 自院の更改の時期は、保守契約やリースの満了日が目安です。
認証製品は、診療所向けの電子カルテが備える機能や安全対策を決める国の共通の決まり(標準仕様)に合っているかの確認を受けた電子カルテです。歯科向けの標準仕様は2026年度中に策定する予定で、歯科向けの認証制度の具体化は2027年度中に検討します。3,4 パッケージ版は、国の医療DXサービスへつなぐ機能とサイバーセキュリティ対策を標準で備え、自院向けの作り込みをしない(ノンカスタマイズ)などの要件を満たす製品で、クラウド型の製品が限られるあいだも、国のサービスへつなげるためのものです。4
国の医療DXサービスとは、国が用意する共通の仕組みです。オンライン資格確認、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどがあります。電子カルテ情報共有サービスは、医療機関の間で診療情報を共有するサービスです。3
2つ目は補助案です。令和9年度の予算の要求案(概算要求)に入っています。4
国が示したのは、診療所が更改のときに選べる道筋です。標準仕様と認証製品は、整えている途中です。
2. レセコンのままでいると、国の加算や制度から取り残されるのか
電子カルテがなくても、いわゆるDX加算の下位区分は届け出られ、今は電子処方箋の発行体制を足せば上位区分にも届きます。国は、次にシステムを入れ替える時期に合わせて、電子カルテへ移ることを目指しています。
歯科診療所への義務づけの記述は、確認した資料にありません。5,6,7,8
歯科のDX加算は、2026年6月からの「電子的歯科診療情報連携体制整備加算」です。7
今はレセコンのままでも、電子処方箋に対応すれば上位区分に届きます。5
この要件は、何度も見直されてきました。電子処方箋は、2024年6月の改定で前身の医療DX推進体制整備加算8の施設基準に入り、9 2025年4月には要件としない区分もできました。10 次の改定で、電子カルテが欠かせない条件になることもありえます。
この加算は、医療DXやICT連携を活用する体制を評価する加算です。8 マイナ保険証、電子処方箋、電子カルテは、同じ医療DXの流れにある段階です。加算は、その流れのどこまで進んだかを見ています。
国は、診療内容を入力できて自院にサーバーを置く型のレセコンが、歯科診療所に広く普及していると見たうえで、次回の更改のときに、共有サービスと電子処方箋に対応する電子カルテへ移ることを目指すとしています。3,8
レセコンのまま共有サービスを使えるか、歯科向けの認証製品がいつ出るかは、まだ決まっていません。国は、歯科の対応方針を2026年度中に決める予定です。3,8
更改が当分先なら、当面はいまの条件で加算を取りつつ、更改の時期に合わせて、今のレセコンの会社のままで移行できるのか、新規の導入になるのかの確認と、紙カルテの取り込み、タブレットなどの機器を準備するのが良いでしょう。
3. 今のレセコンの会社のままで移行できるのか、新規の導入になるのか
更改では、製品を比べる前に、今のレセコンの会社のままで移行できるのか、新規の導入になるのかを確かめましょう。
先に、自院の現在地を見ます。厚生労働省の委託事業が2026年7月21日から8月14日に行った調査には、歯科診療所4,209施設が回答しました。3
| 診療所の記録のしかた | 割合 |
|---|---|
| カルテ作成支援機能付きのレセコンを単独で使う | 51% |
| カルテ作成支援機能付きのレセコンと手書きを併用する | 28% |
| 上の2つの合計 | 79% |
| 「いつ・だれが修正したか」の履歴をシステム内で確認できる電子カルテ | 12% |
この調査は、この履歴を確認できる場合だけを、電子カルテと数えています。3
今の会社に残る場合、国が示す道は2つです。更改のときに認証製品かパッケージ版へ移る道と、更改が当分先のときに、今のレセコンを改修して国のサービスへつなぐ道です。4 概算要求の補助案では、パッケージ版の導入支援の対象に、カルテ記載機能のあるレセコンからの移行が入っています。4 回答のあった歯科システムの会社8社は、すべて電子カルテ情報共有サービスへ対応する予定と答えました。11
自院が今どこにいるかで、最初にすることが変わります。
| 今の記録方法 | 最初にすること |
|---|---|
| 手書きのカルテ | 国は手書きの診療所に認証製品の普及を進めるので、今の会社で新規に導入できるのか、他社になるのかを確かめる |
| レセコンで文書を作っている | 今の会社のままで移行できるのか、新規の導入になるのかを確かめる |
| すでに電子カルテを使っている | 今の会社が共有サービスへ接続する予定かを尋ねる |
歯科の標準仕様は、データ移行の要件を次の版以降で決める予定です。3 データを移すときは、実データの一部で移行テストをして、歯式、歯周組織検査、画像が読めるかを確かめます。確かめる項目は、ほかに、件数、読めない項目、切替日の手順です。
4. クラウド型と、自院にサーバーを置くオンプレミス型は、どちらを選ぶのか
専任の運用担当者がいない診療所は、クラウド型を選びます。国のガイドラインが、そのような小規模な医療機関にはクラウドサービスの利用が望ましいとしているからです。担当者がいる診療所と、選べるクラウド型の製品が無い診療所は、オンプレミス型のままで構いません。
まず言葉を整理します。クラウド型は、事業者の設備で動くシステムを、インターネット経由で使う型です。オンプレミス型は、自院の中にサーバーを置いて使う型です。オンプレミスは、英語で「敷地・構内」を意味する言葉に由来し、「自院の敷地の中にある」という意味で使われています。
国は、歯科の標準仕様を、最初からクラウドで動くように作られた型(クラウドネイティブ型)として想定しています。3 一方で、歯科診療所が電子カルテに求める機能は一様ではありません。オンプレミス型などが医療機関の判断で使われることも、国の想定のうちです。8
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版は、オンプレミス型の採用を妨げないとしています。そのうえで、専任の運用担当者がいない小規模な医療機関には、クラウドサービスの利用が望ましいとしています。12 理由は、安全管理を事業者に委託でき、保守やセキュリティ更新を任せられて、運用の人手が減るからです。12
| 項目 | クラウド型 | オンプレミス型 |
|---|---|---|
| 保守とセキュリティ更新 | 事業者が担う。保守の時間帯を自院で決められない場合があり、影響を事業者へ尋ねる12 | 院内サーバーのソフトの組み合わせを管理し、事業者に確かめ続ける12 |
| 歯科で今選べる製品 | 最初からクラウドで動く型を出す会社は、いまは限られる3 | オンプレミス型のレセコンが広く普及している3 |
製品を選ぶときに、各社の提案書と見積書で比べるのは、データの置き場所、保守の範囲と窓口、更新や移行のときの費用と手間の3つです。
型の選択は、会社の選択と一体です。今の会社に残るなら、その会社がクラウド型を出しているかを、他社へ移るなら、移る先の型を尋ねます。
5. 電子カルテの費用は、何を含めて比べればよいのか
費用は、初期、毎月、更新のときの3つに分けて見積りをそろえます。
歯科医師1,506人へのウェブ調査(2026年3月公表)では、電子カルテを使っていると答えた歯科医師の回答は、レセコンより、初期費用も月額費用も高い傾向です。11 金額は製品と契約ごとに変わります。見積りに入れる項目は、次の6つです。今の会社と移る候補の会社へ、同じ項目で見積りを求めます。
- 初期費用
- 月額・保守費用
- データ移行費用
- 追加の改修費用(共有サービスや電子処方箋へつなぐためのもの)
- X線・口腔内写真などの画像システムとの接続費用(パノラマやデンタルのX線を含む)
- データを書き出す費用(乗り換えるときに、今の会社から取り出すもの)
電子カルテ化に合わせて、サブカルテも含めたペーパーレス化を目指す場合は、タブレットなどの機器の購入も、一緒に考えるとよいでしょう。
型ごとに見積りで見る点が変わるので、オンプレミス型では、自院に置くサーバーの購入や入れ替えがどこに入るかを、クラウド型では、事業者の設備の利用料がどこに入るかを確かめます。契約期間、解約の条件、更新のときの費用も、あわせて尋ねる項目です。
歯科向けの標準仕様の概要は、会社が自社のWebサイトに電子カルテの価格を公開していることを求める内容です。オプション機能の価格も含みます。3
6. 補助金が出るなら、更新を待つべきか
次の更改が近い診療所は、契約の前に補助の対象になる契約の時期を確かめ、更改が当分先の診療所は、公募要領の公表を待ちながら準備を進めます。
2026年9月30日の時点で、歯科の電子カルテ向けの補助は、令和9年度概算要求の段階です。案は、歯科電子カルテの普及事業として、補助率を2分の1以内とし、上限を設けるものです。この事業の中に、認証の委託、認証されたクラウド型製品の導入支援、オンプレミス型から認証製品へ移る場合のデータ移行の支援、パッケージ版の導入支援が入っています。4 補助がかかるのは、費用のうち導入とデータ移行の一部です。月々の利用料や保守費用が対象かどうかは、公募要領が公表されてから確かめます。
概算要求は、予算の成立で変わることがあります。2026年9月30日に確認した電子カルテ普及計画と関連ページには、補助の募集条件や申請のしかたを示す公募要領、申請期間、対象製品が、まだ載っていません。
分かれ目は2つあります。
1つ目は、更改の時期、つまり自院のシステムを入れ替える時期です。保守契約やリースの満了日が目安です。国は、更改のタイミングで移ることを基本とし、更改が当分先なら、個別の改修で国のサービスへつなぐ形で整理しています。4 契約の更新日と保守の終了時期が近い診療所は、補助を待たずに、更改の準備を進めます。
2つ目は、補助の対象になる契約の時期です。交付が決まる前に契約した経費が対象になるかで、契約できる時期が変わるからです。契約の前に、販売元へ補助の対象になる契約の時期を尋ねます。
急がなくてよい材料もあります。歯科の診療情報提供書(紹介状など)を電子カルテ情報共有サービスで送り合う開始の時期は、2029年度が目標です。3 その機能のためだけに更改を急ぐ理由は大きくありません。加算も、第2節のとおり、電子カルテがなくても届く区分があります。待つあいだに加算で差が出るのは、電子処方箋にも電子カルテにも共有サービスにも対応せず、上位区分に届かない場合です。
待つあいだは、第7節の1〜4の順序で準備を進め、公募要領が公表されたら、対象経費、補助率、上限、申請期間、契約できる時期を、同じ比較表へ重ねます。
7. 自院の更新計画は、何をいつ決めればよいのか
更新日から逆算して、今の会社のままで移行できるのかを確かめ、型を選び、費用を比べ、補助の対象時期を確かめてから、契約します。
進める順序は、次の5つです。
- 契約の更新日と保守の終了時期を確かめます。
- 今の会社に、移行できるのか、新規の導入になるのかを確かめ、残るか移るかを決めます。
- クラウド型かオンプレミス型かを選びます。
- 初期、毎月、更新のときの費用を分けて、見積りを比べます。
- 補助の対象になる契約の時期を確かめてから、契約します。
2030年から逆算して、データの下見、比較、移行テスト、職員の研修に必要な期間を、更新日の前に置きます。
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参考文献
- 厚生労働省法令等データベース「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」(令和7年法律第87号による改正・2025年12月12日)
- 厚生労働省「上野大臣会見概要」(2026年7月21日)
- 厚生労働省「第35回健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料2 歯科における医療DXについて」(2026年9月10日)
- 厚生労働省「電子カルテ普及計画」(2026年9月9日)
- 厚生労働省「電子処方箋」(歯科のための電子処方箋導入ガイド 第1.0版、医療情報化支援基金等の補助資料、2026年)
- 厚生労働省「第11回電子処方箋等検討ワーキンググループ 資料1」(2026年9月29日)
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて、保医発0305第7号、2026年3月5日)
- 厚生労働省「第10回電子処方箋等検討ワーキンググループ 資料1」(2026年7月1日)
- 厚生労働省「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて」(中央社会保険医療協議会 総会(第613回)資料 総-2-1、令和6年度診療報酬改定の施設基準を再掲した2〜3頁、2025年7月23日)
- 厚生労働省「答申について(医療DX推進体制整備加算及び在宅医療DX情報活用加算の見直し)」(中央社会保険医療協議会 総会(第603回)資料 総-8-3、2025年1月29日)
- 厚生労働省(受託者:株式会社NTTデータ経営研究所)「歯科情報の利活用推進事業(歯科診療情報による身元確認のためのデータベースに関する検証等)に係る調査・検証事業等一式 報告書」(2026年3月)
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版」(令和8年6月)
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。
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