コラム|船橋の歯医者|かわせみデンタルクリニック

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日本人の口の中の菌、昔と今どう違う?

私たちの口の中には、たくさんの細菌が住んでいます。これらの「口腔内細菌」のバランスは、全身の健康にも大きく関わっていることが分かってきました。今回は、縄文時代から現代までの日本人の食文化の変化が、口の中の細菌にどのような影響を与えてきたのか、そして、伝統的な日本食が私たちの口腔健康にどう役立つのかを、最新の研究を元にひも解いていきましょう。

日本食

縄文時代から江戸時代:意外と安定していた口腔内細菌

「縄文時代(約3000年前)の人と、農耕が中心になった江戸時代(400~150年前)の人では、口の中の菌はかなり変わったんじゃない?」そう思う方もいるかもしれません。しかし、驚くことに、縄文時代と江戸時代の歯石を比較した研究では、口腔内細菌の全体的な構成には大きな変化がなかったことが分かっています[1] 。主要な菌の種類やその多様性(細菌種の豊富さ)には、統計的に意味のある違いは見られず、細菌のコミュニティは長い間、高い安定性を保っていたと考えられます[1]

江戸時代と現代:食と衛生環境の変化がもたらした「現代の病原菌」

では、江戸時代(1603-1867年)と現代の日本人ではどうでしょうか?東京医科歯科大学の研究グループが、江戸時代後期(17~19世紀)の歯石と現代日本人の歯垢を比較したところ、いくつかの明確な違いが明らかになりました[2]

江戸時代の特徴的な菌:

  • ユーバクテリウム属(Eubacterium):口や腸にいるグラム陽性の細菌群で、複数の種が共生しています 。
  • アクチノミセス・オリコラ(Actinomyces oricola):歯垢に多く見られ、歯石やバイオフィルムの構成要素にもなります 。
  • エッガーセラ・レンタ(Eggerthella lenta):腸に多い菌ですが、口内にも少量存在し、歯周病患者で検出されやすいとされています 。

現代日本人の特徴的な菌:

  • 「レッドコンプレックス」の優勢現代の日本人では、「レッドコンプレックス」と呼ばれる歯周病の主要な病原菌群が優勢になっています 。これには以下の3種類の菌が含まれます。
    • ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis) :歯ぐきの奥(歯周ポケット)で増えやすく、歯周病の主な原因菌として知られています 。
    • タンネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia) :歯と歯ぐきのすき間に住みつき、歯周組織を破壊します 。
    • トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola) :らせん形の細菌で、歯周ポケットで他の病原菌と協力して歯周病を進行させます 。
  • フラエティバクテリウム・ファスティディオスム(Fretibacterium fastidiosum):歯周病の重症例で増える、非常に増殖の遅い細菌です 。
  • モギバクテリウム・ティミドゥム(Mogibacterium timidum):口の奥深くにひそみ、増えすぎると炎症を助長すると考えられています 。

この「レッドコンプレックス」菌は、江戸時代にはほとんど検出されなかったことが分かっています。このことから、現代に特徴的な歯周病の病原菌たちは、江戸時代以降の食生活や衛生環境の変化とともに増えてきたと考えられます[2]

伝統的日本食が口腔内細菌に与える影響

現代の食生活が口腔内細菌に影響を与えているとすれば、健康的な食事が口腔内の環境を改善する可能性はあるのでしょうか?ここで注目されるのが、「12項目修正日本食指数(mJDI12)」という指標です 。これは、魚介類、海藻、野菜、豆製品、発酵食品、緑茶など12の要素の摂取バランスを評価するもので、伝統的な日本食の摂取パターンを示します 。

日本人を対象としたコホート研究で、mJDI12スコアと口腔内細菌叢の関係が調べられました 。その結果、以下のような傾向が示されました[3]

  • アロプレボテラ属(Alloprevotella):mJDI12スコアが高い群(つまり、伝統的な日本食をよく摂っている人たち)で、この菌が有意に減少していました 。アロプレボテラ属は、歯肉炎や歯周病患者の口からよく検出される菌です 。
  • 口腔内多様性(α多様性):口の中の細菌種の多様性には、mJDI12スコアが高い群と低い群で大きな差は認められませんでした 。
  • 腸内酪酸産生菌:mJDI12スコアが高い群では、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)、ゲミッガー(Gemmiger)、ルミノコッカス(Ruminococcus)などの腸内で酪酸を作る菌が増加していました 。

これらの結果から、伝統的な日本食をバランスよく摂取することは、口の中の有益な菌と病原菌のバランスを改善し、口腔だけでなく全身の健康維持にも有効である可能性が示唆されています 。

まとめ

縄文時代から江戸時代にかけて、日本人の口腔内細菌叢は比較的高い安定性を保っていました 。しかし、江戸時代以降の食生活や衛生環境の変化に伴い、現代的な歯周病の病原菌群が増加してきたと考えられます

一方で、魚介類や海藻、野菜、発酵食品などをバランスよく取り入れた伝統的な日本食は、有益な菌が優位な環境を促し、健康的な口腔内細菌叢の維持に役立つ可能性があります 。

これからは、一人ひとりに合わせた栄養指導や、プロバイオティクス(善玉菌を摂取すること)の活用によって、口と全身の健康をさらに最適化していくことが期待されます 。日々の食事に伝統的な日本食を取り入れることが、健康な口、そして健康な体への第一歩となるかもしれませんね。

引用文献

  1. Eisenhofer R, Kanzawa-Kiriyama H, Shinoda K, et al. Investigating the demographic history of Japan using ancient oral microbiota. Philos Trans R Soc B 375(1812):20190578, 2020. https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstb.2019.0578
  2. Shiba T, Kobayashi H, Iwata T, et al. Comparison of Periodontal Bacteria of Edo and Modern Periods Using Novel Diagnostic Approach for Periodontitis With Micro-CT. Front Cell Infect Microbiol 11:723821, 2021. https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcimb.2021.723821/full
  3. Sato S, Chinda D, Iino C, et al. A Cohort Study of the Influence of the 12-Component Modified Japanese Diet Index on Oral and Gut Microbiota in the Japanese General Population. Nutrients 16(4):524, 2024. https://www.mdpi.com/2072-6643/16/4/524

以前書いた 日本における各時代の食事と、咀嚼回数および食事時間の変化 もあわせて御覧ください