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歯科助手の職業病とは?腰痛・脚のむくみ・手荒れ・目の負担・膀胱炎・心の負担と予防策

歯科助手は、体と心の両方に負担がかかりやすい仕事です。前かがみと立ち仕事、手洗いと手袋、詰め物を固める光、トイレに行きにくい診療の流れ、人間関係が重なります。起こりやすい職業病と予防策を、研究の数値で整理します。歯科衛生士や歯科医師にも共通する内容です。

歯科助手に起こりやすい職業病と部位(目、首・肩、背中・腰、手、膀胱、脚、脳)
図:歯科助手に起こりやすい職業病と部位(本文の研究をもとに作図)。
目次
  1. 腰・背中・首・肩の痛み
  2. 立ちっぱなしによる脚のむくみと静脈瘤
  3. 手荒れ・かぶれ・ラテックスアレルギー
  4. 光重合器の青い光による目への影響
  5. 膀胱炎とトイレ・水分の我慢
  6. 人間関係の板挟みや燃え尽きによる心の負担
  7. 針刺し事故と化学物質
  8. 本人と職場でできる予防策
  9. まとめ:体と心の負担を、職場で一緒に減らす

腰・背中・首・肩の痛み

口の中をのぞき込み、体をひねり、腕を上げたまま支える姿勢が続くと、腰や背中・首・肩に負担がたまります。歯科助手は、バキュームで唾液を吸うときに患者さんの口の中をのぞき込み、器具を渡すたびに体をひねり、腕を上げたまま支えます。

インドネシアで歯科医師・歯科看護師・歯科助手151人に聞いた研究では、96%が過去12か月に筋肉や関節の不調(疲れや痛み)を経験していました1。中くらい以上の痛みがあった部位は、背中が68.2%、腰が66.9%、首が60.9%で、歯科助手だけでも36人中34人が不調を経験していました。きっかけとして無理な姿勢を挙げた人は84.1%でした1。世界歯科連盟(FDI)も、仕事中の姿勢、長い労働時間、器具の使いやすさなどを筋肉や関節の障害の要因に挙げ、歯科チームのどの職種にも起こる問題としています2。

ドイツで歯科医師と歯科助手17人が週2回の筋力トレーニングを10週間続けた研究では、首・背中・腰・肩の痛みがいずれも軽くなりました3。体幹を鍛える運動は、自分でできる予防のひとつです。

立ちっぱなしによる脚のむくみと静脈瘤

立ったまま補助する時間が長い歯科助手は、脚のむくみと静脈瘤に注意が必要です。日本の多くの歯科医院には助手用の椅子がなく、歯科助手は立ったまま補助するため、同じ場所で脚を動かさない時間が長くなります。歩くときに脚の筋肉が血液を心臓へ押し戻すはたらきが弱まり、夕方には脚がむくみます。

デンマークで約160万人を3年間追った研究では、ほとんど立ったまま働く女性は、そうでない女性に比べて、下肢静脈瘤(脚の静脈がこぶのように膨らむ病気)で入院するリスクが2.63倍でした4。医療従事者では、約4人に1人に下肢静脈瘤がみられるという分析もあります5。

足元にクッション性のあるマットを敷くと、立ち仕事の不快感や疲れが減るという分析があります6。弾性ストッキングを使うことで、仕事による脚のむくみと疲れが軽くなった試験もあります7。

手荒れ・かぶれ・ラテックスアレルギー

手洗いと消毒、手袋が毎日続くため、手荒れやかぶれ、手袋の成分によるアレルギーが起こりやすい仕事です。頻繁に手洗いや消毒を行い、手袋を長時間着けていると、手の皮膚のバリアが傷みます。米国疾病予防管理センター(CDC)は、目に見える汚れがないときはアルコール手指消毒剤を使うよう勧めています。アルコール手指消毒剤は、石けんと水で手を洗うより皮膚への刺激や乾燥が少ないためです。熱い湯を避け、洗った後はこすらず押さえて乾かし、職場で使用が認められた保湿剤を使います8。

手袋の成分によるアレルギーもあります。医療従事者でラテックスアレルギーがある人は4.32%で、一般の人の1.37%より多いという分析があります9。ニトリル手袋に替えても、手袋をつくるときに加える成分によるかぶれ(遅れて出るⅣ型のアレルギー)は起こります10。インドの歯科医師と歯科学生356人の質問票調査では、手袋で症状が出た175人の全員がⅣ型の反応に当てはまり、ニトリル手袋で症状が出た人もいました11。器具の消毒に使うグルタルアルデヒドに反応した人は、歯科衛生士・歯科助手で10.9%、歯科以外の人で2%でした12。

かぶれが続くときは、皮膚科で原因を調べてもらいます10。どの製品を使ったときに、手のどこに症状が出たかをメモして、皮膚科と職場に伝えましょう。

光重合器の青い光による目への影響

光重合器の青い光は直接見ず、光に合う保護メガネや遮光板で目を守ることが大切です。詰め物を固める光重合器は、強い青色の光を出します。この光は目の網膜を傷めるおそれがあり、光を直接見ないこと、保護メガネや遮光板を使うことが勧められています13,14。

歯科で使う保護メガネと遮光板の18製品を調べたノルウェーの研究では、十分に光を遮ったのは9製品でした15。使っている光重合器に合う製品を選びましょう。最も強い機種を調べた研究では、保護具なしで光を見ても安全な時間の上限は、術者の位置(30cm)で約22分、助手の位置(60cm)で約89分でした。ふだんの使い方で対策をとっていれば短期の危険は低いものの、長く浴び続けた影響はまだ分かっていません16。

膀胱炎とトイレ・水分の我慢

トイレに行きにくくて水分を控えがちな職場では、膀胱炎などの尿路感染症に注意が必要です。患者さんが続く日は、トイレに行くタイミングを逃しやすくなります。オーストラリアの病院で働く看護師・助産師353人の調査では、77.1%が勤務中に排尿を我慢し、26.9%はそのために水分を控えていました17。米国の教師791人の調査では、勤務中に飲む量を減らしていた人は、過去1年に膀胱炎などの尿路感染症になるリスクが2.21倍でした18。

ショッピングモールなどの商業施設に入っている歯科医院では、院内にトイレがなく、お客さんと同じトイレを使う職場もあります。診療の合間にすぐトイレに行けないと水分を控えがちになり、職場の環境によっては膀胱炎のリスクが上がります。水分を控えることも様々な問題に繋がるため推奨できません。診療の合間にトイレに行ける時間を確保できるよう職場で取り組む必要があります。

人間関係の板挟みや燃え尽きによる心の負担

歯科助手の気持ちのすり減りには、歯科医師との関係と仕事量が強く関わっていました。歯科助手は、歯科医師の指示と、患者さんの不安や痛みのあいだに立つ仕事です。イスラエルの歯科助手299人の調査では、18%が強い燃え尽き状態にありました。気持ちのすり減りに最も強く関わっていたのは歯科医師との関係で、次が仕事量でした19。

SNSで募った米国の歯科衛生士527人の調査では、約70%が5年以内に仕事を離れることを考えていました。その人たちは、燃え尽きと、患者さんのつらさに共感し続けて疲れる「同情疲労」の得点が高い傾向にありました20。日本歯科衛生士会の調査でも、給与と人間関係が働く環境での共通の課題でした21。

針刺し事故と化学物質

針刺しは歯科助手にも多く起き、器具の受け渡しや片付けの場面で起きやすい事故です。米国ワシントン州の労災請求では、歯科診療所での針刺しなど894件のうち、667件(75%)を歯科助手が占めていました22。日本の大学病院の歯科で19年間に起きた針刺しなど195件のうち、58.5%が経験5年未満の人で、器具の受け渡しや片付けでの事故が多くありました23。

歯科助手の器具の扱いは、職場での教え方に任されています。米国の病院の歯科で1995〜2004年に報告された針刺し87件では、53%が、使ったあとの片付けや受け渡しなど、安全な器具や手順で防げる可能性のあった場面で起きていました24。使った針や縫合針の片付けは、教育を受けた歯科医師や歯科衛生士が自分で行い、助手に渡さないという考え方も必要です。

針刺しや切り傷が起きたら、傷口を石けんと水で洗い、すぐ職場に報告して、時間を置かずに医療者の評価を受けます25。入れ歯などに使うメチルメタクリレートは、ときにかぶれや喘息のような症状を起こすため、皮膚に直接触れないようにすることや、換気を行うことが勧められています26。

本人と職場でできる予防策

予防には、本人の工夫と職場の環境づくりの両方が必要です。

本人ができること:

  • 体幹を鍛える運動を続ける3。
  • 手指衛生のあとに保湿剤を使う8。
  • 光重合器の光を直接見ず、保護メガネを使う13。
  • 勤務中も水分をとる18。
  • 痛みが続くときは、早めに受診する2。
  • かぶれが続くときは、皮膚科で原因を調べてもらう10。

職場ができること:

  • 助手用の椅子と足置きを用意し、器具の置き場所を、歯科医師と助手の組み合わせに合わせて調整する27。
  • 立ち位置にクッション性のあるマットを敷く6。
  • 光重合器に合う保護メガネや遮光板を用意する15。
  • 安全な器具を選び、針刺しのあとの連絡先と受診先を決めておく25。
  • 休憩とトイレの時間を予約に組み込む17。
  • 歯科医師と助手が相談しやすい関係をつくる19。

まとめ:体と心の負担を、職場で一緒に減らす

歯科助手の職業病は、本人の工夫だけでなく、職場で一緒に減らしていくものです。

  • 腰や首の痛みは、姿勢と器具の配置を見直し、体幹を鍛える。
  • 立ち仕事の疲れにはマットを敷き、脚のむくみには弾性ストッキングを使う。
  • 手荒れとかぶれは、保湿を行い、原因に合う手袋を選び、皮膚科へ相談して対処する。
  • 光重合器の光は直接見ず、光に合う保護具を使う。
  • 水分を控えず、トイレに行ける時間をつくる。
  • 歯科医師と助手が話しやすい関係を、心の負担を減らす手がかりにする。

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参考文献

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  3. Holzgreve F, Fraeulin L, Maurer-Grubinger C, et al. Effects of Resistance Training as a Behavioural Preventive Measure on Musculoskeletal Complaints, Maximum Strength and Ergonomic Risk in Dentists and Dental Assistants. Sensors (Basel). 2022;22(20):8069.
  4. Tüchsen F, Krause N, Hannerz H, et al. Standing at work and varicose veins. Scand J Work Environ Health. 2000;26(5):414-420.
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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。


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