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歯と口の健康は、なぜ健康経営の点数にならないのか

この記事で分かること:「評価に使用しません」が付いた経緯と、睡眠が独立設問になった前例から、経産省が調査票をどう変えれば歯と口の健康が点数に入るか。経産省と、歯科の側で動く人に向けて書きました。

「歯と口の健康」を名指しする設問は1つだけで、その直前には「◆当設問は評価に使用しません」とあります。

目次
  1. 「歯と口の健康」を名指しする唯一の設問は、評価に使われない
  2. 回答企業の4割超は定期健康診断への歯科検診の組み込みや費用補助を行うが、最も重視するテーマには選ばれにくい
  3. 経産省は口腔への支出を健康投資として認め、健康経営度の評価では数えていない
  4. 睡眠は選択肢の1つから独立設問に改められ、骨太の方針2026の同じ段落には歯科健診もある
  5. 「評価に使用しません」は選んだテーマより参加の割合を評価すると決めた2024年の改訂で付いた
  6. 調査票は公開の検討会と、議論が公表されていない委員会で決まり、予算は設問ごとには付かない
  7. 経産省への提言:「評価に使用しません」の一文は外さず、歯科健診を独立設問にして受けた割合で測る
  8. 歯科の側への提言:検討会・自主ガイドライン・厚生労働省の3つの入口から根拠を届ける
  9. 生産性向上の効果を約束しなくても、評価の対象にすれば取組の中身が見えてくる

1. 「歯と口の健康」を名指しする唯一の設問は、評価に使われない

調査票で「歯と口の健康」を名指しする設問は1つだけで、その設問には評価に使わないと明記されています。

令和8年度の健康経営度調査票(大規模法人部門)は69頁あります。「口腔」は0か所、「歯」は次の3か所にあります1。

  • 35頁:専門職の選択肢に歯科医師・歯科衛生士を置く
  • 40頁:任意健診・検診の組み込みや費用補助の対象項目の選択肢に「歯科検診」を置く
  • 41頁:従業員向け健康教育の選択肢に「歯と口の健康」を置く

問題となるのは41頁です。従業員に向けた健康教育の内容を尋ねる設問(Q38 SQ1)では、選択肢に「歯と口の健康」が入っています。その直前には、「◆当設問は評価に使用しません」と明記されています。

令和8年度健康経営度調査票(大規模法人部門)41頁のQ38とSQ1。SQ1の直前に「当設問は評価に使用しません」とあり、15の選択肢の9番が「歯と口の健康」
出典:経済産業省「健康経営度調査票サンプル(令和8年度・大規模法人部門)」41頁の一部を切り出して加工1

この一文は歯と口の健康だけでなく、心の健康や睡眠を含む15の選択肢すべてに当てはまります。歯科を主題にした独立した設問はなく、大規模法人部門の認定要件(健康経営優良法人の認定を受けるために満たす条件)に並ぶ評価項目(①〜⑰)にも、歯科や口腔に関する項目は入っていません1。

実際に評価されるのは、従業員に向けた健康教育を実施しているかどうかです。従業員向け教育で「特に行っていない」を選び、管理職への昇格時教育や定期的な教育も実施していない企業は、評価項目で不適合と判定されます1。歯と口の健康をテーマにした研修も健康教育の実績とみなされ、従業員向け教育を行っているかを尋ねる設問を通じて評価に反映されます。ただし、評価されるのは教育を行った事実や参加の割合であり、歯と口の健康を選んだこと自体は反映されません。点数にならないのは、どのテーマを選んだかという点で、これは歯と口の健康に限りません。

選んだテーマを点数に反映させる仕組みは、別に用意されています。食生活改善に向けた具体的な支援と運動習慣の定着に向けた具体的な支援には専用の設問があり、認定要件であることを示す「■」が付いています1。厚生労働省の令和8年版厚生労働白書は、国民健康づくり運動を説明する中で、栄養・食生活や身体活動・運動、飲酒などと並べて、歯・口腔の健康を取り上げました2。それでも健康経営度調査票では、歯と口の健康は食生活や運動と違って専用の設問を持たない項目です。

2. 回答企業の4割超は定期健康診断への歯科検診の組み込みや費用補助を行うが、最も重視するテーマには選ばれにくい

歯科健診や口腔の健康教育に取り組む企業は多い一方、最も重視するテーマに選ぶ企業はまれです。

令和7年度の大規模法人部門の集計では、4,010社のうち1,860社、46.4%が任意健診・検診として歯科検診を組み込むか、費用補助の対象としています。従業員向け健康教育に歯と口の健康を含める企業は、研修・セミナーを行う3,835社のうち1,685社、43.9%です3。令和8年度の調査票でも、歯科検診は該当する検診項目に、歯と口の健康は教育内容を尋ねる設問の選択肢に入っています。

歯科は企業にとって新しいテーマではありません。評価の対象に移すうえで、取組を測る仕組みを一から作る必要はなく、選択肢も回答もそろっています。

一方で、歯と口の健康を「特に重視している」と答えた企業は3,833社中32社、0.8%にとどまります。重視するものを1つだけ選ぶ同じ設問で、心の健康を選んだ企業は54%でした3。心の健康以外の選択肢は最大の運動奨励でも8.1%で、すべて1桁%でした3。読み取れるのは、歯科が最も重視するテーマに選ばれることは少ない、ということです。

だから本記事では、提案を既にある取組を評価の対象として正しく数えることに絞ります。

3. 経産省は口腔への支出を健康投資として認め、健康経営度の評価では数えていない

経産省は口腔への健康投資を認める一方、健康経営度の評価にはまだ歯科の取組が入っていません。

経産省は口腔への支出を健康投資として認めている

2020年6月の健康投資管理会計ガイドラインは、健康投資施策の具体例として「口腔環境改善に係る費用」を挙げています4。2025年4月の資料に示された経産省の健康経営関連サービス分類でも、「オーラルヘルス」は歯科検診や歯ブラシ、歯磨き粉を含む独立した区分に位置づけられています5。

健康経営は、経産省にとって市場を広げる施策でもある

健康経営は経産省にとって市場を広げる施策でもあります。経産省は2024年2月20日、産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会に資料を示しました。その資料では、公的保険外での健康づくりと介護の国内市場を2020年の25兆円から2050年に77兆円へ広げる「目標」が掲げられ、施策としてPHR・健康経営等の推進が挙げられています6。内訳は健康づくり59.9兆円と介護16.9兆円の2区分で、歯科や口腔の額は示されていません6。

健康経営度の評価では、歯と口の健康を選んでも数えない

調査票には健康教育の内容として歯と口の健康を選んでも評価には使わないと明記されています。健康投資の費用としては認め、健康経営度の評価では数えない。ここに非対称があります。

この非対称から直接言えるのは、口腔への支出を健康投資として計上できるところまでです。それを点数に反映すべきかどうかは、また別の判断になります。それでも口腔はすでに健康投資の枠組みに入っており、その取組を調査票でも見える形にする余地が残されています。

保険者の評価では、歯科健診と受診勧奨の両方を実施する取組に8点が配られている

別の評価体系を見ても、保険者の側ではすでに歯科に配点が設けられています。第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度(対象は健保組合・共済組合など)は、歯科健診と受診勧奨の両方を実施する取組に8点を割り当てています。同じ大項目のがん検診の配点は、5種のがん検診を全て実施する取組が5点、精密検査受診率の把握が5〜10点、市町村のがん検診の受診勧奨が3点です7。

4. 睡眠は選択肢の1つから独立設問に改められ、骨太の方針2026の同じ段落には歯科健診もある

歯科が参照できる直近の前例は睡眠で、既存設問の選択肢の1つから独立設問に改められ、認定要件とは別に扱われています。

睡眠は選択肢から独立設問になり、認定要件の手前にある

令和7年度まで「従業員の生産性低下防止への施策」の選択肢の1つだった睡眠は、令和8年度から「従業員の睡眠の質向上のために、どのような取り組みを行っていますか」という独立した設問に改められました1,8。検討会資料では変更の背景として、骨太の方針2026に明記されたことや、睡眠に関する2つの業界団体が自主ガイドラインを公表したことが挙げられました。あわせて既存の選択肢での取組状況も参考として掲載されており、仮眠室の設置は60.8%(4,175社が分母)でした8。

ここで注目すべきは順序です。令和8年度の時点で、睡眠は認定要件になる手前の段階にあります。独立設問にすることと、認定要件にすることは別段階です。

骨太の方針2026には歯科健診の充実も掲げられた

骨太の方針2026で健康づくりを扱う同じ段落には、次の記載が並びます。「いわゆる国民皆歯科健診の具体化(歯周病検診の対象拡大や就労世代の歯科健診の更なる充実)、口腔と全身の健康の関係に基づく歯科疾患対策・口腔健康管理」と、「睡眠対策を含む健康経営の推進」です9。健康経営と結びつけて書かれたのは睡眠で、歯科については歯科健診の充実として盛り込まれています。それでも、就労世代に向けた歯科健診が国の基本方針に掲げられていることは、調査票に歯科を加える議論を進める政策的なよりどころになります。経産省自身も2025年12月の健康経営推進検討会資料に、高市政権の「攻めの予防医療」を参考として載せました。その例示は「癌検診陽性者の精密検査、国民皆歯科健診の促進等」です10。

歯科も既存の設問から着手できる

設問が増えるまでには、基本方針に書かれることのほかにも段階があります。睡眠の事例では自主ガイドラインの策定や、既存の回答を集計した実績もそろっていました。歯科では、口腔と全身がどのように関係しているかを示す根拠の強さも別に問われます。そのうえで歯科についても既存の設問から着手するという同じ順序で進められます。

5. 「評価に使用しません」は選んだテーマより参加の割合を評価すると決めた2024年の改訂で付いた

2024年に経産省は健康教育を「どのテーマを選んだか」より「重点の教育にどれだけ参加したか」で評価すると決めました。この改訂で、15テーマすべてに「評価に使用しません」が付きました。

歯と口の健康は、令和3年度の調査票から健康教育の選択肢に入っています。令和3〜5年度の調査票では、この設問に「評価に使用しません」という一文はありませんでした11。

この一文は、令和6年度に初めて加わりました。経産省は2024年7月23日の健康投資ワーキンググループで、配点の見直し方針を示しました。「プロセスの多寡ではなく、アウトプット指標側への配点を高める」方針を掲げ、その対象として従業員への健康教育を挙げています。そのねらいは「選択肢の多くを網羅する取組方法ではなく、成果や結果に結びつきやすい方法を、自社の状況に応じて検討すべき」という趣旨を企業に伝えることでした12。現在の調査票では、健康教育の内容に関する設問に続けて、特に重視する教育の対象者と参加者の比率を尋ねています。参加者の比率を把握していなければ、不適合と判定されます1。

同日に示された令和6年度の素案では、健康教育の内容を尋ねる設問にまだこの一文が入っていません13。この一文はその後に公表された確定版で加えられています11。この一文の理由を直接書いた資料は見つかりませんが、配点方針の見直しとこの一文は同じ改訂で示されており、内容も合っています。素案から確定版に至るまでに何が話し合われたかを示す公開資料は、確認されていません。調査票がどこで決まるのかは、次の節で見ていきます。

経緯から言えるのは、この一文を外せば2024年の方針を巻き戻すことになるという点です。外せば、経産省が2024年に避けた「選択肢の多くを網羅する」取組を評価する方向へ戻り、その影響は歯科だけでなく15のテーマ全部に及びます。そのため、本記事では一文を外すことは提案しません。

6. 調査票は公開の検討会と、議論が公表されていない委員会で決まり、予算は設問ごとには付かない

調査票の方向は公開の会議で示され、細部は認定事務局の委員会で決まります。公開の会議での発言は調査票に反映されることがあり、予算は設問ごとには付きません。

調査票は、認定事務局が案を作り、基準検討委員会の審議を経て決まる

調査票を作成しているのは、経産省の補助事業者である健康経営優良法人認定事務局です。2024年の公募要領によると、事務局が健康投資ワーキンググループなどの検討を踏まえて案を作成し、経産省と協議したうえで、有識者会議である健康経営基準検討委員会の審議を経て決定します14。ワーキンググループを引き継いだ健康経営推進検討会は、議事・資料・議事要旨を原則として公表しています15。基準検討委員会については、経産省の委託調査報告書に開催日と「個別項目の改定」などの議題名が載っているだけです16。議論の中身を示す資料は経産省と認定事務局のウェブサイトを確認した範囲では見当たりませんでした。

公開の場での提案と、同じ時期に確定版へ加わった項目がある

2024年7月の健康投資ワーキンググループで、委員の1人が専門職の選択肢に歯科衛生士を入れるよう提案しました17。同じ日の素案には、専門職の選択肢に歯科衛生士の記載がなく、確定版で加わりました11,13。提案と追加の因果関係は資料に書かれていませんが、時期は一致しています。

歯科健診の設問は、再構成の検討が示されたが、結果を示す公開資料は見つかっていない

認定事務局は2025年3月の検討会で、令和7年度の改訂に向けて、がん検診や歯科健診の設問を回答しやすいように「設問の再構成の要否を検討」すると示しました18。しかし、実際の令和7・8年度の調査票でも、歯科検診は任意健診の該当項目にある選択肢の1つのままです1,11。検討結果を示す公開資料は見当たりませんでした。

歯と口の健康を含む教育内容の設問は、削除候補に含まれる種類にあたる

令和8年度の改訂方針は回答負担の軽減を掲げ、大規模法人部門で「評価に使用していない設問などの削除」を挙げました19。歯と口の健康を含む健康教育の内容を尋ねる設問は今回は残ったものの、削除の対象になり得る種類の設問です。

予算が設問ごとに付くという記述は見当たらない

制度の運営は2022年度から公募による補助事業になっています15。2024年度の公募は補助率2分の1、補助上限額1億円でした14。国の補助金は事務局の運営や普及の企画といった事業全体に充てられており、設問1つを評価に加えることと予算を結びつける記述は、公募要領や検討会資料には見当たりません14,15。確認した範囲で妨げになり得るのは、予算よりも2024年の採点方針や回答負担を減らす方針です。

7. 経産省への提言:「評価に使用しません」の一文は外さず、歯科健診を独立設問にして受けた割合で測る

2024年の採点方針に沿うなら、歯科健診を受けた割合を測る独立設問を作るのが自然な進め方です。その手前の一歩は既に始まった検討の結果を公表することです。

第1段は検討結果を公表し、取組分類に歯と口の健康を加える

第1段として、経産省は令和7年度の改訂で認定事務局が掲げた、歯科健診の設問を再構成するかどうかの検討結果を健康経営推進検討会で公表します。あわせてテーマ別ベストプラクティス選定へのエントリーで尋ねる取組分類に「歯と口の健康」を加えることを提案します1,19。現在の分類は女性の健康、両立支援、高年齢従業員、睡眠、その他の5つです。配点はありません。歯と口の健康を含む健康教育の内容を尋ねる設問を削除の対象から外すことも、この段階で判断できます。どれも点数の付け方を変えずに実行できます。

第2段は歯科検診を独立設問にし、受診割合で測る

第2段では、経産省が任意健診・検診の設問で組み込みや費用補助の対象項目として選ぶ「歯科検診」を、独立した施策設問へ昇格させます。費用補助を含めた取組の有無を尋ねるだけでは、企業がどのような歯科健診を支援しているのかまでは把握できません。独立した設問になれば、実施や費用補助、受診勧奨などを分けて把握できます。回答の負担を減らす方針が掲げられた年にも、睡眠の設問は新設されました19。評価に使うなら、2024年の方針に合わせて、歯科健診を受けた従業員の割合のような、結果の指標で測ります。

後期高齢者支援金の加算・減算制度も、第4期でアウトカムとアウトプットの定量指標に基づく評価を増やしたと、令和8年版厚生労働白書は説明しています2。3節で触れた8点は保険者が実施する取組への配点であり、ここで取り上げているのは事業主側の取組です。同じ「歯科健診」という言葉を使っていても、どちらも測る項目や対象年齢までは定めていません。

認定要件への追加は、独立設問の回答を見て判断する

睡眠の前例を見ても、独立した設問にすることと認定要件にすることは別の段階でした。認定要件の評価項目(①〜⑰)への追加は、独立した設問で集まった回答を見てから判断できます。独立設問で集まった回答を見てから認定要件を判断する順序にすることが、睡眠の前例にも2024年の採点方針にも沿います。

8. 歯科の側への提言:検討会・自主ガイドライン・厚生労働省の3つの入口から根拠を届ける

経産省の判断へ歯科の視点を届ける入口は、検討会、自主ガイドライン、厚生労働省の3つです。

第1の入口は健康経営推進検討会で、名簿の所属と肩書きに歯科の団体は並んでいない

委員15名の名簿の所属と肩書きに歯科の団体は並んでおらず、日本医師会からは副会長が委員に入っています20。歯科の団体が経産省に対して委員構成に歯科を加えるよう求め、それが実現すれば、調査票を議論する場に歯科の視点を届けられます。検討会の議事要旨は原則として公開されるため、歯科健診の設問の検討結果を公表するよう求める発言を記録に残すことも可能です15。

第2の入口は業界自主ガイドラインで、歯科・口腔の団体のものは見つかっていない

経産省の「ヘルスケアサービスガイドライン等のあり方」は、業界団体が自主ガイドラインを策定し、自己宣言する枠組みを示しています21。睡眠に関わる2団体はこの経路を通じて自主ガイドラインを公表しました8,21。歯科・口腔の団体による自主ガイドラインは、この「あり方」と検討会第6回資料2を確かめた範囲では見つかりませんでした8,21。歯科・口腔の団体がこの枠組みで自主ガイドラインを公表すれば、睡眠を動かした根拠の1つを歯科の側も持てます。

第3の入口は厚生労働省で、保険課が支援金の加算・減算制度を所管している

検討会第6回の委員等名簿には関係省庁として厚生労働省の保険局保険課、健康・生活衛生局健康課、労働基準局安全衛生部労働衛生課の3課が並んでいます20。保険課は支援金の加算・減算制度を所管しており、第3節で触れた歯科健診・受診勧奨の配点に直結します7。歯科の団体や保険者は、伝えたい制度の所管に応じて、3課の中から窓口にする課を選ぶことが可能です。

保険者の側に、持ち込める前例がある

協会けんぽの大都市圏にある9支部を調べた範囲では、健康宣言事業の中で歯科に言及していたのは4支部でした。その取組は、無料歯科健診を案内する方法(千葉・北海道)と、宣言の項目や助言の対象に置く方法(東京・福岡)とに分かれます。東京支部は健康企業宣言STEP1の選択7項目の1つに「歯・口腔」を置いています22,23,24,25。全47支部に共通する制度ではありません。ただ、個別の健康保険組合にも、東京都電機健康保険組合のように歯科健診の案内ページを単独で設けている例があります26。

9. 生産性向上の効果を約束しなくても、評価の対象にすれば取組の中身が見えてくる

生産性の効果を示す国内の根拠は確認した範囲で見つかりませんが、評価の対象にすれば、企業の歯科の取組を確かめる材料は増えます。

生産性への効果を示す国内の根拠は見つかっていない

歯科疾患による労働損失を国内で金額に換算した推計も、職域での口腔保健介入によって生産性が向上したとする国内の研究も、確認した資料の範囲では見つかりません。そのため本記事では、生産性への効果を約束することはしません。

働き方と歯の状態の関連を調べた国内の研究はある

働き方と歯の状態との関連を調べた国内の研究はあります。日本の金融業で働く男性労働者951人(25〜64歳)を対象にした横断研究です。残業が月45時間超〜80時間以下の群は、残業のない群と比べて、未処置う蝕のオッズ比が2.56(95%信頼区間 1.23〜5.33)でした27。オッズ比とは、比べた群で未処置う蝕のある人の割合がどれだけ偏るかを示す指標で、95%信頼区間はその値の見込み幅を表します。歯の状態が仕事に影響しているのか、それとも忙しさが受診を妨げているのかは、一時点の調査だけでは切り分けられません。関連があり得ることと、介入によって効果が出ることは別の話です。

評価の対象に加えれば、取組の中身を確かめる材料が増える

生産性への効果は示せなくても、評価の対象に加えれば、取組の実施状況を確かめる材料は増えます。企業がどれだけ重視し、どのように実施し、受診をどう勧めているか(就業時間内に受診できるかを含む)が、いまより分かりやすくなります。

歯と口の健康が点数にならない理由と、最初の一歩

歯と口の健康が健康経営の点数にならないのは、それを名指しする唯一の設問が、2024年からテーマを問わず評価に使わない設問になり、食生活や運動のような専用の設問が歯科には無いからです。歯科の団体ができることは、検討会・自主ガイドライン・厚生労働省の3つの入口から、その判断に必要な視点と根拠を届けることです。企業の健康管理担当者や保険者は、いまの取組を調査票や健康宣言に記録し続けることで、判断材料を増やせます。一文を外すのではなく、歯科のための設問を1つ設けることから始めれば、効果を先に約束せずに、企業がいま行っている歯科の取組を制度の中で数えられます。

関連記事

参考文献

  1. 経済産業省「健康経営度調査票サンプル(令和8年度・大規模法人部門)」全69頁(健康経営度調査・情報開示認証事業ポータルの申請関連資料。「歯」の出現は35頁のQ25(c)、40頁のQ34 SQ1、41頁のQ38 SQ1の3か所で、「◆当設問は評価に使用しません」はQ38 SQ1に付く。「口腔」の出現は0件。睡眠のQ55は50頁。認定申請料は9頁、食生活Q53・運動Q54の「■」は10頁の設問一覧、Q38のSQ2は41頁、テーマ別ベストプラクティスのQ77は66頁)
  2. 厚生労働省「令和8年版厚生労働白書」(令和8年9月29日公表。第2部 304頁・341頁)
  3. 経済産業省「健康経営度調査結果集計データ(平成26年度〜令和7年度)」(同ページ掲載のEXCEL)
  4. 経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」(2020年6月) [PDF]
  5. 経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課「これからの健康経営について」(2025年4月、全127頁。表紙の表示は「2025年4月」で、掲載ファイル名の `251017` は資料自身が示す日付ではありません。経産省「健康経営」ページの「これからの健康経営について」に掲載)
  6. 経済産業省 商務・サービスグループ「新しい健康社会の実現」産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 第20回 資料4(2024年2月20日。目標は印字頁の1頁、市場規模の内訳は7頁)
  7. 厚生労働省保険局保険課「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度について(2027〜2029年度)」(同ページの「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度【概要】(2027年度以降)」、16頁)
  8. 経済産業省 健康経営推進検討会 第6回 資料2「今年度施策及び調査等の方向性について」(2026年7月14日)
  9. 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」(2026年7月21日閣議決定)
  10. 経済産業省 健康経営推進検討会 第4回 資料2「今後の健康経営の推進について」(2025年12月16日。「(参考)高市政権の『攻めの予防医療』について」はPDF7頁)
  11. 経済産業省「健康経営度調査票サンプル」令和3〜7年度・大規模法人部門([1]と同じ申請関連資料ページの「過去の調査票サンプル」。「歯と口の健康」の初出は令和3年度。Q38 SQ1にあたる設問の「◆当設問は評価に使用しません」は令和6年度36頁が初出。令和6年度31頁の専門職の選択肢に「歯科衛生士」)
  12. 経済産業省 健康・医療新産業協議会 第12回 健康投資ワーキンググループ 資料2「事務局説明資料(今年度施策及び調査等の方向性について)」(2024年7月23日。配点バランスの修正方針は印字19頁、アウトプット指標のみへの配点案は印字21頁)
  13. 経済産業省 健康・医療新産業協議会 第12回 健康投資ワーキンググループ 参考資料2「令和6年度健康経営度調査票(素案)」(2024年7月23日。専門職の選択肢は22頁、健康教育の内容は27頁)
  14. 経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課「令和6年度『健康経営制度運営事業』に係る補助事業者の公募について」公募要領(2024年2月14日。調査票の策定と健康経営基準検討委員会は3頁、補助率と補助上限額は7頁)
  15. 経済産業省 健康経営推進検討会 第1回 資料2「健康経営推進検討会について」(2024年12月19日)
  16. 株式会社日本総合研究所「令和5年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業(需給環境整備等事業)報告書」(経済産業省委託調査報告書。健康経営基準検討委員会の開催日と議題は8頁) [PDF]
  17. 経済産業省 健康・医療新産業協議会 第12回 健康投資ワーキンググループ「議事要旨」(2024年7月23日)
  18. 健康経営優良法人認定事務局(日本経済新聞社)「健康経営優良法人認定事務局としての中長期事業計画骨子及び令和7年度健康経営優良法人認定事務局事業計画」経済産業省 健康経営推進検討会 第2回 参考資料1-2(2025年3月18日。令和7年度の改訂検討ポイントは26頁)
  19. 健康経営優良法人認定事務局(日本経済新聞社)「令和8年度健康経営優良法人認定事務局の活動及び申請認定に関するご報告」経済産業省 健康経営推進検討会 第6回 参考資料1-1(2026年7月14日。改訂方針は4頁、睡眠の設問新設は6頁・19頁)
  20. 経済産業省 健康経営推進検討会 第6回 資料1「委員等名簿」(2026年7月14日)
  21. 経済産業省「ヘルスケアサービスガイドライン等のあり方」(2025年3月31日改訂)
  22. 全国健康保険協会千葉支部「『健康な職場づくり宣言』実施後の特典(歯科口腔健康診査)」
  23. 全国健康保険協会北海道支部「健康事業所宣言」無料歯科健診
  24. 全国健康保険協会東京支部「4.健康優良企業認定について|健康づくり|東京支部」(STEP1の選択7項目に「歯・口腔」)
  25. 全国健康保険協会福岡支部・福岡県保健医療介護部健康増進課「健康づくり実践アドバイザー」派遣申込書(健康づくり団体・事業所宣言登録の内容⑦その他「メンタルヘルス、歯科衛生等」)
  26. 東京都電機健康保険組合「歯科健診」
  27. Yoshino K, Suzuki S, Ishizuka Y, et al.「Relationship between amount of overtime work and untreated decayed teeth in male financial workers in Japan」Journal of Occupational Health 2017;59(3):280-285. doi:10.1539/joh.16-0247-OA(PMID: 28367874)


執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。


かわせみデンタルクリニック|船橋の歯医者・矯正歯科

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