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歯周病原菌が乳がん細胞の中に入り込んでいる —— 歯周病と乳がん、女性ホルモンの関係性

乳がんと歯周病には「関連がある可能性」が指摘されています。歯周病菌が乳がんのしこりの中から見つかるという研究結果も発表されました。しかし、「歯周病になると必ず乳がんになる」という因果関係が証明されているわけではありません。

目次

  1. はじめに:なぜ「お口」と「乳がん」が結びつくのか?
  2. 歯周病とはどんな病気?
  3. 乳がんとはどんな病気?
  4. 歯周病と乳がんの「関連」を示す研究
  5. 新しい研究:歯周病菌が乳がん細胞の中に入り込む?
  6. エストロゲン(女性ホルモン)から見る「歯ぐき」と「乳房」の共通点
  7. なぜはっきりした因果関係と言い切れないのか
  8. 日常生活でできる予防策:口腔ケアでできること
  9. 乳がん治療中・治療後の方へ:歯科受診のポイント
  10. まとめ:お口の健康は「全身の健康」の一部

1. はじめに:なぜ「お口」と「乳がん」が結びつくのか?

近年、「歯周病が乳がんのリスクを高めるかもしれない」という研究結果が世界的に増えてきています。
背景には、歯周病が単なる「歯ぐきの病気」ではなく、全身の慢性的な炎症や細菌の血流への侵入を通じて、体のさまざまな部位に影響を及ぼしうることがわかってきたことがあります。

2. 歯周病とはどんな病気?

歯周病は、歯垢(プラーク)中の細菌によって歯ぐきや歯を支える骨に炎症が起こり、進行すると歯を支える骨が溶けてしまう病気です。
軽い段階では歯ぐきの腫れや出血だけですが、進行すると歯のぐらつき、最終的には歯を失う原因になります。

歯周病の原因となる代表的な細菌として、Porphyromonas gingivalis や Fusobacterium nucleatum などが知られています。

3. 乳がんとはどんな病気?

乳がんは、乳房の乳腺細胞ががん化し、増殖することでできる悪性腫瘍です。
女性に最も多いがんの一つで、日本でも罹患率が高く、早期発見と予防が重要視されています。

発症には、年齢、家族歴、エストロゲン(女性ホルモン)の影響、生活習慣(喫煙・飲酒・肥満など)が関係するとされています。

4. 歯周病と乳がんの「関連」を示す研究

4-1. 観察研究・コホート研究

アメリカの閉経後女性約7万3千人を対象とした大規模研究では、「過去に歯周病がある」と自己申告した女性は、そうでない女性に比べ、乳がんの発症リスクが約14%高かったと報告されています(ハザード比1.14)。
同じ研究では、特に「過去20年以内に喫煙していた元喫煙者」でリスク増加が大きい(ハザード比1.36)ことも示されています。

4-2. メタ解析(複数研究をまとめた解析)

11本の研究をまとめたメタ解析では、歯周病がある女性は、ない女性に比べて乳がんのリスクが約1.22倍(相対リスク1.22、95%信頼区間1.06–1.40)に増加していたと報告されています。
この解析では、歯周治療を受けている人ではリスク増加が統計的に有意ではなかった(1.23倍だが信頼区間に1を含む)という結果も示されており、「歯周病を治療・管理すること」が悪影響を減らす可能性があると解釈されています。

4-3. すべての研究で一致しているわけではない

一部の研究では、「歯周病と乳がんの関連は認められなかった」と報告されているものもあります
また、別の大規模前向き研究では、侵襲性乳がんと歯周病に弱い関連が示された一方で、乳管内がん(DCIS)ではむしろリスクが低かったという複雑な結果も報告されています。

5. 新しい研究:歯周病菌が乳がん細胞の中に入り込む

2026年に報告された新しい研究では、研究グループが乳がん患者さんの腫瘍組織を詳しく調べたところ、良性のしこりだけでなく、悪性の乳がんのしこりの中からも、歯周病で知られる口の細菌「F. nucleatum(フゾバクテリウム・ヌクレアタム)」が見つかりました

この細菌は、乳がん細胞の増殖や転移(体の他の場所への広がり)を促進する性質をもつ「プロ発がん性」の口腔細菌として位置づけられています。

動物実験では、この口腔細菌に感染したマウスの乳がんがより速く成長し、他の臓器への転移も増えたという報告があります。
まだヒトでの直接的な因果関係を証明する段階ではありませんが、「口の中の細菌が血流やリンパを通じて乳腺に達し、がんの性質に影響する可能性」が具体的に示されつつあります。

6. エストロゲン(女性ホルモン)から見る「歯ぐき」と「乳房」の共通点

エストロゲンは、乳房の発育や乳がんの発症・進行に深く関わるホルモンですが、実は歯ぐきや歯周組織にも大きな影響を与えています。
歯ぐきの線維芽細胞や骨芽細胞、免疫細胞にはエストロゲン受容体が存在し、エストロゲンは炎症性サイトカインを抑え、コラーゲン産生や骨の代謝バランスを整えることで、歯周組織の健康維持に関わっています。

一方で、更年期などでエストロゲンが低下すると、炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α、IL-6など)が増え、骨吸収を促進することで歯周病が進行しやすくなると考えられています。
同じくエストロゲンの不均衡は乳がんの発症リスクにも関与しているため、「ホルモンバランスの乱れ」が共通の背景として、歯周病と乳がんの両方のリスクを高める可能性が指摘されています。

7. なぜはっきりした因果関係と言い切れないのか

歯周病と乳がんに「関連がある」という研究結果は複数出ていますが、「歯周病が乳がんを直接引き起こす」とまでは断定できません。
その理由として、以下の点が挙げられます。

  • 歯周病と乳がんの両方に共通するリスク要因(喫煙・肥満・飲酒・低い社会経済状況など)が多く、これらを完全に取り除いて解析することが難しい。
  • 多くの研究が「観察研究」であり、因果関係ではなく「一緒に起こりやすい」ことしか示せない。
  • 歯周病の診断方法(自己申告か、歯周検査によるか)や乳がんのタイプ、年齢構成などが研究ごとに異なり、結果がばらつく原因となっている。

したがって、現時点では「歯周病は乳がんのリスクをやや高めている可能性が高いが、どの程度か・どのタイプの乳がんに強く関係するかは、まだ研究途中」と考えるのが妥当です。

8. 日常生活でできる予防策:口腔ケアでできること

歯周病が乳がんの「一因」かどうかはまだ決着していませんが、少なくとも以下の点は多くの研究が一致して示しています。

  • 歯周病は、心血管疾患、糖尿病、早産、その他のがんなど、全身のさまざまな病気と関連している。
  • 歯周病の治療や定期的な歯科受診により、口腔内の炎症や細菌負荷を減らすことができる。

したがって、「お口の健康を守ること」は、乳がんを含めた全身の健康リスクを減らすうえで意味のある生活習慣と言えます。

具体的には、次のような対策がおすすめです。

  • 毎日のていねいな歯みがき(フロスや歯間ブラシの併用)
  • 3〜6か月ごとの定期歯科検診とプロフェッショナルクリーニング
  • 喫煙している方は禁煙を検討する(歯周病・乳がんともにリスク増加因子)
  • バランスのとれた食事と適度な運動で、肥満や糖尿病を予防・改善する

9. 乳がん治療中・治療後の方へ:歯科受診のポイント

乳がんの治療(手術・放射線・ホルモン療法・化学療法・分子標的薬など)は、免疫低下や口内炎、ドライマウス、顎骨壊死リスク(特にビスホスホネート製剤など)を通じて、お口の状態にも大きな影響を与えることがあります。
そのため、多くのガイドラインでは「がん治療開始前に歯科検診を受け、可能な治療は先に済ませておくこと」が推奨されています。

乳がん治療中・治療後の歯科受診で意識したいポイントは次のとおりです。

  • 主治医(腫瘍内科・外科など)に歯科治療の予定を共有し、血液データや投与薬剤(特に骨関連薬剤)の情報を歯科医師にも伝える
  • 感染リスクの高い抜歯や外科処置は、可能であれば全身状態が安定している時期に計画的に行う
  • 日常的な歯周ケアや定期的なメンテナンスで、口腔内の炎症をできるだけ抑えておく

こうした対応は、「歯周病による全身炎症の軽減」という観点からも、乳がん治療のサポートになると考えられます。

10. まとめ:お口の健康は「全身の健康」の一部

  • 歯周病と乳がんの間には、「歯周病があると乳がんのリスクがやや高まる」という関連を示す研究が複数ありますが、因果関係はまだ最終的には証明されていません。
  • 口腔細菌が乳がん細胞の中に入り込み、がんの増殖や転移を促進しうるという新しいメカニズムも報告されており、今後の研究の進展が期待されています。
  • エストロゲンなどのホルモンバランス、喫煙や肥満といった生活習慣が、歯周病と乳がんの両方に関係していることから、「お口のケア」は全身の健康管理の一部としてますます重要になっています。

「乳がんが心配だから歯科に行く」というよりも、「将来の自分の体全体のために、お口の環境を整えておく」というイメージで、ぜひ定期的な歯科検診と日々のセルフケアを続けてください。

ご自身やご家族の歯ぐきの状態、歯周病が気になる方は、ぜひ一度、当院までご相談ください。

参考文献

  1. The Relationship Between Periodontal Disease and Breast Cancer (2023)
    歯周疾患と乳がんの関連性
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11619839/
  2. Periodontitis as a Risk Factor for Breast Cancer (2022)
    乳がんリスク因子としての歯周炎に関するレビュー
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8858263/
  3. Periodontal Disease and Breast Cancer: A Meta-Analysis of 11 Studies (2018)
    歯周病と乳がんの関連に関する11研究のメタ解析
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6299876/
  4. Periodontal Disease and Breast Cancer: Prospective Cohort Study of Postmenopausal Women (2016)
    閉経後女性を対象とした歯周病と乳がんの前向きコホート研究
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26689418/
    https://aacrjournals.org/cebp/article/25/1/43/157041/Periodontal-Disease-and-Breast-Cancer-Prospective
  5. A pro-carcinogenic oral microbe internalized by breast cancer cells promotes mammary tumorigenesis | Cell Communication and Signaling (2026)
    乳がん細胞に取り込まれる発がん性口腔細菌と腫瘍進展に関する研究
    https://link.springer.com/article/10.1186/s12964-025-02635-9
  6. The impact of estrogen on periodontal tissue integrity and homeostasis (2025)
    エストロゲンが歯周組織の恒常性に与える影響
    https://www.frontiersin.org/journals/dental-medicine/articles/10.3389/fdmed.2025.1455755/full
  7. Relationship between periodontal disease and breast cancer (2025)
    歯周病と乳がんの関連に関する解説記事(一般向け要約)
    https://periodoncista.mx/en/periodontics/relationship-between-periodontal-disease-and-breast-cancer/
  8. Breast Cancer, Poor Oral Health, and Chronic Gum Inflammation: Recognizing the Connections (2024)
    乳がんと口腔衛生・慢性歯肉炎症の関連に関する解説
    https://www.aaosh.org/connect/breast-cancer-poor-oral-health-and-chronic-gum-inflammation-recognizing-the-connections
  9. From Gum Disease to Breast Cancer: An Oral Bacterium’s Role in Tumor Growth and Metastasis (2026)
    歯周病菌と乳がんの進行・転移の関連に関する研究紹介
    https://www.promegaconnections.com/gum-disease-and-breast-cancer/

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