コラム|船橋の歯医者・矯正歯科|かわせみデンタルクリニック

初診のみ
WEB予約
電話予約
初診のみ
WEB予約

コラム

コラムCOLUMN

歯科医師はどんな治療をいくらで行っているのか —— 保険診療の「時間と報酬」の深刻な乖離

目次

  1. はじめに――「削って詰めて180円」の衝撃
  2. そもそも保険診療の点数とは?
  3. 治療ごとに「何分かかって、いくらもらえるか」を見てみると
  4. 「人件費すら出ない」とはどういうことか
  5. 滅菌・感染対策コストという見えない負担
  6. 長年変わっていない点数――昭和の値段が今も続く
  7. 保険で「端折る」しかない――診療時間短縮という現実
  8. 歯科医院の経営実態――法人立の3割超が赤字
  9. おわりに――患者が知っておくべきこと
  10. 参考文献

1. はじめに――「削って詰めて180円」の衝撃

「歯医者に行って虫歯を削って詰めてもらったのに、支払いが数百円だった」――そんな経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。患者の窓口負担が安いのは、日本の健康保険が治療費の7割(または8〜9割)をカバーしているからです。

しかし、その保険診療の「公定価格(診療報酬点数)」が、実際に治療にかかる時間・材料費・人件費をまったく反映していない水準に据え置かれているとしたら、どうなるでしょうか。

2011年に発表された論考「削って詰めて180円――ありえない診療報酬と保険でできない歯科治療」(月刊保団連、田辺隆)は、その実態を端的に示しています。虫歯を削る「う蝕処置」の保険点数は当時18点(180円)。歯の神経の管に薬を入れる「根管貼薬処置」は単根管でわずか20点(200円)でした。

本記事では、歯科医師が「何の治療を何分かけて、いくらもらっているのか」「何をするといくら赤字になるのか」を、日本歯科医学会の公式調査データをもとに、一般の方にもわかりやすく、具体的な数字でお伝えします。

2. そもそも保険診療の点数とは?

日本では、健康保険が使える「保険診療」の価格は国が一律に定めています。この価格の単位が「点数」で、1点=10円です。

  • 例:初診料が267点 → 治療費の総額は2,670円
  • 患者さんは原則3割負担なので、窓口では約800円を支払う
  • 残りの7割(約1,870円)は保険から支払われる

この診療報酬は原則2年に1度改定されます。2024年(令和6年)改定を経て、2026年(令和8年・6月施行)の点数表では、歯科初診料は272点(歯科外来診療感染防止対策の施設基準届出あり)・245点(届出なし)、歯科再診料は59点(届出あり)・45点(届出なし)となっています。

一方で、この記事で紹介する各治療の「かかる時間と費用」の実態データは、日本歯科医学会が2017年6月に公表した「歯科診療行為のタイムスタディー調査 2016年度版」に基づいています。この調査は全国の歯科診療所215施設・歯科大学附属病院30施設が参加し、2017年1〜2月に実際の診療で各処置に要した時間を1分単位で計測したものです。

3. 治療ごとに「何分かかって、いくらもらえるか」を見てみると

以下では、日本歯科医学会のタイムスタディー調査「参考」セクション(p.99〜109)に掲載されている「代表的な一連の歯科医療行為の総所要時間と保険診療報酬評価」のデータをそのまま使用して、治療ごとの実態を解説します。

各数値の意味は次のとおりです。

  • 総所要時間麻酔・処置・術後説明・診療録記載など、その治療に関わるすべての行為を合計した実測値(分)
  • 保険請求額:保険から実際に支払われる金額(点数×10円)
  • 総人件費:歯科医師の経験年数・技術難度に応じた単位時間人件費を積算した、その治療にかかる人件費の合計(円)
  • ※アシスタント(歯科衛生士・助手)の人件費は含まれていない
  • ※材料費・設備費・滅菌コスト等も含まれていない
  • 収支差額:保険請求額から総人件費を引いた金額(マイナスは赤字)

全治療の比較一覧

まず28種類の保険診療を一覧で見てみましょう。在宅歯科診療を除く全項目で、歯科医師の人件費すら保険収入で賄えていません。

治療の内容総所要時間保険請求額人件費
(歯科医師のみ)
収支差額
単純CR充填(虫歯の詰め物・簡単)51.9分2,280円5,785円▲3,505円
複雑CR充填(虫歯の詰め物・複雑)61.1分2,800円8,542円▲5,742円
直接歯髄保護(深い虫歯への薬置き)33.5分1,660円3,910円▲2,250円
麻酔抜髄1根(神経を抜く)67.7分2,740円8,256円▲5,516円
感染根管処置1根(感染した神経の治療)60.4分1,900円8,017円▲6,117円
根管充填1根(根管の封鎖)28.7分2,740円3,689円▲949円
根管充填3根(奥歯の根管封鎖)35.6分3,100円7,684円▲4,584円
FMC除去(被せ物を外す)16.7分320円1,993円▲1,673円
FMC+コア除去(被せ物と土台を外す)30.6分540円6,121円▲5,581円
SRP大臼歯2本・小臼歯2本(歯石除去)43.4分2,720円7,430円▲4,710円
フラップ手術・小臼歯(歯周外科)40.8分6,300円11,533円▲5,233円
歯周病安定期治療20歯以上+歯管44.3分4,600円6,215円▲1,615円
総入れ歯の型取り(最終印象)92.9分3,600円18,635円▲15,035円
総入れ歯の咬合採得90.7分3,600円11,064円▲7,464円
仮床試適(入れ歯の試し合わせ)29.8分1,900円3,999円▲2,099円
入れ歯の装着・調整36.1分4,600円5,045円▲445円
生活歯の歯冠形成56.1分3,250円6,886円▲3,636円
CAD/CAM冠形成(小臼歯の削り出し)59.7分3,430円7,457円▲4,027円
単冠の型取り+咬合採得56.8分780円5,982円▲5,202円
クラウン装着(被せ物を入れる)32.2分450円3,741円▲3,291円
臼歯部ブリッジの型取り(個人トレー)106.8分4,540円13,408円▲8,868円
臼歯抜歯33.1分2,600円5,580円▲2,980円
難抜歯(切開・骨削除)46.5分4,700円8,997円▲4,297円
埋伏歯抜歯(下顎水平埋伏智歯)51.5分11,500円15,260円▲3,760円
マウスピース(床副子)の型取り46.6分400円5,171円▲4,771円
笑気吸入鎮静法50.9分700円7,531円▲6,831円
訪問歯科診療+義歯調整82.4分9,660円8,067円+1,593円
摂食機能訓練(嚥下リハビリ)39.7分1,850円13,973円▲12,123円

※出典:日本歯科医学会「歯科診療行為のタイムスタディー調査 2016年度版」参考データ(p.99〜109)
※人件費は歯科医師の経験年数・技術難度に応じた国家公務員医療職俸給表(平成28年度)に基づく算定。アシスタントの人件費・材料費・設備費・滅菌コスト等は含まない。

保存修復(虫歯を削って詰める)

「虫歯を削って、プラスチックの詰め物(コンポジットレジン)で埋める」というのは最もよく行われる歯科治療のひとつです。

単純な1面の詰め物(単純CR充填)

項目数値
総所要時間51.9分
保険請求額2,280円
総人件費(歯科医師のみ)5,785円
収支差額(人件費のみ)▲3,505円の赤字

51分以上かけて行う治療で、保険から得られる収入は2,280円。一方、歯科医師の人件費だけで5,785円がかかります。アシスタントの人件費・材料費・滅菌コストを加えると、実際の赤字幅はさらに大きくなります。

隣の歯との間の複雑な詰め物(複雑CR充填)

項目数値
総所要時間61.1分
保険請求額2,800円
総人件費(歯科医師のみ)8,542円
収支差額(人件費のみ)▲5,742円の赤字

より難しい充填では1時間を超えても、保険請求額は2,800円にとどまります。

歯内治療(神経の治療)

歯の根の中の管(根管)を処置する「神経の治療」は、歯科の中でも特に時間と技術を要する治療です。

神経を抜く(麻酔抜髄・1根管)

項目数値
総所要時間67.7分
保険請求額2,740円
総人件費(歯科医師のみ)8,256円
収支差額(人件費のみ)▲5,516円の赤字

神経を抜く処置(抜髄)1回で1時間以上を要しますが、保険請求は2,740円です。

すでに感染した根管を処置する(感染根管処置・1根管)

項目数値
総所要時間60.4分
保険請求額1,900円
総人件費(歯科医師のみ)8,017円
収支差額(人件費のみ)▲6,117円の赤字

感染した根管の処置(感染根管処置)は、保険請求額が抜髄より少ない1,900円なのに、所要時間・人件費はほぼ変わらず、赤字幅がさらに大きくなります。

根管充填(神経を抜いた後に根を封鎖する・1根管)

項目数値
総所要時間28.7分
保険請求額2,740円
総人件費(歯科医師のみ)3,689円
収支差額(人件費のみ)▲949円の赤字

根管充填(3根管・奥歯など)

項目数値
総所要時間35.6分
保険請求額3,100円
総人件費(歯科医師のみ)7,684円
収支差額(人件費のみ)▲4,584円の赤字

奥歯では根管が3〜4本あります。3根管の充填では35分を超える処置でも保険請求は3,100円、人件費との差額は約4,600円の赤字です。

被せ物を外す(クラウン除去+コア除去)

項目数値
総所要時間30.6分
保険請求額540円
総人件費(歯科医師のみ)6,121円
収支差額(人件費のみ)▲5,581円の赤字

かぶせ物の下に金属の土台(コア)がある場合、それを除去するだけで30分かかり、人件費が6,121円発生します。しかし保険からの収入はわずか540円。赤字率は91%です。

歯周治療(歯茎の治療)

歯石除去(SRP:スケーリング・ルートプレーニング)

大臼歯2本・小臼歯2本を一度に処置する場合

項目数値
総所要時間43.4分
保険請求額2,720円
総人件費(歯科医師のみ)7,430円
収支差額(人件費のみ)▲4,710円の赤字

歯周外科(フラップ手術・小臼歯1歯)

項目数値
総所要時間40.8分
保険請求額6,300円
総人件費(歯科医師のみ)11,533円
収支差額(人件費のみ)▲5,233円の赤字

歯茎を切開して歯石を除去する外科手術(フラップ手術)でさえ、6,300円の保険収入に対し、人件費だけで11,533円がかかります。

歯周病安定期治療(20歯以上)+歯科疾患管理料

項目数値
総所要時間44.3分
保険請求額4,600円
総人件費(歯科医師のみ)6,215円
収支差額(人件費のみ)▲1,615円の赤字

義歯治療(入れ歯)

入れ歯(義歯)の作製は複数回の来院が必要で、各ステップに膨大な時間がかかります。

総入れ歯の型取り(最終印象+補綴時診断)

項目数値
総所要時間92.9分
保険請求額3,600円
総人件費(歯科医師のみ)18,635円
収支差額(人件費のみ)▲15,035円の赤字

1回の来院で約93分、つまり1時間半以上かかります。個人トレーの製作(23.7分)・最終印象(27.1分)・模型製作(16.9分)・咬合関係の確認(6.7分)などを合わせると、人件費は18,635円にのぼります。しかし保険収入は3,600円のみ。

総入れ歯の咬合採得

項目数値
総所要時間90.7分
保険請求額3,600円
総人件費(歯科医師のみ)11,064円
収支差額(人件費のみ)▲7,464円の赤字

これも90分を超える治療で、保険請求は3,600円にとどまります。

完成入れ歯の装着・調整

項目数値
総所要時間36.1分
保険請求額4,600円
総人件費(歯科医師のみ)5,045円
収支差額(人件費のみ)▲445円の赤字

入れ歯作製の各工程を合計すると、1つの入れ歯を完成させるまでに計5〜6回の来院が必要で、その合計所要時間は優に4〜5時間を超えます。

クラウン・ブリッジ治療(被せ物・橋の治療)

被せ物のための歯の削り出し(生活歯の歯冠形成・全部金属冠)

項目数値
総所要時間56.1分
保険請求額3,250円
総人件費(歯科医師のみ)6,886円
収支差額(人件費のみ)▲3,636円の赤字

神経のある歯に被せ物(クラウン)を作るための歯の削り出し(形成)だけで56分かかり、そのあとに型取り・技工・装着と工程が続きます。

型取り(単冠印象採得+咬合採得)

項目数値
総所要時間56.8分
保険請求額780円
総人件費(歯科医師のみ)5,982円
収支差額(人件費のみ)▲5,202円の赤字

型取りに57分かかるのに、保険収入はたった780円。赤字率は87%です。

被せ物の装着

項目数値
総所要時間32.2分
保険請求額450円
総人件費(歯科医師のみ)3,741円
収支差額(人件費のみ)▲3,291円の赤字

完成したクラウンを口の中に装着するだけで32分かかり、人件費は3,741円。保険からの収入は450円(クラウン自体の技工料は別途算定)。

ブリッジの型取り(臼歯部・個人トレー使用)

項目数値
総所要時間106.8分
保険請求額4,540円
総人件費(歯科医師のみ)13,408円
収支差額(人件費のみ)▲8,868円の赤字

ブリッジの型取りは1時間47分かかることもあります。ここでの時間は冒頭での説明の通り総所要時間は麻酔・処置・術後説明・診療録記載など、その治療に関わるすべての行為を合計した実測値(分)なので、各個トレー作成や石膏を注ぐ時間なども含めての時間と考えて良いと思われます。

口腔外科(抜歯)

臼歯の通常抜歯

項目数値
総所要時間33.1分
保険請求額2,600円
総人件費(歯科医師のみ)5,580円
収支差額(人件費のみ)▲2,980円の赤字

難抜歯(切開・骨削除を含む)

項目数値
総所要時間46.5分
保険請求額4,700円
総人件費(歯科医師のみ)8,997円
収支差額(人件費のみ)▲4,297円の赤字

完全に骨に埋まった親知らずの抜歯(下顎水平埋伏智歯)

項目数値
総所要時間51.5分
保険請求額11,500円
総人件費(歯科医師のみ)15,260円
収支差額(人件費のみ)▲3,760円の赤字

埋まった親知らずの抜歯では保険点数が比較的高く(1,150点)、それでも人件費だけで3,760円の赤字となります。

その他の治療

マウスピース(床副子)の型取り

項目数値
総所要時間46.6分
保険請求額400円
総人件費(歯科医師のみ)5,171円
収支差額(人件費のみ)▲4,771円の赤字

歯ぎしり・顎関節症のためのマウスピース(床副子)の型取りは46分かかり、保険収入はわずか400円。赤字率は92%という驚異的な数字です。

笑気吸入鎮静法(緊張を和らげる麻酔)

項目数値
総所要時間50.9分
保険請求額700円
総人件費(歯科医師のみ)7,531円
収支差額(人件費のみ)▲6,831円の赤字

在宅歯科診療(訪問診療+義歯調整)

項目数値
総所要時間82.4分(移動時間を含む)
保険請求額9,660円
総人件費(歯科医師のみ)8,067円
収支差額(人件費のみ)+1,593円の黒字

在宅歯科診療は移動時間(往復37分)を含めて82分かかりますが、訪問診療料(866点)が加算されるため、歯科医師の人件費は辛うじて保険請求額に収まっています。ただしアシスタントの人件費・車両費・器材費は別途かかります。

摂食機能訓練(内視鏡嚥下検査なし)

項目数値
総所要時間39.7分
保険請求額1,850円
総人件費(歯科医師のみ)13,973円
収支差額(人件費のみ)▲12,123円の赤字

嚥下(飲み込み)のリハビリは専門的技術(E群)が必要で人件費が高いにもかかわらず、保険請求はわずか1,850円。人件費の13%しか回収できないという状況です。

4. 「人件費すら出ない」とはどういうことか

上の表を見ると、在宅歯科診療(訪問診療)を除くすべての保険診療で、歯科医師の人件費すら保険収入で賄えていないことがわかります。

「でも、歯科医師は開業して経営できているじゃないか」と思われるかもしれません。これが成り立っている理由として、主に以下の点が挙げられます。

  1. 1日に多数の患者を診て薄利多売にしている:1日20〜40人の患者を次々と診ることで、全体の収入を確保している。ただし、それには「ながら診療」「回転率重視」が生じやすくなるという問題がある。
  2. 自費診療(保険外診療)の収益で補填している:セラミック・インプラント・矯正などの自費治療の利益で、保険診療の赤字を穴埋めしている医院が多い。
  3. スタッフのコストを最小化している:衛生士・助手の数を絞り、院長が多くの業務を兼任することで人件費を圧縮している。

また、上の表の人件費はあくまで歯科医師の人件費のみです。実際には以下のコストも上乗せされます。

  • 歯科衛生士・歯科助手の人件費
  • 医療機器(ユニット・レントゲン・滅菌器など)の減価償却費
  • 材料費(充填材料・麻酔薬・ラバーダムなど)
  • 滅菌・感染対策費(次章参照)
  • 家賃・光熱費・保険料・通信費など

これらを合算した場合、実際の赤字幅はさらに大きくなります。

5. 滅菌・感染対策コストという見えない負担

歯科診療では口腔内に触れる器具を必ず使用します。患者間の感染を防ぐため、器具はすべて使用後に洗浄・滅菌しなければなりません。この「滅菌コスト」が保険点数に十分反映されていないことも、深刻な問題のひとつです。

厚生労働省が2005〜2006年度に実施した「医療安全に関するコスト調査」では、以下のことが明らかになっています。

  • 歯科診療所の医療安全コスト(滅菌・感染対策費)は、年間医業収入の4.0%を占める(病院1.8%、一般診療所1.2%と比べ突出して高い)
  • 外来患者延べ3,000人を想定したシミュレーションでは、年間の医療安全コストは患者1人あたり700〜1,250円が必要

千葉県保険医協会が平成29年(2017年)時点で試算した患者1人あたりの院内感染防止対策費用は1,127円でした。これに対し、当時の保険評価(再診料+外来環境体制加算)は490円にとどまり、637円のギャップがありました。

令和6年(2024年)改定後も、歯科外来診療感染対策加算として初診12〜14点・再診2〜4点が加算されるようになりましたが、実際の感染対策コストとの差は依然として大きく残っています。

6. 長年変わっていない点数――昭和の値段が今も続く

保険点数の不当な低さの一因は、長年にわたって点数改定が行われてこなかったことにあります。

2011年の政府答弁書によれば、1986年の診療報酬点数表と同じ点数のままの項目が50項目以上存在していました。さらに実態を調べると、1970年代から変わっていない項目も多数あります。

昭和の値段が今も続く項目

診療項目据え置かれた時期(原点)原点の点数2026年(令和8年・6月施行)の点数
P処(歯周病処置)1972年(昭和47年)より10点14点
う蝕処置(虫歯の除去)1976年(昭和51年)16点→2010年(平成22年)に18点16点→18点18点(54年間で+2点)
骨瘤除去手術・歯槽骨整形手術1981年(昭和56年)より110点110点(変化なし)

※「P処」は2026年(令和8年・6月施行)点数表では「歯周病処置」(I010)として改称。据え置き期間の長さは変わらず。

2006年(平成18年)→2026年(令和8年・6月施行)における20年間の点数比較

2007年12月、小池晃参議院議員の質問主意書に対する政府答弁書では、20年前(1987年時点)と点数が変わっていない歯科診療項目が73項目にのぼることが明らかになりました。では、その後さらに20年が経過した現在、点数はどう変わったのでしょうか。

2006年(平成18年)改定後と2026年(令和8年・6月施行)点数表の点数を直接比較すると、以下の通りです。

基本診療料

診療項目2006年2026年増減増加率
歯科初診料180点272点+92点+51%
歯科再診料38点59点+21点+55%

※2026年(令和8年)の初診料272点は感染防止対策の施設基準届出を行った場合の点数。届出なしは245点。同期間(2006〜2026年)に消費者物価指数は約+20%上昇。

根管治療(神経の治療)

診療項目2006年2026年増減増加率
抜髄・単根管(神経を抜く)220点234点+14点+6%
抜髄・2根管406点426点+20点+5%
抜髄・3根管以上570点600点+30点+5%
感染根管処置・単根管130点160点+30点+23%
感染根管処置・2根管276点310点+34点+12%
感染根管処置・3根管以上410点450点+40点+10%
根管貼薬・単根管(根管に薬を入れる)14点33点+19点+136%
根管貼薬・2根管22点41点+19点+86%
根管貼薬・3根管以上28点57点+29点+104%

根管貼薬処置の増加率は100%超と大きく見えますが、2006年時点の14点(140円)が33点(330円)になったにすぎません。20年間の物価上昇・人件費上昇と比べると、依然として著しく低い水準です。

処置・手術

診療項目2006年2026年増減増加率
う蝕処置(虫歯の除去・仮封)16点18点+2点+13%
歯周病処置(P処)10点14点+4点+40%
除去・簡単(詰め物を外す)15点20点+5点+33%
除去・困難(被せ物を外す)30点48点+18点+60%
除去・著しく困難(コア付き除去等)80点
骨瘤除去手術110点110点0点0%
歯槽骨整形手術110点110点0点0%
スケーリング(歯石除去・1/3顎)64点72点+8点+13%
SRP・前歯(歯石除去・深部)60点60点0点0%
SRP・小臼歯64点64点0点0%
SRP・大臼歯70点72点+2点+3%
歯肉剥離掻爬手術(フラップ手術)※1,000点630点▲370点▲37%

補綴(被せ物・入れ歯)

診療項目2006年2026年増減増加率
生活歯歯冠形成・鋳造冠(削り出し)300点306点+6点+2%
失活歯歯冠形成・鋳造冠(削り出し)160点166点+6点+4%
支台築造・メタルコア大臼歯(土台)170点181点+11点+6%
支台築造・メタルコア前歯・小臼歯144点155点+11点+8%

2006年(平成18年)→2026年(令和8年):約20年間の変化の総括

指標変化率(2006年→2026年)
消費者物価指数(総合)約+20%
最低賃金(全国加重平均)約+76%(2006年673円→2025年1,055円)
歯科初診料+51%
歯科再診料+55%
抜髄(単根管)+6%
う蝕処置+13%
SRP・前歯・小臼歯0%(据え置き)
骨瘤除去・歯槽骨整形手術0%(据え置き)

初再診料は最低賃金の上昇に近い水準で引き上げられた一方、日常的な処置(う蝕処置・SRP・手術)は最低賃金上昇率の2〜20分の1以下という停滞が続いています。特に骨瘤除去手術・歯槽骨整形手術は45年間にわたって110点のまま変化なしです。

※歯肉剥離掻爬手術について:2006年(平成18年)改定で3分の1顎単位(1,000点)に変更されたが、2026年(令和8年・6月施行)点数表では1歯単位(630点)での算定。算定単位が異なるため単純な点数比較には注意が必要。

※出典:厚生労働省「平成18年度診療報酬改定の概要(歯科)」、2026年(令和8年・6月施行)歯科診療報酬点数表、政府答弁書(2007年12月)、厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(歯科)」をもとに作成。

1972年(昭和47年)から変わっていなかった「P処」は、2026年(令和8年・6月施行)点数表でも引き続き14点にとどまっており、物価・賃金の上昇水準を大幅に下回っています。

また、保険でカバーされる治療の範囲の拡大も長らく遅れてきました。根管治療に使うNi-Ti製ロータリーファイル(世界的に標準的な器具)は2024年(令和6年)改定でようやく加算算定が可能になりましたが、顕微鏡(マイクロスコープ)下での根管治療は今なお保険外のままです。

7. 保険で「端折る」しかない――診療時間短縮という現実

前章までで、保険診療は歯科医師の人件費すら出ないことを示しました。では、歯科医院はどうやって経営を成り立たせているのか。その一つの答えが「1人あたりの診療時間を短くすること」です。

実際の処置時間と保険収入の乖離

日本の保険点数には、原則として時間に対する報酬が含まれていません。かかった時間が5分でも50分でも、算定できる点数は変わらないのです。

2016年度に日本歯科医学会が実施した「歯科診療行為のタイムスタディー調査」では、各治療の実際の所要時間が計測されています。それと保険収入を並べると、乖離の大きさが浮かび上がります。

治療実測時間保険収入時給換算
単純CR充填(詰め物)51.9分2,280円(228点)約2,637円/時間
麻酔抜髄・1根管(神経を抜く)67.7分2,740円(274点)約2,428円/時間
感染根管処置・1根管60.4分1,900円(190点)約1,887円/時間
フラップ手術(歯周外科)・小臼歯40.8分6,300円(630点)約9,265円/時間
総義歯製作(型取り工程)92.9分3,600円(360点)約2,325円/時間
臼歯部ブリッジ(型取り工程)106.8分4,540円(454点)約2,551円/時間

※出典:日本歯科医学会「歯科診療行為のタイムスタディー調査 2016年度版」参考データ(p.99〜109)
※時給換算=保険収入÷実測時間×60分。なお保険収入は患者負担分(3割)を含む診療報酬全額。

「神経を抜く」治療(麻酔抜髄)は1時間超かかりながら保険収入は2,740円、時給換算で約2,428円にとどまります。感染根管処置にいたっては時給相当額が約1,887円と、2026年時点の最低賃金(全国加重平均1,055円)と比べても、器具・材料・スタッフ人件費を差し引けば実質的に赤字となる水準です。フラップ手術(歯周外科)は9,000円超と相対的に高いものの、術後管理や器材の滅菌コストを考えると余裕があるわけではありません。

経営上の収益を確保しようとすれば、次のような選択が生じます。

  • 術後説明を短縮・省略する(患者への説明が不十分になる)
  • 診査時間を短縮する(見落としリスクが上がる)
  • ラバーダム防湿を省略する(感染防止の質は下がる)
  • 1人の診察時間全体を短くし、1日の患者数を増やす(薄利多売)

この「端折り」は歯科医師の倫理の問題ではなく、保険制度が時間を評価しない構造から必然的に生じる問題です。

「ながら診療」が生まれる背景

時間あたりの収益を確保するために、多くの歯科医院ではユニット(診療台)を複数台設置し、複数の患者を同時進行で診る「ながら診療」が一般化しています。

  • 麻酔が効いている間に別の患者を診る
  • 型取り材料が固まる間に隣のユニットへ移る
  • 一人ひとりへの説明時間が必然的に短くなる

この方式で1日20〜40人を回すことで初めて、各治療の「赤字」を帳消しにできます。しかしこれは医療の質と安全性にトレードオフを生じさせる可能性があり、歯科医師側も「本来こうしたい」と思う治療ができていないケースが少なくありません。

保団連(全国保険医団体連合会)の2023年調査では、保険医(保険診療を行う歯科医師)の多くが「保険で十分な治療が提供できていない」「説明に十分な時間が割けない」と感じていることが明らかになっています。

つまり現在の保険診療の構造は、患者にとっては「安く受けられる」ように見えながら、実際には歯科医師が時間を削ることでしか成立していないという矛盾した状態にあります。

8. 歯科医院の経営実態――法人立の3割超が赤字

こうした構造的な問題は、歯科医院の経営を直撃しています。

厚生労働省の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)が2025年11月26日に公表した「第25回医療経済実態調査」では、以下のことが明らかになりました。

個人立歯科診療所(n=396)の状況:

  • 損益率の平均値:27.6%
  • ただし「損益差額」には、院長自身の報酬・税金・借入金返済・設備更新費用がすべて含まれる
  • 医業費用は前年比2.5%増(特に技工委託費5.9%増、給与費3.3%増)

法人立歯科診療所(n=134)の状況:

  • 33.6%が赤字(3施設に1施設以上)
  • 中央値は248万円の黒字だが、最頻値は約1,400万円の赤字

全国保険医団体連合会は、調査に協力できる歯科診療所は「比較的経営余力のある場合が多い」とも指摘しており、実態はこれよりさらに厳しい可能性があります。

帝国データバンクの調査によると、2024年に倒産・休廃業・解散した歯科医院は過去最多水準を更新しています。全国約6万6千の歯科医院の中で、経営危機に陥る医院が増え続けています。

9. おわりに――患者が知っておくべきこと

この記事が示した事実

この記事で紹介したデータが示すのは、以下の厳然たる事実です。

歯科医師は、日常的に行うほぼすべての保険診療において、歯科医師自身の人件費すら保険収入で回収できていない。

「虫歯を削って詰める」52分の治療で患者が支払う3割負担は約680円(総額2,280円)。しかし歯科医師一人の人件費だけで5,785円がかかり、そこにアシスタントの人件費・材料費・設備費・滅菌コスト・家賃などが加算されます。

「安くて当たり前」の裏にあること

これが成り立っている理由は、歯科医師・スタッフの献身と、自費診療の収益による補填に加えて、診療時間を短縮することで1人あたりの赤字を薄めるという構造によるところが大きいです。

タイムスタディー調査が示す「虫歯の詰め物に52分」「神経を抜くのに68分」という時間は、医学的に適切な手順を踏んだ場合の実測値です。しかし保険点数は時間を評価しないため、丁寧な説明・細かな診査・ラバーダム防湿などといった工程を省略し、30分で1-2本治療するなどの時短で対応することでしか、経営上のバランスは取れません。

患者から見れば「安く受けられる」治療の裏側で、歯科医師は「本来こうしたい」と思う医療と「経営上できること」の間で常に選択を迫られています。

患者として知っておいてほしいこと

  • 「説明が短い」「詰め物がすぐ取れる」「歯の根っこの再治療が多い」と感じたとき、それは歯科医師の怠慢ではなく、制度の構造が背景にある可能性があります。
  • 保険点数の低さは歯科医師の責任ではなく、制度の問題です。歯科医師や歯科衛生士に対して、適切な敬意と感謝を持って接することが、より良い医療につながります。
  • 「丁寧な治療」を求めるなら、自費診療の選択肢も検討してください。保険でできる治療は「十分な治療」ですが、歯科医師が本来発揮できるはずの「より時間をかけた治療」は保険制度の外に出ないと実現しにくい面があります。
  • 保険点数が適正に評価されなければ、歯科診療所の経営悪化が進み、将来的に身近で質の高い歯科医療を受けにくくなる可能性があります。地域の歯科医療を守るという観点で、診療報酬制度への社会的関心を持つことも大切です。

「削って詰めて180円」という構造は、単なる歯科医師の問題ではなく、私たち全員が関係する社会保障制度の問題です。歯科医師が「十分だと思える治療」を保険で行えるようになることが、患者の利益にも直結するのです。

参考文献

  1. 歯科の院内感染対策に関わる対策を国に求めます(会長談話)(2017)
    https://chiba-hok.com/statement/statement-167/
  2. 削って詰めて180円――ありえない診療報酬と保険でできない歯科治療(2011)
    https://hodanren.doc-net.or.jp/wp-content/uploads/2019/09/6b21014f1a2f717f782e44cad27073e1.pdf
  3. 【歯科医療の危機】削っても、詰めても採算割れ(2023)
    https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2023-10-20/
  4. 歯科診療行為のタイムスタディー調査 2016年度版(2017)
    https://www.jads.jp/assets/pdf/time_study/time_study_y2016.pdf
  5. 令和8年度診療報酬改定について(2026)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
  6. 第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(2025)
    https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001603459.pdf
  7. 医業収入回復も物価、人件費の上昇で相殺 歯科医療守るため今こそ診療報酬の大幅増を(2025)
    https://hodanren.doc-net.or.jp/info/declaration/2025-12-05-2/
  8. 平成17年度 医療安全に関するコスト調査(2006)
    https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/06/dl/s0607-5a3a.pdf

関連記事|船橋の歯医者・矯正歯科|かわせみデンタルクリニック


かわせみデンタルクリニック

所在地:〒273-0005 千葉県船橋市本町6丁目3−20 ベルヴィル船橋本町 1階B号室
電話番号:047-409-2988
JR・東武鉄道「船橋」駅 徒歩4分
平日 9:00 ~ 13:00 14:30 ~ 18:00
土曜 9:00 ~ 13:00 14:00 ~ 17:00
(休診:日曜・月曜・祝日)

当院は、初診時にしっかりと検査を行い、虫歯根管治療から矯正歯科・小児矯正まで、丁寧にご説明のうえで治療を進めています。
治療後も再発予防に努め、安心して通える歯科医院をめざしています。